ねぇルフィ、海賊やめなよ   作:とあるルウタ復権派

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幕間:ウタの配信日記①

 

 赤い画面に、『UTA』のエンブレム。

 ただそれだけのものをどれだけ待ち望んだだろうか? "歌姫"ウタの配信。実に二週間ぶりの開催だった。

 

「みんな、ウタだよ! 久しぶり!」

 

 画面の中央に満面の笑顔で映る少女――ウタは、分かりやすい身振り手振りでみんなに挨拶をする。

 "見られる"ということを徹底的に意識し、磨かれたその動きからはそのプロ意識の高さが伺える。

 

 そうだ、これこそウタの配信だ! 日々の労働に、責め苦に、苦痛に、ただただ耐え抜いた我々が待ちわびたウタの配信なのだ!

 

『ウタちゃんだ! ウタちゃんの配信が始まったぞ!』

 

『ウタ! 最近どうして休んでたの!?』

 

『ようやく歌姫の声を聴ける……』

 

『あれ? いつもと居る場所違くない?』

 

 口々に喋るウタのファンたち。普段の配信はウタ側からの一方通行であるが、今回は皆が喋れる形式のようだ。  

 これは特殊な雑談枠なのだろうか?と疑問に思うのもつかの間、視聴者たちはある違和感に気付く。

 撮影場所がいつもの白を基調とした明るいスタジオじゃない。むしろどちらかと言えば暗い印象のある木材の建物の中にウタは立っていた。

 

「やっぱりそういう質問が来るよね! じゃあ問題! ここはどこでしょう? ヒントはね、()に注目!」

 

 そんな視聴者たちに、彼女はクイズ形式で尋ねる。こういった些細なことも視聴者参加型企画にしてエンタメにしてしまうのだから流石と言わざるを得ない。

 

『音……?』

 

『そういえば、なんかギシギシって、音がするような……?』

 

『分かった! 船だ! 船の上にいるんだね、ウタ!?』

 

 そう答えたのは、ウタの大ファンの少年、ヨルエカだ。普段は羊飼いの仕事をしており、その関係で何度か船に乗ったことのある彼は正解を引き当てた。

 

「せいか〜い! 分かった君はすごい! そう、現在私は、船の上で配信をしてま〜す!」

 

 大袈裟に手を叩きながらヨルエカを褒め称えるウタ。件の少年はストレートに褒められたことに若干照れながら、そのまま続く言葉を待つ。

 

『船って、……どこかに行くの、ウタ?』

 

「ううん、どこかに明確に向かってるわけじゃないよ」

 

 どこかに行くワケでもないのに、船に乗る?それは不可解だ。そもそも配信者かつ歌い手であるウタがどうして船になど乗る必要があるのだろうか?

 

『じゃあ、なんで船に乗ってるの?』

 

「うん、その質問に答える前に、みんなに聞きたいことがあるんだけど良いかな?」

 

 ウタはあらたまった様子で、視聴者にそう問いかけた。それを聞いた彼らの反応はとても良好なものだった。

 

 

『いいよ!』『もちろんだよ!』『どんな質問でもいいよ!』『僕らに答えられることならなんでも答えるよ!』『私も!』『ウタにはいつもお世話になってるもんね!』『大好きなウタのためだもん!』

 

 次々と、普段の感謝の気持ちとこれからどんな質問にも答えるという決意を述べる視聴者たち。そこには異論を唱える者など誰一人として存在していなかった。誰もが辛い人生をウタの歌声によって救われていたからだ。

 

 そんな皆の反応を嬉しそうに見ていたウタは、興奮して喋り続けている彼らを宥める。このままではマトモに喋れない。

 それらが静まったのを見届けると、そのままウタはとびきりの笑顔でファンへの感謝の言葉を述べた。

 

「みんな、ありがとう! 私もみんなのこと大好き!」

 

 そして、そのまま本題である"質問"も続ける。

 

「じゃあ質問、みんなは海賊のことどう思う?」

 

 その問いかけを聞いたファン達の空気は一瞬凍りついた。当然だ。今の時代、これほどデリケートな話題も他にないだろう。

 しかし、ある者が一言ポツリと海賊への不満を口にすると、まるでダムが決壊したかのように、怒りの感情が殺到しはじめた。

 

『最低!』『大嫌い!』『僕のお母さんを返して!』『絶対に許せない!』『犯罪者! 人間のクズ共!』『あいつら僕のお家を焼いたんだよ! 信じられない!』『あんな奴ら居なくなれば良いのに!』

 

 その怒りは留まることを知らない。大海賊時代についていけない者たち――弱者。彼らはただ一方的に虐げられる普段の日々に絶望して生きている。

 そんな彼らの憎悪が溢れ出した結果がこの反応だった。

 

「うんうん、そうだよね」

 

 それを当たり前であると言わんばかりに、うんうんと首を振りながら肯定するウタの様子に、更に熱狂が高まる。

 やっぱりウタは自分たちの味方なんだ!自分たちのこの辛い気持ちを彼女は分かってくれるんだ!

 そんな歓喜に満ちていた。

 

『どうしてウタはそんな質問するの?』

 

 暴走気味の人々の興奮状態の中で、そんな質問をしたのはロミィという少女だった。

 彼女だけでなく、多くのファン達はウタの"質問"の意図を測りかねていた。

 

「……ねぇ、みんなはさ、もし大切な友達がそんな海賊になっちゃったらどうする?」

 

 ウタの質問は続く。しかし、こちらは先程と違ってあまり反応が芳しくない。  

 「もし友達が海賊になったら」、それは想像するだけで恐ろしい話だった。

 

『それは……』

 

『どうするって言われても……』

 

 多くのファンがなにも答えることが出来ない。実際、どうすれば良いか分からない。解決策などとてもじゃないが思い付かない。

 だが、勇気ある少女の言葉で空気が一変した。

 

『やめさせる! 友達ならそんな事してほしくないもん!』

 

『そうか……、そうだな! お嬢ちゃんの言うとおりだ! 大切なダチなら、引っ叩いてでも正しい道に戻すべきだよな!』

 

『うん! 海賊なんかやめさせて、罪を償ってもらって、一緒に生きてほしい!』

 

『海になんて出るべきじゃないよ! 危ないことだっていっぱいあるし!』

 

 続々と集まる賛成意見。

 そうだ、友達が海賊になってしまったのなら、それを正しい道へと戻してやるこそが我々のやるべきことなのではないか!? そう彼らは思い直した。

 

「みんなありがとう! そうだよね、みんなもそうするよね! おかげで私は正しいことをしているんだって自信がついたよ!」

 

 ウタは彼らの言葉を聞いて、そんな事を言った。

 "している"? つまり現在進行系? それが指し示す意味を多くの視聴者が察した。

 

『その言い方は……』

 

『ウタの友達、海賊になっちゃったの!?』

 

『もしかして、今乗ってる船も海賊船!?』

 

「正解! 私は海賊なんかになっちゃった友達を悪い道から()()()()ために船に乗ってま〜す!」

 

 そんなウタの言葉に彼らの血の気が一気に引いた。確かに友達が海賊になったら引き戻すべきだろう。しかし、海賊の船に乗る? 正気じゃない。そんなことをしたら殺されてしまう。このままではウタの身体が危ない。

 

『いくらなんでもそれは……』

 

『そんなの危ないよ! ダメだよ、ウタ!』

 

『ウタがそこまでする必要なんてないよ!』

 

「みんな、心配ありがとう! でも大丈夫! だってみんないつも言ってくれてるでしょ? 私は()()()だって!」

 

『……ッ!?』

 

 気丈に振る舞う彼女の言葉を聞いた瞬間、人々は瞬時に手のひらを返し始めた。

 そうだ! 何を考えているんだ! ウタはこの時代から自分たちを救い出してくれた救世主、そんな彼女に不可能なんてあるはずがない!

 彼女の歌さえあればみんなが幸せになれる! きっとその歌声を聞けば、どんな悪党も改心してしまうに違いない。

 

「そう、私はこの大海賊時代を終わらせて新時代を作る救世主! 歌姫のウタ! 友達一人くらい海賊をやめさせてみせるよ!」

 

『そうだッ……! おれたちは何を勘違いしてたんだ!? 心配!? そんなものは無用だったんだ! ウタなら出来る! 絶対に!』

 

『ごめんよ、ウタ! 疑ったりして! ウタなら問題ないよね!』

 

『うおおおおおおお! 感動した! そうだ、ウタなら出来る! ウタなら海賊だって敵じゃないんだ!』

 

『そのお友達だって、ウタの歌声を聞いたら絶対改心するに違いないよね!』

 

『UTA! UTA! UTA! UTA! UTA!』

 

『UTA! UTA! UTA! UTA! UTA!』

 

『UTA! UTA! UTA! UTA! UTA!』

 

 それは集団心理なのかなんなのかそこに居る彼らの誰にも分からなかった。冷静に考えたら何からなにまでおかしい理屈――、否、理屈にすらなっていないこんな言葉を彼らは()()()()()()()()

 海賊に歌を聞かせれば改心する? そんなわけあるはずがない。というか、そもそもなぜ歌える前提なんだ? 歌う前に攻撃されたら? 喉を潰されたらどうする? 

 海賊船に乗る? そんな事をしていたらいずれ保護にしろ指名手配にしろ海軍のお世話になること間違いなしだろう。

 だが、そんなマトモな判断を誰一人としてしていなかった。誰もがその場の空気に呑まれてしまっていた。

 

「みんな応援ありがとう! それじゃあ今日の配信はここまで! これからも応援よろしくね!」

 

 そう言って、ウタは映像電伝虫の電源を切る。

 今日の配信は大成功だ。こんなにも皆の反応が良かったのは久しぶりだ。それにみんなのウタへの"期待"も分かった。

 

「(そう、きっと私ならルフィに海賊をやめさせられる)」

 

 彼らの言葉に自信をつけたウタはそう確信した。

 『ルフィに海賊をやめさせる』。既に二週間近く経過しているのに、未だに海に出た理由であるその目的を達成できていない。しかし、それもきっと時間の問題なのだ。自分に不可能なんて無いのだから。

 

「――だって、私は()()()だから、ね?」

 

 

 

※※※

 

 

「サー・クロコダイル、何を見ているの?」

 

「ニコ・ロビンか……」

 

 アラバスタ王国のとある場所にて。

 王下七武海であるクロコダイルとその腹心である悪魔の子ニコ・ロビンが密会をしていた。

 彼が見ていたのは配信――歌姫ウタの久しぶりのライブ映像だ。それを見たロビンはからかうようにクロコダイルを挑発した。

 

「あら、そういう娘がシュミなのかしら?」

 

「バカ言え。おれが興味があるのは女の方じゃない。どちらかと言えば、歌姫ウタの配信、それに群がるアホ共を見ようと思ってな」

 

「あら、性格が悪いのね」

 

 クロコダイルが興味を持ったのは音楽だとか配信者だとかそういった下らないモノではない。

 人々の個人への熱中とそれによっと引き起こされる信仰。そこに興味があった。 

 

「ふん、"救世主"か、くだらねェ。自分の力でなにも出来ねェクズ共が、一人の小娘を盲信して煽てて持ち上げて盛り上がってやがる」

 

「あなたがそれを言うのかしら?」

 

 現在、アラバスタ王国の"英雄"として、まさに盲信されて持ち上げられているクロコダイルがこんな言葉を言うのだ。なんて酷い冗談なのだろうか。

 アラバスタの国民も、まさか彼が内乱を引き起こして国を乗っ取ろうとしているなどとは夢に思ってもいまい。

 

()()()()()だ……おい、それよりさっさと――」

 

「"ミス・ウェンズデー"のことでしょう? 分かってるよ」

 

「チッ……」

 

 部屋から出ていったらニコ・ロビンを面倒そうに見ながら舌打ちをするクロコダイルは、再び映像へと目を移す。

 歌姫ウタ。市民の扇動の際の参考になるかと思って目をつけた女だったが、まさかここまで信仰されているとは思わなかった。しかし――――、

 

「哀れな女だ、バカ共が作り上げた()()から逃げられなくなるとはな」

 

 

※※※

 

 一方、メリー号内、ウタが配信してる部屋の前でのひと悶着。 

 なんとしてでも部屋に入れないように守るサンジVSよく分かっていないルフィの攻防が起きていた。

 

「おい、サンジ、そんなところでなにやってんだ?」

 

「静かにしやがれ! 今、中でウタちゃんが配信してんだよ!」

 

 ウタに誰にも入ってこないように部屋の前で守っていてほしいと頼まれ、二つ返事で了承したサンジ。

 当然だ。レディーの頼みを断るわけがない。

 

「…………はいしん?」

 

「世界中にウタちゃんの美声を届けてんだよ。なんて素晴らしい心意気なんだ♡」

 

「ヘェ〜、面白いのか?」

 

「(興味持たせて乱入されたらマジィな……)ほら、机の上に作り置きしておいたクッキーがあるからさっさと去りやがれ!」   

 

 ルフィの対策をあらかじめしておいたサンジの有能さが光る。こうなることは予測済みだったので、お菓子で彼の行動を誘導する作戦だ。

 

「ホントか!? あんがとな〜! サンジ! おれ行ってくる!」

 

「おう、味わって食えよ」

 

 それはそれとして、クッキーはちゃんと渾身の出来のものを提供している。コックとしてそこはまったく妥協できない。ルフィをここに近づかせないために作ったものだったが、後で味の感想は聞いておこう。

 

「ふぅ……」

 

 にしても、疲れる仕事である。

 ウソップとナミには普通に事情を説明して、ゾロとはボコボコの殴り合い。ルフィはこんなふうに対策と作戦を立てて……。 

 しかし、そんな重労働も気にならない。

 

「(これで、ウタちゃんからの好感度はバッチリだなッ!!!)」

 

 何故ならレディー(とそのレディーに好かれたい自分)のためだから!!

 

 




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