ねぇルフィ、海賊やめなよ 作:とあるルウタ復権派
「……はあ?」
ウタの突然の言葉に心底意味がわからないという顔をするルフィ。海賊をやめる? 冗談じゃない、何を言ってるんだ。
そもそも、あれほど、"赤髪海賊団の音楽家"として誇りを持っていたウタがどうしてこんなことを言うのかも納得できなかった。
「だから――」
尚も言葉を続けようとするウタだったが、ルフィは諸々の疑問も吹っ飛ぶような事態に気付く。
倒れたバギーが持っていた剣の刃先に電流が迸っている。このままだと自分たちの上に雷が落ちてくる……!
「あぶねぇ!!!」
咄嗟にルフィはウタを押し倒し、その上に覆いかぶさる。自分はゴム人間だから雷だって効きはしない。その自分の身体を盾にしてウタも雷から守れるだろう、そう思っての判断だった。
『バリバリバリッッッッ!』
そんな轟音とともに二人のもとに雷が落ちる。処刑台はあまりの衝撃で焦げて崩れ落ち、なんの防御もしていなかったバギーは「あがッ……!」とうめき声をあげながら、黒コゲになってしまっている。
「(私を庇ってくれたんだ……)」
「よし、生き残った! もうけっ!」
「ルフィ、ありがとう」
「ん? あぁ、いいよ。おれはゴムだからへっちゃらだ」
なんでもないかのように、元通り笑っているルフィを見て、ウタはどこか安心していた。
海賊なんてものになってしまっても、こいつの根っこは変わってない。自分を身を挺して守ってくれるなんて……!
「おい、ルフィ、その麗しいレディーはお前の知り合いなのか?」
処刑台から脱出した船長を見て駆け寄ってきたサンジが、そんな疑問を口にする。
先程の会話からして、なにやら親しげな二人の関係を聞き出さずには居られなかった。
なんたって超美人のレディーだ。出来るならお近づきになりたい。あわよくば密接な仲になりたい。超仲良くなりたい。
そんな欲望を秘めての質問だった。
「うん、おれのともだちだ」
「お・さ・な・な・じ・み、ね。ただの友達じゃないでしょ、私達は」
ただの友達では満足できないらしい。
「えっと、あなた達もルフィのお友達? 私はウタ。こいつの幼馴染! よろしくね!」
「(ウタちゃん……♥ なんて美しい名前なんだ……! このアホ船長にこんな美人の幼馴染が居たなんて! なんでおれには居ねぇんだよ、畜生!)」
ウタの美貌に見惚れつつ、ルフィへの嫉妬が募っていく。
幼少期の大半を男しかいない、否、男臭くて仕方ないバラティエで過ごしたサンジにとって、『美人の幼馴染』なんて概念は羨ましくて仕方がなかった。
「おい、んな事どうでも良いからさっさとずらかるぞ」
「どうでも良いだとぉ!? こんな美しいレディを差し置いて何言ってんだ、テメェ!」
「あぁ!?」
一連の会話を至極どうでも良さそうに聞いていたゾロは、案の定サンジと口論を始める。
だが、どうやらそんなことをしている暇はないらしい。
「広場を包囲!! 海賊どもを追い込め!」
いつの間にか、自分たちの周りを海軍が囲っている。しかも、全員が既に臨戦態勢であり、「いつでもお前たちを逮捕できるぞ」と睨みを利かせている。
「やっべ…!」
「逃げろォ!!」
「え!? ちょっと待ってよ! ルフィ!」
即座に逃亡を開始した麦わらの一味。そして、それに置いてかれまいと必死に付いていくウタ。更にそれを追跡する大勢の海兵達。
場は異様に混乱していた。
「(あのモンキー・D・ルフィという男、何故笑っていた……? あの女が助けに来るのを分かっていたのか? それとも雷が落ちるのに気づいていたのか……?)」
そんな中、ローグタウンに潜入していた海軍大佐"白猟のスモーカー"は『麦わらのルフィ』という男の恐ろしさに慄いていた。
彼は目撃したのだ。道化のバギーに剣を振り下ろされ、まさに死のうという瞬間、彼が確かに笑っていたのを!
「(いや、そんなわけねェ!あいつは…、あいつは、死を受け入れて覚悟して笑っていやがったんだ! 22年前にあの死刑台で笑ったゴールド・ロジャーと同じように……!)」
更に恐るべきことに、"偶然"はつづく。
彼らの向かった西の港で待機しているはずの海兵部隊は、突然の雨で火薬類が全てやられ、装備の仕直しのために派出所へ向かい不在。
そして、吹いてる西風は彼らにとって追い風。
なにからなにまで彼らにとって都合の良すぎる展開だった。
「これが全て"偶然"か……!?」
これらの現象をただの"偶然"で済まして良いのか?
いや、もはや、こう表現するしかないのだろう――――
「――――まるで天があの男を生かそうとしてる様だ……」
そう認めた瞬間、スモーカーは即座に『モンキー・D・ルフィ』という男への警戒度を引き上げた。
この男は厄介だ。放置すればいずれ誰にも手を付けられないほどの大悪党になる。そう確信していた。
「このスモーカーの名にかけて、あの男は絶対に逃さねぇ!!」
※※※
「なんだ! 誰かいる!!」
「来たな、麦わらのルフィ」
逃亡を続けるルフィの前に立ちはだかる男、それはまさに先程ルフィに慄いていた男、スモーカーである。
モクモクの実の能力者である彼は、自身の身体を煙にして飛ぶことができる。
そうして、ルフィ達に対して先回りをすることに成功していた。
「お前誰だ!!」
「俺の名はスモーカー、"海軍本部"の大佐だ。お前を海へは行かせねぇ!!」
そう宣言したスモーカーは即座に身体を煙へと変換し、ルフィとサンジへと襲いかかる。
悪魔の実の能力者との戦闘に未だにあまり慣れていない二人はその光景に驚愕した。
「!?」
「何だ何だ何だ!? バケモンか!?」
だが、二人とていつまでも呆然とはしていない。すぐに立ち直ったサンジはスモーカーへと蹴りを一発入れようとする。
「このぉ!」
「ザコに用はねェ」
しかし、スモーカーに全く効いている様子は無い。
覇気も会得していないサンジの蹴りなど、
「ホワイト・ブロー!!」
「ぐわぁああ!!」
そのまま、返り討ちにあったサンジは遠くの壁へと
叩きつけられてしまう。
あまりにも実力が違う。それでも立ち向かおうとするルフィだったが――
「サンジ!! んニャロ……」
「ルフィ、どいて!」
「ウタ!? お前いつの間に!?」
突然現れた(ようやく追いついただけ)ウタに、遮られてしまう。
ルフィの前に立ち、スモーカーに対峙するような姿勢を見せたウタはすぅっと息を吸うと、ルフィの耳元で呟いた。
「ルフィ、耳塞いでてね!」
「あっ、まさかお前……!」
「〜〜〜〜♪」
突然、大きな声量で歌いだしたウタに警戒の姿勢を崩さないスモーカー。
しかし、
「なにをする気……ん、がっ」
たちまちスモーカーは姿勢を崩し、眠ってしまう。
体力消費が凄まじい代わりに、こんなふうに初見殺し的に一撃で敵を無力化出来てしまうのがウタウタの実の能力の恐ろしさだ。
一つ留意しておいて欲しいのは、けっしてここで眠ったスモーカーが弱いというわけではない、ということだ。
ヘッドホンをつけるなどして、事前に対策をしておかなければこの能力に対処するのは海軍大将ですら難しいだろう。
「なんだァ!? 雨の音で上手く聞き取れなかったが、あの娘が歌ったら、あのバケモンみたいな海兵が一瞬でやられちまいやがった……!」
「よしっ! 今のうちに逃げるぞ!」
「あっ、置いてくな! ルフィ!」
スモーカーが倒れたのを見て、走り出すルフィとそれを追うサンジ。もう二人を阻む敵は居ない。このまま行けば、仲間たちが待つメリー号へと帰れるだろう。
「はぁ…、はぁ……はぁ」
一方、ウタウタの実の能力を使用したウタは体力をかなり消耗し、今にも倒れそうだ。
しかし、ここで倒れるわけにはいかない。こんな大嵐の中で眠ってしまえば風邪を引いてしまうし、なにより、ルフィに置いてかれてしまう。
「わた、しも……、行か、ないと……ッ!!」
ゆっくりとだが、彼女も二人を追って歩き始める。
ルフィには海賊をやめて欲しいけど、海軍に捕まってほしくもない。そんな感情と先程助けてもらった恩も相まって、つい、能力を使ってしまった。
けれど、それで目的を達成できなくなったら本末転倒だ。
そう思いながら、一歩一歩、彼女は進んでいくのだった。
「助太刀は無用だったか……」
そして、そんな様子を見守る男が一人。
彼の名はモンキー・D・ドラゴン。"世界最悪の犯罪者"として知られる革命家で、ルフィの父親である。
「海賊か……、それも良い」
彼を一目見るついでに少しだけ助けてやろうとも思っていたドラゴンだったが、どうやら必要なかったらしい。
息子には随分と頼もしい仲間たちがついているようだ。
「フフ……行ってこい! それがお前のやり方ならな!」
男は笑う。息子の船出を祝うかのように。そして、その道を応援するかのように。
そうして、また、誰にも知られずこの街を去るのだろう。
※※※
なんとかローグタウンを脱出した一行は嵐で荒れ狂う海の中を進んでいた。
船内はギシギシと揺れ、雨風も凄まじい。
そんな中で、彼ら五人は外に出て、行き先を見つめていた。
「あの光を見て」
「島の灯台か?」
「あれは"導きの灯"。あの光の先に、"
そこにあったのは一筋の光だ。大嵐の中にあるそれはまさに『導き』と冠するに相応しい輝きを放っていた。
「どうする?」
その言葉は麦わらの一味"航海士"ナミからの覚悟を問う言葉だった。
実際、彼らはドン・クリークというその海に敗れた男だって目撃している。
この海は甘くない。覚悟もなしに入って良い場所などでは決してないのだ。
そんな場所にこれからたった五人で入る。とても正気の沙汰でない。
「しかし、お前何もこんな嵐の中を……! ……なァ!! なァ!!」
「よっしゃ、偉大なる海に船を浮かべる進水式でもやろうか!」
「オイ!!」
しかし、"狙撃手"ウソップ以外は、まるで歯牙にもかけていない。まるでその海を超えるのは当たり前であるかのように。
やがて、周りの反応を見て、覚悟を決めたウソップも進水式に大人しく参加した。
「おれはオールブルーを見つけるため」
「おれは海賊王!」
「おれァ大剣豪に」
「私は世界地図を描くため!」
「私はルフィに海賊をやめさせるために」
「お、お、おれは勇敢なる海の戦士になるためだ!」
「「「「「いくぞ!"偉大なる航路(グランドライン)"!」」」」」
「「「「「……………って誰だあああああ!?」」」」」
覚悟の儀式に突然乱入してきた少女に皆が驚く。
出港直前になんとか追いついて、こっそり船の中に隠れて乗ったウタはいつ出ようかと機会を伺っていた。
そんなときに、いかにもな儀式を始めるものだから、つい悪戯心で参加してしまったのだ。
完全に悪ノリである。
「ん?こいつァ……」
「ウタ!? おまえ、なに勝手におれの船に乗ってんだ!?」
「ちょっとあんたら! この娘知ってんの!? どういうことなのか説明しなさいよ!」
「ウタちゃ〜ん♡♡♡ キミもこの船に乗るのか!? 賛成、賛成、大賛成!」
「ってオイ! 話を勝手にすすめるなよ! というか本当に誰なんだ〜!?」
次々と反応を口にするクルー達のせいで、船内は半ば狂乱状態だ。
それをウタは満足気に見ている。
「ふふっ、ルフィのお友達はみんな面白い人なんだね。楽しそう」
「ししし!! そうだろ!? こいつら超面白ェんだ! おれの仲間だからな!」
「「言っとる場合か!!」」
ウソップとナミのピッタリ息の合ったツッコミをこれまた楽しそうに見ていたウタは宣言する。
「改めて私の名前はウタ! ルフィに海賊をやめてもらうまでしばらくこの船に乗せてもらうつもりだから、よろしく」
「「「「「はぁ〜〜〜〜!?」」」」」
旅はまだ始まったばかりだ。