ではどうぞ
今日は天気が怪しいウラルの空。
雨は降らないみたいだが雲が濃く明るく無い。
少しだけ暗い昼頃の空でウィッチ達はユニットのプロペラを回して戦っていた。
「感情的だけどしっかり後ろに着いてくるあたり流石に前線のウィッチだな。使ってるのは旧式95だが機動技術は水準を満たしている。しかし単純だから…随分とやりやすいな」
「逃がさないわ!」
一人は黒数強夏。
ジャケットを靡かせながら空を飛ぶ。
もう一人は穴拭智子。
陸軍ウィッチとして負けられない。
二人は実力を測るために模擬戦を行っていた。
「さて、ここから上手くいけるか?」
黒数強夏は空を気にしながら逃げに徹して一切射撃を行わず穴拭智子から逃げ回る。
穴拭智子は黒数強夏の飛行訓練時間が少ない故に攻め
すると不意に黒数強夏は逃げながら後ろにペイント弾を放つ。
「やっと射撃したと思ったらどこを狙ってんのよ!ちゃんと見ないで撃ったところで当たるわけ無いわよ!」
やっと黒数強夏から放たれたペイント弾。
しかしやる気のない迎撃力に穴拭智子は叫ぶ。
その声にチラリと視線を向けてまた前に戻す。
意も介さない様子に穴拭智子はまた一段と苛立ちを感じていたが、まともな射撃が一つもないこの状況だからこそ奴は何か考えていることを穴拭智子は感じていた。
それでももどかしさは長引く。
その空の下でウィッチ達が観戦していた。
「おいおい!逃げてるだけかよ黒数」
「黒数さん!が、頑張ってください!」
「せ、先生、黒数准尉は全く反撃しません…」
「そうだな竹井。しかし彼のことだ。どこかで好転するだろう」
「え?」
「黒数はウラルの空を常に気にしながら飛んでいる。正しくは空のナニカだがな」
第十二航空隊は黒数強夏を応援する。
大半は静かに見守っているが、若本徹子のように騒がしさを抑えれない第十二航空隊のウィッチは空を飛ぶ男性ウィッチに焦燥感を投げつけていた。
それでも黒数強夏は何かを見定めるように穴拭智子の射撃を凌ぎながら時折後方に迎撃する。
「智子、なんか張り切ってるね」
「あの男性ウィッチには負けたくないらしい」
「でも、あの人…黒数強夏、中々やるわね」
加東圭子、黒江綾香、加藤武子は同じ陸軍ウィッチの穴拭智子の飛行を見守る。
終始背後を取っている状態だが焦りもしない黒数強夏の飛行に気味悪さを感じ取る。
何よりも驚いたのは黒数強夏が使うストライカーユニットは陸戦ウィッチが扱う関節付きのユニットだった。
空を飛ぶためにスラスターが取り付けられた異端なユニットだが、その性能は想像以上に高く備わっており、下で見守っている陸軍ウィッチ達は実際に飛んだとしたら彼の後ろに追いつけることは可能なのか?そんな疑問が空に投げる。
「これは……」
少し離れたところで眺めている陸軍中佐の江藤敏子はこの状況に目を鋭く細める。
穴拭智子には反撃手段として『燕返し』といった高度な動きができるウィッチだ。しかしそれは狙われる側に立たなければ意味がない。今は黒数強夏を追いかける側になっているため穴拭少尉はその背中を追う以外何もできない状態にいた。
ちらりと北郷章香に視線を移す。
その表情は余裕があり、柔らかい。
彼の強さを信じているようだ。
「自慢の男性ウィッチと章香は言ってたが、どこまでその言葉に信頼が込められているのか気になる限りだ…」
江藤敏子は視線を真上に戻した。
そのタイミングで状況は動いた。
「!」
黒数強夏は動き出した。
顔だけ後ろを振り向いて穴拭智子の位置を確認しながらペイント弾を後方に放つ。敵の位置を確認している分ほんの少しだけ射撃精度が上がっているがそれでも真上を通り過ぎて当たる気配はない。
ペイント弾を無駄にしているだけだ。
「…!!」
するとハプニングだろうか。
黒数強夏は射撃を止めると機関銃のカートリッジ部分をガチャガチャと触っていた。
もしや弾詰まりの不調か?
銃を支えずに激しく揺らしながら後方へ射撃した結果だろう。
銃の不調を直すためにほんの少しの減速してしまう黒数強夏。
その隙に穴拭智子は加速して一気詰め寄る。
「無駄な鬼ごっこも終わりよ!」
穴拭智子はユニットのプロペラを全開に回して黒数強夏へ一気に詰め寄る。
そして…
「___ああ、良いタイミングだ」
黒数強夏は空を見てつぶやき、その場でクルリと横に半回転しながら穴拭智子をと対面する様な形で姿勢を変える。
もしやこのまま射撃戦が始まるのか?
しかし弾詰まりを起こした銃で戦えるはずもなく、仮に射撃が可能だとしてもいつでも回避行動が取れる穴拭智子の方が上手だ。
しかし黒数の機関銃は下に向けられている。
更にカートリッジまで手元にある。
攻撃手段が無い。
何もできない証だ。
「残念ね!何も進展なく終わるなんて…!」
黒数強夏の飛行時間は40時間未満。
坂本美緒に続いて二番目に短い。
それはまるで新兵そのものだ。
そんな彼がネウロイを落とした??
この模擬戦ではいつまでも逃げ回り、無茶な射撃を行って弾詰まりを起こしては攻撃手段を無くした今の黒数強夏の姿は信憑性が低い。
一気に畳み掛けようと詰め寄る穴拭智子は銃口を向けてトリガーに指をかけた。
__次の瞬間だ。
「!?」
黒数強夏の魔法力が増幅する。
膨れ上がる魔法力に鼓動した黒数強夏のユニットからは一段階強く高められるとスラスターからエーテル化したエネルギーが吹き荒れる。
すると黒数強夏はまるで合図を行うかの様に機関銃のカートリッジをガチャ!と強く押し込んで真上に急飛翔した。
「「「!!?」」」
「なっ!なんて上昇力よ…!?」
まるでパチンコに弾かれた玉だ。
それを証拠に黒数強夏は歯を食いしばる。
風圧で苦しくなったのかジャケットを雑に脱いで彼は空高く垂直を目指して穴拭智子から距離を取る。
「っ!」
また逃げられる。
小さくなる後ろ姿。
彼女は追いかける。
それよりまだ鬼ごっこを続ける気か?それとも空高く稼いで弾詰まりの銃でも直すつもりだろうか?だとしたら甘い。
「そうはさせない!」
穴拭智子も垂直に飛び上がる。
あの男性ウィッチを追いかける。
このまま逃すわけもない。
小さくなるその姿を目指して。
目を凝らして、捉えようとした。
次は射抜く。
「ここで……!!」
目を鋭く、奴を捉える。
そして……
暗がりの昼空は一気に光へと変わる。
「目の
「!!!??」
人間は暗い場所に合わせて視力を調整する。
暗視のため眼が開かれるのだ。
さて、ウラルの空は濃い雲によって暗くすこし気持ちが沈みそうな明るさ。そのためいつもよりも大きく開かれた眼。ではもしココに突然、太陽の光が差し込むと人はどうなるだろうか??
黒数強夏は影を作っていたジャケットを脇に引っ込めると日陰の量が狭まり、穴拭智子にウラルの太陽が突き刺さる。
「うあ”あ”っ__!!?」
真上を向いていた穴拭智子に焼け付くような光が差し込まれた。
あまりにも眩しすぎる夏のお日様。
目は強制的に閉ざされた。
自衛のため足も止まり、思考も一時的に止まる。
その隙に黒数強化は迫った。
「貰った…!!」
「っ!!」
接近する。
穴拭智子は片目だけ半開きになりながらも黒数強夏の進行方向を予測してトリガーを引く。
しかし真上に向けた弾は当たらない。
次に穴拭智子は少しでも回避を取れるように後方に動く。
その時に見えた…黒数強夏の位置が。
「そこっ…!!……………ぇ?」
人の影だったのに___ 人がいない。
そこに居たのは黒数強夏ではない。
「!?」
機関銃にジャケットの腕が絡み付いている黒数強夏の
「残念だったな、少尉」
そんな声が真後ろから聞こえる。
銃は無いのに、一体何を……??
すると黒数強夏の手元に何かが光っている。
__ああ、そう言うことか。
手のひらにペイント弾。
弾詰まりと見せかけてカートリッジから数個のペイント弾を取り出して握っていたらしい。
それを悟った頃には、もう遅かった。
「してやられたわ……」
身体強化で上昇した腕力から放たれたペイントの弾丸は閃光を生む。
陸戦ウィッチが扱う95式のストライカーユニットを敗北の色に染めた。
♢
さて、舞鶴から扶桑前線基地に異動してから二週間が経過した。陸軍との連携力を高めるために模擬戦や哨戒任務など重ねながらこちらも第十二航空隊の練度を向上させる。
それでもまだまだ新型のストライカーユニットの性能に振り回される第十二航空隊、しかし部隊の先生である北郷の指導力が高いこともあり着々と海軍ウィッチたちが成長している事がわかる。俺も准尉として助けれる部分は補佐をしているところだ。
もちろん俺自身も鍛錬を積んでいる。彼女達に指導を行う過程で毎日のように第十二航空隊による百人斬りで気の抜けない訓練を行なっている。
最初の頃は坂本や若本を除いて1分も経たないで百人斬りを終えていたがウラルに来てからはよちよち歩きだったウィッチ達も強くなり、段々と俺も彼女達を相手に苦戦を強いられることが多くなってきた。随分と嬉しい話だ。
まだ目立った実線経験はないため実感が湧かないだろうが、北郷や俺は彼女たちの指導者として少しでも成長を実感させるように働き掛けてるので第十二航空隊のウィッチ達のモチベーションは異国に来ても高い状態で保たれている。陸軍側にも何名か新人のウィッチが駐屯しているが彼女達の実力を追い抜くのも時間の問題だろう。
「良いかい?君たちは精鋭だ。文字通り選ばれてやってきたんだ。舞鶴で一度だけ戦った事があるからとか関係ない。俺たちは北郷少佐の元で訓練してきた。その日々を得てきた舞鶴航空隊ってのは間違いなく選ばれて当然な事なんだよ!」
「「「!!!」」」
「回数とか、階級とか、そんなのは百日くらい先になったその日に考えておけば良い。結局はその百日目に届くまで得てきた経験値と努力値だけが今もこの先も物語る。だから今日も俺はお前らの自信を折るために倒す!さあ一人ずつ並べ!旧型ユニットでも新型ユニットでも好きな箒を使ってかかってこい!!」
「「「はい!!!!」」」
魔力行使によるランニングや素振り、仲間同士のかかり稽古、それらを終えてから始まるのは恒例の百人斬り。
強制参加はしていない。
フラフラでやらせるのも危ないから。
しかし舞鶴にいたその日から全員が抜ける事なく参加している。自らスパルタへと潜り込むのは皆が北郷先生に示したいため。信頼と努力を見せようとしたいから。
「黒数准尉!わたしから行きます!よろしくお願いします!」
「いつでも来い!」
互いにユニットを蒸して空を飛び、決められた空域まで飛ぶと闘気溢れる目の前のウィッチから攻撃が始まる。
放たれたペイント弾を回避しながらこちらも迎撃を行い、多大な魔法力が込められたストライクユニットの性能の暴力で一気に追い込む。
ユニットによる性能差の違いもあり大体は即座に回り込まれてペイント塗れにされたりとウィッチは1分持たないことが多いが、それでも何とかして生き残ろうとする。
__生きていれば何とかなる。
それは真紅の稲妻であるジョニー・ライデンやジオン公国軍大佐ノリス・パッカードが経験浅い新兵に教えていた事。
「や、やられた…!」
「最後は立ち止まったな。でも即座に上を取ろうとした動きは良かった」
「はい、ありがとうございました!」
「よし、次ッ!」
俺と北郷はやり方が違う。
北郷は戦技研究の技官としてユニットの性能を活かした戦闘技術をウィッチに落とし込む教育方針であり、勝ち負けはあまり関係させない。
それに対する俺はかなり厳しめの掛かり稽古と言うべきだろう。自分よりも強い敵と対面した時に易々と落とされなように立ち回らせるための訓練だ。
強い敵ってのは大体自分よりも動きが速いことが多く、基本的に何もできずに落とされる。それはエクバシリーズにも当てはまることで高機動の機体に対してハメられるのはストライクウィッチでも変わりない。
北郷も「速い敵は恐ろしい」と言っていた。
戦技研究の技官が言うなら間違いない。
でも理解していれば対策はおのずと出来上がる。
そのため機動力の高い敵に対して自衛力を伸ばさせるため戦いの中で頭と眼を慣らさせる必要がある。あとフラッシュ暗算による訓練も行っている。
俺はそれをウィッチに叩き込んでいた。
「っ、やはり速いっ!ッッ、でもっ!」
「おお?」
「なっ、外したッ!?」
「おうおう、やるじゃねーか!でもコレで終いだな」
素早い敵にも慣れてくれば迎撃のタイミングや攻撃の差し込み方もわかってくる。
理解力とは、適応力であり。
適応力とは、生存力であり。
生存力とは、戦闘力であり。
戦闘力とは、理解力に直結する。
戦いを知ってるから対応できる。
そして
それを全員が知れば全員が戦えるようになる。
そのためこの先で生き残ることが重要だ。
だから理不尽を知ってもらう。
そしてわかったのなら考えてもらう。
エクバのプレイヤーは連コインしてそうしてきた。
「次っ!」
「はい!」
撃ち落とす。
「次だ!」
「行きます!」
撃ち落とす。
「さあ!次は誰だ!?」
「バカ数!今日こそは!」
撃ち落とす。
「もっとだ!もっと来い!」
「さ、坂本美緒!押して参ります!」
撃ち落とす。
「はぁ、ふーぅ……よし、次は誰だ?」
「竹井醇子です!よろしくお願いします!」
模擬戦のルールとして自動的に展開されるシールドを張った時点でウィッチの負け。もしくはユニットが少しでもペイントに染まった時点で負けの判定。それは墜落した判定になるから。
「ふー……終わりか?全員か…?」
「うへー、強いよー」
「黒数ちゃんすご〜い」
「ダメだ勝てない、強すぎる…」
「准尉、相変わらず容赦ないね…」
「11人連続で相手して、コレって…」
「ちくしょう!また黒数にすぐやられた!」
「い、一分は、持ったぞ……でも疲れたぁぁ」
「ん、終わりみたいだな」
やっと地面に降りる。
目の前にはユニットを外して座り込み、息を絶え絶えに敗北を受け入れたウィッチ達が悔しがったり、一人で反省会を開いたり、大の字で倒れていたりと様々だ。
ちなみに俺も息が上がっている。
流石に大変だし、とても厳しい稽古。
何せこの娘達も段々と強くなっているから回数を重ねるたびに俺も危うくなる。しかし俺まだ空で誰にも負けてはない。准尉としての意地もあるので俺も彼女達に追い越されないよう頑張らないとならない。
まあこうした相互関係があるからこの百人斬りの訓練は全体的に練度を向上させる事ができるので効率がいい。俺は先生側だが随分と鍛えられるのでありがたい限りだ。
「今回は俺も流石に危なかった。つまり君たちが全体的に強くなってる証だな」
「「「!!」」」
「明日は今日より4ミリくらい強くなってるはずだから今回の掛かり稽古は仲間と反省点と情報交換するように。飯を食いながらでも、湯船に浸かりながらでも、夜寝る前にでも自由にしてくれ。じゃあこの後はユニットの外装を綺麗にして訓練終わりにする…解散ッ!」
「「「お疲れ様でした!」」」
「それと卵焼き焼いといたから、好きにしろ」
「「「食べりゅゅう!!」」」
訓練が終われば甘い卵焼き大好きな女の子に早変わりするウィッチ達、ストライカーユニットを抱えて格納庫に駆け出した。
俺は正直なその後ろ姿を見送りながらカラカラと笑いながら…
「黒数さん、これを」
「いつもありがとう、竹井」
バインダーを受け取ってそれぞれの成果を確認する。半数以上が1分を超えて、坂本美緒が今回3分を超えていた。二週間前までは誰も数十秒で終わってたのに成長したな。
「えへへ…今回も私は一分未満でしたね…」
「ええと竹井は、36秒……普通だな!」
「ふ、普通…」
「ま、この部隊ではな」
「?」
「つまり他の部隊なら普通以上ってこと。普通以上ってことは上に伸びてること。伸びてるってことは成長していること。つまり君は大変良くやっている訳だ」
置きやすい位置にある頭をポンポンと叩いてやれば「ぁぅ」と反応する竹井。
「北郷先生の訓練を受けてるウィッチだ。そしてその北郷先生から絶対的信頼を受けているこの俺が君達に空を教えるんだ。成長して当然だよ。当たり前だよなぁ??」
「うわわわわ!!」
わしゃわしゃと乱暴に頭を撫で回す。
軽くお眼目がぐるぐるになる彼女の眉間に2本ほど指をトンっと置いてやれば彼女はハッとなって俺と視線が合う。
「君は立派だよ、竹井醇子」
「!」
「これからも頑張ってほしい」
「ぁ……っ、はい!」
まだ殻の付いたヒヨッコ。
俺がその頭をわしゃわしゃしたところでその殻は自分で外すしかない。でも頭に付いたモノくらい外せる腕が彼女にはあるんだ。俺はその時を見守ろうと思う。これはとある人の約束だから。
「黒数、お疲れ様」
「北郷か。どうやら会議は終わったみたいだな」
「ひと段落ってところかな… お?今日はどんな感じだい?」
「ん、これ」
手元にあるバインダーを見せる。
「坂本が3分18秒か」
「新型に対する技術力が一番あるよ。若本とは相対的に落ち着いて空を飛んでいる。まあ落ち着きすぎて攻撃回数は少ないが…」
「だが一撃離脱の戦法によく合う。若のように突貫力があるのも良き事だがな。しかし数値化すると良く見えてくるな」
「むしろなんで今までやってなかったのか不思議だねぇ。なぁ、北郷少佐?」
「うぐ……き、君が惨めに空から落ちなければ良かったんだ」
「なにが『うぐ』だよこの甘ちゃんめ。実験中に堕ちてくたばっていた俺も悪いけど、君も少しながらでやり過ぎたな?」
「わかっている…その通りだ。魔女候補生だった彼女達の指導に手を抜いたつもりはないがそれでも変わりなさすぎた。君と言う人物を見てきたのに私は私のままだった。今でも恥ずかしく思ってるよ」
互いに思い出す苦い記憶。
俺は何もしてあげれず、そして彼女は何も変わらず、ただ魔女候補生だった舞鶴航空隊の育成に励んでいただけ。別にそれが間違いだとは言わない。
しかしまだ幼い彼女達にできる事を幾らでも増やせる筈だった。そんな俺は情けなく倒れてないでもっとはやく彼女の手伝いをしてあげれたらどれだけ良かったかと、今でも後悔している。
だから今取り戻そうと頑張っている。
そのための数値化。
フラッシュ暗算と似たようなモノで、それらを数字に出して、彼女達に積み重ねの数量を理解してもらう。
重ねてきた
北郷章香にも言った言葉だ。
「彼女達はまだ新兵。だから知ってる事、できる事、先人だから差し出せる事を彼女達に見せてやらないとならない。俺が黒数強夏だからやってあげれる事を彼女にしてあげるんだ。もちろん北郷もな?」
「当然だ。そのために無茶も通した。技官もやってきた。裏切らないように努力するさ」
「それは頼もしい。なるほど、だから皆はそんな北郷先生のことが大好きなんだろう。ああ、好かれることは良い事だ」
「!」
自己評価が低い皆の先生。
実際に彼女は弱音らしき言葉を吐いている。
自分は舞鶴くらいしか守れない、と。
だから強くなる皆に扶桑を託したい、と。
生徒にそう言って、生徒もそれを知っている。
でも先人として彼女は示す、その強さを。
それから、めいいっぱいの優しさも与える。
そんな素敵な北郷先生が皆は好きだ。
だから皆は北郷先生に応えようとする。
ちゃんと彼女は慕われているんだ。
階級など関係無しに。
「ぅむ……な、なら、君は?」
「?」
「いや、その、好かれ…ええとだから、君は…」
「え?…あー、そうだな」
「…」
「俺はまず胃袋を掴んで皆に好かれたよ。コレが俺のできる事だからな」
「ぁ、いや、そうじゃなくて……だから…」
「?」
「君も私が…いや…なんでもない…」
「ええ?なに?」
「もういい…うるさい」
「ふぁ!?遅めの反抗期…!?」
どこか不機嫌そうにポニーテールを揺らして去っていく北郷。
俺は「えー?」と頭を傾げながらもバインダーの紙に目を通しながら後にした。
ちなみに格納庫から「やはり夫婦だな」とウィッチ達が顔を出して頷いていた。
もちろん俺や北郷は知る由も無い。
つまり第十二航空隊は平和です。
つづく
軍神の隣に立つ男が弱い訳がない。
それ相応にやって来た、この12話まで。
ではまた
スピンオフ『1937扶桑海事変』は読んだことありますか?
-
ある
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ない
-
存在だけは知っている