Worldgate Online ~世恢の翼~   作:resn

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天の頂に至る

 

「それじゃ、ソラさんはこちらに転移してから三か月以上の間ずっと、この神殿に居たんですか?」

「うん、ここの書庫には興味深い本がいっぱいあってね。人里に降りないととも思ったんだけど、つい」

「なーにがつい、じゃ。我が食料を届けるついでに様子を見にこねば、そのまま寝食せずに本ばかり見とるくせに」

「はは、もちろん感謝していますよ、アマリリスさんには」

「ぬぅ……」

 

 

 私達は今、ソラさんの案内によって、この神殿の最奥……その先にあるというグレイブヤードの山頂を目指しているところでした。

 

 それこそドラゴンでも通行できそうな、広く、高く、長い回廊。

 

 そこを歩きながら……こちらで色々な事を調べていたというソラさんの講義に、耳を傾ける私達。

 

 

「……では、魔力を生み出すのはこちらの世界の生物の体内にある器官であり、魔法というのはその魔力を用いて『アーカーシャ』へとアクセスし、世界を改編する技法である……と?」

「申し訳ありません、臓器の類と思わせてしまったのは説明不足でしたね。僕は、例えば細胞内に取り込まれて細胞小器官として共生するようになったミトコンドリアと同じような、全身の細胞に偏在する魔力を生成する細菌……あるいはナノマシンのような何かによるものだと考えています。ただ、既存の顕微鏡では観測できませんでしたので、今度はどうにかして脳ニューロンのマイクロチューブル内部を観測したいところなのですが……」

 

 次々と話から脱落した私達をよそに、今はまだどうにか話についていけているソール兄様とソラさんが、何やら難しい話をしているのですが……もはや、頭が沸騰しそうです。

 

「はー……」

「あくまで仮説です。証明する手段もありませんからね」

 

 そう言って、この話題を切り上げるソラさん。

 ですが私達は、彼のその深くまで切り込んでいる見知に圧倒されるばかりでした。

 

「それで……どうやら『テラ』側で魔法が存在しないのは、こちらとあちらの間に、『アーカーシャ』由来の幻想(ファンタジー)に属するものを通すのを拒む結界があるらしい……という事です」

「では、アウレオさん……天族の前王アウレオリウスが向こうで翼を持っていなかったのも」

「ええ、その結界を通る過程で失ったのでしょう。そして……イリスちゃん、おそらくは、貴女も」

「私も?」

 

 急に話を振られて、思わずパチパチと目を瞬かせていると、ちょいちょい、と二人に手招きで呼ばれました。

 

 

「そうじゃな。御子姫の魂を継承した主は、本来ならば女子として生まれていた筈だったのじゃ」

「え……」

 

 私にしか聞こえないような小声で、アマリリスさんがそう語り出します。

 

「御子姫はその性質上、()()()()()()()()()()()()()。そう宿命付けられておる。逆に言うと……()()()()()()()()()()()()()()()()()のじゃ」

「では、それを排除する為には……逆説的に、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ここまでの流れから推測した内容を口に出すと、ソラさんもアマリリス様も、難しい顔で頷きます。

 

「うむ、生憎と通常の生まれとは違い、主の場合は母体は御子姫ではないからな、そこに概念的な穴があったのじゃよ。つまり、結界の持つ抑止の法則によって御子姫の魂を封じ、男児として生まれさせられたのじゃよ、主は」

「そんな……」

 

 では……私は元々、最初から私として生まれて来るはずだった?

 

 そう告げられ、ふらふらと離れますが……意外と、ショックはあまり、ありませんでした。

 

「……大丈夫か?」

「……はい。今更、このくらいの事で落ち込んだりしませんよ、もう受け入れました」

 

 心配そうに話しかけて来るレイジさんを安心させるように、笑い掛けます。

 昨夜、アマリリス様との会話をしたおかげで、今ならば私と『玖珂柳』という少年の関係についても、すっかりと受け入れられました。

 

 ……あるいは彼女は、この話の事を見越してあの話をしてくれたのかもしれませんね。

 

「待て、あの野郎……アウレオの奴は、向こうで魔法みたいな事をしていたぜ?」

「ああ、緋上さんはあれを見たんですか。どうやら結界を素通りして『アーカーシャ』に直接接続する端末があれば、可能なのでしょう」

「……白の書か!」

「はい、あれは元々、『アーカーシャ』に限定的に接続してその機能を使用する機構を有しています」

「では、それが組み込まれていた『Worldgate Online』は……」

「ええ、結界を素通りして、こちらに干渉する力を持っていたのでしょう」

 

 こほん、と一つ咳払いして、改めて語り始めるソラさん。

 

「これは僕の推測ですが……まずは『Worldgate Online』は向こうのゲームであると同時に……並行してこちらの『アーカーシャ』内部でエミュレートされていたのでは、と。電子的なデータであれば、魔法ではないですからね、送受信も可能でしょう」

「一部こちらに影響を与えていた事象も、その結果でしょうか」

「ええ、必要な一部事象について、『アーカーシャ』に記録されていた歴史に改竄を加えていたのでしょう」

「改めて聞くと、無茶苦茶だな……」

「ええ、まさしく魔法……あるいは機械仕掛けの神(デウスエクスマキナ)の賜物です」

 

 そう語るソラさんの顔は、苦々しいもの。

 道理をすっ飛ばして結果を出力するその存在は、科学者でもあるソラさんには決して認めがたい物なのでしょう。

 

「そうして何の特別な力もない『テラ』側の僕達の肉体をこちらに召喚させた上で、電子データという形で存在していた『Worldgate Online』の中の僕達で上書きし、こちらで実体を持った姿で再構築したのでは、と僕は考えています」

「それって、戻れるのか?」

「多分大丈夫だと思いますよ。アウレオ氏は、ゲームハードに記録されているプレイヤーのパーソナルデータを酷く大事に保管していました。『Worldgate Online』を境界線として、こちらではアバターの私達、向こうでは本来の僕達としてログインしている、という感じでしょう」

 

「つまりあのゲームは……」

「文字通りの『ワールドゲート』、二つの世界を繋ぐ門、あるいは抜け穴だったって訳か」

 

 再び、廊下に沈黙が降り、コツコツと石畳を蹴る音だけが反響する。

 

「……なんだか、ちんぷんかんであるな」

「仕方ありません、これは正真正銘『魔法』の領域です。彼……先王アウレオリウスほどの知見が無い僕達には、予測はできても到底理解の及ばない事象ですから」

「まあ、あの男は少々頭のネジがぶっ飛んでいたからの」

「ただ、向こうへ戻れば結界の作用で元の姿に戻れるとだけ覚えておけばいいでしょう」

「はぁ……なんとも、曖昧な話ですにゃ」

「ええ……っと、到着しましたね」

 

 そう言って、ソラさんが足を止める。

 そこには、見上げるように巨大な扉が鎮座していました。

 

「この先に、この山が『墓所(グレイブヤード)』などと呼ばれる理由があります」

 

 そう言って、ドアに手を掛けるソラさん。

 軋む音を上げて開かれたドアの先には……

 

 

 

「なんだ、こりゃ……」

 

 皆を代表するように、呆然と呟くレイジさん。

 目の前、山の向こうに広がっていたのは、まるでツルツルに磨き上げられたかのような、真っ白な球形の窪地。その手前にそびえる真っ白な岩山が、ここグレイブヤードの山頂でしょうか。

 そして、その窪地の中に無数に転がる、巨大な生物の骨格。

 

「ここは……元々、空に浮かぶ青い月、『アイレインの月』が地上にあった時の跡地です」

 

 

 

『――そして、アイレインの月の中心部は、別の名前で呼ばれておった』

 

 

 

「ぐ、う……っ!」

「この……頭の中に直接響いてくる声は……!?」

 

 不意に、まるでソラさんの言葉を注ぐように、猛烈な思念の波が吹き荒れました。

 しかし、それは決して攻撃的なものではなく……ですが、それでもなお重圧を感じる程の思念。

 

『その名は【テイア】という』

「テイア……!」

「それって……!」

 

 その単語に、聞き覚えがあった私と兄様が声を上げる。

 

『ほう、知っておるものが居るのか、関心、関心』

「はい……『ジャイアント・インパクト説』という名前で、私達には伝わっています」

「はるか昔……46億年前に誕生した『テラ』に、まもなく衝突した惑星ですね?」

『うむ、うむ、然り』

 

 どこか満足そうな思念。それは何故か、孫の成長を喜ぶお爺ちゃんのような優しさを感じる、不思議なものでした。

 

「それで、あんたはどこに居る!」

『おっと。すまぬな、寝そべったままでは主らには認識できんか』

「……は?」

 

 問いかけたレイジさんが、呆然とした声を上げる。

 そしてそれは、私達皆が同じでした。

 

 眼前にあったはずの、白い山頂の岩山だったものに、無数の亀裂が生じて隆起していく。

 

 いいえ、あれは岩山などではなく……

 

『よく来たな、御子姫を継ぐ少女、そしてその騎士達よ』

 

 山が、私達を見下ろすように、巨大な竜眼を持って見下ろしてくる。

 すっかり姿を変えたそれは、今では白亜の竜となって私達の前に首をもたげていました。

 

「まさか、私達が山頂だと思っていたのは……!」

「それそのものが、竜だったってのか……!?」

 

 それは、あまりにも巨大で偉大。

 

『我が()()()()()()()()()()たる真なる竜の長、エルダードラゴンロード・パーサである』

 

 そう、白い翼を広げた、文字通り山のような威容の竜が、その巨体を起こしたのでした――……

 

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