FILM RED時空に転生したから〝時代争奪歌合戦〟をやる【本編完結・番外編不定期更新】 作:空吉
結構端折ったし駆け足になってしまいました。戦闘とかは大体映画と一緒ってことで何卒脳内補完をお願いします(丸投げ)
あとトゥルーの方で言及した感じのところも端折ってるのでそこも補完を以下略。本当すみません……
俺が歌い終えると、しん──とあたりを静寂が満たした。しかしそれもすぐに破られる。
目の前の〝魔王〟の拳がブルブルと震え出したのだ。それは拳から〝魔王〟全体へと伝わっていく。
……え? 何この現象。別に俺の能力にそんな『魔王特攻』みたいなのは無いはずなんだが??
はたと気づいてウタの方を見ると、意識を俺の能力に持っていかれたままで全く抵抗できず、今にも落ちそうで────
「あばばばまずいまずい何とかなれーーッ!!!」
俺は一か八かと〝魔王〟の拳へと飛び乗り、そのままぐらぐらと揺れて安定しない腕を伝って、ウタのいる頭部へと駆け上がりながら、能力を解除するために両手を打ち鳴らした。
はっと気づいたウタが慌ててバランスを取ろうとするも既に遅く、何かにもがく〝魔王〟から振り落とされ──俺はそれを何とか空中でキャッチ。つまり俺も飛び降りている。結構な高さから!
「ミラ!?」
「ウオオオーーーッウタしっかり捕まっとけーーー!!!」
しかしまあ、予想外の展開というのは続くもので。
「■■■■■■■ーーーーーーッ!!!!!」
〝魔王〟が謎の咆哮をあげ、それは音圧だけでも衝撃波クラスのもので。
「オ゛ア゛ーーーーッ!!!!」
「きゃーーーーっ!!!!」
空中で身動きの取れぬまま容赦なく吹っ飛ばされる。俺、見た目美女のあげる悲鳴ではなかったな……と思ったがそれどころじゃなかった。
さすがにスカイダイビングの経験はないし、こんな絶叫系も目ではない事態に遭遇したことも当然ながら皆無で。
それでもなんとかウタの頭をしっかり抱え込み、庇うような体勢を作る。〝ウタワールド〟なんだからウタに何とかしてもらえば良かったのに、ウタも俺もそんな発想は頭からすっかり飛んでおり────そして、そこにやってきてくれるのは、やっぱり我らが主人公殿なのであった。
「ミラ!! ウタ!!」
ここで俺はピンときてしまう。『あれ』ができちゃうんじゃないか!? と。俺の頭本当に余計なことしか考えねえな。現実逃避かな?
「ル〜〜フィ〜〜!!!! 着地m「おう!!」『任せた』までちゃんと言わせろォ!!!!」
俺がギャンギャン喚いているのも構わずルフィの腕がぎゅいんと伸びて、俺たちの体に安全ベルトのようにぐるりと巻き付くと、そのまま速度を落としながら地面へと下ろされた。
後からゴードンさんや麦わらの一味を始めとした面々も駆け寄ってくる。良かった彼らも無事だったか、危ねえ……。
ルフィが俺たちの顔を焦ったように覗き込んできた。
「無事か!? ……ん? ミラお前なんかちょっとがっかりしてねェか?」
「気にしなくていい……せっかくの機会だったからちょっと決めてみたかっただけだからよ……。
ウタは平気か? 現実側の方は?」
「う、うん、大丈夫……現実側も、……シャンクスが助けてくれたから……」
「……そっか」
それにしても、と、とりあえず落ち着いたところで彼らと共に謎の現象を見せる〝魔王〟を見遣る。
それはまるで嵐のように、手足を振り回しながら咆哮を上げ続けている。
さらには体の各所がどろどろと溶けて、第一楽章から第三楽章の形態がぐちゃぐちゃと混ざり合い、そのまま固められたような姿と化していた。
おかしいのはそれだけではなく、何よりも。
「能力者がいなければ活動も出来ないはずなのに……能力者たるウタを振り落としたばかりか、歌っていないのにここまで動いているとは……完全に自律型に変化したのか……?」
え、やっぱり俺の〝能力〟を乗せた歌が〝魔王〟の機能にクリーンヒットして何かバグったか?
一応〝魔王〟も意志を持っているってことは、精神操作系の俺の能力も効いたかもしれないし……。概念系の敵はこの世界あんまりいないしな〜。
俺、またなんかやっちゃいました?
ここで考え込んでいたロビンがぽつりと言葉を落とす。
「まさか……暴走?」
ウオオオオオロビンちゃんここでその言葉が聞けるとはありがとうリ○コ博士と同じ声帯!!!
もうこれス○ロボで良くないか? 開発さん頼みますよ! ロボットいないから無理? ふ、フランキー将軍……パシフィスタも……ダメ? そんなー。
しっかしまあ、そう、暴走だよなァ。俺なんかやっちゃいました? って、こういう事態を狙ったことは狙ったから、わざわざ能力使って歌ったんだけどさ。まさかここまでバグるとは……。
「ウタ」
地面にへたり込み、呆然と〝魔王〟を見ていたウタに目線を合わせて声をかけた。
緩慢にこちらを向いた彼女に向かって、きっちりと頭を下げる。
「本当に──ごめん」
「ウタのことを忘れた日はなかった。
こんな風になる前に止められたら良かったのに──でも俺にはできなかった。力がなかったし……それ以上に、恐ろしかったんだ。
今更、どんな言葉を並べても言い訳になるけど……。
はは、よく考えたら
ふ、と自嘲気味にため息が漏れてしまった。
それでも。どれだけ自分が愚かでも、伝えなくてはいけないことがある。
「赦してくれとは言わないし、言えない。だから〝記憶〟を共有した。せめてどんなに皆がウタのことを思っていたか、伝わればいいと思った。
ただ、あれを見て──もし、もう戦いたくないと思ってくれたなら、どうか〝魔王〟の力に縋らないでほしい。
まっすぐ伝えれば、ウタの瞳から涙が溢れ出す。彼女はぐっと自分の肩を抱きしめて、震える声を絞り出した。
「…………どうして、そこまで言ってくれるの。私、12年前も〝魔王〟を呼び出してこのエレジアを滅ぼしたのに、今またみんなを攻撃したんだよ!?
ファンのみんなもあんな姿にして……全部……私が逃げたかったからやったことなのに!!」
「お前に現実で生きていてほしいからだよ、ウタ」
「!!」
「それに、たとえ逃げたい気持ちがあったって、人々のために〝新時代〟を願ったのは本当のことだ」
涙に濡れた顔を上げたウタに、そっと背後を示す。
「聞いてごらん。ファンの声を」
ウタが俺の声に従って背後を振り返る。
そこには〝可愛いもの〟に変えられたままのファンたちが、虹色の水面から浮かび上がり、群れ(と表現してしまうのもなんかアレだが)を成していた。
まず、ぬいぐるみの姿のファンがチカチカ光りながら声を発した。
「ウタちゃん、ごめんなさい!! わたし、わたしがお願いしたことが、あんなにウタちゃんを苦しめるなんて……ちっとも考えてなくて……!!」
確か記憶によれば、ロミィという名の少女だったはずだ。
ウタの決意に最後の一押しの言葉を与えてしまった子供。ウタからぬいぐるみをもらい、そしてそのぬいぐるみの姿に変えられてしまった。
そのロミィの声を皮切りに、ファンが口々に、無責任に希望を託してすまないと、謝る声が波となって届いた。その華奢な双肩にどれだけ重いものを載せてしまったのか、やっと気づいたのだと。
「だけど本当に、ウタには生きる気力も貰ったんだ! ウタのおかげで、辛くても毎日頑張れた。心から感謝してる、それも本当のことなんだ!」
だから今度は自分のためだけに歌ってくれ、と。
自分達も今度は夢に逃げるだけじゃなく、あなたの歌声を支えに生きるから、あなたにも生きて歌ってほしいのだ、と。
「…………!! 違うの、ごめんなさい、ごめんなさい……!!」
様々に届くファンの声に、謝りながら涙を強く拭いそうになるのを制し、そっと俺の服の袖で目元を抑えてやる。
「ウタ。お前がかつて不可抗力とはいえ〝魔王〟を呼び起こしたことを後悔しているなら、今度は〝魔王〟を倒すことに力を使ってほしい。
それなら、
──もう一度頼むよ。
ウタの目に次第に光が戻る。そして静かに、しかし力強く頷いた。
「ルフィ、ミラ、シャンクス。それにみんなも……。私、本当に自分勝手でごめん。
だけど、もう少し我儘を聞いてほしい。私は、きちんと償いたい。そのために──私と一緒に戦って」
ウタが毅然と立ち上がって、真摯にそう告げると、ルフィを始めとして麦わらの一味は笑みを浮かべ、他の面々も姿勢を正した。
「ししっ、よォし野郎ども、気合い入れろォ!!」
ルフィの号令に全員が戦闘態勢を取る。俺もよっこらせと立ち上がると、いつのまにかコビーが近くに来ており、俺に右手を差し出した。
うん? 何の握手?
「ミラさん、僕、あなたを少し誤解していたみたいです」
「あー? 誤解じゃねェよコビー大佐。
とはいえ協力してくれるのはありがたい。
俺はニヤリと笑うと、握手の代わりに、パシン! と小気味良い音を立てて、スポーツ漫画でよく見るようにコビーと掌を合わせた。
「大佐殿、指揮取ってやって。多分お前が一番向いてるだろ。
あとウソップに〝見聞色〟使うよう言っといてくれ。〝見聞色〟は血縁同士で視界共有を可能にするから、現実側では赤髪海賊団のヤソップがタイミングを伺ってるはずだ」
「〝見聞色〟でそんなことが……!? とにかくわかりました!」
コビーが海賊たちの方へ戻っていく。
さてさて。コビーが陣形を整えて、観客の避難をさせている間に、俺とウタは先に始めておこうかね。
ポケットから出した楽譜を渡し、トントン、とヘッドフォンを指して、ウタに〝トットムジカ〟の時のようにラーニング(?)するよう伝える。
心得たとばかりに、ウタはすぐさま楽譜を小さなカートリッジ状に変化させ、ヘッドフォンに差し込んだ。
「……素敵な曲。これもミラが書いたの?」
「まぁね。厳密には違うけど、それは今は置いとこう──んじゃ、声出し兼ねてるし、さっさといっとくか」
未だに暴れ回っている〝魔王〟を見据え、深く息を吸い込み。そして、歌い出す。
誰か空虚の輪郭をそっと撫でてくれないか
最初はアカペラだ。あの心から痺れた、Fの劇場版メドレー『グレイテスト☆ヒッツ!』バージョンの〝ノーザンクロス〟。
本物の〝銀河の妖精〟を思い起こしながら、感情と能力を乗せて、響かせる。
胸の鼓動にけとばされて転がり出た愛のことば
だけど 困ったナ 応えがない
〝懐古バフ〟がウタに伝わり、次いでルフィたちへと行き渡る。それは、まるで鳥を空へと送り出す風のように、彼らを柔らかく包んだ。
宿命にはりつけられた北極星が燃えてる
君をかきむしって濁らせた
なのに 可憐に笑うとこ 好きだったよ
君をかきむしって濁らせた
なのに 可憐に笑うとこ 好きだったよ
俺のロングトーンが余韻まで切れた瞬間に、ぐわりと入り込むイントロ。
ここで、〝バフ〟を受けたルフィたちが、流星のように俺たちの横を駆け抜けていく。
ウタがこちらに目配せをして、ヘッドセットのマイクを構えた。彼女にはランカパートを任せておいたから、上手いこと入ってくれるだろう。
そう、ここの選曲は基本的に『グレイテスト☆ヒッツ!』からの抜粋である。となればもちろん、中心になるのはこの曲しかないだろう。
う〜〜ん、俺もテンション上がってきたな! メインディッシュいくぞォ!!
星を廻せ 世界のまんなかで
くしゃみすればどこかの森で蝶が乱舞
君が守るドアのかぎ デタラメ
恥ずかしい物語
舐め合っても ライオンは強い
最初に、〝魔王〟にルフィの拳が届いた。惜しくも弾かれるが、タイミングとしては上々だろう。
あと2、3発ほどできっちり現実側と合うようになるはずだ。ウタもそうだそうだと頷いているしな、多分。
生き残りたい
生き残りたい
まだ生きていたくなる
星座の導きでいま、見つめ合った
生き残りたい
途方にくれて
キラリ枯れてゆく
本気の身体 見せつけるまで
私 眠らない
まるで2人で歌うことが初めてではないみたいに、ウタとの呼吸がぴったりと合う。ウタも嬉しそうに微笑んだ。
──ああ、諦めなくてよかったなぁ、と思う。
それに応えるように、前方で光が弾けた。攻撃のタイミングが合ったのだろう、〝魔王〟の左腕が消失した。ウソップが続いて指示を出しているのが見える。
歌はまだ続く。ウタと俺も心なしか上がり調子で、声が伸びやかに広がっていくのを感じる。
何しに生まれたの
何しにここにいる
生き残りたい
埋まらない傷
光 恐れてた
許されたい生命がいま、引かれ合った
さまよい果てて
君のとなりで ほてり鎮めたい
本気の身体 見せつけるまで
私 眠らない
ルフィたちの纒う〝
それは銀河を形作る星のように眩しく輝いて、それに伴って攻撃の精度が段違いに向上したのが遠目にも分かった。〝魔王〟の手足が、順繰りに1本、2本と破壊されていく。
そして、変化はそれだけではなかった。
「────」
思わず息を呑んでしまう。今がランカパートでよかった、ウタは驚きながらもしっかりと歌い続けてくれている。
生き残りたい
がけっぷちでいい
君を愛してる
目覚めたい生命がいま、惹かれ合った
──どうして。今までこんな現象は起きなかったのに、ああ。
堪え切れず涙が溢れた。ここに来て、俺の能力の扱いも向上したのか、理解できてしまう。これは、『歌に込められた過去』の投影だ。
目の前に、この世界に生まれ落ちてからずっと追い求めてきた、本物の〝銀河の妖精/シェリル・ノーム〟と〝超時空シンデレラ/ランカ・リー〟の姿がある。
彼女たちが微笑んで、共に歌ってくれている。
幻とはいえ、こんな、こんな光栄なことがあるだろうか。俺の能力で、彼女達を呼び起こすことができるなんて、夢にも思わなかったのに。
狂気に代えて
祈り捧ぐよ
君を愛してる
星座の導きで…
彼女たちの後押しを受けて、俺とウタの同調も最高値に達している。まるでフォールドクォーツでも介しているかのように、互いに互いのことが伝わる。
生き残りたい
まだ生きてたい
君を愛してる
本気のココロ見せつけるまで
私 眠らない
〝魔王〟の実体は、残すところ頭部のみとなっていた。ルフィの姿が〝ギア5〟のものに変化している。大詰めだろう。
俺はウタを促して、彼らの元に行くように伝えた。──最後は自らの手で、決着を。
ウタがちょっと目を見開いて、けれど最後には頷く。
俺の隣を離れ、走っていく中で、戦闘用にするためか、衣装を変化させていた。〝私は最強〟の衣装かと思ったが、どうやら違うようだ。
〝私は最強〟だと、無理に自分を鼓舞しなくて良くなった結果だとしたら、それ以上に嬉しいことはなかった。
華奢なウタには無骨すぎるほどだった黄金の鎧は、よりその身に合わせた輝く白銀のものに。
衣装は白いレオタードではなく、膝を覆う丈の軽やかなドレスに。頭には巨大な王冠を戴くのではなく、黒いリボンで結ばれたポニーテールへ。
武器は大きな槍と盾から、細身ながらも洗練された黄金の意匠が輝く剣、に…………うん? なんかめちゃくちゃ見たことあるぞ?
ウタも「あれ!?」といった感じに動揺してるから、完全に予想外だったらしい。うーん、完璧に俺の記憶と同調して引き摺られちまったっぽいなこれ。
あれ、セイバーリリィの衣装だわ。かわいいな〜。なんで歌姫たちの衣装じゃないんだ? と思ったけど歌姫たちの衣装は基本武器を持つってことは無いからか。
セイバーリリィの白い衣装なら、ルフィの白い〝ニカ〟の姿と色味もお揃いでお似合い! なんつって。
さて、
誓いなさい その涙に
奇跡にとりつかれて
ガレキを飛び越え
上昇するカーブ
心に鼓動 求めなさい
この命返すまで
最初はわたわたとしていたウタだったが、俺の歌が聞こえたことで腹を括ったのか、しっかりとルフィ、現実側のシャンクスと共にタイミングを合わせ──〝魔王〟に最後の一撃を叩き込んだ。
あれなんて言うんだっけ、石破ラブラブ天驚拳? などと考えが逸れながらも、最後のフレーズをきっちり歌い切る。
間に合うだろうか
間に合うといいな
「ルフィ、ミラ、シャンクス────私、みんなが来てくれて本当によかった!」
花が咲いたような笑みを見せるウタに、俺も釣られて笑みを浮かべ────
〝ウタワールド〟は、〝魔王〟の断末魔と共に白い光に包まれて、消え失せた。
◆◆◆
光が収まった時、俺は現実世界の中央ステージに倒れていたのに気がついた。がばりと即座に起き上がって、辺りを見回す。
夕日に照らされるライブ会場では、操られる人々が互いに攻撃を繰り返し──ては、いなかった。
〝魔王〟に心を奪われずに済んだらしい。まあそれも避けるためにバグらせたわけだから、とりあえず良かった良かった。まだ眠っているようだが、そのうち目を覚ますだろう。
肝心のウタは、と周囲を探すと、シャンクス達に庇われながら海軍大将2人と対峙しているところであった。
おっ、これ劇場版の〝失せろ〟見れるじゃ〜ん! と思ってコソコソと物陰に隠れつつ、行けるところまで近づこうとしたのだが、ふと疑問に思って立ち止まる。
…………俺、シャンクスの本気の覇気、耐えられなくね?
「こいつは、おれの娘だ。おれたちの大事な家族だ」
あ、ちょ、待っ────
「それを奪うつもりなら──死ぬ気で来い!!!!」
あ〜…………────────────
「はっ!! っづぁ!! 死ぬかと思った!!」
危ねえ、ここ普通に周り海だからうっかり落ちたら死ぬ!! という危機感もあり、一瞬意識が飛ぶだけで済んだらしい。
俺、意外と丈夫。新たな発見だ。
そのまま大将2人とカリファが立ち去るのまで見届けると、ぴょんぴょんとライブ会場の海から突き出ている飛び石(?)やら浮かんでいる小船やらを渡りながら、赤髪海賊団に近づいた。
「ミラ!? もう目が覚めたの!?」
ウタがシャンクスに支えられながらも、こちらを見て驚いた顔をしている。まあ当然だけども。
「まあ、多分能力的に耐性がね……。あと覇気?
つかそんなことはいいんだよ。おいシャンクス、ウタに解毒剤飲ませたか?」
「今ホンゴウが持ってきてる」
「ミラ、お頭の覇気耐えたのか? やるなァ!」
「いや普通に死ぬかと思ったが??」
赤髪クルーの面々に揶揄われながらふと地面に目を落とすと、〝トットムジカ〟の楽譜が目に入った。
おっと、忘れるところだったな。近くにまだあって助かったぜ。
ウタの足元に散らばっている〝トットムジカ〟の楽譜をかき集め、軽く叩いて砂埃を落とした。
「〝トットムジカ〟の楽譜……どうするの?」
「まあ、こいつもずっと人類の呪いの器になってるのはしんどいかな〜と思ってさ。
意思を持ってるなら、さっきみたいに
〝ウタウタの実〟の〝歌〟とは、メタ視点から見ても〝子守唄〟の性質が強く現れているのではないか、というのが俺が出来の良くない頭で考えた仮説である。
現状唯一の〝ウタウタの能力者〟たるウタの能力も『聞いたら眠る歌』であるし、ウタの持ち曲である〝風のゆくえ〟なんて、まんまどこかで聞いた子守唄から赤髪海賊団がヒントを得ていた描写があったからな。
そして映画でも結局〝トットムジカ〟に囚われた人の心を取り戻した際、人々は〝ウタワールド〟内でも眠りへと誘われていた。
結論として。
「〝魔王〟もたまには、呪いから解放されてゆっくり眠るのもいいと思ったのさ。一応
なんたって、1000年眠る存在へ贈った歌だ。そしてその物語の主題歌だからな。
「おら、せっかくだから聴かせてやるよ。だから早く薬飲め。じゃねェと頭からかけるぞ」
「分かった、分かったよ! ……ホンゴウさん、ありがとう」
ウタがホンゴウから渡された薬をゆっくりと飲む。きっちり規定量飲み切ると、はぁ、と息をついた。
「これでいい?」
「うむ、よろしい。では、傾聴したまえ」
「なんで偉そうなの……」
ウタだけでなく赤髪海賊団までが空いているスペースに座り、ちゃっかり聴く体勢に入っている。……まあ別にいいけどな。
バンドメンバーがまだ起きないので、インストは仕方なくトーンダイアルで代用する。目を閉じて流れてくる音楽に耳を澄ませ、胸に〝トットムジカ〟の楽譜を抱きながら、俺はゆっくりと歌い出した。
静かにただ 見つめてた
小さきもの眠る顔
眉間にしわ 少しだけ寄せてる
怖い夢なら 目を覚まして
水がこわくて しり込みしてた
あの夏がよみがえるよ
背中押されては やっと泳げた
まるで昨日みたいです
声が聞こえる
ゆくべき道 指さしている
さらさら流る 風の中でひとり
わたし うたっています
◆◆◆
その時、その歌を聴いていた赤髪海賊団とウタは、ミラが胸に抱える〝トットムジカ〟の楽譜から黄金色の粒子が発生し、ゆっくりと天に昇り始めたのを見た。
「〝トットムジカ〟も、待ってたのかな。こうやって、自分のために歌ってくれる人のこと」
ぽつり、とウタが言葉を落とした。だんだんと眠気が強くなってきて、遠慮なくシャンクスに体を預ける。
シャンクスはしっかりと支えてくれて、それがウタには本当に、泣きたいほど嬉しかった。
小さきもの それは私
私です まぎれなく
鏡の中 心細さだけが
誰にも負けない 明日になるよ
そしてわたしは 幼い頃に
少しずつ戻ってゆく
意味も知らず歌う 恋の歌を
誉めてくれた あの日に
ふとそのフレーズに引っかかるものがあり、夢うつつの中で、ウタは記憶を辿る。
そうだ、あの時だ。ミラが一度だけ、フーシャ村のみんなの前で歌ってくれた時があった。
◆◆◆
「ええ〜……ウタの前で歌うのぉ? 公開処刑だよ」
「いいじゃん! 音楽家目指してたんならちょっとくらい歌えるでしょ! そりゃ私ほど上手くはないかもしれないけど」
「この自信だよ。当然だけど」
「何だ? なんか歌うのか?」
「お、今日の歌姫はウタじゃなくてミラなのか」
「ヴェ〜〜わざわざ来なくていいよぉ」
「まあまあまあ! さ、私がステージ譲るんだから! 早く!」
「んん…仕方ないなぁ…えっと、じゃあこの曲…」
「意味はあんまりわかんないんだけどさあ、なんか聞いたことがあるのか、よく覚えてるんだよね。……一曲だけね?」
──神様に 恋をしてた頃は……
「──何よ! すごいじゃん! 私には及ばないけど、十分歌えるわよ!」
「お゛お……いい歌だったなあ゛……」
「うわっシャンクス泣いてる」
「えっベックマンも泣いてる!?」
◆◆◆
珍しいものを見たと、みんなで笑って、でもやっぱり感動して泣いてたっけ。
──ああ、もう起きていられない。ミラの子守唄、本当に『効果は抜群』じゃん。意味はよくわからなかったけど……。でも、そうだ、幸せだなぁ……
朗々と響き渡るミラの『子守唄』は、今度は自らが夢を見せなくとも良い、何のしがらみもない眠りにつくウタや、まだすやすやと眠り続ける人々。
そして、呪いの器として作られてしまった〝魔王〟を含めた、その歌を聴いている全ての存在を。
あたたかな春風のように、優しく包み込んでいた。
声が聞こえる
ゆくべき道 指さしている
さらさら 流る 風の中でひとり
わたし うたっています
Q、なんでセイバーリリィ?
A、白くて武器持ってて可愛い衣装で思いついたのがそれだったから
次でグッドエンド〆予定です。