ゾンビで荒廃した世界を飛ぶヘリコプター。

しかしあと5分で燃料が切れる。

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終末ヘリコプター

「あと5分で燃料が切れるわ」

 

ヘッドセットを通して女性パイロットの状況報告が耳に入り、左腕の腕時計を見る。

 

「これ以上捨てる物は無いよね」

 

兵員室で両腕を枕に仰向けになっている男が言った。

乗っているヘリコプターは軍用だが、この男の身なりは民間人だ。

 

「もう無いわ」

 

と、女性パイロットは淡々と言った。「これ以上、軽量化は出来ない」

 

男は深々と息を吐いて立ち上がるとコクピットに歩み寄り、空席となっている副操縦士席に深々と座った。

 

 

眼下はどこもかしこも生ける屍がひしめいており、頭上を通過するヘリコプターのローター音に反応して、虚ろな顔を向けて来ていた。

ヘリポートのある建物の屋上にもゾンビがちらほら見られ、着陸しようにも出来なさそうだった。

 

 

「モニカ」

 

と、男性は女性パイロットに言った。「今日だったね。僕達の結婚記念日」

 

女性パイロットは微笑して男性を見た。

 

「やだ。私ったら忘れていたわ、アレックス」

「忙しい日々だった」

「ええ、とっても」

「これからどうする?」

「そうねえ」

 

 

と、モニカ准尉はまた正面に顔を戻した。「そろそろ、レイチェルとマイケルに会いに行く頃合いかしら」

 

 

アレックスが沈んだ表情になりながら、胸ポケットから小さなカラー写真を引っ張り出した。

それは、アレックスとモニカ、そして長女のレイチェルと長男のマイケルの家族写真だった。

レイチェルが5歳、マイケルが4歳といったところか。

 

 

 

「私達、結局何を生きて来たのかしら」

「…5年になるのかな」

「5年と2カ月よ」

「よく覚えているね」

「それにしては、結婚記念日を忘れていたわ」

 

 

と、乾いた自虐笑いをするモニカ。

 

 

それから暫しの無言が続く。

 

 

沈黙を破ったのはアレックスだった。

腕時計を見ながら、

 

 

「燃料切れまで、あと2分だよ」

 

 

それから、別のポケットから手よりも小さなチャック付きポリバックを取り出した。

 

中には2つのカプセルが入っている。

 

 

「…なあモニカ。僕がどこでプロポーズしたか、覚えているかい?」

 

 

モニカは即答した。

 

 

「それは覚えているわ。これと同じ機種、MH-60Rシーホーク…いらないもの捨てまくって惨めな姿になっているけれど」

 

 

そしてモニカは、アレックスの言わんとしている事を察していた。

 

 

「いい結婚記念日を祝えそうね」

 

「ああ」

 

 

アレックスはカプセル入りのポリバックを、自分の目の前でゆらゆら揺らした。

 

 

「愛してるよモニカ」

 

「私もよ、アレックス」

 

 

シーホーク・ヘリコプターは、残り少ない飛行時間を飛び続けた。

 

 

 

 


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