ねぇルフィ、海賊やめなよ   作:とあるルウタ復権派

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ねぇナミ、難しいこと言うのやめなよ

 

 一通りの自己紹介を終えた一行は、航路を決めるための会議を行っていた。司会進行役は天才航海士、ナミである。なお、船長は早々に戦力外通告をなされている。

 

「"偉大なる航路(グランドライン)"の入り口は山よ」

 

「山!?」

 

「そうよ、"導きの灯"が指していたのは間違いなくここ、リヴァースマウンテン」

 

 そう言って、机の上に広げた地図の"リヴァースマウンテン"と記された場所を指差すナミ。

 男衆はそれを囲って見てみるが、どうにも難しい記号やらが多くて分かりにくい。

 "山から海に入る"とはいったいどういうことなのだろうか?

 

「アハハ、バカだなぁナミは! 海の入り口が山なワケないじゃん!」

 

 訂正。男衆だけでなく、ウタもよく分かってないらしい。

 

「……ウタ、一応聞くけど、航海術はどれくらい勉強した?」

 

「こうかい……じゅつ?」

 

「あ、もう分かったわ。うん、大丈夫」

 

 ナミはそう言うと、はぁ、とため息をついた。女子が増えたのは良いが、もしかしたら常識枠は自分だけのままかもしれない。これは先が思いやられる。 

 

 ちなみにウタは航海術なんてものは勉強していない。エレジアに居たときは最低限の勉強をゴードンが見てくれていたが、そういった海賊的というか海に繋がる知識はあえて避けていた。

 また、赤髪海賊団時代は航海に関してはすべてビルディング・スネイクという男が取り仕切っていたためウタは何一つそこから学習していない。

 というかそもそも航海中は非常に過保護だったため、外にすらほとんど出たことがなく、航海に関する知識はゼロと言っても過言ではない。

 

「ウタは置いておくにしても、山にぶつかれってのか? いくらなんでもそりゃあ……」

 

「違うわよ、ここに運河があるでしょ」

 

 そう言って、今度は運河を指差すナミ。しかし、どうにも分からない。運河とは人工的な水路のことだが、山を登る運河なんてものは聞いたことがない。

 

「アハハ! やっぱりナミはバカだなぁ! 運河があったってそれに乗って船が登れるワケないじゃん!」

 

「うん、ウタ、あなたはちょっと黙ってましょうね」

 

 もはやウタはスルーする方向にしたようであるナミは、そのまま他の船員の顔を伺う。

 

「いや、でも、おれもウタの意見に賛成だ。いくらなんでも運河で登るってのは無理があるんじゃねェか?」

 

「でも、そう書いてあるんだもん」

 

 ウタに同調したウソップの意見に反論するナミだったが、いまいち説得の決定打が欠けているようだった。どうにも麦わらの一味には地図に従うという意識があまり無いようだった。

 

「そうだぞお前らナミさんの言うことに間違いがあるかァ!」

 

「えっ、じゃあ、私が間違ってた……ってコト!?」

 

「ウタちゃんの言うことにも間違いなんてない!」

 

「いや、どっちだよ」

 

 二人のレディーの板挟みになって、手のひらを高速回転するサンジというなかなか面白いものは見れたが、状況はいっこうに改善せず、行き詰まったままだ。

 

「その海図、バギーから奪ったやつだろ? 当てになんのか?」

 

 ゾロはそもそも地図の正当性から疑っており、

 

「船で山登んのか!! "不思議山"か! おもろーーっ!」

 

 船長に関してはもはやなにか考えているのかどうかすら謎だった。というか、多分考えてない。

 

「だいたい何でわざわざ入り口から入る必要があるんだ? 南へ下ればどっからでも入れるだろ」

 

 そんな根本の質問をしたのはゾロだった。

 そう、そもそも、広い海において"入り口"なんてものに従う必要がどこにあるのだろうか?

 それこそ、方角さえ合っていればどんなとこから入っても同じだろう(まぁ、その方角すら間違える極度の方向音痴がこれを言っているわけだが)。

 

「それは違うぞ、お前っ!」

 

「そうだよ! それは違うよ!」

 

「そう、ちゃんとわけがあんのよ」

 

「入り口から入ったほうが気持ち良いだろうが!」

 

「入り口から入らないと怒られちゃうもんね!」

 

「違うッッッッ!!!」

 

 この幼馴染バカコンビに少し期待した私がバカだったとナミは頭を抱えた。 

 なんだ、入り口から入ったほうが気持ち良いって。気持ち良いか気持ち悪いかで航路が決まってたまるか。

 入り口から入らないと怒られるってなんだ。いったい誰が怒るんだ。

 しかし、そんなフザけたやり取りをしている中で事態は急変する

 

「……おい、嵐が突然止んだぞ」

 

 その()()に最初に気付いたのはゾロだった。

 そう言って窓を見るように促す彼に従って覗いてみれば、外には雲ひとつない快晴の空が広がっていた。

 先程まで大嵐の中にいたはずなのにだ。

 

「え!? そんなまさか!? 嵐に乗って"入り口"まで行けるはずなのに……」

 

「わーーっ! すっごい良い天気!」

 

 そう嬉しそうに反応するウタだったが、この状況の意味を悟ったナミの表情は焦燥に満ちていた。

 この表情を航海士がする意味。

 それは今置かれている状況が非常に危険なものだと指し示している。

 

「しまった……! "凪の帯(カームベルト)"に入っちゃった……」

 

「なにそれ?」

 

 気の抜けた感じにナミに問う一同だが、お互いに漂っている緊張感がまったく違った。

 今すぐにでも行動を開始しないと手遅れになるとナミだけが分かっているのだ。

 

「ノンビリしてる場合じゃない! 男ども、あんたたち早く帆を畳んで船を漕いで! 嵐の軌道に戻すの!」

 

「せっかくこんな晴れてんのにか?」

 

「だからよ! それが問題なの! ここは無風の地帯。つまり――」

 

 そうナミが言いかけると、船が大きく揺れ始めた。否、()()()()()()()()()。窓から見える景色がものすごいスピードで下から上へと流れていく。

 そう、船が確かに()()()()()()

 

 

「――海王類の巣なのよ!!!」

 

 

 メリー号の現在地、超大型の海王類の頭上。

 周りには、これまたおよそ40匹以上の超大型海王類たち。あっ、今そのうちの一匹と目が合った。

 状況――非常に悪シ。命ノ危機アリ。

 SOS信号機能はこの船には搭載されていない。

 

「うわあああああああ!!」

 

「どうすんだ、これ!?」

 

「もうダメだ〜! おれたちはここで死ぬんだ〜!」

 

「うわぁ! おっきいお魚! すごいね!」

 

「言っとる場合か!」

 

 一人だけやけにテンションの高いウタを除いて、船内は阿鼻叫喚地獄絵図だった。それはそうだ。普通の航海であれば海王類との遭遇はそのまま死を意味する。

 

「流石にアンタも海王類ぐらいは知ってるでしょッ! 超危ないのよ今の状況!」

 

「いや、でも、初めて見たから」

 

「そういう問題じゃない!」

 

 ナミと漫才を展開するウタだったが、そんなウタですら危機感を覚える自体が発生する。

 

「おい、あの海王類、口開けて近付いてきてないか!?」

 

「やべぇ!!」

 

「喰われるぅぅぅぅ!!!」

 

「えっ、ちょっと、これは私も予想外……」

 

 大口を開けた一匹の海王類がメリー号に気付き、そのまま口にしようとしている。

 流石に、いくら常識がないウタでもこれは普通に怖い。

 

「あっ、船が……」

 

 しかし、間一髪のところで海王類の頭の角度がズレて、メリー号が滑り落ち、なんとか避けることが出来た。

 海に着水したのを確認した男たちは、ナミの指示通り、死ぬ気で漕いだ。エンジンを搭載した船と見紛うほどのスピードで進んだメリー船は、無事、嵐の中へと舞い戻った。

 

 

 

「……ウタ、なにか言うことある?」

 

「ごめんッ! 私が間違ってた!」

 

 ナミはバカなどではなかった。むしろ彼女の言うことを疑っていた自分がバカだったのだと反省した。これからは航海士の言葉は疑わないことにしよう。

 

 なんとか危機を乗り越えた一行はひと息ついて、再び会議を始める。まぁ、もうみんなヘトヘトで床に寝っ転がっての開催だったが。

 

「これで分かった? 入り口から入る理由」

 

「ああ……」

 

「それじゃあ理由も分かったところでどうやって"偉大なる航路(グランドライン)"へ入るか説明してあげるわ」

 

「よっ! 待ってました!」

 

 どうやら、この休憩タイムの内に、ナミはどう進むべきかの答えを出したらしい。本当に有能な航海士である。

 

「分かったのか?」

 

「えぇ、なんとかね」

 

「流石ナミさん! 天才的!」

 

「ナミはすごい!」

 

「あんたら調子良いわね……」

 

 口々にナミを褒め称える他の面々に苦笑しながら、ナミは再び地図を机に広げる。

 全員がそこに視線を向けているのを確認すると、深呼吸してひと息で解説をし始めた。

 

 

 

「それじゃあ解説するわね。やっぱり海図は間違ってなかったのよ。つまり山を登るの。現在はこのローグタウンとリヴァースマウンテンの間にあるこの辺の海を航海してるわけだけど、そのまま真っ直ぐ行けばさっきも言った通り、運河に辿り着くわ。グランドラインの上下を挟んでいるカームベルトを避けつつ迂回航路でここに向かうべきね。現在地がカームベルトを少し北に行ったところだから、こっちの方向に進み続けるだけで大丈夫よ。肝心の運河だけれど、これはおそらく北の海、南の海、西の海、東の海の四つの大きな海流が、全てあの一つの山――リヴァースマウンテンに向かっているんだと思う。その四つの海流は運河をかけ登って頂上でぶつかり、船さえも山を超えさせる超巨大な海流となり、"偉大なる航路(グランドライン)"へと流れ出る! もうこの船はその海流に乗っちゃってるからあとは舵次第ね。まぁ、航海士の私の判断に従ってれば問題ないわ。さっきのウタみたいに言葉を疑ってかからないことね。だいたい海で航海士に意見するなんて自殺行為同然よ。あんたらそういうの分かってるの? 今度からは何も言わずに信じて従いなさい。ちょっと話が脱線してズレたわね。えっとどこまで話したんだっけ……。そう、リヴァースマウンテンの海流まで話したんだったわね。それで、リヴァースマウンテンは"冬島"だから、ぶつかった海流はその温度差によって表層から深層へと潜る。もし誤って運河に入り損なえば船は大破。つまり、海の藻屑になるってわけ」

 

「わかった?」

 

 

「ねぇナミ」

 

「なに?」

 

「難しいこと言うのやめなよ」

 

 あまりの早口にウタは置いてけぼりをくらった。今度はちゃんと話を聞こうとしたのにも関わらず、半分以上、何を言ってるのか分からなかった。

 ウソップも理解度で言えば半分くらいだ。ゾロとサンジはほとんど把握した。

 ルフィは……語るまでもあるまい。

 

 

「ははーん要するに"不思議山" なんだな?」

 

「まぁ、あんたは分かんないでしょうけど……」

 

「ナミさん、すげーぜ♡ 天才!」

 

「うん、こっちもいつも通りね……」

 

 ちょっとした罰も兼ねて、あえて理解しにくいように解説したナミだったが、少しイタズラが過ぎたかな、と反省し、要約した内容を話すことにした。

 

「悪かったわよ。つまり言いたいことはこうよ」

 

「おう」

 

「私の指示に従え!」

 

「おう……」

 

 それで良いのか?

 

 

 

※※※

 

 そのまま航海を続けること二時間ほど。ついに、目的地へと近づいてきた。遠目からでも巨大な陸地が見える。

 

「おい、不思議山が見えたぞ!!」 

 

「おい、待て、それだけじゃねェ! 後ろのバカでけェ影はまさか"赤い土の大陸(レッドライン)"か!?」

 

「すごい! 雲でてっぺんまで見えないよ! この光景で一曲書けそう!」

 

 初めての光景に興奮するウタ。

 シャンクスもよく航海に連れて行ってくれたが、航海中はあまり外に出してもらえなかった。故に、こうやって陸地に近付いていく感覚は新鮮だった。

 

「舵しっかりとって!」

 

「まかせろォ!」

 

 ここの舵取りに船員全員の命がかかっている。もし少しでも運河からズレれば壁に衝突し、海の藻屑と化す。それだけはなんとしてでも避けなければならない。

 

「ズレてるぞ! もっと右! 右だ右!」

 

「右!? おもかじだァ!」

 

「もっと右だよ!」

 

「もっと右!? おらァアアアア!」   

 

 その時、『ポキッ!』とイヤな音がした。

 一瞬で全員の顔が蒼白になった。

 

「あ」

 

 もうそんな間抜けな声しか出なかった。というかもう語る余裕すらなかった。

 案の定、コントロール不能となったメリー号は壁へとドンドン近づいていく。

 

「ぶつかる、ぶつかる、ぶつかるーーっ!!!」  

 

 このままでは本当に壁にぶつかって沈んでしまう!

 その危機に真っ先に動いたのはルフィだった。

 

「ウタ、これ持っててくれ!」

 

 そう言って、麦わら帽子をウタに預けたルフィは船から飛び降りた。

 そして大きく息を吸うと、

 

「ゴムゴムの風船!」

 

 彼の身体が大きく膨らみ、技名の通り、風船のような形となる。 

 そして、そのままメリー号と壁の間に挟まり、ぶつかりそうな船を跳ね返し、押し戻した。

 彼がクッションとなることで、衝撃もかなり少なく済んだ。ゴムゴムの実様々である。

 

「助かった!」

 

「すごい、ルフィ!」

 

「おいルフィ、捕まれ!」

 

 差し伸べられたゾロの手を、腕を伸ばして掴んだルフィはなんとか船の上へと戻る。

 本当に便利な身体だ。

 

「よっしゃああああ 入ったァーーッ!!!」

 

 無事に運河を登り始めたメリー号は斜めに傾きながら、どんどん加速していく。さながら遊園地のボートアトラクションのようなその景色はウタにとって衝撃だった。

 

「すごいすごいすごい楽しい!」

 

「…………しししっ!」

 

 少しずつ、船が頂上へと近づいていく。

 いつこの船は落ちるのだろう? 

 そのワクワク感とスリルがよりこのひと時を楽しいものにしていた。

 やがて頂上へと達した船はそのまま急下降を始める。

 

「落ちるううううううう!!!」

 

 そう叫びながらも、乗っている船員はみんな笑顔だった。怖がりのウソップですらこの状況を楽しんでいる。

 このシチュエーションそのものの楽しさも勿論あったが、"みんなで危機を乗り越えた"という体験と一体感が何よりも気持ちの良いスパイスとなっていた。

 

 勢いよく水面へと叩きつけられ、大きな水しぶきが上がる。

 当然、それがかかり、船上は水浸しだ。

 

「うわ、もうビショビショ……」

 

「アハハ! こんなに楽しいの初めて! この船に乗って良かった!」

 

 船員たちの服も海水に濡れてしまった。

 当然、女性陣もであり、少し服が透けてしまっている。

 それを嬉しそうに見つめる男が一人。そう、サンジである。

 

「おれもこの船に乗って良かった♡♡♡」

 

「やめんかッッッ!」

 

「グハッ」

 

「お〜い、サンジ〜大丈夫かよ?」

 

「ナミさんの蹴りもまた素晴らしい……ッ!」

 

「懲りねェなお前も……」 

 

 その視線を敏感に感じ取っていたナミに蹴り飛ばされるサンジだったが、ただでは転ばない。

 女性陣に蹴られることにすら快感を見出したようだった。

 …………一応、彼の名誉のために言っておくが、普段の彼はここまでカッコ悪くはない。ちょっとテンションが上がってしまっただけなのだ、多分。

 

「どう? 海賊やめてほしい気持ちは変わった?」

 

 覗きをする悪を成敗したナミはそんな疑問をウタに投げかける。

 先程の様子からして自分たちとの冒険を彼女は楽しんでいるようだし、"海賊やめなよ"からも卒業してほしいものだが……、

 

「いや、それは変わらないけど」

 

「な〜んだ」

 

「でも」

 

 言葉を区切ったウタはこう続けた。

 

「みんなと一緒にいるのは悪くない、かな?」

 

「ふふふ、そりゃあ良かった!」

 

 今日一番の笑顔でそう笑いかけるナミにつられて、ウタも笑顔になる。

 これが仲間というものなのだろうか。

 はじめて芽生えた不思議な感情に戸惑う反面、悪い気はしなかった。この気持ちを糧にしてなにかいい曲が書けそうだ、そんな気すらした。

 

 

「おお……」

 

「おおっ!! あれが!」

 

「見えたぞ〜! "偉大なる航路(グランドライン)"〜!」

 

 今までの冒険はまだほんの序章だ。

 ここからが本番。

 

 海賊王への第一歩。

 大剣豪への第一歩。

 世界地図への第一歩。 

 勇敢なる海の戦士への第一歩。

 オールブルーへの第一歩。

 ――――、そしてあの人(シャンクス)への第一歩。

 

 一味はついに冒険の本格的な舞台へと突入する!

 

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