研修の合間に出来た空き時間を利用し、重い身体を引き摺りつつ森の広場に着いた僕は、既に来ていたマックイーンにいきなり頭を下げられた。
「昨日は申し訳ありませんでした」
「え? い、いや。悪いのは僕だったし……」
実際悪いのは覗いていた僕だろうし。
「酷い事言いすぎました。他に人が来る事考えていなかったので覗かれる事を考えていなかったのです。誰も来ないだろうし面倒だからと水着も着けずはしゃぎ回った挙句あの体たらく。頭に血が上ってしまい冷静さを失っていましたわ……」
伏し目がちのマックイーン。
「い、いや……謝られる事じゃないって。こっちこそゴメン。泉に行く前に声かければ良かったんだよ」
「それにあなたに下僕だなんて酷い事を言ってしまって……。私はメジロの面汚しですわ……」
「いいって……悪かったのは僕のほうなんだから」
マックイーンの顔に明るさが戻る。
「許していただけるのですか? ありがとうございます。やっぱり優しいですわね、彰様。……それで訓練の事ですけど」
「うん……」
訓練は無しかな? 少し残念だけど。
「はじめは見ているだけで結構ですわ」
「え……?」
「ウィニングライブの振り付けをいきなりやれと言われても無理でしょうから、私の振り付けを一度見て、そのあと私が指導いたします。なれてきたら一緒に踊ってくださいまし」
……踊るの? 誰が? 僕が?
そう感じたが、それを口にする勇気はなかった。
「よろしくお願いします」
「お、お願いします……」
気が溢れるような彼女の声と対照的にどうしても疲れを隠せなかった。
「それじゃ、まずは……足捌きから始めましょう」
マックイーンの動きに合わせ、暫らく歩いた後で、彼女がそう言った。
やっとウィニングライブの練習らしくなるのだろうか?
とは言っても、ライブの振り付けどころかダンスみたいなものは全く学んでいないんだけど……。
「それじゃ、今日は……」
「うん……」
「本格的な振り付けはやりません」
「え?」
「だって……まずは私に合わせて感じを掴む、ここからですわ」
「う、うん……」
「最初から細かい動きはダンスの経験もない方には無理ですから」
「うん……」
「初めてなので簡単な動きからですわね。そうなると今日はプレイヤーは不要ですわ」
そう言うと持ってきていたバックに少し大きめのプレイヤーを仕舞い込むマックイーン。
「あら? なかなか……入りませんわね」
詰め込んでいたらしく、いろいろな物が零れ落ちかけている。
……あれって下着かなぁ。
バックから落ちそうな、小さく丸まったストライプの布が視界に入り慌てて目を逸らす。
「ひょっとして……整理とかって苦手?」
「そんな訳ありませんわ!! 私も寮生活しているのです。整理整頓くらい!」
「でも、それ……」
「くっ! この! ……何かおっしゃいまして? 覗き魔さん?」
「いえ、なにも」
まだ完全に許してはもらえていないらしい。
マックイーンの悪戦苦闘の末、ようやくしまわれるプレイヤー。
「じゃあ始めましょう。さ……来てください」
彼女が右手を差し出してくる。
「う、うん……」
多分に遠慮しながら、僕はマックイーンに近付いた。
今更ながらマックイーンが可愛い女の子であることに気付く。
「もっと近く……」
「……」
彼女と向かい合う所まで近付く。
マックイーンが僕の右手を掴むと更に引き寄せる。
「え……?」
「もっと……そう、ここまで」
これ以上近づきようもない。
足は彼女の太ももに密着してしまっている。彼女の太ももはタイツもなく剥き出しで、正直、先行きはとても不安だ。何かあったら……。
「こ、こんなにくっつくの?」
「今日は感じを掴んでもらわないといけませんから」
彼女の息で胸元がこそばゆかった……。
「動きを良く覚えてくださいね」
マックイーンの左手が僕の右腕に添えられ、右手は僕の左手を頭の高さまで上げる。
「さ、始めますわよ……私に合わせてくださいね」
言うなり、マックイーンが左足を引く。
「右足を出してくださいっ」
マックイーンが左足を引くことで出来た空間に右足を差し入れる。
「次、左を!」
マックイーンが交互に足を引くのに合わせて、足を出す。
……歩いているだけとも言う。
でも……それが難しい。
「下を見ない! そう、その調子……」
「くぅ……」
「背中伸ばす。まっすぐ前見て!」
「え? うん……!」
歩くだけは出来るようになってくると、彼女の指示がだんだん厳しくなってくる。
「左手下げない! ダメ! 下見ない!」
次第に汗が滲み出る。
「はい! 後ろ下がる!」
足が縺れ、後ろを振り向く。
「後ろ見ない! 視線はこっち!」
マックイーンの両手が伸びてきて僕の頬を掴んで強引に振り向かせる。
その反動で足がもたつく。
縺れた足にマックイーンの太ももが擦り寄る。
……かなり嬉しい感触だった。
余計な事を考えたせいか、更に足が縺れ、彼女の太ももをかなり意識する結果になる。
「もぞもぞしない! 身体が離れている。ちゃんとくっついて! くっつかないと体が覚えませんわ!!」
そう言うと、マックイーンが自分の腰を僕の腰に近づける。
「次、前!」
動き難い……。
「しっかり歩いて、背中を伸ばす! 腰を離さない! この振り付けは鏡合わせの動きが肝です! 私に合わせて!」
息が上がった……。
1時間にも満たない練習が終わると、その場にへたり込んでしまった。
全身から汗が吹き出し、地面に滴り落ちる。
上半身、特に上げたままだった左手は痺れて動かす事も出来ない。
「おつかれさまでした」
マックイーンが声をかけてくる。
「運動不足かな……」
正直、愕然としていた。
歩くだけでこんなに困憊するなんて。
「そんなことありませんわ。初めてならよく頑張った方ですわね」
見上げるマックイーンの顔は上気しているものの、練習前と殆ど変わりなかった。
「正直言って、もっと早く音を上げるって思っていましたわ」
「そうなの?」
「うん。結構頑張りましたわね。偉い偉い」
そう言いながら、頭を撫でてくるマックイーン。
ダイヤちゃんを撫でてるみたいな手つきだな。扱いが完全に弟だ。
「これでもあちこち走りまわされているのになぁ……。歩いているだけでこんなになるなんて。自信なくすなぁ」
不甲斐なさを隠したくて饒舌になっていた。
「……いつもあなたが使う筋肉と違いますから。背中が痛いのでは?」
「……引きつってるよ」
「明日は覚悟してくださいね」
「……しっかりと揉んでおくよ。……よっこらせ」
その掛け声に、
「彰さん、お年寄り染みていますわよ」
マックイーンが笑う。
「……それで、如何でしたか? ウィニングライブの初ダンスは?」
「まだ、やってないよ。これは動き方だけでしょ?」
「ええ。そうですわね」
屈託なく笑う彼女。
「でも参考になりそうだった。これでちゃんと覚えられたらスポーツ医でもトレーナーでも就活に有利かなって思った」
「ではもう少し続けてみますか?」
「よろしくお願いします、先生」
「いい返事ですわね、彰君」
青空の下、二人の笑い声が響きあった。
彼女の息で胸元がこそばゆかった……。
といっているので、彰君の身長は多分180~185cm位。