FILM RED時空に転生したから〝時代争奪歌合戦〟をやる【本編完結・番外編不定期更新】 作:空吉
基本的にノリで書いて、後のこともちょっと考えてから、ここなら上手く切れるかな? というところで話を区切っているので、話によって長めだったり短かったり、バラバラですが何卒ご容赦ください。
さて、俺がコビー、ブルーノと共にライブ会場へ到着した時には、既にあのザ・天竜人って感じのチャルロス聖はウタによって拘束された後だった。
周囲の空気は、よりによって天竜人をウタがボコボコにしたことで、酷く重たくなっている。何故そんなに観客の様子がおかしいのか、ウタはまだ把握できていないようだ。
ふむ、すると、様子をざっと窺った感じからしても、ヨルエカ少年の「帰るよ」シーンはまだかな? よしよし、良いタイミングで出てこられたようだ。
コビーが先んじてドアから出ていき、俺もその後に続く。ブルーノは能力を使いすぎて少々バテ気味なのもあり、その場に座り込んでしまった。空間移動系って大変だなァ……。
まあサイファーポールが目立つわけにもいかんし、コビーを矢面に立たせようという腹もあるんだろうけど。SWORDはいいのか……? まあコビーは普通に表に出てるし今更か。
「ウタさん、もうこんなことは終わりにするんだ」というコビーの声に、ウタがこちらに気づいて口を開いた。
──今しかねェ!! ゆけっ! トーンダイアル!! ぽちっとな。
「『フフ・・・・・・へただなあカ○ジくん。へたっぴさ・・・・・・! 欲望の解放のさせ方がへた・・・・・・』」
…………。
「ちょっとミラさん急に何やってるんですか!? というか録音時から思ってたけどカ○ジくんて誰ですか!?」
「え? いやちょうど良かったから……カ○ジくんは普段全く頼りないしクズだけど、いざという時には圧倒的な閃きと理で勝つ人だよ。結構すごい」
「何に勝つんですか!?!?」
「ギャンブルとか……」
「ダメ人間じゃないですか!!!!」
「そんなことあるけどそれだけじゃねェんだわ!! コビーお前カ○ジ読んだことないからそう言えンだよ!! 読んだことねェやつみんなそう言う!!」
まあ福本漫画の中で俺の1番好きなキャラはア○ギなんだけど。
「あの……何? ミラと……誰?? 海軍の人?? 何しにきたの」
ウタの戸惑った、かつ呆れ混じりの問いかけに、流石に出鼻をくじかれたからかコビーもブルーノも言葉に詰まっている。まあ戦犯俺ってやつなんだが。
──計画通り。とにかく、コビーたちにこれ以上何か言われる前に畳み掛けなければ。
ここからは、いかに邪魔が入る前に〝俺の主張をウタに『わからせる』〟〝説得できる〟かのスピード勝負だ。できなければ敗北──とまではいかないが、おそらく俺のここまでの布石が機能しても、厳しい戦いを強いられることになる。
にこにこと警戒を解くよう笑いながら、ウタの前に進み出た。
「おっと失礼、本題から逸れすぎたね。つまりね、
「……は?」
「〝この場はユートピア、だって望み通りでしょ?〟ね。望み通りだって帰りてェやつは出てくるよ。人間てのは勝手なもので、結局のところ『飽きる』からね。
心を持たせたままだからいけないんだ。やってみるから見とけよ見とけよ〜。ではウタ姫、お手を拝借」
呆気に取られている間にウタの手を取り、ポジションについてホールド。演目はワルツ。当然男性パートが俺。
まあ厳密には、この曲は8分の6拍子だから社交ダンスのワルツは踊れないそうだが、競技会でもないのでこういうのは雰囲気、お遊びだ。
コン、コン、コン、と拍子をとり、流れ出すイントロ。ハープの音からアコーディオンへ繋がる、美しくもどこか仄暗いメロディー。
合わせてステップを踏み、されるがままのウタをリードし、そして歌い出す。
──そっと開いたドアの向こうに 壊れそうな世界はある
朝が来るのか 夜になるのか
迷いながら ひかりは綻びて
──〝君の銀の庭〟。箱庭といえばやっぱりこれだよな〜。未だにこれを劇場で聴いて、明かりがついた瞬間の劇場内の
そして歌を聴いた瞬間から、観客の様子が変わっていく。
戸惑ったようにこちらを見ていた目が、ここではないどこかを見つめるぼんやりとした目に。そして顔には微笑みが浮かび、一筋涙を流す人まで。
──声が呼ぶまでは もう少し遊ぼう
花のように廻る時を繰り返し
メインステージを目一杯使って、ターン、ステップ。ゆらり、くるりとひとつステップを踏むたびに、魔法のように音楽に乗せた能力の波が広がっていく。
本来ならこんな効果量は〝ウタワールド〟内では発揮できない。俺がこれまで歌いまくって重ねがけしてきたデバフが、〝能力者が思ったこと以外は起こらない全能〟のはずのウタウタの能力値を下げているから出来るのだ。
──夢はこの部屋の中で
優しい歌をずっと君に歌っていた
何がほんとのことなの
一番強く信じられる世界を追いかけて
君の銀の庭へ
何をされているのか、ウタは理解できていないようだった。
ステップを踏むと同時に、メインステージから離れ、花道や中央ステージへと移動していく。
ここでメインステージに目をやると、突発的な能力発動が功を奏したのか、コビーとブルーノもこの〝ナツナツ〟の能力下に置くことができたようだ。時折、抵抗しているのかしきりに瞬きをするも、少しすると観客たちと同じように視線がぼんやりとしたものになる。
いい調子だ、と微笑みは崩さぬまま、一国の姫を相手にするよう扱いは丁重に、歌い、踊る。
──道に迷ったあの子が今日も
一番早く帰り着いた
正しさよりも明るい場所を
見つけながら走ればいいんだね
幼い眠りを守りたい番人
大人になる門は固く閉ざされて
ウタの目から涙が溢れる。きっと良い
俺の顔を呆然と眺めながら、ダンスでは一切の抵抗なく、リードされるがままだ。
俺の夢の一端。俺の望む〝時代〟の、その形。
今俺は、この場にいる者全てに、〝幸せだった
──君は気付いていたかな?
ほんとのことなんて いつも過去にしか無い
未来や希望は全て
誰かが描く遠い庭の 我が侭な物語
まだ誰も知らない
理想の箱庭を作る専売特許は、何もウタだけのものではないのだ。この世界には〝ナツナツの実〟を食べた俺という存在がいる。
やろうと思えば、このように広範囲を能力の影響下に置いて他人を支配することが可能だ。
〝ウタウタ〟も人の心を取り込む能力、〝ナツナツ〟も他人の精神を意のままに操る精神操作系の能力。これを真っ向から〝ウタワールド〟形成時にぶつければ、〝ウタワールド〟に取り込まれないことが可能となる。既に実験済みというのはこのやり方だ。
曲もそろそろ佳境に入り、メインステージへ戻ってくると、そっとホールドを解きつつもウタの手は取ったまま、ミュージカル女優のように正面を見据え、最後まで歌い上げる。
──夢はその腕の中に
優しい人の嘘も嘆きも 閉じ込めていた
何か足りない心で
光を纏い飛んで行こう 少女のかたちをして
終わらない始まりへ
ほんとうの終わりへ
静かに寄り添って 何処にも行かないで
窓辺で囀って 何処にも行かないで
ハープのメロディーが流れ終わり、一拍呼吸を置いてから、指を鳴らしてウタだけを〝ナツナツ〟の能力から解放してやる。
「はっ……、……今の、景色は……」
「良い
「…………。そう、これがミラの能力だったんだ……。ライブの開始直後に感じた郷愁も……。そっか」
寂しげに顔を歪めて、まだ取ったままだった手に軽く力が入るのを感じた。
俺は深呼吸をしてから話し出す。今この場でこれを聞いているのは、ウタと俺だけだ。だから話す。
「そう。これが
お前が観客を〝ウタワールド〟という永遠に続く夢に閉じ込めようとしたのと同じ。
ウタのファンを名乗るこの観客が、自分達が望んだものも忘れて、勝手なことを言う前にね」
「
新しい時代が忘れてしまった〝美点〟を、この時代に復活させるんだ。
そうして美しく舗装した、美しい時代を作る。それが
揺らぐ瞳でこちらを見上げるウタを真っ直ぐ見て、今度は俺からウタの手をぐっと握りしめる。
「ウタ、お前、本当は逃げたいんだろ? 一緒に逃げよう。
逃げる先が幸せだった過去の幻か幸せな夢の中か、それだけの違いじゃないか」
「でも。でも──私は──」
「分かってる。〝誓い〟のことも、
……仕方がない、ウタ、考えてごらん。〝赤髪海賊団の音楽家として冒険した思い出〟を、永遠に見ていられたら? あの日々は、お前にとっても夢のように幸せだったはず」
ひゅ、とウタが息を呑む。その思い出は確かに、ウタの心に優しい爪痕を残しているはずだ。先ほど見た
「〝フーシャ村で3人で遊んでいた頃〟は? 戻りたいと思わない? 〝エレジアに初めてやってきて、王国の人々に歌って聞かせた思い出〟は? 本当に楽しそうだったとシャンクスから聞いてる」
「そうだな、じゃあ、こう思ったことはない? 〝自分にトットムジカを目覚めさせる能力さえなければ〟──ウタウタの能力がなければって。
例えば
ウタが唇を戦慄かせて、顔を覆う。もう少しだ。もう少しで────
は? おい、ウタ。なんでそんな瞳で、決意を秘めた瞳で、俺を見ることができる?
「ミラ。──それでも、私は」
「ミラさん、そこまでです」
ぐいっと意識外から腕を掴まれた。はっと振り向くと、ぜいぜいと息を荒げたコビーが俺の腕を強く掴んでいる。
──こいつ、俺の能力から自力で抜け出したのか。
……はぁ、時間切れだ。ため息をついて、両手を打ち鳴らす。それを合図に、一気に会場の人間にかけていた能力が解除され、戸惑ったような声が会場中から聞こえてくる。
「おお出た出た、これだから〝今を生きる人類〟属性持ちはなぁ。どうぞ、ロッキーポート事件の英雄・コビー大佐」
強く掴まれた腕を外し、頭を下げて後ろに下がり、ブルーノの横に立った。ブルーノが何か言いたげにこちらを見上げてくるが、知らん知らん。
コビーは息を切らしつつ、大人しく下がった俺を気にしながら、ウタにもう一度語りかける。
「……ウタさん、この〝ウタワールド〟に囚われている全ての人々の心を、現実の世界に返してください」
ウタはなにも言わない。口を開く様子もない。その様子を不思議に思いながらも、埒が明かないと判断したのか、「コビー大佐!」「ロッキーポートの英雄!」と口々に称える観客たちに向かって、語り始めた。
「皆さん! 皆さんがいるこの世界は現実ではありません!」
この世界がウタによって作り出された架空の世界であり、ウタによって招かれ、閉じ込められていることを。今すぐ脱出するべきだと、コビーは言葉を尽くした。
それを聞いた観客は、まず困惑を露わにした。ウタにぬいぐるみをもらい、髪までウタの真似をして染めた少女が、涙ながらに「騙したの?」と訴える。
それに対して、ウタが──おかしい、冷静すぎる──観客に向かって、しっかりと前を見て、静かに語りかける。
「────騙してないよ。だけど、ここが現実じゃなくて、私が作った世界なのは本当なの。
私は、みんなが平和で幸せに暮らせる〝新時代〟を作るためにここにいるし、そのために行動してきた。
この世界にいる限り、貧困も、暴力も、病気も怪我もなくて、全ての辛いことからは私が守ってあげられる。それが、私を歌手にしてくれたみんなに、私が返せる唯一のことだから。……だから、お願い。みんなでずっと、ここで幸せに暮らそう?」
「──それでも、ずっとは困ります!」
「頑張ってることもあるし」
「いくらウタでも、ついていけないよ」
ああ、そうだ。だから言ったじゃないか。
人間はいつだって勝手なことを言うし、俺たちみたいな者が持つ理想は、常に先に進むことのできる人間に止められるんだよ。
ウタは少し俯いて──それから顔を上げて、心から明るく笑った。
「……そっか。みんなの気持ちは分かったよ。じゃあ──私の気持ちも分かってくれるまで、もっと楽しいことの中にいて?」
ウタの身体から溢れた光が、虹色の海になって会場を埋め尽くしていく。悲鳴をあげて逃げ惑う観客が、色とりどりの『カワイイもの』に変えられていく。
ブルーノがコビーと俺を抱えて、離脱するために〝ドアドア〟の能力を発動し──その間から、ウタの悲しげな笑顔が見えた。そして、その手に持っているものは──
「ごめんね。ミラの言った通りだった。でも私、まだミラみたいに要領よくは出来ないや。
だから、これは覚悟の証なの。きっと私を思ってくれたんだろうけど、こうでもしなきゃ、私は私の〝新時代〟を作れない」
頼むよ、やめてくれ。まさか現実世界でもそれが残ってたのか? どうしてここにきてそんな事態になる?
「じゃあね、ミラ」
そうして、〝ウタウタ〟の能力で手元に生み出した『それ』を──その時は知る由もなかったが、現実世界で、何の因果か
ふたつの世界にいるウタは、確かに飲み込んだ。
扉が閉まる。
◆平成コソコソ噂話
ナツナツの実の能力の元ネタは、FILM REDの監督、谷口監督のアニメ作品「コードギアス」無印に出てきた「リフレイン」という麻薬から。見たことない人がいたらよければぜひ見てください。
◆補足
ウタが最後に〝ウタワールド〟でもわざわざネズキノコを食べたのは、現実世界との同調というか、引き返さないための儀式みたいなものです。あれ自体に眠れなくなる&死に至る毒性は別にない。現実世界のウタは普通に食べたので、タイムリミットが追加されました。
分かりづらい表現をしてしまったと思ったので、補足と修正を入れました。
次話も短めになりそうなので(当てにならない予測)なる早で更新できるよう頑張ります。