死の超越者と接ぎ木の君主   作:門衛ゴストーク

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接ぎ木の君主と忠誠の在り処

 玉座の間でチマチマと仕様を確認していた二人だったが、避けては通れぬ難問にぶち当たっていた。

 

「一応はユグドラシルと同じように戦闘もできそうですけど、従わない階層守護者がいたらヤバいですよねぇ……」

 

「モモンガさんと俺の二人じゃ手数が足りないしな」

 

 モモンガは魔王ロールプレイの死霊術特化ビルドで後衛型だが、かつてのギルメン、ウルベルトのような純魔法攻撃役(アタッカー)と比べると火力で劣る。

 ゴドリックは豊富なHPと筋力から前衛型のビルドなのだが、盾役(タンク)をするにはヘイト管理スキルが足りず後衛を守り切れない。

 

 ひるがえって、階層守護者側は敵に回すと厄介この上ない。

 防御力最強、カバーリングに長けた盾役(タンク)のアルベド。

 武器攻撃最強、近接攻撃役(アタッカー)のコキュートス。

 集団戦最強、敵・味方へのバフ・デバフ、ヘイト管理スキルを持ったレンジャーのアウラ。

 広範囲攻撃最強、避けにくい高火力魔法を使うドルイドのマーレ。

 漢のロマン最強、守護者の中では一番脅威度が低いが、放っておくと一番危険なデミウルゴス。

 そして純戦闘力守護者最強、能力が独りで完結しているオールラウンダーで遊撃がこなせるシャルティア。

 

 この中の何人かを相手するのはかなり荷が重い。

 誰もが秀でた一芸を持っているので、すべてに対して明確なメタを張れないのも辛いところだ。

 モモンガとゴドリックはビルドこそ全く異なっているが、PvPに臨むときの傾向は似通っている。

 情報を集め、対策を備え、対応するための装備やアイテムを用意する。

 しかしそれは一対一だからこそ出来ることなので、対策範囲が絞れない集団戦は二人の苦手分野と言えた。

 

「守護者たちもナザリックの防衛戦力ですから、できれば戦わずに済ませたいですけど」

 

「でも俺、”主に相応しからず! ”とか言われたらぐぅの音も出ねぇぜ?」

 

「ですよね……俺も自信ないです」

 

 モモンガもゴドリックも、リアルでは『支配される側』の人間だ。

 自分たちの態度や言動がNPCたちに『仕えるに値しない』と判断されたとしても、正直『でしょうね』としか答えられない。

 可能であれば守護者たちから忠誠を勝ち取るのが最良なのだが……現実問題として出だしで敵対されてしまうと敵わないという危険が根底にある。

 

「なんとか守護者の忠誠心だけ確認する方法ってないですかね」

 

「……うーん、無い、訳じゃないが、ちょっと危ないか?」

 

「あるんですか!?」

 

 声に喜色を滲ませたモモンガがゴドリックに続きを促すと、彼は少し不安そうながらも応えた。

 

 現在、守護者たちは6層の円形劇場(アンフィテアトルム)に召集されており、もうすぐ集結する。

 この状態でモモンガとゴドリックが彼らを放ってナザリック外に出る、というものだ。

 未知の状態のナザリック外に出る危険はあるが、その後の守護者たちの対応で忠誠度が分かるだろう、と。

 

「でも、そんなことで分かりますか?」

 

 モモンガの疑問にゴドリックは多分だが、と言い含めながらも答える。

 

「もしモモンガさんの会社の社長が防塵マスク無しで外出しようとしたら止めるか?」

 

「え? いやまあ流石に目の前なら止めるでしょうけど」

 

「じゃあギルメンだったら?」

 

「そりゃ止めますよ。って、ああ、そういう……」

 

 つまりはそういうことだ。

 ナザリックの支配者だから忠誠を誓っているなら、ナザリックの防衛を第一に、死んでも問題ない者を先遣隊にして寄こすだろう。

 だがモモンガとゴドリック個人に忠誠を誓っているなら、主の危機に取るものも取らず追いかけてくるだろう。

 対応が前者だった場合は、反逆の意思があるかもしれないことも念頭に置かねばならない。

 最悪の場合は先遣隊が敵対してくるだろうが、守護者たちを纏めて相手するよりはずっと楽だし、そのままナザリックから離脱すればいい。

 

「おあつらえ向きに『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』は各階層をスルーできる。密かにナザリックを出るのは難しくない」

 

「……そんな使い方のための機能じゃなかったんですけどね」

 

 制作時に意図してない用途だとしても、背に腹は代えられない。

 モモンガとゴドリックは互いに顔を見合わせて頷くと、指輪の効果でナザリック地表へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わって、ナザリック地下大墳墓第6層円形劇場(アンフィテアトルム)

 至高の四十一人の内の二人たるモモンガとゴドリックによって召集された各階層の守護者が続々と集まっていた。

 初めに着いたのは同階層”大森林”の守護者たる双子の姉弟、姉のアウラ・ベラ・フィオーラと弟のマーレ・ベロ・フィオーレ。

 次に第一・第二・第三階層”墳墓”守護者、真祖(トゥルー・ヴァパイア)のシャルティア・ブラッドフォールン。

 止める者がいない為にアウラとシャルティアが口喧嘩を始めた頃、第五階層”氷河”の守護者コキュートスが。

 最後に第七階層”溶岩”の守護者、デミウルゴスと守護者統括アルベドの悪魔二人が到着し、第四・第八を除いた各階層の守護者たちが集結した。

 

「アルベド、モモンガ様とゴドリック様はまだ御出でになられないでありんすぇ? ぬしが時間を間違えていなければでありんすが」

 

「いいえ、シャルティア。たしかにモモンガ様は”一時間後”と仰ったわ。御出座に時間をかけるのも支配者の格というものよ」

 

 モモンガに会えると思ったので急いできたのに肩透かしを食らったシャルティアがアルベドに噛みつくが、当のアルベドは何でもない顔でそれを受け流す。

 アルベドの答えは納得のいくものではあったが、感情までは収まらない。

 なにせかれこれ十五分以上先触れもなくただ待っているのだ、守護者たちは胸の奥の不安を抑えながら談話していた。

 

「あ、あの、えっと、なんでアルベドさん、こっちをずっと、み、見てるんです、か?」

 

「いいえ、なんでもないわマーレ? ところで今夜、ちょっと貴方のところに遊びに行ってもいいかしら?」

 

 じっと注がれる視線が気になったマーレが問いかけるが、アルベドは笑顔で情欲を隠して答える。

 しかしそれを面倒見のいい姉は見逃さなかった。

 

「ちょっとアルベド! ウチの弟に手を出そうとしないでよ!」

 

「あらアウラ、ごめんなさい? でも私も”そうあれ”と生み出されたのだから悪気はないのよ」

 

「それでも! ウチの弟にはまだ早ーい!」

 

 異性を求めるのは女淫魔(サキュバス)の本能、そこに創造主による恋多き女(ビッチである)という設定が加わるのだからアルベドを責めるのは難しいだろう。

 もちろん、だからといってアウラが許すかと言えばそうではないが。

 

「アルベド、その辺にしておきたまえ。それと、本当に至高の御方々からの追加の指示はないのかね?」

 

「……無いわ。私も妙だと思っているけれど」

 

 至高の御方々は事前の連絡である”あぽ”をとても重要視していたし、連絡なしの変更を”どたきゃん”と言って忌み嫌っていた。

 それを踏まえて考えるならば、自分たちは別の意味を持ってここに集められたのではないか……? 

 ナザリックの知恵者である二人の悪魔が思索を巡らし、コキュートスが我関せずと瞑目する呼吸音だけが響く中、変化が起きた。

 

「なんですって!? それは本当でありんすか!」

 

 どうやらシャルティアが配下のシモベから《伝言》を受け取ったらしい。

 何事かと皆の視線が集まるが、受けたシャルティアは酷く狼狽してまくし立てた。

 

「し、至高の御方々がナザリック第一層から地上に出たのをシモベがみたらしいでありんす!」

 

 その言葉に場が騒然とする。

 至高の御方々が護衛を連れずにナザリックの外に出る、なんということであろうか。

 まず最初に思考をまとめたのは有事の際の指揮官役を拝命しているデミウルゴスであった。

 

「シャルティア、もはや四の五の言っている暇は無い。各階層の転移門までの移動を任せてもいいかな?」

 

「わかりんした。しかしここに来るまでにも同様にしたでありんすから、地上に着くころにはわらわのMPが底をついてしまいんす。MPが回復するまで、至高の御方々を必ずお守りすることを約束してくんなまし?」

 

「もちろんだとも。我々は至高の御方々に尽くし、その盾となって死ぬために存在するのだから」

 

 デミウルゴスの言葉は、階層守護者、いやナザリックのNPC全ての意志の代弁だ。

 全員の意志が同じことを理解し、シャルティアは《転移門》を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、来た来た。アウラ、マーレ、コキュートス、アルベド、デミウルゴス、シャルティア……全員いるな。階層守護者がナザリックを空にするたぁこりゃ本気だな」

 

「忠誠心が分かったのは良かったですけど、ちょっと重くありません? 持ち場を捨てるなんて……」

 

 モモンガのサラリーマン的価値観で言えば仕事を放り出させたように見えるので、やらせた側ではあるのだが少し気が重い。

 対してゴドリックは上機嫌に言った。

 

「まぁつまりあいつらの中ではナザリックより俺らが大事なんでしょ。愛されてるじゃねぇの」

 

「愛、ですか……」

 

 小学校の頃、唯一の肉親である母親を亡くしたモモンガには愛というものはよく分からない。

 しかし、モモンガが持つアインズ・ウール・ゴウンへの執着を愛と呼べるなら、なるほど、守護者たちの行動もまさしく愛ゆえだろう。

 

「しかし、この後どうするんです? 忠誠心は分かりましたけど、彼ら今きっと凄い拗らせてますよ」

 

「……ごめん、後のことまで考えてなかった」

 

「マジですか! いやほんとマジなんですか!?」

 

 滅茶苦茶似合わないテヘペロ☆をきめるゴドリックをガクガクゆするモモンガだったが、覆水は盆に返らず。

 

 この後、切腹しそうな程思い詰めている守護者たちを何とかケアし、改めて忠誠を捧げられてから二人はナザリックに帰還した。

 この時のモモンガとゴドリックは見た目には全く出ていないがゲッソリした雰囲気であった。

 自業自得である。

 

 

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