フィーネになりそこなった合法ロリのお姉ちゃん 作:とんこつラーメン
次の日になり、響はいつものようにクリスや調、切歌などと一緒に本部に来ていた。
「師匠、こんにちわー!」
「うむ。今日も良い返事で結構!」
「毎度のことながら、無駄に元気だよな…こいつ」
隣にいるクリスが呆れている中、響はキョロキョロと何かを探すように辺りを見渡していた。
「あの…亞里亞ちゃんは来てないんですか?」
「そういえば姿が見えないデスね」
「どうしたんだろう?」
響の言葉が切っ掛けとなり、切歌と調も気になったのか、同じようにキョロキョロとし始める。
それを見て、弦十郎は彼女達に亞里亞の事を教えてやることにした。
「亞里亞君ならば、今朝早くに出かけて行った」
「出かけたって…まさか?」
「そうだ。了子君の墓参りに行ったよ。朝起きた彼女に場所を教えてな」
「そっか……」
せめて、一言ぐらいは挨拶がしたかった。
別に今生の別れではないとはいえ、少しだけ寂しい気持ちになる。
「そこって歩いて行けるような場所にあるんですか?」
「いや、今いる場所から車で約一時間ぐらい行った場所だな」
「結構遠いデスね…どうやって行ったんデスか?」
「無論、車に乗ってだ。君達も知っての通り、亞里亞君は運転免許を持っているからな。ここの車を貸すことにした。だから、遅くても夜には戻って来るだろう」
「あの小さい体で車を運転している様子とか…全く想像が出来ないんだが…」
「実を言うと俺もだ。聞くところによると、昔は『峠の首なしドライバー』と言われていた事があるとか」
「それって完全に背が低すぎて前が見えてねぇじゃねぇか! 本当に大丈夫なのかッ!?」
「…恐らくな」
「その間はなんだ。その間は」
この場における貴重なツッコミ役であるクリスによる的確な指摘により、若干の心配要素が出来てしまった。
「そういや、その墓って一体どこにあるんだ? アタシらも行っていい場所なのか?」
「場所自体は、ごく普通の寺になっている。だが…俺達はともかく、亞里亞君にとってはかなり特別な場所になっている」
「特別な場所?」
調の純粋な疑問にどう答えるべきか一瞬迷う弦十郎であったが、もしもここに亞里亞がいたら特に気にする事も無く答えていたであろうと思い、教えてやることにした。
「あそこには…亞里亞くんと了子くんの両親の墓も安置してあるんだ」
「亞里亞ちゃんの両親…」
「あいつ…天涯孤独の身なのか…」
「「…………」」
血の繋がった家族がいない…というのは、彼女達にとっても決して他人事ではなかった。
クリスと切歌、調もまた同じように天涯孤独の身だから。
「亞里亞ちゃん…大丈夫かな…」
彼女を心配する響の呟きが、司令室に静かに聞こえた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
一方その頃。
亞里亞は借りた車を運転し、弦十郎に教えて貰った寺まで来ていた。
ここは彼女自身もよく知っている場所なので、久し振りに来るとは言え特に迷うことなく到着することが出来た。
途中、いつものように警察に掴まって質問されたり、花屋に立ち寄って仏花を購入したりもした。
「…ここに来るのも久し振りだな」
ちゃんと喪服を着用し、その手に花束を持ち、真っ直ぐに妹の眠る墓へと歩いて行く。
別に墓のある詳しい場所までは聞いていないが、それでも大体の見当はついていた。
「やっぱり、ここにあったか」
辿り着いた場所には一つの立派な墓があり、そこには『櫻井了子』と刻まれている。
墓もそうだが、その周囲も綺麗に掃除してあり、頻繁に誰かが訪れている事が伺えた。
「…弦十郎たちか。あいつ等らしいや」
花束を傍に置き、線香を立ててライターで火を着ける。
ワンカップの焼酎を置き、花を添えてから一息つく。
「ここにお前の骨が入ってない事は知ってる。この墓が形だけって事もな。だけど…訪れずにはいられなかった。ほんと…今更何言ってんだって感じだよな」
ふと隣を見ると、そこには『櫻井家ノ墓』と刻まれた墓石が。
亞里亞はそこにも同じように線香と酒、花を添えた。
「ずっと来れなくてゴメン…母さん。父さん」
それは、亞里亞と了子の両親が眠っている墓だった。
死んだ時期こそ違えど、二人は夫婦で同じ墓に入れられた。
それは亞里亞と了子の強い要望でもあった。
「最後の最後に残されたのが私って…皮肉にもなりやしない…」
両手を合わせて冥福を祈った後、亞里亞は俯いた体勢のまま動こうとはしなかった。
それから五分ほど経ち、少しずつではあるが亞里亞の身体が震え始める。
「ごめん…ごめんねぇ…お姉ちゃん…最低だよね……」
泣いていた。
顔をくしゃくしゃにしながら亞里亞は泣いていた。
普段の彼女ならば絶対に見せない顔。
家族の墓の前だからこそ見せる『櫻井亞里亞』という人間の素顔がそこにあった。
「了子と向き合う事から逃げて…傍にいることすらも出来なくて…お前の事を止められなかった…それどころか…その最後に立ち会う事すらも……」
そして…仮面が剥がれる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ! 亞里亞…一人ぼっちになっちゃったぁぁぁっ!」
まるで見た目相応の子供のように泣きじゃくり、亞里亞は涙を流し続ける。
誰もいない霊園にて、一人で泣き叫ぶ。
そんな彼女を遠くから見つめる一つの人影があるとも知らずに。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ぐず……」
ポケットティッシュで涙と鼻水を拭き、何回かの深呼吸の後に静かに立ち上がる。
先程まで泣いていた女はもうどこにもいない。
そこにいるのは、天才科学者『櫻井亞里亞』だった。
「…お前が大声で泣くなんて珍しいな。いつものポーカーフェイスはどこに行った?」
「この声は……」
背後から聞こえてきた声に振り向くと、そこには赤いワンピースを着た金髪の少女が立っていた。
「キャロル…どうしてお前がここに…っていうか、なんで日本なんかにいるんだ?」
「それはこちらの台詞だ。いつ日本に帰国してきた?」
「つい昨日だよ。こっちの質問にも答えろ」
「オレにだって日本に来る用事ぐらいはある。それだけだ」
「ふーん…」
このキャロルという少女と亞里亞は割と深い関係にある。
あまり自分から他者との交友関係を築きたがらない亞里亞が、この世で数少ない『友人』と呼ぶ相手、それが彼女だった。
「ここに来た理由も単純だ。お前の後姿を見つけたから後を着けてみた…それだけだ。他意は無い」
「なんとも『らしい』答えですこと」
同じ『探究者』として、キャロルの行動指針については理解出来る。
頭で考えるよりも、まずは自分の興味に反応してしまう。
亞里亞も似たような思考の持ち主だから。
「その墓は…お前の家族が眠っているのか?」
「うん。こっちのが両親。こっちは妹」
「お前の妹と言えば、確か……」
キャロルも『ソッチ側』に属しているので、亞里亞の妹である了子が先史文明の巫女であるフィーネの器であったことは知っている。
その後に何をし、どんな末路を辿ったのかも。
「ずっとアメリカにいて里帰りが出来てなかったからな。この機会に…ってこと」
「…お前の場合は仕方がないだろう。奴らはお前に…」
「分かってる。けど、今となっては単なる言い訳だよ」
自分が『被害者』であることは自覚しているし、それを否定もしない。
だが同時に、それを言い訳にして責任から逃げるような事もしない。
「…先に謝っておくわ…ごめん」
「いきなり何を言って…わっ!?」
徐に近づいてきてキャロルに抱き着く亞里亞。
突然の事に思わず変な声を出してしまうキャロルだったが、すぐに亞里亞の声が震えている事に気が付いた。
「亞里亞…お前……」
「なんか急に人肌が恋しくなった。少しだけでいいからさ…このままでいさせて…」
「……勝手にしろ」
「ん…ありがと」
口では不服そうにしているが、その表情は柔らかい。
『お前の気持ちは分かる』…なんて安っぽい言葉は決して言わない。
亞里亞の悲しみを理解出来るのは亞里亞しかいないのだから。
だが、大切な家族を失う気持ちだけは理解出来た。
キャロルもまた、同じような悲劇の経験者だから。
「故郷に戻ってきているせいか、今まで見た事の無いお前の姿を連続で見ているような気がする」
「…かもね。私も久々の帰国で気が緩んでるのかな…」
「別にいいだろう。10年振りに戻ってきた故郷で気が緩まない方がおかしい」
「そーゆーもんかな……」
自然と亞里亞の背中や頭を擦りながら彼女の体に腕を回すキャロル。
彼女も彼女なりに今の亞里亞を見ていられなかったのかもしれない。
「…キャロルって時々、すっごく優しいよね」
「時々は余計だ」
「時々だから良いんじゃない。常日頃からニコニコして優しい奴は逆に信用できない」
「…確かにな」
「だから私…キャロルの事は割と好きだよ」
「急に変な事を言いだすな。『オモイデ』を奪うぞ」
「キャロルになら別にいいかな」
「…バカが」
そのまま暫くの間、二人はそうしていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
さっきまで抱き合っていた二人は、並んでベンチに座って静かに空を見上げ、流れゆく雲を眺めていた。
「ねぇ…キャロル」
「今度は何だ?」
「まだ時間ってあるか?」
「あるにはあるが…急にどうした?」
「今から少し付き合って欲しい場所があるんだ」
「どこだそこは」
「あ…一緒に行ってくれるんだ」
「『あんな事』までしておいて、今更ハイさよならとはいかないだろう」
キャロルが言っている『あんな事』とは、さっきのハグの事である。
「了子の墓の場所を教えてくれた古い馴染みに、ある事を教えて貰ったの」
「ある事?」
「…あの子がフィーネだった時に拠点にしてた建物の場所。山奥にある古びた屋敷らしいんだけど」
「そこに一緒に来てほしいと?」
「ん…最初は一人で行こうと思ってたんだけどさ…なんか急に怖くなった。もう中の機材とかは殆ど接収されているらしいんだけど、それでもまだ残されている物があるかもしれないからって」
「お前の妹ならば…有り得る話かもな。姉であるお前にしか分からないような何かを隠しているとか」
仮にも月を破壊しようと試みた程の相手が大人しく全てを接収させたとは考えにくい。
必ず後々の事を考えて巧妙な形で何かを残していると思う方が寧ろ自然だ。
「もう行くのか?」
「ここでの用事は済んだしな。それに、日本にいる限りはいつでも来れるし」
「……そうだな」
亞里亞の言葉を聞き、少しだけ沈んだ顔になるキャロル。
だがもう…彼女も止まれない場所まで来ている。
お互いに今は進むしかないのだ。
「途中でどこかによってお昼で食べていくか。時間的にも丁度いいし」
「お前の奢りでな」
「別に構わないけど。どうせ、金の使い道なんて研究資金に使うか食事をするかにしか基本使わないし」
「それもそれで、どうかと思うがな…」
友人の廃人的な金銭感覚に呆れるキャロルであった。
次回もまだキャロルは登場するのじゃよ。