死の超越者と接ぎ木の君主 作:門衛ゴストーク
守護者たちの忠誠を確認し、各階層のギミックを点検して、ついでに腹ごしらえもしたナザリック最高支配者の二人は、今後取るべき行動に悩んでいた。
かろうじて近隣に"カルネ村"という毒にも薬にもならない低レベル人間種しかいない集落があることが分かったが、それ以外は未知にすぎる。
モモンガとゴドリックは情報を集めてから動くプレイスタイルが多かったので、こうも不確定要素が多いと尻込みする側面があった。
二人してウンウン悩んでいたが、ある時ゴドリックが「あ!」と声を上げる。
「何か思いつきました?」
「おうよ。モモンガさん、ストラテジーゲームってやったことあるか?」
「なんですか藪から棒に、ストラテジー……戦略ゲームってやつですよね。ぷにっと萌えさんが得意だった」
ぷにっと萌え、アインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明とまで言われていた軍師タイプのギルドメンバーである。
指揮官系のクラスを持ち、召喚した傭兵NPCの能力を底上げしながら複数同時管理をすることができたギルド内きっての知性派であった。
モモンガに情報収集の大切さと、ユグドラシルでも有数のあくどさで知られた彼の知略の結晶"誰でも楽々PK術"を教授してくれた尊敬できる人物だったが、他のギルド同士を流した情報で嚙み合わせたりもしていたのでモモンガは心の中で"ギルド一のえげつないさん"と呼んでいた。
彼が嗜んでいたゲームの中に惑星を開発し、星系規模で支配地を広げていくストラテジーゲームがあり、ランダムイベントで隕石に乗った侵略宇宙人が来るたびに"計画が狂んですよぉ! "と愚痴っていたのは周知の事実だ。
「そーそー。根拠地があって、周りはなーんもわからん。今の状況にそっくりじゃないか?」
「なるほど……じゃあとにかく支配できるところから切り取っていくべきですかね」
「おっ? その心は?」
「リアルでもゲームでも、もちろんこの世界でも土地は有限でしょう? 私たちの強さがどこまで通じるかは分かりませんけど、だからこそ、"私たちの強さが通じる場所"は確保していかないとジリ貧ですよ」
モモンガはストラテジーゲームをやったことはないが、ぷにっと萌えや他のプレイしているギルメンから触りだけは聞いている。
支配域を広げるという方針は、将来逼迫するであろうナザリックの維持費問題の解決という意味でも理に適っている。
「なるほど、限られたパイの奪い合いってわけだ。じゃあ、まずはカルネ村か? 武力制圧は難しくなさそうだが」
カルネ村はしょせん辺境の開拓村、戦える者など猟師が弓を使える程度でほぼすべてが農民だ。
ナザリックの保有する戦力を思えば、踏みにじることなど埃を散らすより容易い事である。
「いや、ここは恩を売りましょう。年に一度とはいえ王国の役人が来るらしいですし、密告されて序盤から全貌の分からない国と敵対するのはきつい気がします」
「恩ねぇ……普通に支援しても怪しいし、ここは手っ取り早くマッチポンプといくか!」
「そうしましょう。ちょうどよく森が近いみたいですから、そちらからモンスターを追い立てるだけでいいですしね」
ナチュラルに外道な手段が計画されているが、ここはナザリック。所属者のカルマ値はマイナスに振り切った極悪が多いので致し方ない事だった。
計画はこうだ。
カルネ村の村長からの情報曰く"トブの大森林"と呼ばれているらしい森側にシモベを送り込み、暴れさせて森のモンスターをカルネ村へと追い立てる。
情報系魔法で観察したところ、ろくな防備もされていないようなので村が持ちこたえるのは難しいだろう。
そんなピンチに颯爽とヒーロー登場! モンスターを殲滅し、村人たちは助けてくれた相手に感謝する……という筋書きだ。
一番リスクが高いのは村を救援するヒーロー役、もし脅威となる者が感づいていたらこの機に乗じて叩くだろうからである。
それゆえにモモンガたちはさらなる策を伏せた。
ヒーロー役はあえて囮とし、脅威となる者が出てきたら周囲に潜ませた伏兵で包囲し内と外で挟み撃ちにする算段になっている。
囮でもあるヒーロー役はHPがずば抜けて高く生存能力の高いゴドリック。
『至高の御身が囮など!』と守護者からは諫言もあったが、ナザリックで唯一ウルベルトの不意打ち《
周囲の伏兵にはレンジャーのアウラとそのペットたち、万が一のためにモモンガも待機している。
もし招かれざる敵が来たのなら、タコ殴りにされることうけあいである。
「ほんじゃーいってきまーす」
「本当に気を付けてくださいよ? もし他にプレイヤーがいそうだったら即時撤退ですから分かってますよね!」
「昨日あれだけ下調べしたじゃんよ。ま、俺のたっちさんばりの"セイギノミカタ"っぷり見ててくれなー」
(不安だ……)
念のため『
通常の情報系魔法では遠い場所の状況は『映像』では見られても『音声』は聞こえないので、いくつかスクロールを使って別の魔法も発動しておく。
状況を確認するためにカルネ村に魔法の対象を向けた途端、モモンガは現実逃避したくなった。
村のあちこちに転がる倒されたモンスターの死骸、これはいい。
驚愕しつつも、ゴドリックに期待の目を向ける村人、これも別にいい。
だが、村の広場で対峙するゴドリックと
『ふむ、どうやら只者ではないようでござるな。戦う前に名を名乗るがいいでござるよ』
『獣風情が不遜であろう……地に伏せよ、我は接ぎ木の君主ゴドリックなるぞ!』
ゴドリックさんノリノリだー!? ていうかハムスター喋るの!? ござる!?
とりあえず、ゴドリックが帰ってきたら一度説教することをモモンガは心に決めた。
それはいつもと変わらない日のはずだった。
いつものように夜明け前に起きだし、畑仕事をして、日暮れと共に眠るはずだった。
しかし、カルネ村存亡の危機はなんの前触れもなくやってきた。
村唯一の猟師が『森が騒がしい気がする』と言いだしてから数刻もしないうちに、大量のモンスターたちが森から村へと押し寄せてきたのだ。
元々カルネ村はトブの大森林で大きな縄張りを持つ"森の賢王"の近くにあることでモンスターの襲撃から逃れてきた集落だ。
森の賢王の強さゆえに対モンスターの防備などほとんどなく、モンスターはあっという間に村の中へとなだれ込んだ。
農夫や猟師たちが農具や狩猟用の弓で立ち向かうものの、あまりの数に対抗することはできず、女子供を屋内に隠すのが精一杯。
このままモンスターたちによって村は滅びるのかと諦めが広がっていく中でその方は現れた。
人間においてはあり得ぬほどの巨躯。
何かの獣が彫られた巨大な黄金の戦斧は威厳を示し。
節くれだった腕が無数に生え、それぞれが携えた武具は数知れず。
数多の腕を持つ異形の巨人を前に、村長は子供のころに吟遊詩人から聞いた巨人の王の詩を思い出した。
無数の腕を持つ巨人の上位種《
目の前で村を襲うモンスターたちを薙ぎ払うこの方こそ、詩に聞いた巨人たちの王の系譜に違いない。
異形の巨人王があれほどいたモンスターたちを残らず蹂躙し終えたころ、絶望の影がかの王の前に立った。
深き叡知を湛えた眼差し。
蛇の如く長い鱗に覆われた尾。
なんらかの魔法的意味があるのだろう紋様を毛皮に宿す力強き姿。
間違いない、あれこそはトブの大森林に君臨する"森の賢王"。
縄張りに入れば命はないとされる強大な魔獣がそこにあった。
「ふむ、どうやら只者ではないようでござるな。戦う前に名を名乗るがいいでござるよ」
積み重ねた年月を感じさせる古風な口調で人の言葉を操る森の賢王。
恩恵を与えるとともに恐怖の象徴でもあった森の賢王の登場に村人は再び絶望に沈む。
しかし、村を救った巨人王はどこまでも傲岸に、高らかに声を挙げた。
「獣風情が不遜であろう……地に伏せよ、我は接ぎ木の君主ゴドリックなるぞ!」
その声は絶望に沈んだ村人に希望を与え、そして、森の賢王と異形の巨人王の死闘が始まった。
村長は、その戦いを見たことを生涯忘れないだろうと予感していた。
※ゴドリックはめっちゃ手加減しました。