FILM RED時空に転生したから〝時代争奪歌合戦〟をやる【本編完結・番外編不定期更新】 作:空吉
ウタが目を覚ました時、夜明けは既に水平線の向こうからやって来るところだった。
一度薬を飲んで眠った後なので、体にはどこにも異常はない。
ひとつ伸びをしてベッドから降りると、身だしなみを整えてから軽い足取りで移動し──机の上に置いていた楽譜を手に取るのも忘れない──甲板へとつながる扉を開く。
甲板には既に、赤髪海賊団の船員が全て揃っていた。
「お目覚めか、〝世界の歌姫〟殿」
「ウタ、体調に何か変化はないか?」
シャンクスが笑いながら声をかけてきたのに舌を出して答え、ホンゴウには大丈夫だと手を振りながら近づいていく。
「ありがとうホンゴウさん、すこぶる元気だよ。──ていうかシャンクス、やめてよその呼び方。なんかシャンクスたちに言われると一気に軽く聞こえちゃう。
それに今はそっちは休業! ちゃんと正しい呼び方で呼んでよね」
ウタはふん、とそっぽを向くと楽譜を持って適当な木箱の上に腰を下ろした。
「悪かったよ、おれ達〝赤髪海賊団〟の音楽家殿!
また違う楽譜だな? あの時どんだけ貰ったんだ」
「山ほど! みんなも見たでしょ〜? しばらく歌えないだろうからって、先に楽曲提供の用意だけしてたなんて、本当ミラってば……。
もう、どれだけ書き溜めてたんだろ……全部未公開楽曲らしいし、10年分って言っても明らかに曲数が多すぎ……アイディアどれだけ出て来るの……?」
当然、前世で複数のアーティストが作成した曲をミラが個人で書き起こしたものなので、『これが歴史の重みだ。
「メモがついてるな」
「そう。一曲一曲に『これはこういう曲です』ってコメントがね。マメすぎ」
「何々……」
『気が遠くなるほどの昔に民間人の間で流行った歌。当たり前のラブソング。
これからの歌手活動にあたって、レパートリーに増やしておくと良いでしょう。コングラッチュレーション』
謎の口調は置いておくにしても、その内容にシャンクスが眉を顰めた。
「ラブ、ソング………………ウタにはまだ早いんじゃないか?」
「は?」
底冷えしたようなウタの声に追随するように、同じ音楽家であるパンチがうんうんと頷く。
「お頭、さすがにそれは気持ち悪い。それから、音楽にそういうのは関係ねーよ。『お堅いのね』って言われちまうぞ」
「何!?」
騒がしくなった周囲に困ったようにため息をつくウタ。しかしその口角は上がっている。
彼女は楽譜が飛ばされないよう大事に持って、水平線の彼方を眺めた。そして、ミラから託された、覚えたばかりのラブソングを歌い始める。
いつかまた近いうちに、ミラと一緒に歌える日が、そしてルフィや麦わらの一味と赤髪海賊団のみんな、フーシャ村の人たちも合わせて、揃って笑える日が来ますように、と願いを込めて。
赤髪海賊団の面々は自然と口を噤むと、風に吹かれながら旋律を紡ぐウタを見守った。その歌声は風に乗り、これからも世界へ響いていくことだろう。
今 あなたの声が聴こえる
「ここにおいで」と
淋しさに 負けそうな わたしに
今 あなたの姿が見える
歩いてくる
目を閉じて 待っている わたしに
昨日まで 涙でくもってた
心は今…
おぼえていますか 目と目が会った時を
おぼえていますか 手と手が触れあった時
それは始めての 愛の旅立ちでした
I love you, so
もうひとりぼっちじゃない
あなたが いるから
◆◆◆
ルフィたちがエレジアを出航し、その日やっと安定した航路に入った頃には、すっかり太陽が昇ってしまっていた。
「ルフィ、本当に良かったの? ウタとミラのこと」
「? 何がだ? ウタはシャンクスたちのところに戻れたし、ミラもしばらくエレジアにいるってアイツ自身が決めてたみてェだし、いいじゃねェか」
「…………はぁ」
甲板から声をかけたナミが『何もわかってない』というようにため息をつくが、サニー号の船首の上にいるルフィは相変わらず頭上にクエスチョンマークを出して首を捻っている。
サンジはまるでハンカチをくわえていたら食いちぎりそうな形相でルフィのことを睨め付けたあと、絶望したような表情で涙を流し、ドンドンと床を叩いた。側から見れば精神異常であるが、女性に関わることであれば、サンジのこれは通常運転なのである。
「ミラさんにまたおれの料理を食べさせてあげたかったのに……約束したのに……」
「ふふふ、いつか彼女が活動を再開すれば、この海で会えるかもしれないじゃない。それまでお預けね。私も彼女にまだ聞きたいことがあるし」
「ロビンちゅわん……慰めてくれるのかい? なんて優しいんだ……」
微笑むロビンにいつものようにサンジがメロメロになり、トレーニングから上がってきたゾロがそれを見て顔を顰める。
「気持ち悪りィなアホコック」
「何だとクソマリモ!!」
「ヨホホホホ、皆さん調子も良さそうで何よりです」
いつもの騒がしさの中に、今日は少しだけ変わったことがあった。
ブルックが久しぶりにギターを担ぎ、ソウルキング衣装を纏って甲板に姿を現したのである。
さらにはその後ろを小型の装置を抱えたウソップと手伝いらしきチョッパーがやってきて、フランキーが何やら空いているスペースに特設ステージらしきものを完成させていた。
「何かやるのか? ブルック」
ルフィが船首から尋ねると、〝麦わらの一味〟の音楽家はいつもの通り陽気に笑う。
「せっかくミラさんにいただいた楽譜がありますので、久しぶりに〝ソウルキング〟として歌おうかと。
バイオリンよりはギターの方が合いそうな曲ですので」
「ステージ完成したぞォブルック!」
「おれたちも! ミラ様のライブスタッフから譲ってもらった小型照明とかスピーカーとか、設置終わったぜ」
「いつでも歌えるぞ!」
「ありがとうございます。ああ、それでは、皆さんは
「何じゃ、ステージまで設営したのに、観客はいらんのか?」
「ええ。このミラさんのメモにそう書いてありましたので」
舵輪を操るジンベエの言葉にそう返事をしながら、ブルックはセッティングされたステージの中央でギュインとギターをかき鳴らす。
『主題歌の神がお作りになった無数の曲のうちのひとかけら。〝麦わらの一味〟の旅路にこそ似合う。
あなた方の〝いつも通りの航海〟の中でこそ、きっとこの曲は最も輝きを放つでしょう。コングラッチュレーション』
「ああ、やはりいい
数えたら キリが無い程の 危険や不安でさえも
愛して迎え撃った 呆れたビリーヴァー
目を開いたその先に 見える
確かな眩しさが
空になったハートに 理由を注ぐ
そうしてまた 僕は僕の 背中を押していく
たった一つ 掴む為に 幾つでも 失うんだ
精一杯 存在の証明
過ちも 間違いも 自分だけに価値のある財宝
sailing day 舵を取れ
哀しみも 絶望も 拾っていく 呆れたビリーヴァー
誰もが皆 それぞれの船を出す
それぞれの見た 眩しさが 灯台なんだ
ミラから託された音楽が風となり、船の進行を後押ししてくれているようだった。
心なしかサニー号も嬉しげに、帆いっぱいに風を受けて調子良く進んでいく。
ルフィはサニー号の船首を労うように叩くと、その上で仁王立ちし、海の果てまで響き渡るような声で宣言した。
「〝海賊王〟に、おれはなる!!」
◆◆◆
ゆっくり大きく深呼吸をして、反動があってもいいようにしっかり地に足をつけて構える。
よし、準備は万端だ。いくぞいくぞ〜〜、覚悟決めろよォ……!
そしてカットインが入りそうなくらいにキッと右目を見開いて────
「『真の英雄は眼で殺す』!!」
俺の視界が赤く輝くと、瞬く間に光線が発射され、空の彼方に消えていった。……よ、
「ヨッシャオラ!!!! 『真の英雄は目で殺す』が出来たぞォ!! 最高だぜ〝
ウッキウキで小躍りしそうな勢いで、ポンと目の前に現れたメンダコムジカをよ〜〜〜〜しよしよしよしよしよしよしと手のひらに乗せて撫でまくる。
いやマジで長年の夢が叶って最高の気分だわ。これ絶対やりたかったもんな。
「ああミラ君、ここにいたのか。そろそろ昼食ができるよ」
「あ、はァいゴードンさん。ありがとうございます」
メンダコムジカをすっかり定位置になってしまった肩の上に乗せて、ゴードンさんに着いていく。
彼はさすがにまだムジカに対し複雑な視線を向けてくるが、あんなことをした俺を即排除しないでくれているあたり、物凄く懐が深いと思う。全俺が泣いた。本物ゴードンとかネタにしまくって申し訳ない。
「あ、そうだ。観客達みんな帰せました? 何かトラブルは?
来た客船や商船にスタッフも帰らせるついでに付けましたし、電伝虫にも連絡ないので平気かなとは思いますが」
「ああ。今朝の便でみな帰せたよ。協力ありがとう」
ゴードンさんは俺の言葉にしっかり頷き、心底安心したという声音で返してきた。いやまあ、正直俺の方がやらなきゃいけないことなんだがな。
結局あの後、俺が意識を取り戻したのは海賊達がほぼみんなこの島を離れてからだった。
スタッフから聞いたところによると、シャンクスたちが約束通り海軍や
その際にウタだけでなく俺も庇ってくれたそうで、そのために俺は今こうしてのんびりしていられるというわけだ。
あんなことをした後だし、気を失っているうちに連行されることも考えていたので、シャンクスたちにはまた借りができてしまったな……。四皇に作った借りってどうやって返せると思う??
で、その間スタッフは俺が事前に指示しておいた通りに、書き溜めた楽曲をそれぞれ〝音楽家〟たちに渡してくれ、ゴードンさんにエレジア滞在の許可を得てくれた。
俺が目覚めた時点でスタッフとの契約は満了だったが、彼らは皆〝戦える〟人達なので、俺が追加料金を支払い、スタッフも帰るついでに、エレジアに残っていた民間人の観客が無事に故郷へと帰るための商船や客船の護衛を念の為に頼んだ、というわけだ。
何のために彼ら音楽家達に楽曲を押し付けたか?
そりゃぁおめェ、布教ってやつよ。平成……一部平成ではないが……の楽曲は俺が1人で歌っていくには多すぎるし、しかも俺はほとぼりが冷めるまでは活動できないし。……そもそも俺、活動再開できるのか?
「しかし、本当にいいのかい? エレジアの復興を手伝ってくれるというのは」
「あーそれは本当に気にしないでください。俺が手伝うのは当然のことですし……ただまあ、あんまり長居もできないとは思うんですが。
ほら、コレがコレなもんで。バレると海軍とか世界政府が追っかけてきそうだし……『外見も変えられる』から適当な島の市井に紛れた方がいいと思うんですよね」
ゴードンさんの問いかけに、俺は赤い右目と肩乗りムジカを改めて示す。
そう、俺と〝
『俺自身が〝魔王〟になる』というこの〝最終楽章形態〟は、俺自身の体で魔王の攻撃が可能になるものなので結構トンデモなんだけど、いいのか?? お陰でビームが撃てるようになっちまった、生身なのに。嬉しい(正直)。
ちなみに〝魔王〟自身が現れる時の実体はこのメンダコ状態のままである。これじゃ俺、〝能力者〟かつ〝スタンド使い〟になったようなもんだよ。
ただまあ能力制限はもちろんあるし、〝第三楽章形態〟以前には戻れない。それには〝ウタウタ〟の能力が必要だ、と俺自身で感じ取っている。
……まあそのルール、〝ナツナツ〟の能力で穴をつくことができるので、有ってないようなもんなんだけど……。
〝ウタウタの能力者になる〟という経験により、俺はその過去を自身に投影できるためである。つまり平たく言うと〝ウタウタ〟の能力が使えるように、なった!(ドン!!)
それで、〝ウタウタの能力者状態〟で自分で歌って、自分で〝
………………やりすぎちゃう? 〝悪魔の実の能力関連〟だと〝ウタウタ〟と〝ナツナツ〟限定だけど、能力複数持ちになってしまったってことなんだが?
それに加えて〝古代兵器〟か〝バスターコール〟に匹敵する島一個余裕で消せる戦力が俺の手に? 俺は一体何になろうとしているんだ。〝ウラヌス〟にでも対抗しろ……ってコト!?
「…………確かに一度海軍は退いてくれたけど、後から懸賞金かけないとは言ってないって感じだろうし、俺もお尋ね者……になるのは考えてたことだしいいけどこの場合だとウタも賞金首に……?
まあその可能性を考えてたのもあってシャンクスたちに連れてってくれるよう頼んだんだけど……大丈夫かなぁ……」
今後この時空がどこに合流するかも今のところ分かっていないし、マジで原作知識アドバンテージが役に立たねー!
「……ウタはきっと大丈夫だ。他ならぬ君と、赤髪海賊団、そしてルフィ君たちが救ってくれたのだからね。
それに、たとえ海軍や世界政府がまたやってこようと関係ない。隠し通すか、最悪でも逃げてもらうくらいの用意はあるし……私はミラ君には好きなだけここにいてくれていいと思っているよ」
「うう、すみませんゴードンさん……」
俺の今後の身の振り方含め、正直頭を悩ませる案件しかないが、しばらくこの島は平和である……と思うからお言葉に甘えよう。
せめてゴードンさんが青空教室を開くまでの準備くらいは手伝いたいところだし。
「それから、君の一人称……そっちが素だろう? 肩の荷が降りたんだろう。少しくらい休んだっていいんじゃないか」
「あ゛っ。……まあ〝銀河の妖精〟のイメージ問題もあったんで、やっぱりね。……ありがとうございます。
──ああ、それにしても今日もいい天気ですね。歌うにはいい日だ」
爽やかな風が吹き抜ける。空は高く、いつもよりも蒼く見える。
ゴードンさんと歩きながら、俺はいつの間にか歌を口ずさんでいた。
「うたいはじめたこーろの、こどうゆさぶるおーもい、なぜかいつーかー、どこーかーにーおきわすーれーてーいたー……」
──まあ、振り返ってみれば、〝時代争奪歌合戦〟には負けたけどウタの命は救えたし、望みも叶えられたし。これまでの活動で〝マクロス&平成楽曲ここに在り〟と示すことができたと思うし。
めでたしめでたし、で締めてもいいか。
歌い始めた頃の 夢は幻じゃない
それをいつか どこかで確かめたいのさ
行き着く先に何が あろうとかまいやしない
そうさ今が オレの旅立ちの瞬間なのさ
Finale I:True End「その帆に風を、世界に歌を」
というわけでトゥルーエンドルート終了です。お付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。心より感謝申し上げます。皆様からいただいた感想やここすき等の反応のおかげで、なんとかここまで漕ぎ着けられました。
続いてグッドエンドルートに入りますが、ルートというほど話数がない気がしてます(まだ書いてないけど)。大体書くべきことはこっちのルートで書いてしまったかなと思うので……。
グッドエンドルートはお祭りゲーみたいな雰囲気でゆる〜く楽しんでもらえるとありがたいです。
総括もグッドエンドルート完結後にやりますので、もう少しお待ちください。
いくぞ未来の海賊王────〝