「ありがとう、間宮さん。あ、それと夕飯は六時くらいに取りに来ますね!」
空になった食器を食堂の返却口に戻し、午後は非番だから自室に帰って久々にゆっくりしようかと考えていた時。聞き慣れた声がしたと思って顔を向けると、陽炎がカウンター越しに間宮さんとなにやら話し込んでいる場面を目撃した。
そして、ああ、またか、と思った。気が付くと手のひらに爪が食い込むくらいに強く、拳を握りしめていた。
「あら、不知火も食堂に来てたの?今日はサバの味噌煮定食がおススメみたいよ」
間宮さんからお盆を受け取った陽炎が振り向き、その際に目が合った。目をそらさずに見つめ続けていると、陽炎がこちらに近づいて来るのが分かった。
不知火の横を通り過ぎる際、陽炎が言った言葉に、はい、そうですね、とだけ返した。それじゃあ、また、と通り過ぎていった陽炎は食堂のテーブル席に座ることなく、そのまま出口を出て、見えなくなった。少し疲れたような顔をしていたのが気になった。
「……………」
キュッと息が詰まる気がして胸を押さえた。その時、制服に忍ばせておいた他鎮守府への異動願いに指が触れた。
誰よりも責任感の強い姉は、日々任務をこなすだけでも大変な中、妹想いの性分が災いして、どうやら要らぬことに頭を悩まされているようだった。同室の不知火にでさえ相談せず、独りで悩み、苦しんでいるようだった。
おかげで陽炎と話す機会が大幅に減った。今日、久しぶりに、ようやく話せた。そう思うと、ふつふつと何かの感情が沸き上がってきた。
「…陽炎の手を煩わせるまでもありません」
すると自然に足はある場所へと向いていた。
「いつまでそうしている気ですか?いつまで陽炎を困らせる気ですか?」
目的の場所に到着。陽炎の姿はなかった。代わりに彼女が置いていった妹の好物がお盆の上で白い湯気を立てていた。
ドン、と扉を一蹴り。中から呻くような声が聞こえた気もした。不知火には関係ないことだが。
「早く出て来なさい。陽炎にどれだけ迷惑をかけてるか分かっているんですか?」
ドンッ!先ほどよりも強くドアを蹴った。このまま蹴破ってしまおうか。
「…謝る相手を間違えてます。不知火にではなく、陽炎に謝ってください。毎日毎日朝昼晩とあなたに餌を運ぶほど余裕はないんですよ」
謝罪の言葉を言われる度にドアを蹴った。何度も何度も、時間を忘れて蹴り続けた。
「…これ、置いておきますから。今日中にこの異動願いを書きあげて、司令に提出してください。早く陽炎の前から消えて欲しいんです。よろしくお願いします」
すすり泣く声を耳にしながら、他鎮守府への異動に必要な書類を懐から取り出し、扉の前に置いた。それから忌々しい、と早々に立ち去った。
去り際に見た時、もうすでに冷めてしまっていたのだろう、愚図な妹の餌は白い湯気を立ててはいなかった。