フィーネになりそこなった合法ロリのお姉ちゃん 作:とんこつラーメン
パーキングエリアから車を走らせること約一時間。
亞里亞とキャロルは森の中に整備された道路を進んでいた。
「まだなのか? お前の妹の嘗ての拠点とやらは」
「ナビによると、もうすぐだってさ」
助手席にいるキャロルにスマホの画面を見せる。
そこには真上から見た精巧な地図と、今の自分達の現在位置を示していると思われる赤い点が動いていた。
「…なんだこれは?」
「私特製の地図アプリ。そんじょそこらのやつとは比較にすらならないぐらいに高性能。めっちゃ多くの人達がダウンロードしてて、これの売り上げだけでも一生金には困らないレベル」
「一体いつの間にこんな物を…」
「アメリカにいる時に暇潰しに作った」
「これを暇潰しで作れるって時点で凄すぎるぞ…」
ちゃんと前を見ながら説明をしてくれる亞里亞。
もう流石にこの異常な状況にも慣れつつあった。
『ここから南東500メートル、目的地です』
「500メートルかー…」
「あと少しだな」
「直進だったらね」
今、彼女達の乗っている車が走っている道路は幾つものカーブがある地帯で、下手に速度を上げれば高い確率で事故に遭うであろうことは容易に想像がついた。
「ざっと見積もって、あと30分ぐらいって感じかな~」
「30分か…なんとも半端な時間だな。流石に暇になってきたぞ」
「じゃあ、脳内将棋ならぬ脳内チェスでもする?」
「いいだろう。今度こそ、お前に勝ってみせる」
「じゃ、キャロルが先攻でいいぞ」
「ふっ…言ったな? このオレに先行を打たせたことを後悔させてやる。まずは…」
・・・・・
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・・
・
「はい。ここで私のポーンがプロモーションしてクィーンにチェンジ。どうぞ?」
「くっ…! このまま行けば3手目には確実にキングを取られる…!」
目的地であると思われる館の屋根の先端部分が僅かに木々の隙間から見え始めた頃、脳内チェスもまた佳境に入っていた。
「ほらほら。早くしないと目的地に着いちゃうぞー」
「ま…待て! えっと…ここでナイトをこう動かせば…こうなるから…」
必死に逆転の一手を考えるキャロルではあるが、どう考えても自分のキングが取られる未来しか思い浮かばない。
「あ…マジでもうすぐだ。どうする?」
「ま…参った…。完全に詰みだ…」
「素直で結構」
勝者、櫻井亞里亞。
因みに、これまでの二人の対戦成績は『50戦43勝2敗5引き分け』。
勿論、43勝は亞里亞の方だ。
「見えた…あそこだ」
教えて貰った場所には、まるで城のような外観の建築物が。
近くには湖もあり、ちょっとした避暑地のようでもある。
「随分と派手な建物だな。お前の妹の趣味か?」
「違うと思う。露出癖はあったけど、派手好きではなかったと思うし」
「ちょっと待て。今、何気に凄いことを言わなかったか?」
「そう? それよりもまずはどこかに車を止めないと…」
駐車スペースを捜して少し彷徨うこと10分。
草が生い茂ってはいるが、それでも他の場所よりはマシな場所を見つけたので、そこに車を止めて降りる事に。
「こうして見上げると、かなり大きいな…」
「まるで中世の絵本に出てくるような城だな。どうして日本のこんな場所にこんな建築物が…なんて聞くのは野暮なんだろうな」
「多分、バブル時代にどっかのバカな金持ちが道楽で建てた別荘の成れの果てとかなんじゃないの? そこを了子が最低限住めるように修復して、機材を持ち込んだとか」
「お前の妹なら普通に出来そうだな」
キャロルから見た櫻井姉妹の印象は『何をしても不思議じゃない』だった。
実際、フィーネの意志があったとはいえ、了子は結果として一部分だけとはいえ月を破壊するという事をしているし、その姉である亞里亞に至っては、これまでに幾つもの『世紀の大発明』をしてきた。
もしもまだ了子が生きていて、姉妹が仲良しだったら、それこそ片手間感覚で世界征服ぐらい軽くやってしまうんじゃなかろうか。
「どうやら、入り口だけは普通みたいだな。見た目通りの城門とかだったら…」
「だったら?」
「私特製のダイナマイト『木端微塵くん13号』で消し飛ばす」
「1から12号はどこに行ったんだ…」
「無事に天に召されました」
「使用済みなのか」
以前に調査した時のままの状態なのか、扉には鍵の類が一切無く、軽く押しただけで普通に開いた。
こんな山奥の、しかももぬけの殻となった建物に誰かが来るなんて全く想定していないのか、警備システムすらも全く無い。
亞里亞たちにとっては非常に都合が良いが。
「さてはて…中はどうなっているのやら」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
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「わぁーお…」
「まんま『城』だな」
エントランスに入り、二人は寂れていながらも豪華さを失っていない広い部屋に声を出していた。
天井を見上げると、埃を被ってはいるが豪華絢爛なシャンデリアが設置してある。
ちゃんと磨けば文字通り光り輝くのであろうが、そんな事をするメリットも必要も無いので絶対にしない。
「ここが拠点だったって事は、どこかに了子の研究室的な部屋が有る筈」
「探すのか?」
「一応ね。何かあるとすれば、そこにある可能性が最も高いから」
「確かにな。では、オレはこっちから探すとしよう」
「お願い。私はこっちを探すよ」
二手に分かれて各部屋を探索することに。
まずは適当に目についたドアを開いてみる。
「キッチンだ。わー…ハエが集ってるー…。そういや、了子って家事全般が苦手だったっけ…」
まだ姉妹で一緒に暮らしていた頃は、よく家事全般は亞里亞が行っていた。
料理だけでなく掃除も苦手な了子の部屋は、目を話せばすぐに散らかるので大変だった。
一方のキャロルも適当にドアを開けて中を覗き見てみて、右左と顔を動かす。
「バスルームか。使われなくなって久しいと言うのに無駄に綺麗にしてあるな。他は全く掃除がしていなかったというのに」
女である以上、了子も例外なく風呂好きで、ここだけはなんとか頑張って掃除をしていた模様。
それでも、端の方とかをよく見れば水垢などが付いているが。
建物が大きいとはいえ、中にある部屋自体はそこまで多くない。
すぐに目的の部屋は見つかる事となった。
「ん?」
「どうした?」
とある部屋のドアの前で亞里亞が立ち止り、足元の床を凝視する。
そこには何か重い物を引きずったような跡があった。
「…ここだな。間違いない」
「機材を運んだ跡か」
「それもあるけど、他の部屋は殆ど見て回ったし。半分予想、半分消去法って感じ」
「別にそれでもいいだろう。入るのか?」
「もち」
ドアノブを握って扉を開くと、まだ昼だと言うにも拘らず中は真っ暗。
咄嗟に『灯りを付けないと』と思ったが、すぐに『いや、ここって普通に電気止められてるじゃん』と思い至り、目を凝らして窓的な物が無いかを探した。
「あれ…カーテンじゃないか?」
「みたいだな。一応、ハンカチとかで口元を覆っていた方が良いかも。カーテン開いた瞬間に埃が派手に舞う可能性がある」
「それもそうだな。亞里亞は持っているのか?」
「当然。これぐらいはね」
ポケットから出したハンカチで口を覆い、カーテンの端の方を握ってから…思い切り開く!
それと同時に、空気の入れ替えの為に窓も開いた。
「うわ…眩し…」
「だが、これで明るくなって部屋の探索もし易くなった」
「そうだね」
明るくなったことで、この部屋は他の部屋よりも広く、それだけで特別な場所であることが伺えた。
床には埃が積もっているが、そのお蔭で逆に室内のどこに何が置いてあったのかが想像出来る。
「ここに机が置いてあって…ここには棚的な物があったのかな?」
「パッと見た感じでは、何かが隠されているようには見えないが……ん?」
ふとキャロルが顔を上げると、その視線の先には本棚があった。
別に念の変哲もない普通の本棚。どこもおかしい場所は無い。
棚の中にも色んなジャンルの本がびっしりと並べて置いてある。
「おい…亞里亞」
「どったの?」
「これだけ室内の物が接収されているにも拘らず、どうしてこの本棚だけこのままなんだ?」
「言われてみれば確かに…。どこに何があるか分からない以上、少しでも怪しいと思った物は全て持って行く筈。それなのに、この本棚だけが不自然な形で置きっぱなしになっている。いや…違うな。これは持って行かなかったんじゃない。持って行けなかったんじゃ…」
「持って行けない? どういう意味だ?」
「見てれば分かる」
本棚の近くまで行って、試しに少しだけ揺らしてみる。
だが、本棚は微動だにしない。まるで、何かに固定されているかのように。
「…やっぱり。この本棚はこの場所に完全固定されてる。動かしたくても動かせない」
「ならば、中の本だけでも持って行くんじゃないのか?」
「最初はそうしたんだろうな。ほら…棚の中にある本の全てに誰かが触った形跡がある」
「…本当だ」
これまた埃が溜まっているお蔭で、何者かが本に触ったことが分かる。
試しに本のタイトルも調べてみたが、研究の為に必要そうな本もあれば、趣味の為の本もある。
「多分、本棚が固定されているのが分かって、変に本だけを持って行こうとしたら何らかのトラップが作動する可能性を考慮して、この場で本だけを調べて行ったんだろう。その結果…」
「何にも無かったから、このまま放置している…というわけか」
だが、あの了子が意味も無く本棚を固定したりするだろうか?
他の者ならばいざ知らず、姉である亞里亞はどうしてもそうは思えなかった。
「…まさか」
ダメ元で頭の中にふと思い浮かんだ事を実行してみる。
すすすー…っと本をなぞっていき、目的の本の前で動きを止め、それをグイっと奥に押し込んでみた。
すると……。
「やっぱり…こんな事だと思った」
「隠し部屋か…」
本棚が自動で右に動き、その奥に全く手が付けられていない数多くの機器や研究資料が置いてある『本当の研究室』があった。
「どうして分かった?」
「鍵となる本の場所さ…私の誕生日の場所だった」
「誕生日の場所?」
「私の誕生日は『4月21日』で、試しに『上から四段目』の『左から21冊目』の本を押してみた。そうしたら、この通りって訳」
「実姉の誕生日を隠し部屋の暗号キーにしていた…か」
この姉妹は仲が悪いとされていたが、心の奥底では通じ合っていたのではないか。
この仕組みを見て、キャロルはそう思った。
「しかも、この手の仕組みって普通は『本を引く』って事をするけど、そこで敢えて『本を押す』ってしたのもワザとだろうな。自分で言うのもアレだけど、私ってば相当に捻くれてるから」
どこまでも姉の思考を考えた仕組み。
姉ならばこんな風にするだろうと思ったが故のトラップだった。
「ったく…嫌味かっつーの…」
「亞里亞…」
また涙が出そうになる。
けど、今度は流石に我慢をした。
「さ…中に入ってみようか。今度こそ何かが見つかる可能性が高いから」
「分かった」
こうして、二人は隠し部屋の中へと入っていく。
因みに、隠し部屋発見のキーとなった本は『お姉ちゃん大好き』というタイトルの絵本だった。