Worldgate Online ~世恢の翼~   作:resn

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狂戦士vs殲滅者

 

 会場内に立て続けに響く破砕音と、観客の悲鳴。

 

 狙いが逸れた剣閃が床の石畳を断ち割り、拳が地面を穿ち……会場を引き裂き荒廃させながら繰り広げられ続ける、二人の戦士が繰り広げているにしてはあまりにも異常な戦闘。

 

 

 

 そんな中で、ほとんど戦闘衝動に飲まれた思考の隅、小さくなってしまった自我の中で思う。

 

 ――俺は、この力が大嫌いだ。

 

 念願叶ったこの一戦……だがそれは予想に反し、あまりにも高揚とは程遠いものだった。

 

 

 

 その退屈の理由は明白だ。今、この身を動かしているのが……おそらく、『狂戦士(ベルセルク)』な為だろう。

 

 増大した筋力。

 鋼のように頑健な体。

 加速し、鋭敏になった感覚。

 そして……殺意を察知した際の、限りなくゼロに近い反射速度。

 

 人を超え、獣の力を宿すこの能力は、確かに強い。だが.……そこに、選択や駆け引きは存在しない。

 

 高い身体能力と、最適化された行動。

 それによって行われる戦いは、果たして戦いと言っていいのだろうか。

 

 そして……これは今眼前で剣を振るう『剣聖』のが持つ『殲滅者(スレイヤー)』にも同じことが言える。

 

 

 

 ――これは、ただのお互いの命を懸けただけの、性能比べ以外の何なのだろうか?

 

 

 

 どちらも必中必殺の攻撃を繰り出しているというのに、なまじ当たれば即死、あるいは戦闘不能の危険があるために、『狂戦士』も『殲滅者』も回避行動を取る。

 

 お互いの能力があまりに高すぎるのも相俟って、お互いに激しく攻撃を繰り出しているにもかかわらず、どちらも紙一重でお互いに当たることが無いという拮抗状態に陥っていた。

 

 ……否。

 

 あの、『剣聖』のが抜き放った二本目の剣。

 おそらくは、手数の差をカバーしたくて持ってきたのだろうが……この身を動かしている『狂戦士』の野生の勘が、あれだけには触れてはならぬと判断して弾く事すら阻んで大きく避けている、あの禍々しく紅いオーラを纏う剣。

 

 だが、あのようなものが使用者に何も影響を与えないなどという事はなく、向こうの消耗の方が明らかに激しい。

 

 このまま行けば遠からず、この均衡はこちら側に崩れるように傾くだろう。

 

 ――ああ、やはり、奴でも無理なのか。

 

 そんな、失望にも似た思考が脳裏を過った。心のどこかで、奴ならばこの先の風景を見せてくれると身勝手な期待していたため……その失望が、俺の上に大きくのしかかる。

 

 

 

 そして不意に、『剣聖』のがその動きを緩やかに減じ……立ち止まった。

 

 限界……ならばひと思いに、この戦闘に幕を下ろそう。

 

 そう思った瞬間、俯いたままの『剣聖』のの頭へと、その拳を振り下ろした――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 がらん、がらん……と、金属が床を転がる音。

 

「な……に……?」

 

 呆然とした様子で呟いたのは……斉天の方だった。

 

 

 

 

 

 疲労により朦朧とした思考の中、斉天の拳が迫るその時……まるで時が止まったかのように、一瞬がとても長く引き伸ばされて感じた。

 

 ――ああ、これは……無理か。

 

 万全の状態で互角だったのだ、先に体力が尽きた俺が、今から逆転できるわけも無……

 

 ――本当に?

 

 ここで終わり……それを、俺はよしと思っているだろうか。

 

 

 

 ――否、断じて否だ。

 

 

 

 脳裏に浮かぶのは、あいつの……イリスの顔。俺はまだ、あいつのためにまだ何もしちゃいない。

 

 思い出せ……あの日、『死の蛇』に為す術なく打ち倒され、目覚めた日を。

 

 胸を引き裂く後悔に慟哭し、悔しさと共に、次は負けないと誓った事を。

 

 

 

 負けてたまるか……そう歯を食いしばった瞬間、目の前の灰色の世界に、突然色が戻った。

 

 遅々として動かない須臾(しゅゆ)の時間の中で、それでも必死に体をひねり迫る拳の軌道から頭を逸らし、合わせて腕を振り抜く。

 

 そうしてギリギリで繰り出された拳を避け、すれ違いざまに振り抜いた俺の『アルスレイ』が……斉天が繰り出した拳、その装着した手甲を、半ばから断ち割っていた。

 

 

 

 

 そして……がらん、がらん、とけたたましい音が、耳を叩いた。

 

 ――見えた。

 

 当惑しながらも向かって来る斉天を他所に……俺は今、視界いっぱいに乱舞している真っ赤な攻撃予測線を、やけに静かに凪いだ心持ちで見つめていた。

 

 すでに疲労が激しい身体では、その全ての攻撃を払うには至らないだろう。

 ならば……スッと歩を進め、その隙間へと体を滑り込ませ――後方へ抜ける。

 

「……ぐぅッ!?」

 

 すれ違いざまに振るった剣。傷こそ浅いが、斉天のその鍛えられた腕から血が爆ぜる。

 

 俺が発動させていた『殲滅者』の効果は、今も続いたままだ。もしこれが切れたが最後、斉天の拳は俺の身体を砕くだろう。

 だが『殲滅者』の能力はそのままに、今の俺は静かに澄んだ心でその行動を律し、己の意思で剣を振るっていた。

 

 

 

 ――『バーサク・コントロール』

 

 

 

 以前、領主様のお屋敷にあった過去の剣豪が書き記した指南書を読んで学んだ中の一つ、如何なる状況下にあっても、極限の平静状態を保つこの技能。

 

 まだまだ修練の最中であるそれは、成功するかは賭けだったし、事実一度は暴走状態になった『殲滅者』だったが……疲労から力が抜けた事と、絶えず責め立てて来る左手に持った『アルスレイ』が、俺を正気に引き戻し、留め置いてくれていた。

 

「なぁ斉天、お前のその『狂戦士』はたしかに強いし、怖いよ」

 

 力強く、疾く、躊躇いも無い。

 ただ破壊するという衝動の権化が、怖くないはずがない。

 

「けどな……やっぱり、今のお前は弱いぜ」

 

 全て投げ打ち獣となって、相手を壊すだけの能力(ベルセルク)

 最適解を選択させ続け、相手を壊すだけの能力(スレイヤー)

 

 

 ――どちらもただ、それだけしかできない行き詰まりの力だ。故に……

 

 

 

「来い、『剣軍』!!」

 

 俺の周囲に舞い降りる、七本の力場の剣。

 七本全てを出し惜しみせずに斉天を照準、『剣』が、一斉に奴の方へと切っ先を向ける。

 

 その動きに合わせ、斉天の拳にあの『金剛掌』とかいう力場に覆われた。

 こちらの七本の『剣』全てと、同等の強度を持つその拳。また以前みたいに叩き落とされることは想像に難くない。

 

 ――だが、それでも奴の意識は一瞬だけだとしても、俺から逸れる。

 

 その瞬間には、俺の姿はすでにそこには無い。

 射出のため宙に留まり、動き出す直前の『剣』をその場に残したまま、俺自身は『殲滅者』によって上がった身体能力、無駄を排した身のこなしで斉天の背後を取っていた。

 

 それでも、咄嗟に俺の殺気に反応して振り返る斉天。

 

 ――()()()()()()()()()斉天。

 

 繰り出される奴の拳が俺の頭の横を掠め、俺の繰り出した『アルヴェンティア』の切っ先が、その肩を掠めた。

 

「――しまっ……ぐっ、あ!?」

 

 自分の行動が信じられないように、驚愕に目を見開いた斉天。その四肢を……ほんの刹那の時間差で背後から()()()()飛来した『剣』が貫いていった。

 

 

 

 ……故に、こんな駆け引きにあっさりと引っかかる、脆く儚い力。最凶のサブ職などと言っても、その程度のものでしかないのだ。

 

 

 

「ぐっ、ぅ……っ!?」

 

 それでも、斉天は金剛掌の力場が残る両手でガードを取ろうとするも……それを続けて振り抜いた『アルスレイ』の、真紅の力場が構成する刀身が、薄紙のように斬り裂いた。

 

 そのまま、振り抜いた両手の剣を再度振るう時間も惜しかったために、両手の剣を手放して拳を握りこむ。そして……

 

「あとは任せて……ちぃと眠って、頭を冷やしやがれええぇぇっ!!」

「ごはぁ……ッ!」

 

 その顔面を、俺の全身全霊を乗せた拳が撃ち抜いた。

 十数メートルは転がった後にようやくその体が止まり、仰向けの体勢でダウンする。

 

 

 

 シン……と静まり返る会場。

 

 斉天はそのまま何度か起き上がろうとする動きを見せるが……鋼鉄の手甲にガードされた全力の拳が顔面にクリーンヒットした衝撃は、到底人体が耐えられるものではない。

 

 どうやら脚に来ているらしく、数回起き上がるのに失敗したのちに……やがて諦めたように脱力した。

 

「はっ、今回は……俺の勝ちだぜ、斉天」

「ああ……俺の負けであるな……『拳聖』が拳でノックダウンさせられたならば、言い訳もしようがないであるな……」

 

 見下ろし、ニッと笑って見せる俺に対して、いっそ清々しいとばかりに、仰向けに寝転がったまま笑っている斉天。

 

 奴は意識を朦朧とさせながらも、しばらく苦笑していたが……その顔が、すぐに深刻な色を帯びた物となる。

 

「……皆を頼む、剣聖の」

 

 そう最後に呟いて……がくりと、斉天のその体から力が抜けた。

 

「……ああ、任された」

 

 そんな斉天に一つ呟いて、疲労に身を任せて座り込みたがる体を叱咤しながら、先程手放した剣に手を伸ばす。

 

 

 

 俺がすべき事……その本番は、まだまだこれからだった――……

 

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