フィーネになりそこなった合法ロリのお姉ちゃん 作:とんこつラーメン
「…なんじゃこりゃ」
街の食堂にて偶然出会った弦十郎に案内されてやって来た『S.O.N.G.』本部。
その内部や司令室を見て、亞里亞は目を細めながらボソッと呟いた。
「二課の名前が変わっただけかと思ったら、中身までそのまんまじゃないか。しかも、その正体は超デカい潜水艦って…ふざけてるのか? お前らは一体どこと戦争をする気だ」
「以前の本部は地下に存在していたが、それ故にいざという時の対処法がどうしても限られていた。学園の真下にあるというのも正体露見に繋がる可能性が高い上に、周囲を巻き込む可能性も非常に高かった」
「だから、移動が可能な潜水艦にしたってか? 言いたい事は分かるが、それでも発想がぶっ飛び過ぎだ。どうして、もっと発想をロジカルに出来ないんだ?」
盛大な溜息を吐きつつ、亞里亞はポケットの中から棒付きキャンディを取り出してパクリと咥え込んだ。
本当は煙草が吸いたかったが、流石の彼女も司令室で堂々と喫煙をするのは躊躇われた。
「昔のメンバーは殆どいないって聞いてたけど、お前さんはまだ残ってたんだな…慎次」
「お蔭様で。お久し振りです…亞里亞さん」
「あの小僧が、いっぱしの顔になってまぁ…」
弦十郎と同じように彼…緒川慎次の事も昔からよく知っていた。
それこそ、彼がまだ十代の頃から。
「それで? 例の『若い連中』はどこにいるんだ?」
「普段は四人は学校、二人は仕事に出ているのだが、今日は二人の方の仕事が休みになっていてな。今頃は全員で訓練でもしている頃だろう」
「その『二人』の内の一人は…あの翼…なんだよな」
現在、S.O.N.G.に所属している若年メンバーの中で唯一、亞里亞が知っている人間。
彼女の顔を思い出し、ほんの僅かではあるが彼女の顔が曇った。
よく顔を見ていなくては分からない程に微細な変化であったが。
「…確かに、形は同じでも、中身は昔とは大違いだな…」
「寂しいか?」
「…かもな。ほんと…歳だけは取りたくないもんだ。日本に戻ってきた直後もそうだったが、こうして自分のよく見知っている場所が変わっているのを見ると、本当に自分だけが世界から取り残されたような気分になる。竜宮城から戻ってきた浦島太郎はこんな気持ちだったのかもしれないな」
「亞里亞さん……」
小さく溜息を吐く亞里亞を見て、弦十郎と慎次は互いに顔を見合わせる。
現状、この場でこの二人だけが亞里亞が長い間に渡ってアメリカに滞在していた理由を知っているから。
「あー…やめやめ。感慨に耽るだなんて私らしくない。それよりも…弦十郎」
「なんだ?」
「あいつの…了子の墓の場所って知ってるか?」
「…聞かされてないのか?」
「全く。私が知ってるのは、事件の『原因』と『過程』と『結果』だけ。ジジイもアメリカ政府も全く詳しいことは教えてくれなかった」
「そう…なのか」
「別に知らないんなら、それでも構わない。自力で調べて、自力で行くだけだ」
生粋の天才である亞里亞ならば、墓一つを探し出すぐらいは簡単にできるだろうが、それとは別の懸念が彼らにはあった。
「行くって…移動手段はどうするんですか? まさか、徒歩だなんて事は…」
「ンなわけあるか。私はロードランナーじゃなくて学者。頭を使う事が仕事なんだよ。歩いてなんて行けるわけないだろうが」
「ならば、どうやって行く気だ?」
「車を運転してに決まってるだろうが」
「「え?」」
ここで初めて弦十郎と慎次、この場にいる他のスタッフたちも揃って目が点になる。
どう見ても幼女にしか見えない、この見た目で車を運転する?
例え冗談だとしても笑えない。
「お前ら…このナリで運転なんて出来るわけないって思ってるだろ」
「そ…そんな事は無いぞ!?」
「顔でバレバレなんだよ。ったく…ほれ」
ゴソゴソとポケットから財布を取り出し、その中から運転免許証を出して二人に見せる。
「これが証拠だ。ちゃんと教習所に通って取ったんだぞ。二十歳の誕生日を迎えた次の日から」
「し…知らなかった…」
「とはいえ、車は持ってないからペーパードライバーだけどな」
運転する時は大抵、レンタカーを借りることが多い。
借りれば済むの話なのに大金を出してまで車を買う理由が亞里亞はよく分らなかった。
それ以前に、自分の研究や興味のあること以外には基本的には無頓着なので、車の整備や掃除なんて面倒くさくて絶対にやりたくは無いというのが本音だったりする。
維持費やガソリン代だって決して馬鹿にはならないし。
「亞里亞さんが車を運転している姿が全く想像出来ない…」
「だろうな。アメリカに渡る前、何回か道路を車で走った事があるけど、頻繁に警察に止められてたし。免許見せたら変な声を上げてた」
「当然だろうな…」
前職が警官だった弦十郎には、その時に亞里亞を見た彼らの気持ちがよく分かった。
もしその警官が自分であっても、同じようなリアクションを取っていたに違いない。
「なんなら今度、私の運転でドライブでもするか?」
「え…遠慮しておこう」
「それは残念」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
昔話などに花を咲かせていると、賑やかな声と共に司令室の扉が急に開かれた。
入って来たのは勿論…『彼女達』である。
「疲れたぁ~…。クリスちゃんも翼さんも容赦がないんだもーん…」
「当たり前だ。訓練で手を抜いてどーすんだよ」
「雪音の言う通りだ。訓練だからこそ本気で取り組むべきであって…」
「また翼さんのお小言が始まったデース…」
「切ちゃん、聞こえるよ」
「けど、翼の言っていることも尤もだわ。普段の訓練で手を抜いていたら、いざという時に困るのは自分達なのだから」
何とも賑やかで華々しい面々だろうか。
だが、そんな彼女達を見ても亞里亞の表情は全く変わらない。
「いいタイミングで来たな。丁度良かった」
「師匠! お疲れ様です!」
元気よく響が弦十郎に挨拶をすると、ふと彼の近くにいた亞里亞の存在に気が付いた。
「あれ? 師匠…その子は誰なんですか? 迷子?」
「違うわ。おい…なんだこのアホ丸出しな奴は」
「ア…アホ丸出しッ!? 酷いよ~!」
「いや…ある意味で確信突いてるだろ」
クリスの見事な追撃に対し、他の四人が力強く揃って頷く。
「叔父様。その子供は一体何者なのですか?」
「子供…か」
本当に子供なのはそっちなんだけどな。
そう言いかけたが、言っても無駄なような気がしたので大人しく飲み込んだ。
「…そうだったな。本来はこっちが主目的だったな。彼女は…」
「おい。自己紹介ぐらい自分で出来る。子供扱いすんな。って言うか、私の方がお前よりも歳上だろうが。少しは敬え」
「「「「「「え?」」」」」」
なにやら聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がした。
この幼女が弦十郎よりも歳上?
例え冗談であったとしても笑えない。
「約一名を除いて『初めまして』。私は『櫻井亞里亞』…って言えば、私が何なのか分かる奴は分かるんじゃないか?」
『櫻井』という名字を聞いた途端、響と翼、クリスの目が大きく見開かれた。
彼女達にとっては、切っても切れない名前だったから。
「櫻井って…それじゃあ…まさか…」
さてはて。一体どんな罵倒が飛んでくるのやら。
どんなに酷い言葉が飛び出してきても、軽く受け入れるつもりだが。
「亞里亞ちゃんって了子さんの妹さんっ!?」
「違うわ。逆だよ逆」
「逆? 逆って事は…」
「そうだよ」
ずっと口に咥えていた棒付きキャンディ―を出し、無表情のままついさっき司令室にいた全員が驚いたセリフをもう一度口にする。
「お前らを裏切ったり、散々と傷つけたり、振り回したり、遠まわしな大量殺人をした張本人…『フィーネ』の器となった『櫻井了子』の実の姉が私だ。よーく分かったか、立花響」
「りょ…了子さんの……」
「姉…だと…!?」
この眼の前にいる幼女が、あの了子の姉と言われても、そう簡単には信じられない。
特に、彼女の事をよく慕っていたクリスは。
「あのフィーネに姉がいたって…んなの一度も聞いたことがねぇぞ!」
「だろうな。私とアイツは昔から物凄く仲が悪かった。最後に交わした会話だって、殆ど喧嘩みたいなもんだったしな」
当時の事は今でもよく覚えている。
亞里亞がアメリカ行きを決めた日の夜。
了子は普段の飄々な顔を消し、本気で実姉に激怒していた。
だが、亞里亞はいつもの調子で軽く受け流し、そのまま碌な会話もせずに永遠の別れとなってしまった。
「あいつは他人の前じゃ絶対に私の話題は出そうとはしない。了子にとって私は姉である以上に、この世で最も忌まわしく邪魔な存在でしかなかったんだからな。私の存在そのものが了子にとっての黒歴史に等しかったんだろうさ。きっとそれは、フィーネとしての意志が浮上してからも変わらなかった。もしも、私がまだ日本にいたら、真っ先に殺されていただろうさ」
妹に蛇蝎の如く嫌われている姉。
自分からそんな事を話す亞里亞が、装者達には余りにも異常に見えた。
「だから、お前らが知らなくても当然なんだよ。結局、最後の最後まで私の事は頭の片隅にも無かったみたいだしな。よかったよかった」
また棒付きキャンディ―を口に咥えながら、亞里亞は足が棒になったように立ち尽くす装者達に近づいていく。
「でもまぁ、私はお前達の事を知ってるけどな。資料で見たから」
「資料…?」
「そ。私は事の顛末などは字や写真でしか知らない。ついこの間まで研究の為にアメリカにいたからな」
「研究ってなんデスか?」
「いずれ分かる。というか、今から説明始めたらいつ終わるか分からないぞ。それでもいいなら、喜んでしてやるが」
「け…結構デース!」
「そっか。それは残念」
切歌に思い切り拒否られ、初めて地味に落ち込んだ亞里亞。
ちょっぴり唇を尖らせた彼女を見て、何の反応もしない少女達ではなく…。
(可愛い…)
(可愛いな…)
(可愛いわね…)
調、翼、マリア、一発KO。
「そこの仏頂面のが了子…っていうか、フィーネと一緒にいたっていう『イチイバル』の『雪音クリス』だな」
「あ…あぁ…。本当にフィーネの姉貴…なんだよな…?」
「フィーネってよりは了子の姉貴だけど。お前にとっちゃどっちも同じか」
クリスから今度はマリアたちの方を見て、一人一人と顔を見ていく。
「んでもって、そこの三人があの『F.I.S.』にいたっていう『マリア・カデンツァ・イヴ』に『暁切歌』、そして『月読調』か。ナスターシャのバーさんは元気だったか?」
「あ…あなた、マムの事を知っているのッ!?」
「知ってるも何も、ほんの一年間だけだけど私はあのバーさんの助手をやってたことがあるからな。多分、まだあの頃はお前らはいなかったと思う。いたら絶対に覚えてたし。すぐに意見の相違で私の方から出て行ったけど」
「フィーネの姉がマムの助手をやっていただなんて…」
「世間って本当に狭すぎ…」
「デース…」
顔が広すぎて、もう一体どこで誰とが繋がっているのか想像も出来ない。
そしてそれは当然、翼に対しても向けられるわけで。
「お前とは初めましてじゃないな…翼」
「…失礼ですが、私は貴女と会った記憶がありません。人違いでは?」
「仕方ないか。私がお前と初めて会ったのは、お前がまだ赤ん坊の頃だったしな」
「は…はぁっ!? 私が赤ん坊の頃って…えっ!?」
思わず弦十郎の顔を見た翼であったが、彼は黙って頷いた。
「本当だ。あの頃のお前はまだ幼すぎたから覚えてないだろうが、翼と亞里亞君は過去に実際に会っている」
「お前のオシメを変えたことだってあるんだぞ。字の読み書きを教えたりして…言葉が話せるようになった頃には私の事を『お姉ちゃん』って言って懐いてくれていたのに…」
「オ…オシ…!?」
そんなにも昔の事ならば覚えていなくても無理はないが、それでも亞里亞の落ち込んだような顔を見ると流石に罪悪感が出てしまう。
彼女の姿が幼女そのものだから特に。
「も…申し訳ありません。そんなにもお世話になった相手に対して無礼な事を…」
「気にするな。なんとなく、そんな反応をするだろうなって覚悟はしてた」
「すみません……」
これでもう、翼は亞里亞に対して頭が上がらなくなった。
別に亞里亞自身はそんなつもりで発言したわけではないが、自然と互いの力関係が決まってしまった。
「あのー…ちょっといいかな?」
「なんだ? 質問か? 身長と体重とスリーサイズ以外ならなんでも答えてやる」
「翼さんが赤ちゃんだった頃を知ってるって言ってたけど…亞里亞ちゃんって何歳なの?」
それは誰もが思った質問。
乙女にとっては体重と同じぐらいに禁句となる質問だが、亞里亞はその手の事は余り気にしない質だった。
「私は了子の三歳上だ」
「了子さんよりも三歳年上って事は、えっと~…?」
「私の記憶が正しければ、櫻井女史は34歳だったと思うが…」
「って事は、こいつってもしかして……」
その答えに辿り着いた時、装者達は全員揃って素っ頓狂な声を上げてしまった。
「「「「「「37歳っ!?」」」」」」
櫻井亞里亞。見た目が完全美幼女な37歳独身。
別に結婚相手は募集していない。仕事こそが一番の恋人である。