Worldgate Online ~世恢の翼~   作:resn

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弱点?

 

 イリスが、ソールに抱えられて視界から消える。

 

 だはぁ、と息をつき、お湯に体を沈め、ようやく岩に背中を預けて力を抜いた。

 

 ――正直、本気でヤバかった。

 

 極力目を外そうとするも、どうしてもその視線がイリスのほうに吸い寄せられていた。それだけ、あの白い幼い体躯は、しかし魔性ともいうべき吸引力を備えていた。

 忘れようにも目に焼き付いている。髪をまとめているため露になった細い首とうなじ。そこから垂れる滴は、そのハリのあるきめ細かな肌に弾かれ球形を保ったまま首筋、肩、そして胸元の微かな膨らみをつーっと滑り落ちていく。湯は結構濃度の高い濁り湯ながら、時折その陰からちらちらと桜色が見えているのだがあいつはまるで気がついた節が無い。

 

 歩いているときもそうだ。本人は隠しているつもりだったようだが、時折長い髪の陰からちらちらと見えるその臀部は控えめながらも可愛らしくぷりっとした弾力を感じさせ、細い太ももの隙間からは……いや、止めよう。

 

 そして、あいつはそのことをまるで理解していない。知識はソール(綾芽ちゃん)に仕込まれたとしても、そして今のあいつは「イリス」という女の子の意識だとしても、その記憶や経験は……今回の事で分かった、今も変わらず柳の物のままなのだ。ゆえに、まるで俺達へ対する警戒心が足りていない。

 

『俺を信じている』

 

 あの言葉が無ければ、下手すれば俺だって理性が吹き飛んで襲っていたかもしれない。しかし俺にはあいつの期待を裏切るという選択肢はない。その一心で、俺は理性の鎖を手放さずにいることに成功した。

 ソールが俺との混浴に何も言わなかったのも、今わざと辱めるようなことをするためにイリスを連れて行ってしまったのも、きっとそのためなのだろう。異性である俺らにもきちんと警戒心を持つように。……まぁ、多分。やべぇ、あいつの今までの所業知ってると自信無ぇ。

 

 ――いや、まぁ、前者はまるっきり不発だったが。まさかあそこまで気にしないとは思わなかった。

 

 本人だけは知らないが、実のところ、この町でのイリスの人気は非常に高い。悪漢に捕まって、酷い心の傷を負いながらも、他の娘の為に駆けずり回って大した謝礼も要求しない治癒術師の少女。普段は男性の居る場ではきっちりフードを被って顔を見せないが、先日の発作の際にその容姿が秀でていることは噂で知れ渡ってしまっている。これまた本人は気が付いていなかったが、今日の復興現場でも、あいつが後ろで見ている、それだけで現場の男たちの張り切りようは物凄かったのだ。そして、気が付いたら女性陣に連れていかれ、その場に居なかった落胆も相応に。優しくかわいい子が後ろで応援してくれている、それだけでやる気などどこまでも湧いてくる。男なんてそんなもんだ。

 

 辺境の開拓の町という事があってか、それともあの善良な町長夫妻の人柄か、あるいはその両方か。この町の人たちは仲間意識が強く、皆そのほとんどが暖かく、これは俺たちにとってとても幸運だった。しかし旅を続けるとなると全てが全てそうというわけではない。イリスの警戒心は幼少の頃の事件のトラウマの延長の物であり、女の子としてのものではない。自分を見る視線には敏感であっても、「自分という可愛い女の子」を見ている視線には鈍感というアンバランスさを抱えている。自分の今の姿が可愛らしい少女だという自覚は流石にあるようだが、ではその可愛らしい自分が男の目にはどう映るのかにはまるで無頓着なのだ。今後は女の子としての危機感を持ってもらわなければいけない。おそらく、今回ばかりはソールも手心を加えるつもりはないのだろう。

 

 

 

 ――お兄様、やめっ、これは流石に恥ずかしいです、前、前はっ!?

 ――残念だけど、今回ばかりは聞いてあげられないな、大丈夫、見せてもらうだけだから。『チェーンバインド』

 ――ひぁ!?う、腕が……!? 

 

 

 

 ……おい何やってんだ。大丈夫、だよな? 目的、忘れてねぇよな? なんか鎖のような金属ががちゃがちゃなる音がするんだけど!?

 

 

「にゃはは。先輩随分お疲れにゃ」

「ああ、本当……ってなんでテメェここに居やがる!?」

 

 何気なく返答した先には、いつの間にか別の人物がのんびりと湯船に浸かっていた。部屋に引きこもっていたはずのミリィ……いや。

 

 『仕立て屋ミリアム』

 

 イリスは知らなかったみたいだが、こんなでも、ゲーム時代はトップクラスの職人の集う有名ギルドのギルマスだ。放浪癖があり、滅多にギルド顔を出さない割に何故か人望厚いおかしなやつ。リアルでもコスプレイヤーだというこの大学の後輩は、趣味が高じてゲームでも服作りに没頭し、自分でも各地を巡りレア素材を集め、気に入ったプレイヤーキャラ、主に可愛い系の奴に自作の装備を押し付けては愛でて去っていく。怪談的な意味で有名と言えば有名なプレイヤー、それがこいつだ。

 

 ゲームの時、プレイヤーはメインの職業以外に、ゲーム中で取得して自由に一つ選択して装着できるサブ職業が存在した。イリスの『プリンセス』やソールの『プリンス』を筆頭に、入手条件が希少で特殊な物も存在したが、その大半は生産系の物であった。こいつの持っている物は裁縫士の上位版、自由に服をデザインし制作できる『ファッションデザイナー』なるものだった。確か全プレイヤーでも数人しかいなかったはずだ。

 

「ひどいにゃ、私一人に働かせて皆は仲良くお風呂なんて。声かけてくれても良かったんじゃないかにゃ」

「そ、それは謝る! が、なんでお前も普通にこっちに来るんだよ、お前は正真正銘100%女だろうが!!」

 

 そう、心は女でも体は男なソールや、柳の経験を抱えているため自覚の薄いイリスとは違う。こいつは元の世界でもこちらの世界でも、どちらでも女だろうが!?

 

「にゃはは、混浴もまた醍醐味、そんなこと言ってたら地方の秘湯巡りなんてできないにゃ。それにほら」

 

 自分の姿を誇示するこいつはイリスと違って裸ではなく、手を広げて見せたのは、水に濡れた薄いワンピースのような服だった。

 

「湯浴み着なんてもの、用意して見たのにゃ」

「……それ、もうちょっと早く披露してもらえなかったですかね、おい?」

 

 ついでにあいつにも一着くれてやってくれれば、ここまで悶々としないで済んだんですがね?

 

「まま、こんなものも用意して見たのにゃ、一杯いっとく?」

 

 そういって湯船の外から引き寄せた物……桶に入った酒のセットまで用意してやがった。満喫する気満々だこいつ。

 そういえば、こちらに来てからはついぞアルコールなど摂取する機会はなく、魅力的な誘いだった。が、昼間から酒、というのに向こうでの常識が忌避感を覚えるが……

 

 

 

 ――あ、あの、そんな顔を近寄せては、い、息がかかってくすぐった、ひゃあ!?

 

 

 

 

「ぐっ!? はぁ……くそ、少しだけな」

 

 少なくとも、飲んでた方が気がまぎれる。ただぼーっとしていると時折嫌でも耳に入ってくる向こうの音声は耳と……に悪すぎる。

 

「そうこないと……ささ、ぐぐいっと!」

 

 とくとくとく、と小気味よい音を上げてお猪口に注がれる日本酒……いや、こちらでは東方諸島酒だったか。僅かに黄色味を帯びた透明色の、なみなみと注がれたそれを一息に煽る。喉にかっと熱が灯り、胃の奥が熱くなる……悪くないな、これ。雪景色の晴れ空の下で温泉に浸かりながらうまい酒。ようやく俺の疲れも抜けていくような感じがする。

 

「……悪かったな、あんな依頼だしちまって。結構無茶だったろ」

「全くにゃ。『今のあいつに着れる、可能な限り性能の良い防具を作ってくれ』なんて。でもまぁ、どうにか納得のいく形にはなったと思ってるにゃ」

「そうか……助かる。いくら払えばいい?」

「にゃはは、水臭いにゃー。イリスちゃんの無事の為なんでしょ、今回はただでやってあげるにゃ」

 

 何とも気前の良い話だ。防具自体に使用する素材のほかに、装備条件を緩和する……この世界では強力な効果を持った装備を実力のない者が着用すると、その力に充てられて酷く「酔う」のだ。それこそ立っていられないほどに。それを緩和し、なおかつ性能を落とさないためには相応の素材と手順が必要となる。いくらこいつでも、ぽんと渡せるような材料費ではないはずだ。

 

 しかし、こいつはあっけらかんと笑い、自分の盃をあおる。盃を空にして空を見上げるその顔は、いつもの飄々としたものではなく、どこか憂いを帯びた真面目なものだ。

 

「……懐いてくれる子が先に死ぬのは、見たくないもの」

「……悪い」

 

 ……そうだった。こいつは過去に妹を亡くしていると綾芽から聞いていた。精神疾患からの、自殺で。こんなことになってしまったが、向こうでは小児専門の心理療法士を目指していたはずだ。コスプレ……服飾の趣味を始めたきっかけも、家でふさぎ込みがちなその子のために、好きだったアニメの服を作ってやったのがのが元だとも。

 

「……本当に、丁度お前が来てくれて助かった」

「ふふん、存分に感謝するがいいにゃ」

 

 真面目な謝礼に照れたのか、やや赤い顔でおどけた調子でふざけた表情が、すぐに真面目なものになる。

 

「……それに、予感がするのよ。きっと、私たちはあの子を失っていけないって。私たち全員の命より、多分あの子一人の方が……」

「価値は重い、か」

 

 言い淀んだ後を継ぐ。何となく、薄々感じていた。あの時の尋常ではなかったあいつ。あれだけ苦戦した相手が、まるで嘘のように容易く……ではないが、屠れるほどの常軌を逸した支援能力。尤も、あの時感じた圧倒的な存在感は現在は鳴りを潜め、今はどこかぽやぽやと天然気味な気の抜けた風情だが。

 しかし、それを抜きにしたとしても、予想通り三次転生職しかこちらに来ていないとすれば、プレイヤー中ではあいつはただ一人の純支援回復職となる。NPCにも居ないことはなかったが、二次スキル全てを収めているあいつに比べるとその能力は大きな開きがあり、その価値は計り知れない。

 

「だから、私は協力を惜しまない。あの子も気に入っちゃったしね」

「すまない……これからは、頼りにさせてもらうぜ、超越者《オーバーロード》、ミリアム」

「にゃはは、そっちの名前はまだ言われなれてなくて照れるにゃ……まぁ任せなさい、剣聖さん」

 

 お互い、まだ今ひとつ呼ばれ慣れていない職名で呼び合い照れ合うと、盃をちん、と軽くぶつけ合い、再びその中身を煽った。

 

 

 

 ――ひっ……あ、あの……そんなとこも……確認するんです……か……? ……んぅ!? やめ……っ そこ、やぁ!?

 

 

 

「――いい加減何やってやがる、こンっの、馬鹿野郎!!!」

 

 なんだかヤバいラインを割りそうになっていそうな岩陰の情事に、いい加減堪忍袋の緒が切れた俺の絶叫が森の中に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっく、ひっく……もうお嫁にいけません……」

「だからなんで俺の隣に入ってくるんだよ……!」

 

 そう、こいつが戻ってきてお湯の中に入ってきたのは、よりによって並んで酌をしていた俺とミリアムの中間だった。もともとそこのスペースそんな広くねぇぞ、ここ。狭い場所に無理に割り込む物だから、右腕に押し付けられた柔らかくすべすべなこいつの腕の感触を感じ、理性をガリガリとやすり掛けしてくる。しかし、すんすんと泣いている少女を突き放すのも気が引けるため、居た堪れない思いをしつつ好きなようにさせざるを得ない。

 

「あらあら、にゅふふ、意識はしてないけど、結構独占欲はあるのかしらねー」

 

 なんかミリアムが一人で納得して頷いてる。なんだってんだ。

 

「悪かった、本当に、私が悪かったです」

 

 深々と頭を下げるソールに、イリスが、これまた珍しく、顔を真っ赤にして涙の溜まった目できっ! と睨みつける。本当に珍しい。これ、マジで怒ってるな。そそくさと俺とミリアムは酒を退避させる。

 

「……それで、気は済んだのかよ」

「ああ。これはこれでならどこから、っていう疑問が残るけど、少なくとも私達二人は、元の世界の初期登録時の物がそのままついてる説は無しだね」

「まぁ、お前が言うんならそうなんだろうな」

「だって……私、ゲーム始めた時にはもう『生えてた』もの」

「「ぶっ!?」」

 

 俺とイリスがそろって咳き込む。この馬鹿、なんて爆弾落としやがる!

 隣のイリスの細い肩がふるふると震えている。うつむいた表情は見えないが、なんとなく気持ちは察する。

 

「……兄様、それでは、なぜ私はあんなところまで見られたのでしょう……それならば、一目見れば十分でしたよね……納得のいく説明いただけますでしょうか?」

 

 ああ、隣から物凄い負の感情のオーラがゆらりと立ち上がるのを感じる。下手するとこないだの敵を凌駕してるかもしんねぇ。

 

「はは……ごめん、あんまり恥ずかしがる様が可愛かったもんで止まらなくなっちゃって……ほんっと、ごめん!」

 

 あまりにあんまりなその答えに、横から、ぷちん、と血管の切れる音を幻聴した気がした。

 

「ううううううううぅぅぅ……!! 兄様のぉ、馬っ……鹿ああぁ!!」

 

 次の瞬間、目に涙を貯めて激昂したイリスの手で、ソールに向かって大量の水しぶきが巻き上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイジさん、それ、お酒ですよね。私も欲しいです」

「ダメだ」

 

 上目遣いに告げるその声に、即答する。そういえばこいつ結構酒好きだったな。弱いけど。

 

 ちなみに、先程からイリスは一切ソールの方を見ていない。意識的に無視しているらしく、何を言っても取り付く島の無い様子にソールは少し離れた場所でガチ凹み中だ。ざまぁ。

 

「いいじゃないですか、未成年じゃないですし」

「精神はともかくその体は未成年だろ。駄目だ」

「うー……」

 

 そっぽを向いたイリスの背中に、不自然な白い物がちらりと目に映る。それを見つけたのは本当にたまたま偶然だ。

 

「……おい、イリス、なんか背中に白いミミズ腫れのようなものが……いや」

「ふぇ?」

 

 ミミズ腫れにしては綺麗すぎるし、元の肌の色のように見えるというのは何か違う。少女の柔肌に怯みつつも、まじまじと見つめると……

 

「なぁ、こんな羽根みたいな模様、テクスチャ作成するときに描き込んだか?」

「え? なんですかそれ、知りませんよ……?」

 

 それは、模様だ。羽根のような左右に広がる図形に、周囲を囲む魔法陣みたいな何か。元のイリスの白い肌と変わらない色で、その存在を主張している……そうか、だから肌が上気して赤味を帯びている今になって見えるようになったのか。

 

「何ですかそれ怖い……あの、レイジさん、調べてもらってもいいですか……?」

「まぁ、悪い物だったら大変だからな。ほら、背中こっち向けろ」

 

 得体の知れないものに怯えるこいつに、安請け合いした……してしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぁああ!?」

 

 背中に、つー、っと指が滑ったとたん、不意打ちの突然の刺激に脳裏が真っ白になり、変な声が抑えることができずに口から叫びとなって漏れてしまいました……何ですか、これ!?

 

「っと、悪い、くすぐったかったか。でもちょっと我慢してくれな、動かれるとちょっと調べらんねぇ……って、なんだこりゃ」

 

 つ……と背中に指が奔るたび、体がびくびくと軽く跳ねます。自分で触れれない場所だから分かりませんでした! こ、これ、ちょっと変です、マズいです!

 

「なぁソール、これ、魔術文字だよな? 複雑すぎて全く読めねぇんだけど」

「どれどれ……ん? いや、これ、もうちょっと古い……体系化される前の、旧魔道文明期のものじゃないか?」

「げ、マジか、あれクッソ難しいんだよな解読」

「……っ、ふぅ……っ 二人とも、ちょ、待って、ゃぁ……っ!」

 

 二人の指が、つ、つつ、と滑るたび、体の中の魔力が乱れる感じがします。私には見えない背中の模様らしきものを指がかすめるたび、さざ波のように体内の魔力が乱れ、全身に刺激がじわりじわりと広がっていきます……なにこれ、感覚がおかしい!?

 

「……っ! ……っ!?」

 

 背中を触れられるたび、体の表面を広がっていく無数の手で撫でまわされるようなこそばゆさ。『私』になって以来鋭敏になった……なりすぎた体内の魔力の循環の感覚が、中枢であるそこに触れられ乱れたその流れが全身の感覚を刺激する様を鋭敏に突きつけてきます。こらえきれず漏れそうになる声を漏らすまいと、指を唇で咥え、強く食いしばることで辛うじて耐えてますが……こ、これっ、まるで我慢のしようが分かりません……っ このままだとやばいです……っ!

 

「……いや、これ、旧魔道文明期の魔術文字でもないぞ、まさか女神アイレインの加護刻印か?」

「マジかよ、それだったら専門家に頼まねぇと、俺らにゃお手上げだろ?」

「ああ……決まった文法のある言語じゃなくて、図形自体で意味を示すものだからな……解釈が多すぎてとても手が……」

 

 議論に集中している二人はこちらの様子に気が付いてくれず、執拗に撫でまわされる背中の刺激に、体内で乱された魔力が思考を削り取っていきます。はじめは表皮だけだったそれは、徐々に体の奥へ奥へと熱を灯しながら浸食して……っ これ、このままっ、だと……っ

 

 先程の脱衣所でのあの感覚が脳裏を過ります。このじわじわとこの体を侵してくる熱の向かう先に思いついて、さーっと血の気が引きます。

 

「やっ、め……っ! こ、このままっ、だとっ、私っ、わたしぃ……っ」

 

 とうとう勝手に開こうとするのををこらえきれず、咥えていた涎でべとべとになった指が口から離れます。どうにか止めてもらおうとしても、何か話そうとすると途端に喉の奥から恥ずかしい声が止まらなくなりそうな予感に、もはや蚊の鳴くような声しか出せず、背後で議論に熱の入った二人の耳には届きません……っ!

 

「あ、あの、も、無理……やめっ……!?」

 

 とうとう、全身の魔力の流れを乱していくさざ波が体の芯、お腹の奥に到達し……その感覚の質が、まるで別物のように激しい熱となって体の奥深くの「そこ」に雪崩れ込んで……そんな、嘘っ!? ただ背中を触られてるだけですよ!? まるで背骨と直通のラインが繋げられたように、きゅう、と全身からお腹の奥に何か収束していくような。すでに限界線を超え、もはや止められない、取り返しのつかないところまで昇ってしまった、そんな感覚に全身が泡立ち……嘘、嘘うそウソ!? やぁ、こんなぁ!?

 

「この……真ん中のこの棒みたいなのは、この前のあの杖か?」

 

 レイジさんの指が、背骨の上を……も、本当、無理、これ以上、はっ……あぁっ!

 

「あー、お二人とも、そろそろやめないとイリスちゃんが大変なことに……あー、手遅れかにゃ」

「へ?」

「は?」

 

 ようやく我に返った二人。しかし、不意を突かれたレイジさんの指が、私の背骨の上の窪みを勢いよく滑り……

 

「――――ふゃあああああぁぁぁぁ!!?」

 

 ここにきて最大級の刺激に、ひときわ大きく、びくんっ!と背中が限界まで跳ね、背中から意志を離れてばさりと勢いよく何かが開く感触も、これまで貯めに貯めこまれ続けたものを吐き出すような全身を震わせる電流と熱に比べれば生易しく――

 

「うわっ!? 悪ぃ、大丈夫――」

 

 そんなレイジさんの声も遠く、不意に力が今度は逆に抜けていき、糸が切れたように全身を弛緩させ、お湯の中へ倒れこんで……私は、意識を手放しました。

 

 

 

 

 

 

 

 暫くして、逆上せて倒れたらしい私がミリィさんの膝枕の上で目覚めた時、二人はそろって土下座で頭を下げていました。

 

「なんっ……どもっ! やめてって、言ったのに……っ!」

「悪かった、本当に気が付かなかったんだ、悪気はなかった!!」

「ごめん、ほんとにっ、ごめんっ!!」

 

 ……ふん、すっごく恥ずかしかったんです、しばらく許してなんてあげないんですよ! もう!!

 

 





 背中触れてるだけですし……?
 羽根持ちの子は背中が弱くあってほしかったんです
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