死の超越者と接ぎ木の君主 作:門衛ゴストーク
見栄えがいいよう手加減したゴドリックと巨大ジャンガリアンハムスターの戦いは、接近戦では分が悪いと判断したハムスターが鞭のような尻尾で遠距離戦に移行したので、グダグダにならないうちに近距離戦士の貴重な投擲以外の遠距離攻撃スキル《
しかしトドメを刺そうとしたところ、ハムスターは恥も外聞もない全力の命乞いを敢行。あまりにあまりな絵面にゴドリックは脱力し、とりあえずモモンガさんに丸投げしようと心に決めたのだった。
カルネ村の住民たちはゴッドリックのことを巨人種だと思っているようで、詳しい説明を面倒臭がったゴドリックがなあなあで済ませた事もあり、彼の装備
歓待をするにしても村のあちこちに転がるモンスターの死骸を処理せねばならないことから、ゴドリックには一時の住居として一番大きな村の倉庫をあてがわれ、ただ待っているのも暇なので彼はようやくモモンガに連絡を入れることにした。
〈モモンガさ~ん、どうよ? 俺のセイギノミカタっぷりは? 〉
〈ゴドリックさん……もうちょっとなんとかならなかったんですか……〉
〈あれェ? 〉
ゴドリックとしては褒められはすれど怒られる要素は無かったはずなのだが。なお、勢いで本名をバラシてしまったのでワンアウト、勝手にハムスターを受け入れているので現時点でツーアウトである。
だが結果としてゴドリックは村の救世主として受け入れられていて、これからどのように村に関与していくかが二人の考えるべきことだ。
〈問題はどういう立場で関与してくかだなぁ〉
〈俺としてはナザリックの情報は可能な限り隠すべきだと思います。他のプレイヤーが居たらマズいですし……〉
〈うーん、俺は逆に一部情報はわざと流すべきだと思うぜ? 〉
〈え!? 〉
モモンガとゴドリックはどちらもPVPにおいて情報を重視するプレイヤーであるが、自分の情報の扱いに関しては方針が異なる。
モモンガは偽情報をつかませたり情報を隠匿してアドバンテージを稼いで戦うが、ゴドリックは一部正しい情報を流すことで相手に対策させ、土壇場で前提を覆すことで勝率を上げていた。
そんな彼の考えた方針はこうだ。
偽情報ではあるが、"知っている"プレイヤーならナザリックだと判断できる程度の情報を流す。
ナザリックは末期こそギルドランキングも落ちたが、一度も他プレイヤーに攻略されたことの無い難攻不落の大拠点。敵対を考えるプレイヤーも一人二人程度で突撃してこれるほど甘い場所ではない。
逆に考えれば"そういう遺跡がある"程度の情報で訪れる相手は古参プレイヤーではありえないし、敵対するプレイヤーは準備に相当な時間をかけるだろう。
プレイヤーではない訪問者の強さを見ればある程度の外部情報が見込めるだろうし、プレイヤー相手に時間が稼げる。
〈問題はこの世界のダンジョンアタックする奴らがメチャクチャつえーって可能性だが……カルネ村の村長いわく、少なくとも王国のはそうでもねぇ奴の方が多いらしいしな〉
〈悪名が高いからこそ、ですかね。本当は他のプレイヤーが来ているなら協力したいんですけど〉
〈相手が頷くとも限らねーからなぁ。とりあえず序盤はこの『空条の刑*1』で誤魔化そうぜ〉
〈そんなオラオラした名前でしたっけ……? 〉
一応の方針が決定すると、話は雑談へと流れていく。
〈そういえばゴドリックさん、あのハムスターはどうするんですか? 〉
〈あー、それなんだが。モモンガさん、飼わない? 〉
〈いや、飼うならゴドリックさんが責任持ってくださいよ。可愛いとは思いますけど、ペットを飼った経験ないですし〉
リアルの世界ではペットを飼える余裕のある者は少なかったが、ハムスターはまだ飼いやすい部類だった。
飼っていたハムスターが寿命で死んでしまって凹んでしばらくインしなかった人も居たなぁ、とモモンガが昔の事を思い出していると、ゴドリックが話を向けた。
〈飼うなら名前を付けなきゃだよな。モモンガさんならどんなのにする? 〉
〈……………………ハム、スケとか? 〉
モモンガはだいぶ悩んで無難そうな名前を絞り出した。ギルド内でモモンガのネーミングセンスは名前負けを通り越して名前大勝利と評判で、個人的にちょっと気にしているのだ。
〈ハムスケか、モモンガさん考案にしてはシンプルで良い名だな。それにするか! 〉
〈……流石に言いすぎじゃないですか? 俺だってそれなりの名付けぐらいできますよ〉
〈ギルド名を"異形種動物園"にしようとした話は忘れてないからな〉
〈俺、いつまでその話を擦られるんですかぁ! 〉
後日、ハムスケの性別がメスであることが判明し、モモンガの名付けセンスが衰えていないことが証明されてしまったのは別の話である。
「ニグン隊長! 先行する偽装騎士隊が、襲撃予定の村におびただしい数の魔獣の死骸を確認したとのことです!」
「なに!?」
スレイン法国が擁する特殊部隊、六色聖典の一つに数えられる陽光聖典。
所属する隊員全てが第三位階魔法の使い手という選りすぐりのエリートであり、普段は人間種の生存領域で亜人種が勢力を拡大しないようにする殲滅任務を主としている。
彼らの今回の任務はリ・エスティーゼ王国が誇る"周辺諸国最強の戦士"ガゼフ・ストロノーフの暗殺。
もちろん他国が軍事的に突出するのが不快だなどという単純な理由によるものではない。
王国は肥沃な土地を持つがゆえに内部は腐敗し、周辺国に"黒粉"という麻薬をばらまく害悪国家に成り下がっている。
王国は亜人種が治めるアーグランド評議国や聖王国近くの亜人氏族ひしめくアベリオン丘陵にも面しているのだ。王国の勢威が下がれば亜人種の台頭を許すことになる。"人類の守護者"を自負する法国としては見過ごすことはできない。
王国の隣国であるバハルス帝国は優秀な皇帝を戴き、強権をもって健全な発展をしている。人類全体の利益のためにも帝国には勝利して欲しいのだが……ここで問題になるのがガゼフの存在だ。
周辺国最強の戦士ガゼフがその気になれば、単身で皇帝の本陣に突撃することも不可能ではない。事実、以前の二国の戦いでは帝国四騎士のうち二人を討ち取り圧倒的不利から勝敗を痛み分けに変えてしまったほどだ。
ガゼフ本人は信頼のおける好漢だが、王国を現状のまま存続させているというだけで害悪でしかない。これ以上王国の腐敗を看過しえないという判断から、この汚れ仕事が特殊部隊である陽光聖典に回ってきたのだが……
(おのれ……! 風花聖典め、そのような報告は聞いていないぞ! 大量の魔獣を倒せる存在が開拓村に元からいるはずがない、となると冒険者か? 不確定要素が過ぎる……)
「隊長、いかがいたしますか?」
「やむをえん、作戦は一時保留。偽装騎士隊は気づかれないうちに撤退させよ。我々は巡礼神官として慰問の体を装い情報を収集する!」
「はっ!」
幸い陽光聖典は全員が信仰系
もはや任務の遂行は難しい、在野の強者であろう存在の情報を手に入れ多少の埋め合わせとするべきだろう。
ニグンたちが襲撃予定だった開拓村"カルネ村"に到着すると、報告通りおびただしい数の魔獣の死骸がそこら中に転がっており、住民たちはその処理に追われていた。
陽光聖典は巡礼神官の一団を名乗り治療などの手伝いを申し出、住民たちから大いに歓迎された。
想定外だったのは、この規模の魔獣の襲撃を受けて死者が出ていなかったことだろうか。大小様々な傷を負った者こそ多かったものの、致命的な傷を受けた者はおらず、陽光聖典が治療できる範囲内であったのも歓迎された理由だろう。
治療という恩を受けて口が軽くなった住民から情報を集めたところ、とんでもない存在が浮かび上がった。
無数の腕を持つ、巨人の王。この村を救い、魔獣のほぼ全てを鏖殺した超常の存在。
てっきり冒険者パーティーかと思っていたニグンは虚を突かれるも、むしろ仮想敵と想定してより緊張感をもって臨む。
ダメもとで"お会いできるか? "と頼んだが、いっそあっけないほどに承諾の返事が伝えられ、村の倉庫で顔を合わせることになった。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。あるいはどれくらいの大蛇か計って伝えるのが自分の役目となるのかもしれない。