ねぇルフィ、海賊やめなよ 作:とあるルウタ復権派
いつも読んでくださっている皆さん本当にありがとうございます。
無事、リヴァースマウンテンを乗り越えた一味だったが、障害はそれだけでは終わらない。
本来なら、もう多数の海があるだけのはずだが……、
『ブオオオオオ!!』
「おい、なんか聞こえねェか?」
「風の音じゃない? 変わった地形が多いのよ、きっと」
しかし、肝心の航海士であるナミにさして気にした様子はない。実際、風が特殊な地形にぶつかって生き物の鳴き声のように聞こえる現象は多々あるので、彼女のこの判断を責めるのは酷だろう。
ただ、なにやら様子がおかしい。音だけではなく視界にも異常が現れ始めた。
「おい、なんだありゃ……」
「ナミさん! 山だ! 山が見えるぜ!」
メリー号の前に立ちはだかるように黒い大きな山がそびえ立っていた。その大きさは、先程目にした
更に近づくにつれて先程の音がどんどん大きく、近く、鮮明に聞こえるようになっていく。どうやらここらに響き渡る音の発生源はその山にあるようだった。
「山? そんなハズは……」
「山じゃないよ! あれは――」
「「「――クジラ!?」」」
その正体は山などではなく、超巨大なクジラであった。何故か額の部分が傷だらけなことを除けば、ただただ巨大なだけのいたって普通のクジラであるように見えた。
ただし、その
「すごい! こんな大きなクジラが居るんだ!」
海王類の時と同様に、超巨大生物を初めて見ることに大喜びのウタ。しかし、彼女とて、ただアホというワケではない。すぐに事態の緊急性に気付き、引き締まった表情に変わる。
「いや、言ってる場合じゃねェ! 進路を塞がれてる! このままじゃ激突するぞ!」
「どうする!? 戦うか!?」
「そんなレベルじゃないでしょ!? 舵いっぱいとって、あの隙間を通るわよ!」
一味の脳筋担当であるゾロが戦うことを提案するが、当然ナミが却下する。いくらバケモノじみた強さを持つゾロとて、あのクジラには敵うはずもない。
ここは、クジラの体と陸地の間にある非常に狭い隙間をなんとか通る方が、まだ現実的と言えるだろう。
「舵折れてんぞ! どうすんだ!」
しかし、それもまた非常に厳しい提案だった。舵はリヴァースマウンテンを登る際に折れてしまっている。つまり、船のコントロールがとれない状態の中で、そんなか細い道を通らなければいけないわけだ。
そして、案の定、マトモに曲がりきれなかったメリー号はクジラの体に激突し、その船首が『ポキリ』と折れてしまった。
「おれの特等席がッ!!」
「羊さんの首が折れちゃった!?」
その事態にショックを受けたのはいつもの幼馴染コンビだ。ルフィはいつも船長特権で座っている特等席が壊されてしまったことに。ウタは羊の首が折れるという割とショッキングな光景に。それぞれ独自の理由で精神的ダメージを負っていた。
「気づかれてねェし、今のうちに抜けるぞ!」
しかし、今はそんな事でイチイチ反応している暇はない。なんとかして、このクジラから離れなければならない。そのためにはこのクジラを
そう他のクルー達は冷静な判断で動いていたのだが――、
「お前……! おれの特等席に何してくれてんだッ!!」
「ブオオオオオオオオオ!!!」
「「「「アホーーーッ!!!」」」」
モンキー・D・ルフィという男にそんな器用なことはできない。怒りのままに巨大クジラの目玉をぶん殴った。
「いいぞ〜ルフィ! やっちゃえ!」
「任せろ!」
「「「「お前も乗せるなッ!!!」」」」
更に、
だが、その心配ももはや無用だ。ルフィの行動が最悪の結果で返ってきた。
「うわああああ!! 吸い込まれるうぅぅ!!」
巨大クジラが周囲の海水を呑み込み始めたのだ。それによって引き起こされた巨大な海流に乗ってメリー号はクジラの口の中へと吸い込まれていく。
「死んでたまるかッ!!!」
ただ、ゴムゴムの実の能力でクジラの牙へと腕を伸ばし、そこから頭頂部へと登っていたルフィを除いて、麦わらの一味は全滅してしまったのだった。
「どうしよう……」
「みんな食われちまった……」
一人ぼっちになったルフィは途方に暮れていた。せっかく集めた仲間たちが一人残らずクジラの腹の中へと消えてしまったのだ。
こんなの許容できない。あいつらとはこれからまだまだ冒険をするつもりなのだ。こんなところで終わってたまるか。
「吐き出せよ!」と叫びながら、頭上で暴れまわるルフィ。
そんな中、彼の視界には不思議なものが映った。
あれは――扉?
「……は?」
なぜ生物の上に扉が?
そんな好奇心と共に彼はその扉を開け、中へと飛び込むのだった。
※※※
「ブオオオオオオオオオ!!」
そう叫びながら、頭を
「やめろ、ラブーン! もう自分を傷つけるのはやめろ!」
その必死な声には、たしかにそのクジラ――ラブーンへの心配する感情が籠もっていた。響き渡る叫び声に、ずっと続く大きな振動。そんな最悪の状況下においても、彼はラブーンへの気遣いをやめない。
「鎮静剤もあとわずかか、新しいのを作らねば……」
注射したのは鎮静剤。強制的に動物を大人しくさせる特別製の薬だ。しかし、その在庫も尽きかけている。
いや、薬は作って足せば良い。問題はその前にラブーンが頭をぶつけすぎて死んでしまう可能性が高い事だった。
「その壁は世界を分かつ壁。お前が死ぬまでぶつかろうと砕けはせんのだ……! ラブーン!」
そんな嘆きもラブーンには届かない。いずれ鎮静剤が切れたらまた暴れ出すだろう。ただ一時しのぎしか出来ないこの状況に、クロッカスはただただ歯噛みして悔しがることしか出来なかった。
※※※
一方、巨大クジラの中で暗躍する怪しい影が二つ。
「よし、ここまでは潜入成功だ。いいか、ミス・ウェンズデー? 扉の向こうにはおそらくあのジジイがいる。我々は奴を抹殺せねばならん!」
「ええMr.9、私達の町にとってこのクジラは大切なスイートハニーだもの」
ミス・ウェンズデーと名乗る女とMr.9と名乗る男のコンビだ。どちらも武装しており、物騒な雰囲気を醸し出していた。
「ところで、ミス・ウェンズデー。なにか聞こえないか?」
「なに、Mr.9? なにも聞こえないけど……」
「あああああああ!!!」
「ほら、聞こえるだろ!?」
「えぇ、Mr.9、聞こえたわ、これって……」
「あああああああ!!!」
「近付いてきてる!?」
「いや、これはひょっとして!?」
「ああああああ!!」
「「ああああああああ!?」」
ぶっ飛んできたルフィに突き飛ばされ、思いきり開いた扉から落っこちる二人組。
ルフィが扉を開けた先は通路になっており、その通路に入った彼は度重なる揺れのせいでバウンドを繰り返しここまで吹っ飛んできたのだ。
「マズイぞ! 下は胃酸の海だ!」
「いやあああああああ!!」
ぶっ飛ばされた二人はそのまま着水し、胃袋の底へと沈んでいく。
一方のルフィはそこに留まっていたメリー号と仲間たちを発見する。
「ルフィーーーッ!?」
「よぉ!! ウタぁ! お前らァ、無事だったのか!?」
無事合流したルフィ達は、一応、先程の二人組を救出し、船に乗せてやった。
あからさまに武装してて怪しいので、一応縛ってはいるが。
「……で? お前らはなんなんだよ?」
「(Mr.9、こいつら海賊よ……)」
「(分かってるよ、ミス・ウェンズデー。しかし話せば、分かるはずだ)」
ゾロからの質問には答えず、ヒソヒソと話し合う二人組に若干イライラしていると、胃袋に付いている扉から出てきた男――クロッカスが嫌悪の表情でその二人組を睨みつけて話しかける。
「私の目が黒いうちはラブーンには指一本触れさせんぞ!」
「あっ、さっきのお爺ちゃん!」
ゾロ、ナミ、ウソップ、サンジ、ウタの五人は既にクロッカスと交流済みだ。
そんなクロッカスにいつの間にか縄から抜け出した二人組が銃を突きつける。
「オホホホホ!! 無駄な抵抗はよしなさいっ!」
「そんなに守りたきゃ守ってみろ! このクジラは我々の食料にする!」
ものすごくチンピラくさい台詞と共に二人は発砲する。それはクロッカスが身を挺して庇ったが、もし仮に当たってしまっていたら、胃袋に穴が開いてラブーンは死んでしまっていただろう。
…………とてもアラバスタの心優しい王女様の姿には見えないが、まぁ、この時は役に入り込んで変なテンションになっていたのだろう。きっと。
「えぇ!? そんなの可哀相だよッ!?」
ラブーンを殺すだなんて可哀想と非難するウタだったが、二人はまるで取り合わない。
「ええいッ黙りなさいッ! 攻撃されたくなければ……」
しかし、それを見過ごせない男が一人。我らが船長、麦わらのルフィである。
いつの間にか背後側に回っていた彼は、思いっきり二人組の頭をぶん殴った。
「「ぐはッ!」」
「何となく殴っといた」
「ナイス!」
これで暴れまわる輩は消えた。
それを機に、ウタは先程から気になっていたことをクロッカスへと尋ねる。
「ねぇ、お爺ちゃん、どうしてお爺ちゃんはこのクジラを守るの?」
「良いだろう、教えてやる。このクジラはな――」
※※※
そこから語られたのはあまりにも悲しい話だった。
クジラの名はラブーンであること。
ラブーンは世界一デカい種類のクジラである"アイランドクジラ"の一匹であり、その肉を近くの町のゴロツキが狙っているということ。
ラブーンは元からこんなに大きかったのではなく、元はある海賊団に付いてきた小さなクジラであったこと。
ラブーンは"仲間"として、その海賊達に非常に懐いていたこと。
ここから先の危険な航海を思って、ラブーンはここに置いてかれたこと。
『必ず世界を一周してここへ戻る』と約束したこと。
その約束がもう50年も前のものであるということ。
――――そして、おそらくその海賊団は既に全滅してしまったのだということ。
クロッカスはひと息でそんな話をしたのだった。
※※※
「んん! よいよ! これがおれとお前の戦いの約束だ!」
結局、ルフィ達はラブーンの問題を解決した。ラブーンと喧嘩したルフィは「この勝負は引き分けだ!」と宣言。続きはルフィ達が
こうして約束を上書きすることで、ラブーンの自傷行為を止めたのだ。
そして、現在ルフィは約束の印としてラブーンの額に麦わら海賊団のマークを書いている。(※ド下手クソ)
「私にもなにか出来ることないかな……?」
サンジは料理を作り、ウソップはメリー号の修理。ナミはクロッカスに航海についての話を聞いている。
手持ち無沙汰のウタもなにか役に立つ仕事をしたい気持ちになっていた。
「歌えば良いじゃねェか」
「う〜ん、それ役に立ってるって言えるのかな?」
ウタの役職は音楽家なのだから、ルフィの言うことはもっともなのだが、周りが実用的な仕事をしている中で歌うのは少し気が引けた。
作業用BGMとか一応そういう方面での活躍はあるかもしれないが、やはりもっと分かりやすい活躍がしたかった。
「そういえば、元・赤髪海賊団音楽家って言ってたな」
「あぁ、こいつ、滅茶苦茶歌上手ェんだ!」
嬉しそうにウタの長所を語るルフィ。彼は基本的に好きな奴は褒めて伸ばすタイプの男である。
実際、ウタの歌声は"天使の歌声"と称されるレベルなので、別に褒め過ぎという程でもないのだが、やはり真正面から褒められるとちょっと照れる。
それを誤魔化すためにも話題を少し逸した。
「歌うにしても何を歌えば良いんだろう……? そもそもクジラが音楽分かるのかな?」
「なんでもいいんじゃねェか? おれたちもどんな曲でも良いから一回聞いてみたいし」
ウソップは作業をしながらそう提案した。
しかし、「なんでも良い」というのが実は一番困るのだ。この曲が良い、とリクエストしてくれた方が実は楽だったりする。
「そうだ! ラブーンを置いてった海賊達もあの歌を歌ってたんじゃねェか!?」
「あの歌?」
「シャンクス達がよく歌ってたあの歌だよ! お前もよく歌ってたじゃねェか!」
ルフィが指し示す曲タイトルを理解したウタは非常に嫌そうな顔になる。
「え〜……、あの歌ぁ……? でもなぁ……」
「なんだよ! おれも久しぶりに聞きたいぞ! あの歌!」
「だって、アレは海賊の歌じゃん……」
「だから良いんじゃねェか!」
「いや、だから、私はみんなに海賊やめてほしいんだってば!」
「えー……歌ってくれよォ」
「スゲェ不満そうな顔だなオイ」
絶対に歌いたくないウタVSどうしても歌ってほしいルフィ。
実はこの対戦カードの行方はもう決まっていたりする。なんやかんや言って、ルフィのリクエストにウタは甘いのだ。
「そんなに聴きたいってどんな曲なの?」
「『ビンクスの酒』って曲。海賊の代表的な歌だよ」
" ビンクスの酒" は海賊達の中でもっとも有名で伝統的な歌だ。その陽気さとどこか漂う物悲しさが混ざり合って不思議な感情を呼び起こすこの曲はまさに海賊の十八番。定番中の定番だ。当然、赤髪海賊団の音楽家だったウタは飽きるほどこの曲を歌ったし、歌詞だって未だに暗記している。
「おれはウタちゃんの美声が聞けるならどんな歌でもいいぜ」
「なになに、ウタが歌うの?」
「嫌だ! おれは"ビンクスの酒"が良い!」
「う〜ん、おれもルフィがそこまで推す"ビンクスの酒"がちょっと気になってきたぞ」
「ブオ?」
平常運転のサンジ、興味津々でやってきたナミ、変わらず意見を曲げないルフィ、そのルフィを見て同じくらいにビンクスの酒を希望するようになったウソップ。
そして、それを不思議そうに見ているラブーン。
それを見て、ウタは覚悟を決めた。たしかにちょっと嫌な思い出を想起するかもしれないけど、曲のリクエストを断るようじゃ、"歌姫"の名折れだ。(※ちなみに、ゾロは寝ています)
「はぁ、もう、仕方ないなぁ」
そう呟くと、ウタはおもむろに船に積んでいた荷物から音響機器や楽器を取り出した。
元々音楽最先端の国であったエレジアの中でもトップクラスの演奏道具たちだ。当然、お値段もトップクラスの超貴重品である。
「すっげえええ! なんだそれ!」
「演奏道具! ルフィ、アンタ、絶対触んないでね!! 100%壊すから!」
「え〜」
「『え〜』、じゃない! 触ったらもう二度とアンタの前で歌わないからね!」
「わかった、じゃあやらねェ」
"ウタが歌ってくれなくなる"。その脅しが効いたようで、ルフィは素直に引き下がった。
それに他人が大切にしているものなら意外と気を遣ってくれる優しさがルフィにはある。普段の態度で気付かれにくいが、そういった繊細な思いやりも本当にごくたまに行うのだ。
「じゃあ、いくよ?」
諸々の機器の設定を終えたウタは周りの顔を伺う。初めてウタのちゃんとした歌声を聞くことになる一味はどこかソワソワしている。
それを確認したウタは思いっきり息を吸うと、歌い始めた。
「ビンクスの酒を 届けにゆくよ
海風 気まかせ 波まかせ〜♪」
「!?」
その曲を聴いた瞬間、ラブーンの脳裏に思い出が溢れ出してきた。それはあの人たちと過ごした記憶。50年以上も前の大切な大切な記憶。
『ラブーン!! よーしみんな歌えーあの唄を!』
『ビンクスの酒だな!?よーし! いくぞー!』
「手をふる影に もう会えないよ
何をくよくよ 明日も月夜〜♪」
「ブオオオオオ!!」
ラブーンは叫ぶ。それは喜びとも悲しみとも言えない複雑な感情の発露だった。
想起される思い出はより鮮明になっていく。
『ラブーン!? お前ついてきたんですね! なんて……』
『おい、ブルック! あの歌を歌おう!』
『ラブーンお前も好きだよな! あの曲が!』
『ブオオオオオ!』
『ヨホホホ ヨホホホ〜♪』
「どうせ誰でも いつかはホネよ
果てなし あてなし 笑い話〜♪」
いつも、どんなときでも、あの歌は自分と共にあった。
再会の時も、別れのときも、嬉しいときも、悲しいときも、あの歌を歌った。
あの人たちは、『プオオオオ!』としか鳴けないラブーンといつも一緒に楽しそうに歌ってくれた。
『分かってください、今度のようには行きません。グランドラインは厳しすぎます、小さな体のお前でもとても無理です。これから行く海はとても予想が出来ないんです』
『私だってお別れするのは嫌です……!』
『でもッ……!』
『別れやしねェよ』
『船長!?』
『ラブーン、待っててくれよ。俺達はただまっすぐ進む! そうしたらここへ戻ってくる! ほんの二、三年の辛抱だ。そうしたらまたみんなに会える! なぁ、ブルック?』
『ええッ! 私達、必ずお前を迎えにいきます!』
『ラブーンおれたちはここへ必ず戻ってくる! 待ってろよ!』
『プオオオオ!』
『よく分かってくれました……ありがとう、ラブーン』
『じゃあ、みんな、一時のお別れの歌はもちろんアレだよな!?』
『あぁ、再会を誓う歌だ! 特別気持ち込めて歌わねぇェとな!』
『『『ビンクスの酒〜〜〜!!』』』
歌声はより鮮明により大きく過去から響き渡ってくる。
誰もそこには居ないのに、約束の日はまだなのに、まるであの頃のように歌は響き渡る。
「ヨホホホ ヨホホホ〜♪」
『ヨホホホ ヨホホホ〜♪』
やがて、現在の歌姫の美しい歌声と、過去の彼らの楽しそうな歌声がどこか重なり始めた。
それにラブーンも乗っかって歌い始める。わからない人にはただクジラが叫んでるようにしか見えなかっただろう。だが、確かにラブーンは
「『ヨホホホ ヨホホホ〜♪』」
「ブオオオオオオオ!!!!!!」
歌姫の歌声が繋いだ過去と現在。
その記憶はラブーンの長い命の中に確かに刻まれたのだった。
今回は大分諸々のシーンをカットして進めさせていただきました。
これからもあまり原作と変更がないシーンはこんなふうにカットしていくつもりです