黒潮さんなんて大嫌い   作:蒙古襲来

3 / 4
秋雲「親潮はスケベでなければならない!いいね?」


3

 

 あたしが親潮姉に相談があると呼び出されたのは、黒潮姉と親潮姉の関係が明らかに悪くなったと鎮守府の皆(あたしも含めて)が気付く少し前だったと思う。

 

 「早潮、来てくれてありがとう」

 

 ちょうど非番だったし、何より真面目な親潮姉からの相談だったから急いで駆けつけたのを覚えている。

 親潮姉はあたしを工廠裏のさびれた路地へと呼び出した。あたしが着くなり、親潮姉は感謝の言葉を告げ、息を切らすあたしの背中を優しくさすった。

 

 「こんなところに呼び出してどしたの?あ、もしかしてあたしに告白?」

 

 あたしの息も落ち着いた頃、冗談交じりに親潮姉にそう言った。呼び出された場所からするに、きっと他の誰にも聞かれたくない内容なんだろうと想像出来た。

 でも親潮姉が相談したいことなんて多かれ少なかれ黒潮姉のことだと踏んでいて、案の定、親潮姉の口からは黒潮姉の名が飛び出した。

 

 ま、黒潮姉のことが大好きなのは、端から見ててもバレバレなワケですし、わざわざこんなところに呼び出してもねぇ、と思わず親潮姉のポンコツさが微笑ましくて笑みがこぼれそうになった。本人は大真面目なので堪えたけれども。

 とまあ、きっとそんな親潮姉のことだから、黒潮姉とどうやったらもっと親密になれるかとか、もしかしたら次のデート先を一緒に考えてほしい、なんてそんな可愛らしい相談が飛んでくるものばかりだとその時は思って気楽に構えていたのだけれど。

 

 「今日、黒潮さんが親潮には特別な想いはないって言っているのを聞いてしまったんです」

 

 冒頭、親潮姉がそう話し始めたのを聞いて、あたしは困惑した。

 

 え、なにそれ?思ってたよりも深刻じゃん!

 

 そしてあたしは、親潮姉が堪らずその場を後にして、黒潮姉がわざわざ探して見つけてくれたこと、親潮姉が黒潮姉に告げたことなどを気まずい思いで最後まで聞いた。

 

 「あー、えっと…」

 

 終始伏し目がちに話した親潮姉にあたしはなんと言っていいのか分からず、適当な言葉を考えては言い淀んでを繰り返していた。

 でも親潮姉はきっと今すごく辛い思いをしているんだ。それで一人で抱えて、堪えきれなくなって、あたしに打ち明けてくれたんだ。親潮姉が今頼れるのは、あたしだけなんだ。そう思うと親潮姉が不憫で堪らなくなって、思わず彼女を抱きしめた。次いで、あたしは親潮姉の味方だよ、と心からそう思って、言葉を掛けた。

 

 「親潮姉、一緒に黒潮姉のとこに行こ?ちゃんと理由を聞こ?あたしもいるからさ!なんかあったら、あたしが黒潮姉のこと怒ってや…」

 

 うん、そうだ。あたしは親潮姉の味方なんだから!

 

 でも、あたしの言葉は途中で遮られた。親潮姉は、ううん、そうじゃなくてね、と抱きしめるあたしを軽く押しやり、首を横に振った。

 

 「私は、きっと黒潮さんにふさわしくないんです」

 

 あたしはどうして、と尋ねずにはいられなかった。親潮姉と黒潮姉はお似合いのカップルだよ、と叫ばずにはいられなかった。

 

 すると、抗議するあたしを制して親潮姉は言った。今までに一度とさえ見たこともない、妖艶な、思わずあたしが見惚れてしまうくらいに魅力的な笑みを携えて。

 

 「黒潮さんの腕を振り払った時にね、少しだけ黒潮さんの表情が見えたの。それがすごく…すごく可愛かった」

 

 うっとりとした表情で語る親潮姉。え、と思わず声が漏れた。

 

 「後ろから黒潮さんの呼び止める声が聞こえて、それが普段の元気な黒潮さんのものとは全然違ってて…。まるで縋るような、そんな弱々しい声が今も私の耳に残っているの」

 

 もはや、親潮姉には、あたしのことなんて見えていなかっただろう。甘美な記憶を呼び起こし、親潮姉はその余韻にどっぷりと浸かっていた。

 

 「まるで母親とはぐれて、必死に喚いている幼子のよう…。黒潮さんの悲痛な表情が、声が、そのすべてが可愛くて、いじらしくて、どうしようもないくらいにいじめたくなるんです」

 

 「あ、あぁ…」

 

 目の前で饒舌に語る親潮姉をあたしの知る姉と同一視するのには無理があった。それくらいに普段の彼女とかけ離れていたから。ボーっと気が遠くなった。

 

 「こんな私、黒潮さんにふさわしくないですよねぇ?」

  

 上の空になっていたあたしは我に返った。ぬるりと親潮姉が目の前に迫ったからだ。

 

 「ねえ、早潮。私に協力してください」

 

 「…え?」

 

 「このままだと私、黒潮さんのこと壊しちゃいそうなんです♡」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。