妹の大好物が載った盆を片腕で器用に支え、もう片方の手でドアをコンコンと鳴らす。
「黒潮ー、ご飯持って来たわよー?」
呼びかけて数秒、固く閉ざされた部屋の中から弱々しく返事があった。
「陽炎はん、いつもすまんねぇ…ありがとお」
一日三回、食堂で食事を受け取り、黒潮のいる部屋へと運ぶ。最初の頃は戸惑いがあったコレも今ではすっかり習慣になった。
だけれど、薄いドア一枚を隔ててすぐそこに黒潮はいるというのに、今日も姿を見ることはかなわない。それが姉としてとても歯痒かった。
「司令から。気持ちの整理がつくまでゆっくりしてていいってさ」
「…うん」
今日は司令からの言伝もあったのでそれを伝える。黒潮の声には申し訳なさがにじみ出ていた。
司令は本人が立ち直るまでそっとしておけばいいと言うけれど、本当にそれでいいのだろうか?
久しく見ていない黒潮の顔。もしかしたら、いやもしかしてでなくても、やつれてしまって、見るに堪えない状態かもしれない…。そんな妹の窮状を考えると、考えれば考えるほど、いてもたってもいられなくなった。
「ねえ、親潮のことは確かに残念だったけど…」
気が付けば、自然にそんな言葉が飛び出していた。ずっと触れぬように避けてきた話題だ。
中からガタッと大きな物音が聞こえた。動揺しているのは明らかだった。
「…ウチが悪かったんや」
しっかりと耳を澄ましていなければ、聞き漏らしていただろう。それくらい小さな声で黒潮は答えた。
「全部全部、ウチが悪いんや…」
その言葉を最後に、それ以降はいくらこちらから呼びかけても返事は返ってこなかった。代わりに部屋からはすすり泣く声だけが延々と聞こえてくるだけ。
姉として悔しかった。頼りにならない姉で申し訳ない気持ちになった。
ある日を境に黒潮と親潮がギクシャクし始めた。二人の関係に何かあったのは、ずっと二人を近くで見ていた陽炎型だけでなく、鎮守府にいたすべての者が気付いただろう。
それから原因を解決する、いや私たちにとっては知る間さえもなく、急に親潮が鎮守府を離れることになり、彼女がいなくなってからは黒潮も部屋に閉じこもってしまった。
「あ」
そういえば、と思い出す。そういえば一度だけ、親潮と仲の良かった早潮が私の元を訪ねてきたことがあった。あの時の彼女は何か言いたげな目をしていた。しかし黒潮が閉じこもってしまったばかりの頃だから私は彼女を後回しにしてしまったのだ。
「…………」
改めて早潮にあの時訪ねてきた理由を聞こうにも彼女はいない。少し前の遠征任務で隊から離れたのを最後に行方知れずになったからだ。
ちょうど彼女が行方不明になった海域を管轄する鎮守府へと異動していった親潮に早潮のことを知らせる便りを送ったが返事はない。
「…どうしたらいいのよ」
一気に三人の妹を失った私は、開かずの扉に額をつけてうなだれることしか出来なかった。