Worldgate Online ~世恢の翼~   作:resn

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領都防衛2

 

 ――飛竜種。

 

 蛇の胴に蝙蝠の羽根、竜の頭を持つことで有名なワイバーン種を始めとした、亜竜に属するものの中で最もメジャーな存在。

 

 彼ら飛竜種の多くは基本的に、さほど遠くない場所に雌雄それぞれの集団を作り、別れて生活している。

 というのも、自らの子孫を残すという本能故か、雄は自分の(つがい)の雌の子以外の幼い個体を喰い殺してしまうため……ある程度子が育つと、雌は子竜と共に一箇所に寄り集まり、雄を近寄らせないという。

 

 だが一方で、繁殖期になると雄たちはそれぞれの巣を作り、餌を狩っては貢ぐことで雌の気を引こうとする。そのため、繁殖期には危険度が格段に跳ね上がる。

 

 しかし、それ以外は基本的には他の魔物と同様……わざわざ人里に降りてきて集落を襲う事など、群れを追われた『はぐれ』を除いて滅多に存在しない……筈だった。

 

 

 

 そんな飛竜種の中に、フロストワイバーンと呼称される、雪に覆われた地域を生活の場とする種が存在する。

 

 基本的な生態は、通常のワイバーンとほとんど差異はない。外見も、通常緑色をしているのに対してこちらは鱗が青みがかった白色だというのと、身体のところどころに羽毛が生えている程度。

 最大の特徴は、口から吐くブレスが、炎ではなく氷雪属性……吹雪を発生させるフリーズブレスな事くらいだろう。

 

 だが……その目撃例は、非常に少ない。

 

 何故ならば、時折大陸北部にも姿を見せる彼らの足跡を追跡したという、一人の冒険家の手記に記載されていたフロストワイバーンの生息場所は……未開の地、ノールグラシエ西方に広がる大針葉樹林の抜けた先、特に厳しい環境に晒されている極寒の山々だったのだから。

 

 決して、こんな人里近い場所に出現するような存在ではない筈だったのだ――……

 

 

 

 

 

 視線の先、最前線である城のあたりで、また一体の飛竜が激しい雷光纏う光線に飲み込まれました。

 以前にも見た、レオンハルト様の攻撃と思しきそれをまともに受けた飛竜は黒焦げになって墜落していきます。

 

 城周辺にはティティリアさんの魔法によって縦横に半透明の足場が走り回っているらしく、その上を駆け巡る最精鋭の兵士の人たちが果敢に交戦し、今はまだ戦えているのが見て取れました。

 

 だけど……空を舞うその巨体。その数が多すぎる。

 

 

 

 ――竜と違い、ワイバーンは群れで行動する。

 

 だから、単体での能力は格段に劣っても、状況によっては竜種よりもはるかに厄介な存在と化す。

 そして……今が、まさにそれだ。彼らは飢えており、ちょうど一飲みにできる手ごろなサイズの生物――街の人々を完全に餌として認識しているのだから。

 

 街は現在、悲鳴や怒号があちこちから上がっており、詰めかけた人々への対応もままならず、混沌の中にある。

 今はまだ様子見で上空を旋回しながら、時折先走った個体が襲撃してくる程度で済んでいるが……奴らを街に下ろしてしまえば……きっと、弱肉強食を体現した惨劇がそこで起こるのは間違いなかった。

 

 

 

 街中の大弩砲(バリスタ)が稼働し、そのワイバーンの巨体を近寄らせぬよう威嚇射撃が行われていました。

 それを援護するように、そして極力町中に被害を与えないように、ミリィさんを始めとした外壁上に陣取った魔法兵団からも攻撃魔法……主に風魔法……が舞い跳んでいます。

 

 そんな中、自身の『イーグルアイ』によって強化された視界に移る敵の姿に、私の頭の中には、一つの疑問がぐるぐると渦巻いていました。

 

 

 

 ――何故、(メス)の個体だけなのだろうか。

 

 ワイバーンの雌性体(しせいたい)は、卵を温めるために地上にいる事が多いせいか、(オス)と比べると脚部ががっしりとしているらしい。

 そして、卵を狙ってくる敵の威嚇あるいは撃退、そして雛への給餌のため、顎と翼の棘が発達しているものが多いと言われている。

 今街を襲撃しているのは、そのほとんど……いや、全てがその雌の特徴に合致しているのです。

 

 つまり――今街を襲撃しているワイバーンは全て雌。不自然なほど、雄が居ない。

 

 

 

 ……そんな疑問に、僅かな間でも意識が持っていかれていると……不意に、襟首が掴まれた。

 

「……姫様、失礼します!」

「――きゃあ!?」

 

 次の瞬間、屋上で私やミリィさんの護衛についていた兵士の一人……まだ年若い方だ……に、床に引きずり倒された。

 

 一瞬パニックに陥りかけるが、すぐにそんな事態ではないと気が付いて、どうにか平静を取り戻す。

 私を引き倒した若い兵は、どうやら私を抱えているのと反対の腕で盾を構えているらしく、その兵士の前から分かたれるようにして……猛烈な吹雪に私の周囲が包まれていた。

 

 気紛れにこちらにターゲットを移し飛来したワイバーンの一体に、ブレスを浴びせかけられている……そう、眼前、覆い被さっている兵士の一人が苦悶の表情を浮かべていた事でようやく事態を把握した。

 

「あなた、何という無茶を……!?」

「平気、です……頭を出さないで……!」

 

 ぐっと、ローブ付属のフードを目深に被った頭を男の人の大きな手で掴まれて、頭を引っ込めさせられる。

 守護魔法を……と思うも、『プロテクション』はミリィさんに残しておかなければならず、今は先立って付与してある『エンハンスドアーマー』によって強化されているその兵士の盾が保ってくれることを祈ることしかできない焦燥感に、唇を噛む。

 

「イリスちゃん! この、浮気してんじゃないにゃ、トカゲ如きがぁ!!」

 

 詠唱を終えたミリィさんの、その手の先に描かれた巨大な魔法陣から放たれる眩い雷撃が、吹雪を吐いていたワイバーンを貫いて空へと抜けていく。

 全身を高圧電流に貫かれた事で、周囲を包んでいたブレスが止まりました。

 

 硬直したワイバーンが高度を落としたところで、その首に先端にフックを備えたワイヤーらしき物が絡みついたのが見えた次の瞬間、ひらりと飛び乗ったハヤト君がその背を駆け上がり、手にした短刀で、その首を半ばまで断つ。

 

 頸椎を断たれ、力を失い門の外へと落下していくワイバーン。

 その背からハヤト君が飛び降りると、危なげなく門の上へと着地し武器を構えなおしたのが見え……ようやく安堵の息をつきました。

 

「イリスちゃん、大丈夫!?」

「だ、大丈夫です、この兵士さんが庇ってくれましたので……立てますか?」

 

 私を庇った事でブレスを直に受け、ぐったりと倒れている兵士さんに肩を貸して起き上がらせる。

 

「は、はい……申し訳ありません、姫様を押し倒すなど、とんだご無礼を……」

「いいえ、悪いのはこの緊急時にボーっとしていた私です。無礼なんて、とんでもない……!」

 

 かぶりを振ってどうにか平常心を取り戻すと、笑顔を作って頭を下げる……気安く頭を下げるなと、またレニィさんから怒られそうだけれども。

 

「危ないところを庇っていただいて、本当にありがとうございます。傷口を見せてください」

「は、はい……」

 

 何故か心ここに在らずといった様子とロボットみたいな仕草で、しかし素直に、盾を持っていた方の腕を見せてくれる兵士さん。

 

 その腕は……酷い状態でした。

 全体がくまなく凍り付き、重い凍傷も見られる。飛んできた氷のせいか、纏う鎖帷子も所々千切れ、あちこち裂けていました。

 

 ……急ぎ治療しなければ、このままでは切断しなければいけない事になる。

 

「今、治療します、そのままじっとしていてください」

 

 一言断り、その腕に右手を(かざ)す。

 

 すると、すぐに彼の腕から凍結した氷が剥がれ落ち、その下にあった怪我だらけの腕が、元の健康的な姿へと再生していきました。

 

 狐に摘まれたように、傷の消えた自分の腕を握って具合を確かめている彼を見て、ふぅ、と安堵の息を吐く。

 ふと、額になにか小さな熱を感じた気がして、空いた左手でそこを押さえながら。

 

「良かった、これで大丈夫……どうしました、ミリィさん?」

 

 顔を上げると、何故か驚愕の表情でこちらを見下ろすミリィさん。

 

「……イリスちゃん、今、何を……? いえ、今はそれどころじゃないわね」

「……?」

 

 かぶりを振って未だ戦火の広がる方向へと向き直るミリィさん。

 その様子に首を傾げつつも、彼女と同じ方向へと目を向けると……

 

「うぅん……ちょっと、目立ち過ぎたかにゃ……?」

 

 軽い口調とは裏腹に、緊張を孕んだミリィさんのその視線の先には……今の雷光を見てこちらを高脅威目標とみなしたらしく、ワイバーンが三匹飛来して来ているところでした。

 俄かに騒然となる周囲。門の前の行列から、その接近に気がついた者達の悲鳴が次々と聞こえて来る。

 

「こうなったら、私も全開で……っ」

「だめにゃ!!」

 

 上空でブレスを吐く体勢にある三体のワイバーンの姿に、自粛を破って守護魔法を街に飛ばそうとすると、鋭い制止の声がミリィさんから飛ぶ。

 

「ここは()()()()()()……!」

「でも……!」

 

 眼下、門の下には、この事態に慌てて門へ避難してきた、家の中に閉じ籠っていた人達がひしめき合っています。

 

 

 この街の人々には、私の事はたまたま居合わせた『聖女』であると領主様が説明しており、その正体を知りません。

 

 兵士の方々も、流石に私が『イリスリーア』だという事は知っていますが……以前共に戦った一部の人を除いて、それ以上のことは知りません。

 

 私が全力で支援すれば、彼ら皆に守護魔法を行き届かせられるのに……しかし、そのためには背中の翼を晒さなければならない。

 

 

 

 ――今度こそ、情報統制は不可能であろう、一般人の人々が沢山いる、この中で。

 

 

 

 今までは、傭兵団や軍人という、命令系統がしっかりした人達、それも信頼に足る人々しか居なかったため、大丈夫でした。

 

 しかし、今度はそうではありません。今ここで正体を晒せば、一般の人々の中で話が広まって行くことを防ぐ手段は、無い。

 

 だけど……余裕はまだあるのに手を抜いて、そのせいで皆が傷つくなんて耐えられない。

 そんな葛藤の中で、無情にも、頭上のワイバーンの一体がブレスを放つ体勢に入った。

 

 そして……その視線の先に、見えてしまった。

 

 

 

 ――まだ小さな乳児らしき子を咄嗟に胸の内に抱き込んで守ろうとする、母親らしき女性の姿を。

 

 

 

「……っ、させ、な……ッ!!」

 

 気がついたら、もう無視はできなかった。半ば反射的に身体が勝手に動く。覚悟を決め、『ワイドプロテクション』を周囲に放とうとした、その時――

 

 

 

 ――まず鳴り響いたのが、ズドン、という音を何倍にも激しくした豪砲の音。

 

 ――そしてほぼ同時に、バジュウッ! という、間近に雷が落ちたような、空気が焼け焦げるような身の毛がよだつ音が重なって聞こえました。

 

 

 

「……な……っ!?」

 

 呆然と見つめる先では……今まさにブレスを放つところだったワイバーンのうち一体の頭が無くなって――いいえ、横合いから飛んできた『何か』によって、一瞬で爆ぜるように吹き飛んだらしい。

 その光景を見た他の二匹のワイバーンも……正体不明の、自分達の仲間を一撃で絶命させる攻撃を警戒してか、攻撃を中断して高度を取っていきます。

 

「……っ、はぁ……っ! どうやら、美味しい場面には間に合ったらしいな……!」

 

 唐突に、背後から聞こえてきた軽い調子の声。

 振り返った先、門内部へと続く階段のところには……やたらと細長い箱型の棒を手元で回転させ、肩に担ぎなおした人物が、いつの間にかそこに佇んでいました。

 そして、その棒……筒の先から立ち上る煙が、先程の一撃は彼の手によるものだと如実に表しています。

 

「よ、久しぶり。元気だったか?」

 

 呑気に挨拶するように、片手を上げて門の上を歩いて来るその人影。

 

 全身真っ赤な人だ。

 中途半端に羽織った真っ赤なコート。

 同じく真っ赤な髪と、片目を隠すようなバンダナに、頬を覆うファイアパターン。

 

 派手な格好だけれど……その表情には、とても見覚えがある。というか、イベントなどで何度も一緒しているので、良く知っている。

 

 彼は……

 

「……緋上、さん?」

 

 それは……当面の目標として私達が探そうと思っていた人物であり、元の世界での上司。

 

 アークスVRテクノロジーの、『Worldgate Online』開発チームのAD(アートディレクター)……緋上恭也、その人のアバターでした――……

 

 

 

 

 

 





 ようやく合流……!
 飛竜の生態の設定は独自のものです。自分の子孫を残させるために子を殺す、っていうのは、身近な所ではツキノワグマなんかもやる現象です。
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