FILM RED時空に転生したから〝時代争奪歌合戦〟をやる【本編完結・番外編不定期更新】   作:空吉

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ウタ、この作品の作者に三連休やシルバーウィークなんてものは存在しない

お待たせしました、アンケートも落ち着いてきたので投稿です。
更新を優先しているため未だごちゃついていると思いますが、深く考えずに読んでください……


Finale I
第7話 〝■■■■■■■■■■■Tot Musica〟VS


────歌うことは叶わなかった。

 いくら声を出そうとしても、それはひゅうひゅうという喘鳴に似た音にしかならない。明らかな異変に周囲も戸惑った様子だったが、最も混乱したのは当然ながらウタである。

 

「!? どうして、トットムジカの旋律が歌えない……楽譜はちゃんと────え?」

 

上空に展開したはずのトットムジカの楽譜が、伸ばしたウタの手からするりと逃げ、風もないのにふわりふわりと飛んでいく。そうして──ゆっくりと()()の手の内に収まった。

 

「────ふうん。なるほど、こうなったか。

 ウタ、お前本当に〝ウタワールド〟では万能なんだな。今()を視界に入れたから、あのステージで()が言ったこと、ちらっとでも考えたんだろう」

 

()()──アルナスル・ミラは、手元に収まった〝古びた楽譜〟をひらひらと感触を確かめるように動かしながら、何事かを検証するように滔々と語り出す。

 

「〝ウタワールド〟では〝ウタウタの能力者〟が思ったこと以外は起きない。

 だが逆に、能力者たるお前(ウタ)()()()()()()()()、たとえかすかにでも()()()()()()()

 ウタではなく『()()()()()()()()()』を、ミラではなく『()()()()()()()()()』を使えたら、と」

 

「あ、ああ────」

 

「その結果能力が発動し、なんと〝ウタワールド〟内限定ではあるが、通常では決してあり得ない『能力の交換』が実現してしまった。ウタが『ナツナツの能力者』に、ミラ()が『ウタウタの能力者』に。

 そして──ふむ、実に興味深いな。これを以て、この世界(ウタワールド)の支配権が()に移った」

 

ミラが指を鳴らしてみせると、音符が集まり兵士の形をとる。先ほどまでのウタがやっていたのと全く同じように。

 彼女は仲間達に『少し下がって』というようなジェスチャーをした後、もう一度指を鳴らして音符の兵士をさらに多く生み出すと、自分と仲間たちとの間にきっちり一列に並ばせた。

 人差し指を指揮棒のように振って、音符の兵士たちをまるで軍隊のように統率し、行進させたり、槍を動かす特定の動作を行わせたりした後、感触を掴んだのか一度頷いて、元の位置に再度整列させる。

 ──体の震えが止まらない。一体自分は何をしてしまったのかと、ウタの脳が考えることを拒んでいる。

 ミラはこちらを振り向いて、何かの講義をするように淡々と語りかけてくる。

 

「よって、現在〝ウタワールド〟のお前(ウタ)は〝ウタウタの実の能力者〟ではないために、〝トットムジカ〟が歌えなかった」

 

 〝魔王トットムジカ〟は〝ウタウタの実の能力者〟がその旋律を歌うことで顕現し、その時点で〝ウタワールド〟と現実世界を繋ぎ、全てを破壊する魔王となる。

 つまりは、起動スイッチとしての〝ウタウタの実の能力者〟が必要であり、それ以外では実体化できないということだ。

 

「しかし、現実世界ではさすがに能力交換は行われないのか。()()()()()()、あくまで〝ウタワールド〟内の話……当然だが、なかなか器用だな。

 現実世界では、ウタウタの能力者はウタ(お前)のままだし、同時に()もナツナツの能力者のままだろう。

 だが、こうなってしまうと、お前に残された手段は『〝現実世界側〟で〝トットムジカ〟を歌い、魔王を顕現させる』ことになるわけだが──果たしてそれが出来るかどうか、試してみるといいんじゃあないか?

 もっとも、それが出来ていたら今頃〝ウタワールド(こちら)〟にも魔王が現れているだろうから──答えは分かりきっているんだが」

 

それは、無慈悲な宣告としか言いようがなかった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

現実世界。

 シャンクスたちや海軍の面々は、ウタが何かを──おそらく〝トットムジカ〟を発動しようとして、ウタ本人も考えてもいなかっただろう『不発』という事態に、〝ウタワールド〟で何かがあったのだと即座に悟った。

 しかし、未だに眠っている人々は操られ、こちらに攻撃を仕掛けてくるために、思うように動けない。

 

「……ウタ?」

 

シャンクスが、珍しく戸惑いを表に出して娘の名を呼ぶ。びくっ、と叱られることを恐れる幼子のように震えた彼女に、明らかな異変を感じ取る。

 途端にウタは涙を流し、ガタガタと震えながら、急に力が入らなくなったようにその場に座り込んでしまった。

 その姿は、シャンクスや赤髪海賊団たちが覚えている少女の頃のウタの姿と、自然と被って見えた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 えー、俺の現状を整理。まさか〝トットムジカ〟が自発的にこんな行動を起こすとは思わず、なんか変なムーブをしてしまったところ。

 まあ『歌に勝手に引き寄せられる』上、感情の集合体というからには意思くらい持っているだろうと考えてはいたのだが。

 

「〝魔王トットムジカ〟とは、〝触れてはならないもの〟にして、人の心に落ちた影、負の感情の集合体。その実体は楽譜。顕現した場合は巨大な魔王の姿を持つ。

 しかし聞いたところによれば、能力者の歌声に惹かれて、いつの間にか能力者の前に楽譜の形で現れるのだという。まるで意思を持っているかのように」

 

ここだけ聞いたらちょっと怪談チックだよな。

 あー、ゴードンさん、と呼びかける声に、固まっていた周囲がやっと動き出した。

 ルフィたちの後ろから、彼がゆっくりと姿を表す。音符の兵士を2列に分けて道を作り、敬礼させると、その景色はまるで王の凱旋のようだった。まあ元国王なんだから間違ってはいない。

 

「今のうちに伝えてあげてください。12年前の真実を。──もうウタが〝トットムジカ〟を歌う危険はないのですから」 

 

俺のその言葉に背中を押されたのか、ゴードンさんは座り込んでしまったウタの前に膝をつき、懺悔と共に12年前の真実を語り始めた。ルフィたちも彼の話に聞き入っている。

 そして俺はこの間に急いで楽譜に目を通す。

 手元に集まった時からなんかおかしいと思ってたけど、明らかに楽譜の枚数増えてんだろこれェ! 3曲分くらいあるだろ!! 古代から続く呪われた歌はどうした! それとも起動者によって変わるんか? 不思議楽譜なんか?

 ……うわ、マジで()()()()()()、澤○氏作曲の〝Tot Musica〟じゃない……となると、マジで起動する能力者に合わせて曲変えてきたのか? そこまでやる? 芸が細かすぎんだろ……。

 ………………ん? え? おま、お前、この曲──見間違いじゃない!!

 こ、こいつ、この()に〝新時代(令和)産〟を歌えってのか!? オイ!! 魔王っつーだけあるな!! ()まで尊厳破壊する気かよ……性癖に忠実か?

 ……まあ()も大概尊厳破壊してきたしな、是非もなしか。

 俺が魔王トットムジカさんのある意味での真面目さにひとり百面相していると、ウタの悲痛な声が辺りに響く。

 現実世界のウタも同調し、同じ訴えを叫んでいるようだった。

 

「──知ってたよ。全部知ってた!! あの事件の日の映像電伝虫を見つけて、全部見たから!!

 だけどどうしろって言うの!? あんなことを引き起こして、罪を被ってくれたシャンクスたちのことまで勝手に恨んで! ここまで来て、もう引き返すことなんて許されない。

 私を見つけてくれたファンのみんなのためにも、〝新時代〟をって……決めたのに……」

 

「──けれども観客の皆さんは、全員がウタさんの〝新時代〟を望んだわけではなかった。だから、皆さんをこんな姿に変えてしまったんですね」

 

コビーが静かに事実を突きつける。嗚咽が漏れるのを隠すように、ウタは口元を左手で覆って──その袖に描かれたマークに、ルフィが気づいた。

 ルフィが仲間達のうちから進み出てウタに近づき、ぐっとその肩を掴み、真っ向から語りかける。

 

「ウタ。──こんなのは自由じゃねェ、こんなのは〝新時代〟じゃねェ。……お前が誰よりも、よく分かってんだろ」

 

「……っ!! ル、フィ……!!」

 

ついに堰き止めていたものが決壊する。ルフィに縋りつき、子どものようにわあわあ思い切り泣くウタを、ルフィはじっと受け止めていた。

 

────傷は耐えるものじゃない。痛みは訴えるものなんだよ

────痛かったら、痛いって言えば良かったんだ、お前は

 

俺の尊敬する(キャラ)がそんなことを言っていたなと、この様子を見ながら思い出した。

 こんなことになるまで、痛みを訴える相手も、訴えていいと伝えてくれる相手も、ウタにはいなかった。それが映画での結末に至る一因にもなっていたのかもしれない。

 これで〝傷跡〟でも歌ってやれれば、めでたしめでたし、で終われてよかったのだが──。

 

 

 残念ながら、そうは問屋が卸さないのだ。

 

 

「ウタ、ひとつ教えてほしい。──お前、何故〝トットムジカ〟を発動したかったんだ?」

 

俺だけは理解しきっていることを、敢えて問う。

 ぐす、と鼻を鳴らしながら、ウタが途切れ途切れに教えてくれた。

 

「……現実世界で、海軍の人がファンのみんなに手出しできないように、私が〝ウタウタ〟の能力で動かしていて──なのに海軍の人が銃を向けて──私のファンがひとり、撃たれて。

 だから、〝トットムジカ〟の力で遠ざけようとしたの。そうしたらその後は、私の目指した〝新時代〟の完成を……この世界が閉じるのを、待つだけだったから」

 

「そんな馬鹿な!?」

 

「誰が一体そんな指示を──」

 

信じられないといった様子のコビメッポに、ミニブルーノが「サカズキ元帥が指示しそうなことだな」とぼそりと呟く。よく分かってんな、さすがサイファーポール。

 

「なるほどな。だがそこで、()が〝ウタウタ〟の能力者になったことで不発になったか。よく理解したよ」

 

ばさりと手元の楽譜を広げて改めて眺める。そしてなんでもないかのように、俺は告げた。

 

 

「では、後は()が引き継ごう。

 お前が〝新時代〟を諦めると言うのなら、()が〝美しき時代(平成)〟の邪魔になるものを排除しなくてはな。

 〝トットムジカ〟が()のものになったことだし、都合がいい」

 

 

「……え?」

 

理解が追いつかないという表情でこちらを見るウタに、ルフィたち。そこでひとり、ゴードンさんが俺の持つ楽譜を見て気づいたようで、息を呑んだ。

 

「……待ってくれミラ君、12年前より楽譜の枚数が増えていないか? まさか──〝トットムジカ〟が変化したというのか!?」

 

それに対して俺も鷹揚に頷く。

 

「その通りですよ、ゴードンさん。

 この楽譜には古代の呪われた歌なんか書かれていない。書き換わった──いや、〝トットムジカ〟自体が書き換えたんだ。なぜそんなことが解るかって? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の思考か記憶でも読み取ったかな。

 〝人の負の感情の集合体〟──なるほどね。どうやっても()()()()()()のか?

 それでそのわりにこの選曲……()に〝銀河の妖精〟を返上しろと(のたま)うんだね……ふ、ふふ……許せん…………許せんが、まあ仕方がない」

 

「コビー大佐たち……『海軍と世界政府の邪魔はしない』と言ったが……すまんありゃウソだった」

 

「ああいや、全部が全部ウソってわけじゃない。

 ウタの計画を阻止するために動いたのも本当だし、〝ウタの説得〟だって、さっき言った通り本気だった。

 だけどこうなってしまうとな。結果的に騙す形になっちゃって悪いなあとも思ってるよ」

 

あ、攻撃の予感。ほい、と指揮棒を振るように指を動かして俺の周囲を大量の音符でガードすると──ほら来た、勘のいいやつ。

 俺の思惑を理解したのか、それとも単純に『何か危ない』という勘か。ロー、コビー、そしてルフィとゾロが攻撃を仕掛けてきたのを間一髪で防ぎ──手加減なしかよ容赦ねえ!──ついでに〝楽譜〟を〝シャンブルズ〟で奪われちゃ堪らないので(まあ奪われたところで即取り戻せると思うが)、4人まとめて、思い切り距離を稼ぐだけ稼いで吹っ飛ばした。

 

「酷いよなあ。()に戦闘力なんてこれっぽっちも無いのに。まあ〝ウタウタ〟が強いからな」

 

うーむ、たーまやー、とでも言いたくなるような良い飛びっぷりだ。……え? ルフィ、ウタには絶対攻撃しなかったのに俺にはノータイムで殴りかかってくるの……? 親父にもぶたれたこと……あるけど! 

 〝楽譜〟を取り返しに来たのだと信じたい。まあ別に……そりゃウタとルフィの関係に比べたら、古い付き合いなだけのしがない幼馴染ですけど……。

 いややっぱり地味にショックだな。エボルト名言もじりが悪かったかな?

 

「何……? ミラ、何をしてるの……?」

 

ウタが呆然と俺に問いかけてきたのをシャフ度で見遣ると、残っていたサンジやジンベエたちがガードに入った。

 先程もそうだが、歴戦の海賊は判断が早いな。これには鱗滝さんもニッコリ。

 

「何を、何をねえ……うん。やっぱりさ。スクラップ&ビルドってよく言うし……何かを創るには最初に破壊が必要なんだって、今ようやく理解したんだよ」

 

「そのためだというなら──実に業腹だが──〝懐古(平成)〟の象徴・〝銀河の妖精〟は休業だ。必要なら、()は〝堕天使〟にでもなってやる」

 

今から行うことの懸念点としては、〝魔王〟を召喚して〝ウタワールド〟と現実世界を繋いだ際、魔王の拠り所……仮に〝依代〟と呼ぶべきか、それがウタの方と俺のどちらになるか。そして能力関係がどうなるかだが──魔王の〝依代〟に関しては、わざわざ楽譜を書き換えてまで魔王側から合わせてきたからには、ほぼ間違いなく俺だろう。

 能力の方は、〝ウタワールド〟と現実世界で能力者が違うとかいうややこしいことになっているため、失敗したら目も当てられないが……『同じ能力持ちは2人いない』という世界の原則上、きっとどちらかに統一されるはずだ。そして依代が俺である以上──俺が〝ウタウタの実の能力者〟になるってことだ。逆にウタが〝ナツナツ〟の能力を手に入れることになるだろう。

 〝能力複数持ち〟のヤミヤミの実以外の例外、〝完全能力交換〟を可能とする〝ウタウタの実〟と〝魔王〟──まあ、劇場版らしいんじゃあないか?

 

「──よし、やってみせろよアルナスル・ミラ! 何とでもなるはずだ!」

 

悲しいことにネタがわかる人が俺のみのため、自分で自分を鼓舞するために宣言する。ゴードンさんこれだけ言ってくれねえ? 無理だよな。

 すうっ、と大きく息を吸い──誰かが邪魔をする前に、間髪入れずに旋律を紡いだ。

 

 

──Break down! Break down! そう

Maybe you're right, so maybe you're right

狂気に満ちた世界へ

All right, I know you don't look back

So don't look back

戦いの時が来た Oh yeah

Breaking up, breaking up, breaking up

 

 

音の波が衝撃波と化し、周囲に拡散していく。深い闇の色をした、それでいて妖しく輝くオーラが渦を巻き、能力者である俺を掬い上げながら、瞬きの間に空中に〝魔王〟を形成していく。

 そしてこちらは、歌いながら〝ウタウタ〟の能力で外見を闇雲風にチェンジする。

 これからは〝銀河の妖精〟でなく、〝堕天使・Yami_Q_ray〟の一角、〝闇雲Δアルナスル・ミラ〟となるのだ。まあ1人なんだけど!

 と思っていたら、なんと〝魔王トットムジカ〟の周囲に浮かんでいる髑髏部分が人の形を取っていき──残りの〝Yami_Q_ray〟メンバーの姿になったではないか!!

 ウオオオオオなんと粋な計らい、取り込んだ人間を反映するとはいえここまでお膳立てしてくれるとは、やるな〝歌の魔王(トットムジカ)〟よ! これで完璧な再現ができるってものだ。やるからにはクオリティには妥協したくなかったからな。

 

「まさか、本当にトットムジカだと!?」

 

あ、ゴードンさん今? そしてそっち? まあいいや。

 

 

──Are you serious?

Maybe, maybe…Oh!

Just make it a reality

 

So crazy crazy, get out!

What do you say?

I know what you want

 

You're the only one, take me higher

Tell me, what's the meaning of darkness,darkness?

No way out, let me tell you

Oh! Oh!

Show me the way, oh no way, no way out

 

 

──〝歌の魔王(トットムジカ)・第一楽章〟、完全顕現。

 

さあて、現実世界の俺はどうかな? お、よしよしちゃんと同期してるな。目も覚めてるみたいだし。〝ウタウタ〟が完全に俺の能力になったのもよく感じ取れる。なんとも不思議な感覚だ。

 〝ウタワールド〟を形成させてからの乗っ取りではあるから心配していたが、効果は継続か、なるほど。

 ……おっ、ちゃんとシャンクスたち来てんじゃーん! 普通に遅いんだよな。険しい目でこちらを見ているが、シャンクスの側にはきちんとウタがいて一緒にこちらを見上げている。

 ……ん? 見上げている?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「オイオイオイオイ、おかしいな。ウタ、なんで起きていられる? 〝ウタウタの実〟の能力は完全に()に移ってるの解るだろう?」

 

歌の魔王(トットムジカ)〟の肩に乗ったミラは、魔王をすっかり我がもののように従えている。力に振り回されているわけではないのが、その様子から把握できた。

 ──少々厳しいな、とシャンクスは思考した。

 暴走しているのなら、多少は隙ができるものだ。手順通りに〝歌の魔王〟に攻撃を加えることも簡単にできただろう。だがこの調子では、楽をさせてくれそうにない──。

 茫然自失といった(てい)のウタをしっかり抱き寄せ、代わりに返答する。

 

「ネズキノコを食べているかもしれないと、お前が言ったんだろう、ミラ──久しぶりの挨拶がこれとは、弟子のわりに随分偉くなったものだ」

 

「うるせーぞ! そっちこそ『初ライブだけどウタの身が危ないかも』ってせっかく直々にタレ込んでやったのに、結局着いたのさっきじゃあないか。いつも重役出勤じゃん。ケッ、四皇様がよ! ……重役で間違ってないかもしれん。

 あと師弟関係は随分昔に解消されているだろうが! というか()はウタに聞いてんだよ! ネズキノコ食べてるからってそんな……〝ウタウタ〟の能力に抵抗できるほど……? コワ〜……」

 

いや、〝元の能力者〟ってのも関係してる可能性があるか……完全耐性持ち的な……今全部イレギュラーで出来てるもんなこの展開……などとぶつぶつ呟きながら考え込み始めたミラに向かって、シャンクスの後方から過たず弾丸が放たれた。

 ミラはすかさず魔王の腕でガードすると、ちらりとそちらに視線を向け、苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「……おォ〜っとっとォ、ベン・ベックマン〜〜……」

 

「〝黄猿〟の真似か? 上手いじゃねェか……そんな芸当まで仕込んだ覚えはねェがな」

 

「うるせーッ!! 次から次へと!!」

 

ひとしきり喚いた後、はぁ……とため息をつくと、再びミラの目つきが鋭くなる。

 

「──まあいい。邪魔をするな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の目指す〝美しき時代(平成)〟のために、まずは道を舗装するんだよ。

 ──ウタ!! お前いつまでボーっとしてんだ!!」 

 

怒鳴られて、びくりとウタの肩が揺れる。そしてまずシャンクスの方を見て、口籠った。

 

「あの、シャンクス……」

 

「大丈夫だ。……おれァ、親子喧嘩をしに来たはずだったんだがな。それに、本当なら真っ先にお前に解毒薬を飲ませてやりたいんだが……先に()()()片付けなきゃならんことができちまった。

 だから今度こそ、おれたちはちゃんとここにいる」

 

「……うん」

 

ぐい、と涙を拭いて、ウタが強く大地を踏み締める。そして決意を宿した瞳で、ミラと魔王をしっかりと見据えた。ミラもそれに気づいて、口角を上げる。

 

「そうだ。その目だ。ようやくマシになった」

 

その様子を見ながら、シャンクスは追想する。

──ミラは昔から聡明な子どもだった。そしてそれは、ある意味で臆病な子どもと同義であった。

 保険をかけずに行動はしない。考えるより先に体が動くルフィなどとは正反対で、先に計画を立てるなり、しっかりと考えてから行動する。

 だから、わざわざ『短期決戦に賭けている』などと、自分から弱みを曝け出したあれは、()()()()()()()()()()()()。何もしなくても、体力が尽きれば〝魔王〟が消えるというヒント。

 けれども、わざわざ〝歌合戦〟と銘打って、こんなことをしてまでミラが達成したかったことは。その本当の目的は。

 

「さぁてウタ! これはお前の過去そのもの! お前がまだ何かを成すことを諦めていないというのなら! ここからが〝時代争奪歌合戦〟の要だぞ! 力を尽くし、この〝堕天使〟のトットムジカを倒してみせよ! 

 ──それが、()とお前の禊になるさ」

 

「え……?」

 

 

──きっと、そういうことなのだ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 なーんかシャンクスたちに見透かされてる気がするな〜。まあ別にそこまで隠してないんだけど。

 〝ウタワールド〟側では、残った麦わらの一味とビッグ・マム海賊団の攻撃が引っ切り無しに続いている。一応覇気攻撃のためちょいちょいガードしちまうんだけど、本当はいらないんだよな。やめとくか、体力温存したいし。

 

「くそっ、本当に攻撃が通らねェ……!」

 

「ミラ! どうして急にこんなことを!」

 

「全然急じゃないよ。ずっと考えていたことだ。まあ『〝トットムジカ〟、()にも扱えないかなあ』くらいのものではあったがね。上手くいったよ」

 

魔王の肩の上で足を組んで座ってみる。結構安定感があっていいな。

 

「それにさっきも言っただろう? ()の目指す〝美しき時代(平成)〟には邪魔なものがあるからね。それを取り除きたいのさ。……うわ早、もう戻ってきおった……」

 

俺の名を叫ぶ声と共に空から流星のように降ってくる〝ギア4〟状態のルフィの拳。まあノーダメージではありますが。

 ──目が合う。にんまり、と笑ってやると戸惑ったのか一瞬隙が出来たので、魔王の手ではたき落とす。

 

「ルフィ〜〜、()は悲しいぞ。ノータイムで殴りにくるなんて。幼馴染だというのに、よよよ」

 

「お前がウタを泣かせるようなことしてるからだろ!! それにその怪物もヤベェんだろ!? 海軍や海賊じゃねェやつらまで巻き込んでんのに、止めねェわけねェだろうが!!」

 

はいド正論〜。やっぱりね、「必要ないものを排除する」って目的は許されざるよね〜。あとウタも泣かせ……そうだな、泣かせたな……。おや、ウタが立ち上がってルフィを制止した。

 

「待って、ルフィ。──現実世界側で、シャンクスとも話せたの。これは、私がけじめをつけなきゃいけない問題。でも、……一人じゃあミラに〝覚悟〟を示せない。だから」

 

俺は、〝ウタワールド〟から/現実世界から、同時に強い輝きを宿した視線に射抜かれた。それに静かに目を細める。

 

「だからお願い、ルフィ/シャンクス……力を貸して……!!」

 

「当たり前だァ!!!」

 

『──当たり前だ』

 

──ああ、なんと良い光景なのだろうか。

俺はゆっくりと立ち上がり、再びその輝きたちを見下ろした。

 

「よく吠えた。それなら()も、より熱を込めて歌わねば……無作法というもの……!」

 

歌の魔王(トットムジカ)〟が音楽を奏で始めると、一気に重圧が増した。立っているのもやっとだというほどのものだが、よく耐えている皆の姿が見える。さあいくぞ、ここから第二楽章だ。

 俺は笑みを深めながら、ゆっくりと口を開いた。

 

 

── 羽をなくして堕ちていく やっと自由になれたの

正義を名乗る神様には 断罪を 今 あぁ

 

 




■■■■■■■■■■■Tot Musica

Yami_Q_rayΔTot Musica

◆補足:能力交換の経緯
ウタ、〝ウタワールド〟にて〝トットムジカ〟発動前に、「能力が違ったら」という望みを抱く

〝ウタウタ〟の能力で実現し、〝ウタワールド〟内でのみウタとミラの能力が逆になる

トットムジカ、逆転した〝ウタウタ〟の能力者ミラを歌い手に認定、変化。この時点でウタは現実/ウタワールド共に〝トットムジカ〟歌唱不可になる

ミラ、この時点で既に〝トットムジカ〟歌唱&魔王召喚が可能になっている

ウタ、〝トットムジカ〟を発動しようとし不発

の流れ。あとは作中の通りです。
〝ウタウタ〟による能力交換が〝ウタワールド〟内だけとはいえ起こってしまった後、〝魔王〟がウタではなく『ミラを歌い手に選んだ』ため、ウタは〝トットムジカ〟が歌えなかった、という感じです。〝魔王〟の意思が強くなっているようですね。
……これで分かりやすくなったか……?
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