死の超越者と接ぎ木の君主   作:門衛ゴストーク

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続くか未定。


接ぎ木の君主と夢の終わり

「今日がユグドラシルのサービス終了日ですし、折角だから最後まで残って行かれませんか、なんて……」

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の拠点、ナザリック地下大墳墓の『円卓の間』にモモンガの声が虚しく響く。

 ログインしたギルドメンバーの初期スポーン位置でもあるこの部屋には先程まで別のギルメン、古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)のヘロヘロが居たが、彼は既にログアウトしてしまいモモンガの言葉が届くことはない。

『アインズ・ウール・ゴウン』は社会人ギルドだ。

 当然ギルドメンバーにも仕事があるし、特にブラック会社勤めのヘロヘロはかなり無理をしてログインして来たと言っていい。

 それでもモモンガの心には、ヘロヘロの口にした言葉が棘のように刺さっていた。

 

(ナザリックがまだ残っていたなんて思いもしなかった、か……)

 

 言葉の後には維持をしてくれていたモモンガへの感謝があったが、それでもモモンガにとって衝撃は大きかったのだ。

 

 モモンガにとって『ユグドラシル』、殊に『アインズ・ウール・ゴウン』は特別である。

 今の時代、モモンガ……鈴木悟のように小卒から働いている者は珍しくない。

 環境が壊滅した世界で生きる為に巨大企業の替えの利く歯車として必死に働く中で、初めて気の置けない友人たちと出会えた『アインズ・ウール・ゴウン』は彼にとって遅れてやってきた青春全てだった。

 だからこそ、最盛期の41人から櫛の歯が欠けるようにメンバーが引退していっても、在籍するメンバーのログイン頻度が減ってもギルド維持の金策にあけくれた。

 全ては思い出の中に風化させないために。

 

 しかし、結局この部屋に残されたのはモモンガ独り。

『またいつか』『またどこかで』そう言って去っていた友たちに憤りが膨らみ、モモンガは思わず円卓に拳を打ち付けた。

 

「クソッ!!」

 

「遅れてすんません! ってうわ何事!?」

 

 ……壊滅的なタイミングで来ないと思っていた待ち人が現れ、モモンガは慌てて弁明する。

 

「す、すみません。ちょっと心がささくれてて……今日は来てくださってありがとうございます、ゴドリックさん」

 

 ギルド最古参のモモンガと違い、新規加入を停止する直前にギルドに入った最後のギルドメンバー『ゴドリック』。

 ゲーム開始時から異形種でプレイする者の多かったギルド内において、人間種から異形種に転種した異色の経歴の持ち主でもある。

 アバターは、半魔巨人(ネフィリム)に迫る巨体を持つ亜神(デミゴッド)

 本来は大きさ以外人間種とそう変わらない姿の種族ではあるが、ゴドリックの姿は異形種限定ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』内で浮かない程度には異形であった。

 

「いやー、こっちも遅くなっちゃってすんません。最後だからどうしても欲しいアイテムを探して市場(マーケット)を駆けずり回ってて……」

 

 そう言って()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を動かして王冠をかぶった頭を搔くようなしぐさをするゴドリック。

 人体の関節の数を無視した腕とあちこちから生えた無数の複腕を持つ姿はまるで蜘蛛のようにも見え、『醜い姿』と設定されている半魔巨人(ネフィリム)よりもおぞましい。

 しかし、モモンガはゴドリックが前に見た時と同じ姿でいたことに安心した。

 

 ゴドリックの姿の理由、それは『ドクター』の派生職『マッドドクター』のスキルである《接ぎ木の秘儀》にある。

 アバターに倒したモンスターやプレイヤーの一部を繋げて筋力や体力など一部能力を付与する合成獣(キメラ)などの作製に使われたキワモノスキルだ。

 メリットとしてはビルドに関係なく能力の増強や一部スキルの使用が可能になる事が挙げられるが、一度でも死亡すると追加した部分が消失(ロスト)する永続デスペナともとれる仕様のせいでテイムしたモンスターをいじる以外にはほとんど使われなかった。

 しかしゴドリックは『継ぎ接ぎの技巧(テクニック・オブ・パッチワーク)』という《接ぎ木の秘儀》を使用できるアイテムを使い積極的に自らのアバターを改造。

 人間種だった時と現在でほぼ姿が変わっていないと言えば、当時どれほど異形として見られていたか分かるだろう。

 

 前回モモンガと会って一緒に金策クエストに行った時と姿が変わっていないと言うことは、サービス終了でお祭り騒ぎの市場でトラブルに巻き込まれて死に戻りなどしなかったということ。

 課金アイテムでも追加部位の消失は防げないので、モモンガは彼が姿を変えずに最後を迎えられることを素直に喜んだ。

 

「たしかにサービス終了直前なら市場でアイテムも投げ売りされてるでしょうねぇ。……それで、どんなアイテムを買ったんですか?」

 

「ジャジャーン! これだ!」

 

 ゴドリックが嬉しそうに装備したのは、彼のアバターの体格に見合った巨大な戦斧。

 優美な彫刻で何らかの獣の姿が彫り込まれ、全体的に豪壮な黄金色に輝いている。

 一般的なプレイヤーでは覚えていなかっただろうが、蒐集家(コレクター)の気質があるモモンガはそれを記憶の中から見つけ出し、驚愕した。

 

「それって『黄金王の大戦斧』! 期間限定イベントのランキング一位報酬じゃないですか!?」

 

「せいかーい、な? すごかろ? これ買うのに手持ち使い切っちゃったよ!」

 

 嬉しそうにゴドリックは戦斧をモモンガに見せびらかすが、本来はプレイヤーの手持ちで持てる額程度で取引される品ではない。

 期間限定イベント『黄金王の試練』でスコアランキング一位の者のみが入手できた神器級アーティファクト。

 データクリスタルを組み込めないアーティファクトであることがネックだが、装備者は専用スキルが使用可能で威力も神器級武器の中でトップクラスだ。

 ただし装備重量と必要筋力もケタ違いで、専業戦士でもないとまともに持つ事すらできないと言われていたが。

 どちらにせよ、ゴドリックがこれを手に入れられたのは幸運と彼の執念のたまものだろう。

 

「うーん、何度見てもカッコいい! 一回でも死んだら装備できなくなるけど、ここまで強化した甲斐あるなぁ」

 

 そう言って片手で戦斧を掲げるゴドリックの筋力は、もはやプレイヤーの常識のらち外である。

 見た通り、今とても機嫌が良い彼になら、モモンガも先程言えなかった言葉を口にすることができた。

 

「あの……お忙しいかもしれませんが、できれば今日はサービス終了まで残っていかれませんか……?」

 

 精一杯の勇気を出したモモンガの言葉に、ゴドリックはすぐに笑顔のエモーションを表示した。

 

「もちろん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉー! 玉座の間はやっぱり凄いな! モモンガさんどうする? 悪の幹部っぽく自分の旗の下に立ってた方がいいかな?」

 

「いや、ゴドリックさんは加入順的に一番入り口側じゃないですか。もっと玉座の傍に立ってくださいよ」

 

 モモンガが《諸王の玉座》に座ってセバスとプレアデスたちを控えさせるのを見たゴドリックがテンション高めで尋ねるが、玉座から加入順に飾られたギルドメンバーの旗の下に控えれられると少々どころではなく遠い。

 最後くらい傍で話しながら名残を楽しみたかった。

 玉座の傍、守護者統括アルベドが立っているのと反対側にゴドリックが移動していると、ちらりと見たアルベドの手のアイテムにギョッとする。

 

 

「……あれ、気のせい? アルベドが持ってるの、真なる無(ギンヌンガガプ)じゃ……」

 

「うわ、本当だ! タブラさん、最後だからってなんてことを……」

 

 本来、ワールドアイテムの宝物庫からの持ち出しはギルド会議案件。

 拠点内とはいえNPCに無許可で持たせるのはかなりの独断専行である。

 

「どーする? ちょっくら宝物庫に放り込みに行くか?」

 

「いや、時間もないですし、最後だから良しとしましょうか。アルベドも最後まで出番なしだったから特別ってことで」

 

「確かに。ここまで侵入できた奴らいなかったもんなぁ」

 

 ゴドリックがモモンガの言葉に納得の意を示すと、その言葉を皮切りに昔語りが始まった。

 1500人以上のプレイヤー連合軍を殲滅した時の話。

 超希少鉱石鉱山を占拠して鉱石を独占したら、ワールドアイテムを使われて該当ワールドから締め出された時の話。

 ギルド武器を作る素材集めでたっち・みーが結婚記念日をすっぽかして奥さんと大喧嘩したのをギルメンが全力フォローした時の話。

 トラブルメーカーのるし☆ふぁーが顔面のみを標的に群がる虫型ゴーレムを作成して、ギルメンを実験台にして女性陣から吊るしあげられた話。

 

 語りつくせない程に思い出話はあったが、それらの舞台がもうすぐ消えてなくなることへの寂しさは隠せない。

 次第にしんみりしだした空気を無理やり変えるようにゴドリックが言う。

 

「そうだ、最後にフル装備のスクショ撮ろうぜ! 終了後に、来られなかった人らにも送って見せてやろう!」

 

 笑顔のエモーションを表示しながら、『終わっても、繋がってる』ことを主張するゴドリックに深い感謝を抱いた。

 モモンガの青春は今日で完全に終わり、明日からは灰色の生活が待っているのかもしれない。

 それでも、今日のこの写真を眺めて在りし日を懐かしむことはできる。

 きっとその時は、目の前の彼も思い出話に付き合ってくれるはずだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガは神器級装備一式にギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を装備し、彼のみに個人所有が許されたワールドアイテムである深紅の宝玉を見せつけるように装備の前を開く。

 すぐに終わったモモンガに比べて、ゴドリックは装備を整えるのに100レベルプレイヤーとは思えないほどにもたついていた。

 理由は明白、増設した複腕一つ一つに装備ウィンドウがあってめちゃくちゃに面倒くさいからだ。

 

「……よっしゃー! 終わったー!」

 

「ゴドリックさんの全腕フル装備は久しぶりに見ますね。複腕のプログラム組んだのはヘロヘロさんでしたっけ?」

 

 複腕のすべてに戦斧や剣、盾などを備えたゴドリックはまるで生きた要塞だ。

 しかし人間の頭ですべての複腕を操作するのはナノマシンの補助があっても不可能なので、大抵の複腕系プレイヤーはプラグラムを組みこんで操作している。

 ゴドリックがプログラムを依頼したのは現職プログラマーのヘロヘロで、同じく複腕を持つNPCであるコキュートスを作った武人建御雷も関わっていた。

 本職のプログラムで滑らかに攻撃と防御を行う複腕と、増強された筋力と体力で相手をゴリ押しで削りきるのがゴドリックの戦闘スタイル。

 この上に()()()()()()()()()()もあるので、キワモノビルドの中でも戦闘力は高い方だろう。

 

「ほら、モモンガさんそれっぽいポーズして! ……はいチーズ! さすがギルド長、とっさのロールプレイ上手だなぁ。魔王ってかんじバリバリに出てるよ!」

 

「ははは、ありがとうございます。それならゴドリックさんは魔王に下った異形の君主ってかんじですかね」

 

「……それいい! くっそー、今日でサービス終了じゃなきゃロールプレイ案考えたのに……」

 

 サービス終了まで、1分を切った。

 モモンガ……鈴木悟に未練が無いとは言えない、だが、少なくとも一緒にいてくれたゴドリックはユグドラシルを引きずることを認めてくれる。

 何の解決にもなっていないが、その優しさが嬉しかった。

 

「あー、明日4時起きですよ。終わったら早く寝なきゃ……」

 

「そんじゃ画像送るのは明日の夜にするよ。編集してめっちゃカッコよくしたのも添付すっから!」

 

「はは、ほどほどに……」

 

 

 何気ない会話、気の置けない友人。

 ユグドラシル……『アインズ・ウール・ゴウン』にはモモンガが本当に欲しかったものがあった。

 

(楽しかった…………そうだ、楽しかったんだ…………)

 

 

 

 そうして彼らは、なんでもない日常へ帰っていく──────────()()()()()

 

 

 

 

「あれ?」

「え?」

 

 

 それが思い出にならなかったのは、果たして良かったのか。

 それはまだ誰にも分からない。

 

 

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