昔々と言うにはまだ記憶に新しい百年前に光る赤子の誕生から始まった個性社会。
人々が次々と個性と言う超常を手に入れ曾ての常識では考えられない力を個人が手にし、欲望のままに振るっていた黎明の時代。
彼は現れた。
轟くエンジン音と共に現れ耳を劈く金属音を撒き散らしながら悪人も善人も見境なく裁断する狂気の存在。
チェンソーマン
何人もの恐ろしい悪人が悲鳴も疎らに千々に割かれた。
何人もの助けを求めた市民が安堵の笑顔を引き裂く様に裁断された。
腸のマフラーに4本の腕。頭と腕には製材用とはかけ離れたギザギザの刃を持つチェンソーを生やした神出鬼没の怪人は幾度致命傷を負えど再度エンジン音を轟かせれば何事もなかったかのように再び暴れ出した。
そんな不死身の怪物の無法はとある英雄との激突にて終わりを告げた。
日本最高のヒーローたるオールマイトとの戦いは正しく神話の戦いに等しく、裁断された街に残る傷跡は今や聖地となった。
チェンソーマンをタルタロスに封印した代償にオールマイトはそれまでより幾分か活動範囲と頻度を下げたが、それにより地方ヒーロー達の活躍が増したのは幾分かの皮肉を交えて「チェンソーマンに助けられた」とも言われた。
「だからね、僕としてもこう言いたいんだ」
「ありがとうチェンソーマン。君に助けられたよ」
若々しい身体で溌溂と嘯く巨悪を前にその力を使い果し骸骨のような無様を晒すオールマイトは絶句せざるを得なかった。
「貴様、その身体は?!」
最後の最後、全身全霊の一撃を叩き込み打倒した筈の年老いたAFOの影から滲み出すように現れ白髪の青年は自らをオール・フォー・ワンであると名乗った。
「本当はもう少し時間も手間も掛かる筈だったのだけれどね。僕には友達が多く居てね」
引き裂いた様な笑みを浮かべるその顔は死柄木弔と名乗っていたあの青年の物なのに腐臭のようにAFOの悪性が端々から漏れ出る様は確かに本人である。そうとしか思え無い存在感を漂わせていた。
「さて、おしゃべりもそこそこにして。さようならオールマイト」
ゆらりと持ち上げられた腕に幾百の個性が纏わり付き混沌とした虹色の渦を作る。
それを前にオールマイトはそっと目を閉じ無事な片腕を胸に当て口を開いた。
「すまない」
その言葉に誰もが「何故?」と言う疑問と「命乞いか?」と言う失望を懐き。
「私の全てを捧げよう」
間近にいたAFOが真っ先に異変とその真意に気付いた。
「だから」
オールマイトのボロボロの指にしっかりと掴まれたそれは、包帯とガーゼで隠されていたそれは。
「助けてくれチェンソーマン」
エンジンスターターにとても良く似ていた。