黒潮さんなんて大嫌い   作:蒙古襲来

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 決して本心じゃない。照れ隠しのつもりだった。

 

 「ウチ、別に親潮のこと特別に思ってるわけやないで」

 

 周りがいつもの調子で興味津々に親潮のことを聞いてくるから、ちょっとうっとおしくなって、ぶっきらぼうにそう答えた。その場をやり過ごせればそれでよかった。

 

 「あっ…」

 

 聞き慣れた声がして振り返る。次いで、なんで?と思った。この時ほど自分の運命を呪ったことはない。

 

 「あ、あの、わたし、その…」

 

 自分の大好きな人が泣きそうな顔をして佇んでいた。

 

 「ご、ごめんなさい!」

 

 少し間があった後、叫ぶように謝られて、親潮は走っていってしまった。待って、と手を伸ばしても小さくなる彼女の背中に届くことはない。

 

 「…………」

 

 どうして親潮がここに?後ろにいるなんて気が付かなかった。彼女が後ろにいると知っていたらあんなこと言わなかった、と様々な言い訳がぐちゃぐちゃの感情とともにあふれ出した。

 

 しかしすぐに思い直した。

 

 いやそもそも。そもそも、たとえ照れ隠しだとしてもあんなこと…自分の気持ちに嘘をつくようなことを言うべきじゃなかった。

 

 親潮が走り去ってから少しして、周りの困惑するような視線を振り切ってようやく駆け出した。

 

 「ごめん、親潮…!ウチ…!」

 

 とにかく謝りたかった。嘘をついたこと、傷つけてしまったこと。そして自分の本当の気持ち。

 

 踏み出す一歩一歩に力が入る。まだ走り出したばかりなのに息が切れそうになる。それでも決して足を止めない。

 

 走って、走って、走り続けて。親潮がいそうなところ、思い当たるところを全部、駆け回って。

 

 「はぁ、はぁ」

 

 ようやく足を止め、乱れた息を整える。見つけた。

 

 「親潮…」

 

 彼女は母港から少し外れた、さみしげなところに一人でいた。膝を抱えてそこに顔をうずめ、座り込んでいた。

 声を掛けると少しだけ彼女が体を震わせたような気がした。

  

 「親潮、ウチ、その…」

 

 謝ろう、謝らなければ。そう思ってはるばるここまで走ってきたんじゃないか。

 

 「その、さっきのこと…」

 

 しかし親潮本人を目の前にしてどうしてか、ごめん、の一言がなかなか言い出せないでいた。

 

 いつものようにケンカしただけなら簡単に謝れるのに、今回に関してだけは謝ることが最終的に自分の特別な感情をさらけ出すことに繋がると分かっていたから素直になれずにいた。

 

 それでも意を決して親潮に謝ろうとしゃがみ込んですぐのこと。

 

 「迷惑でしたよね、私」

 

 顔をうずめたまま親潮がそう言った。

  

 「え?」

 

 迷惑?親潮のことが?

 

 「普段から黒潮さん黒潮さんと馴れ馴れしく呼ばれて嫌でしたよね?どこへ行くのにも付き纏われて嫌でしたよね?…こ、恋人でもないのに皆さんの前でベタベタ甘えられて嫌でしたよね?」

 

 「そ、そんなこと…」

 

 必死に否定しようとする自分とは対称的に親潮は淡々と語った。それは有無を言わせないという親潮の強い思いとも感じ取れた。

 

 「黒潮さん、優しいですから。その優しさに付け込んでしまったんです。ずっと黒潮さんといるうちに、甘えているうちに、ああ、きっと黒潮さんも私と同じ気持ちなんだろうなって勝手に思い込んでたんです」

 

 親潮はゆっくりとした口調で、自分の気持ちを納得させるように話し続けた。

 

 そして彼女の言う通り、確かに皆の前でイチャイチャする場面が多かったから勘違いする子も多かった。この件のきっかけだってそうだ、ウチと親潮の関係をからかわれたのが始まり。

 

 で、でもウチは別にそれが嫌なわけじゃなくて、むしろ…

 

 「おやし…」

 

 「だから本当にごめんさない!」

 

 急に立ち上がった親潮は深々と自分に頭を下げた。

 

 いや、謝るのはウチの方、と慌てて自分も立ち上がるが…

 

 「もう金輪際、黒潮さんには近付きません、話しかけません」

 

 赤く腫らした目は睨んでいるようにも見えた。

 

 「ちょ、待ってよ!ウチはそんな」

 

 「さようなら黒潮さん」

 

 「親潮!」

 

 背を向ける親潮の腕を掴むが振り払われた。それでも必死で呼び止めようとするのもむなしく、親潮は振り切るように走り去っていった。

 

 「親潮…」

 

 震える声で彼女の名を呼ぶがもちろん返事が返ってくることはなかった。

 

 そしてこの件があってまもなく、おそらく彼女自ら司令に申し出たのであろう。

 

 親潮は別の鎮守府へと異動することになった。

 

 「…………」

 

 結局、親潮がこの鎮守府を離れるまでに自分は気持ちを伝えるどころか、謝ることも会話することですら許されなかった。彼女に徹底的に避けられたのだ。

 それはきっと彼女なりのケジメ、自分への贖罪だったのだろう。ウチもそれを受け入れた。

 

 ただ今思うにそれはウチの甘えだったのだと思う。親潮の気持ちを尊重すると言いながら、実のところ彼女に拒絶されるのが怖かったのだ。

 

 もし声を掛けて無視されたらどうする?避けられているのに無理して話しかけて嫌われたらどうする?

 

 でもたとえそうでも…。そうだとしても…。

 

 たとえ避けられようが、幻滅されようが、まずはちゃんと謝って、想いを伝えるべきだった。

 

 「…親潮」

  

 かつて親潮と共に過ごした部屋の片隅に身を縮ませて座り、ぽつりと彼女の名を呼ぶ。消え入るような声は一日を通して真っ暗なこの部屋の闇に吸い込まれて消えた。

 

 少なくとも。そう、少なくとも。

 

 あの時しっかりと親潮と向き合っていれば、こんな風に後悔はしなかっただろうから。

 





 秋雲「…ってお話はどうお?」
 
 黒潮「とりあえず○ねや」
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