10月14日。
夏が終わり、秋の肌寒さと衣替え。
新型ユニットの実戦投入が完了しつつある扶桑皇国軍はウラル前線を押して、これをしばらく支配していたが、人類の敵となるネウロイも少しずつ攻勢が強まっていた。まるでこちらの環境に合わせる如く新型の数も過去に比べて増えている。
その対策と対向を繰り返す人類は常に新兵器の更新が求められるようになったが、着々と補給と供給がネウロイに追いつかなくなり始めていた。武装面が足りない分はそれぞれ個々の強さが求められるようになり、制圧力の高いウィッチが前線に要求される。
そのため第十二航空隊は陸軍の第一戦隊に、戦力的にも精神的にも追いつくよう戦況に煽られる状況が続くが、まだ年いかぬ子供にその役割を背負わすには重たすぎる現状。それでも空の上で引き金を引けるその指を常に必要とするのがこの戦争。酷いこと他にない。
しかしそんな重苦しい現実と現状を打破しようとする貢献者がウラルの前線にいた。
それは北郷少佐の側近で潤滑油となって活躍する世界に一人だけの男性ウィッチ。
その男性ウィッチは舞鶴に突如現れた以外に詳しい報告は無く、北郷章香が連れてきたことだけが報告書に刻まれているだけ。
ただ海からの噂ではブリタニアに渡欧した宮藤博士の使用人であり、軍の非公認として存在が隠されていた素性の知れぬ青年だとか。しかし目撃者があまりいない故に信憑性は薄い。この辺りは何処かしらで紐解けば真実に行き着くだろうが今回、着目すべき点はそこでは無い。
人類の希望となる青年に秘められた多くの謎は大変魅力的な話だが、扶桑皇国軍として見るべき点はその活躍である。
まず彼の初出。扶桑海軍では軍神として謳われる北郷章香が黒数強夏の身元や軍属歴に追及を入れず、半ば強引に民間兵として舞鶴航空隊に当て嵌めるところから始まった。
最初は特に大きな目立ちは無く、むしろ一時期は民需の病院で眠っていた。
どうやらストライカーユニットの整備で大事故を起こして入院してらしいがここで黒数強夏から魔力反応を確認してしまう。
だがこの辺りは北郷少佐の手回しにより黒数強夏の情報は隠蔽されていた。また軍の息が届きづらい民需の病院だけあってその情報が扶桑皇国軍に届くまで数ヶ月程度の時間をある程度要した。
そして黒数強夏の存在が知れ渡ったこの時、舞鶴の海に新型のネウロイが現れると舞鶴航空隊の魔女候補生は迎撃のために初陣を飾る。
しかし練度の低さと実践経験の無さに次々とウィッチ達は新型ネウロイにて落とされる。まだ殺傷力が低い攻撃により魔女候補生から死亡者が出なかったのは救いだとしても、防衛線を突破するネウロイに北郷少佐は集中砲火を浴びて追い込まれてしまった。
これには遠くから状況を見ていた海軍は出撃に手間取り、軍神として名を飾る北郷章香の損失に焦りを生み出していた。
そして舞鶴を通して扶桑皇国はネウロイの攻撃によって損害を生み出してしまうのか?最悪なケースが頭を過ぎる視線の先で一つの彗星が舞鶴の空を疾った。
空を飛ぶひとりの男性ウィッチ。
それは数ヶ月眠っていた黒数強夏の姿。
舞鶴の魔女候補生と北郷章香を救い出し、舞鶴の空に侵攻してきた新型ネウロイの半数以上を撃退する素晴らしい活躍を見せた。
これも後に知ったが、彼もアレで初陣らしい。
表向きとしては…
そして、誰かが言った。
__あれは、ウィザードなのか…??
突如現れ、人類の厄災を振り払う。
厄災によって汚されることがなかった舞鶴市の夕焼けの真ん中で、手の甲を光らせたその後ろ姿はまるでウィザードの再来かと思われた。中にはアレこそが伝説のウィザードだと狂乱する者もいたとか。
それから舞鶴の縮図から放たれるようにその青年は第十二航空隊の精鋭としてウラルの前線に赴くと、その羽は広げる場所を得たが如く、ウラルにて獅子奮迅の活躍で扶桑皇国軍に貢献した。
人類は言う。
彼がストライカーユニットを履けば、彗星の如く戦場を駆け回り、文字通り流れ星の如くネウロイの頭上を通り過ぎると、厄災は瞬く間に打ち砕かれる。
また異空間から召喚される多くの兵器はまるで奴らを滅するために取り出された死神のレールのようだ。数多の兵器にて無慈悲にネウロイを葬り、これらを容易く蹂躙する。しかもとある線戦では地に朽ちたネウロイの装甲を踏みつけながら次の厄災を葬るがために空を見据えたていたその後ろ姿は『黒い悪魔』として兵達から恐れた。
あれこそ人の身で厄災を体現した姿である。
目には目を。
厄災には厄災を。
空を飛ぶ凶器には、
あらゆる者が彼を恐れて、讃えていた。
しかし、それは戦場の姿。
基地に戻れば……彼は違った。
まるでどこにでもいるような青年。
北郷少佐のように正しく築かれた人格者。
第十二航空隊のウィッチ達を育て、戦力強化のために働き、ひとりの大人として少女達に良く見聞きしてあげ、戦場に出ればウィッチ達と共に空を駆け巡る。
編成されたばかりの小さな部隊に所属してるとは思えないほどその青年は多くを貢献した。
人々はその活躍を聞き、そして世間は、もしくは世界は彼に大層な『名』を送った。
人類の希望を意味して
__奴が欲しい。
__奴は利用価値が高い。
__奴を、あの者を引き抜きたい。
__彼の遺伝子はこの先とても重要だ。
__あのような部隊には大変勿体ない。
軍は彼を知り、彼を欲するようになった。
この世で唯一、ただ一人だけの男性ウィッチ。
これを野放しにされて良いものか??
良い訳がない。
もっと利用価値があるはずだ。
もっと重要なところで扱われるべきだ。
そうすれば栄誉も報酬もありのままだ。
だから…
だから…
だから…
ああ、だから…!!
「我が軍の風下に収まるといい!」
「断る」
「な、なんだと…!?」
「名誉も、報酬も、待遇も、あと用意された
「な、何故だ!?お主が頷けばそれで済む話なんだぞ!?」
「ああ、知ってるさ。外側は硬いが内側は容易く、今の俺が、今の立場を否定すれば、それで関係も仮初も全て簡単に終わりを迎える。しかし俺は傾かない」
「なんだと…!」
「これは純粋な話だ。俺は俺を必要としてくれる人の元にいたい。それが第十二航空隊だった話だ。それ以上でもそれ以下でもない」
北郷少佐が認可しなければ何も傾かない。
ならその本人を揺らして傾かせる。
そのために多くの取引を見せた。
名誉、階級、地位、報酬、声明、権利。
そして、遺伝子の器とする女性。
または選りすぐりの美女を。
頷きたくなるような高待遇が待ち受ける。
しかし、だが、しかし。
その青年は何一つ、振り向かなかった。
「何故だ?何故、そこまで??」
「俺はそれ以上を求めない。そもそも大体が勝手にそうなってるだけだ。俺自身が大層な役割をしてるとはあまり思ってない。周りは讃えてくれるようだけどな。もちろんプロパガンダのために手は貸すさ。けど、他はいらない」
「な、なんと、無欲な男だ……」
「俺はただ手の届く距離と約束を守れるならそれでいい。だから俺は望まない。だから周りが俺の代わりとなって勝手に望んでる。俺は英雄なんかにはならない。この器はその真似事をしているに過ぎないからな」
難しいことを言って誤魔化されている気がする。
わかることは絶対に頷かないとだけ。
それでも中には理解した者もいる。
その青年の意志で働きがあることを。
だから青年は笑っていることがわかる。
それはどこか愛おしそうにも見えるらしい。
なので、理解すれば案外簡単だ。
なら理解者はどのように感じたのか?
それは…
それは…
つまり……
「黒数強夏は純粋に一途ってことよね」
どこか呆れたように声をこぼすのは陸軍中佐の江藤敏子だった。
彼女の手元にはプロパガンダの一端として長々と書かれた彼の新聞記事だ。
随分と熱量が込められた長文を読んで、彼女は黒数にそう結論つけた。
__ただ単に、彼は一途なだけ。
その証拠として視線の先では見慣れた光景が広がっていた。
「北郷、ちょうど良い。話がある」
「黒数か、どうした?」
「ああ、一昨日話した件なんだが…」
「なるほど。それに関してか。ならお茶でも飲みながら話さないか?また羊羹が届いたぞ」
「マジ?食べる」
「ふふっ、なら一緒しようか」
その男性は沸かしたヤカンと湯呑みを持ちながら隣へ気軽に話しかけ、その女性はその人だから特別浮かべれる笑みでコロコロと穏やかさを転がしている。
だからか、肩を並べて歩く二人。
それは黒数強夏がいて成り立つ光景。
まるでそのために彼が居るが如く、隣を歩く。
もう随分と見慣れてしまった二つの姿だ。
「夏が終わったのに、まだ暑いわね…」
それは彼が持ち歩くヤカンのせいだろうか?
それともまだ夏の暑さが引きずっているのか?
もしくはあのウィッチに熱量を込めたから?
ああ、そうね。
それはおそらく、どれもだろう。
江藤敏子はまた呆れたようにする。
次は笑って呆れていたが。
「軍事で忙しかったからあまり考えなかったけど、こうして見るとあの関係も案外羨ましいく感じるわね。ほんとに」
思わず妬いてしまう。
何せまるでそのためだけに現れたような人間。
ヒーローであるウィッチを、ヒロインにしてしまったような本物のヒーローが。
だから難しく考えるのをやめて、簡単に考えてからそう結論付けて、長々と書かれた黒数強夏の
「わたしも勝手に望むわ、
ああ、それが正しい。
♢
さて、夏も終わり本格的に肌寒くなる。
秋がやってきた訳だが、つい前日扶桑前線にさつま芋が届いた。なので朝早くから落ち葉をかき集めて仕込みして、さつま芋放り込んで焼いて、寝起きのウィッチ達に振る舞おうと思ったその矢先にだ。
ネウロイの登場に邪魔された。
ただでさえ楽しみが少ない時代。
その少ない中での楽しみが食事だというのにそれをネウロイに邪魔でもされたらそりゃ俺だって、頭にきますよ!
厄災が相手だろうと食べ物の恨みは恐ろしいって事を叩き込んでやるべきなんだよね。
オラオラ!
ぶち込んでやるぜェ!!
まあ、とりあえずまずは、仲間が先だが。
「あの、わたし、これでいいんでしょうか…」
「いいんだよ竹井、俺たちはあくまで空域哨戒として周りの制空権を確保、そしたら下にいる若本達が頑張ってくれる。新型相手にな」
「………」
「戦場で考え事はやめとけ、死んじゃうぞ」
「!?……わかりました」
一度機関銃を握り直した竹井を横目にこちらも確保した制空権から周りを警戒する。
するとインカムから騒がしく聞こえる。
どうやら北郷達が数機の新型ネウロイと衝突したようだ。
若本からはネウロイの機動力に対して驚くよう声が聞こえ、ガランドからは落ち着くように宥める声も混じる。
こちらも誘爆性の低いクレイ・バズーカを召喚して新型ネウロイの逃走経路を予測しながら周りを警戒する。もし見つけた場合は軍から支給された機関銃を使って牽制するが場合によっては位置バレ覚悟でクレイ・バズーカで一撃粉砕を狙う。
本当なら自動シールドの使えない俺は目立たない方が良いがその時は竹井のシールドを当てにする。まあ被弾状況を作らせない方が理想的だが。
「竹井」
「!」
「君は俺の下に付いて三ヶ月だ。舞鶴からウラルまで俺と行った模擬戦は70回以上。ウラル前線の援護として出撃した回数は4回。あとネウロイ討伐のために直接駆り出されたのも3回で計7回だ。しかも初陣は降下強襲爆撃といった普通なら新兵には任せられない大役を無事に果たして今も生きている。この数ヶ月でこれだけを竹井がやってきた。まだ自分がどれだけ凄いのか実感できないかい?」
「それは… で、でも、そこには北郷先生や、若本ちゃん、それと美緒ちゃんに、そして黒数さんが…」
「ネウロイをほとんど倒して、自分は何もできていない、そう言いたいのか?」
「……」
「なるほどね。だとしたら……それは盛大な勘違いだな!」
「わぷっ!?ぁ、ぁ、ぁぅ!」
戦闘待機中とは言え竹井の隣まで近づいて手を伸ばし、その頭を真上から掴んでワシャワシャと雑に撫で回す。こうすればいつも通りの声の間抜けな声が竹井から漏れる。
「く、くろかず、さん…!」
「この俺が言う、君は周りに劣らない」
「!」
「竹井だけの強さがある。それは……っと!」
突然空気が変わった。
現在の高度に新型ネウロイが上昇してきた。
どうやら数機のうち一機だけ逃走している。
俺はそれを見てインカムにスイッチを入れた。
「穴拭、3発撃つから一気に追いかけろ」
『了解っ!!』
インカムから聴き慣れた彼女の声を受け止めながら高速で逃げ回る新型ネウロイの進行方向にクレイ・バズーカを撃ち放って妨害する。回避運動のために減速した新型ネウロイの真下から一人のウィッチの影、扶桑刀を引き抜いた穴拭が回り込んだ。
「そこぉ!!……なっ、浅い!?」
「おいおい」
穴拭に追われていた新型ネウロイは強引に方向転換を行なってさらに上昇すると穴拭の扶桑刀の斬撃を浅く済ませた。
しかし機動力にリソースを分けすぎたのか小さなヒットアタックでも致命所に近いダメージのようであり、あとネウロイの再生が遅い。
それこら装甲が脆いのか無茶な軌道を描いて装甲が剥がれて空中分解手前に見える。
ネウロイも案外性能に溺れるもんだな。
「俺たちが一番近い、追いかけるぞ!」
「は、はい!」
スラスターとプロペラを多く回して追尾する。
浅く斬られてもまるで深傷を負ったように姿勢運動が不安定なネウロイ、その真後ろはすぐに取れた。
俺はクレイ・バズーカを肩に担ぎながら腰にある機関銃で射撃を行い、隣で飛ぶ竹井も訓練通りに両手で固定して精密な射撃を行う。
「お?なんだ、ちゃんとやれるじゃないか…」
しかも距離を詰めながらしっかり射撃で追い込む姿勢を守ってる辺り、百人斬りの無停止を絶対条件とした高速戦闘訓練技術が活きている証拠だろう。
竹井は北郷とはまた違った自己評価の低さを持っているウィッチだが、訓練の成果をしっかり物にしてる辺り要領が高いことが伺える。ならあとは自信つけてもらえれば、もっと彼女は先を行けるはず。
「……………」
………ほんと、嫌だなぁ…
小さな子供にそんなこと考えるなんて……
苦しい世界だ………
「俺が左右を奪う!竹井がとどめを刺せ!」
「!?」
「片手じゃ当たらないんでね!両手撃ちが得意な竹井に任せた!」
「っ!」
それでも彼女にネウロイと戦う意志があるなら導くだけ。
残弾がゼロのクレイ・バズーカからザク・バズーカに切り替えてトリガーを引く。
狙い定まっていないバズーカはネウロイの左右に逸れたがそれだけで充分だ。
ネウロイはバランスを崩す。
「これで、落ちて!」
すると隣にいた竹井がプロペラの回転を上げて速度を上げるとネウロイの上を取り、ガチャっと銃口を定める。
ネウロイの真後ろを取るよりも、真上から撃つ方が見える装甲の範囲が広く銃撃の命中率が上がる。隣にいた俺がそう指示を出した訳でもなくこの状況で彼女は自分の考えで動いた。
そして竹井はトリガーを引く。
新型ネウロイは空で爆ぜた。
「おお、新芽もやるじゃないか、章香」
「新世代に安心したかい?ガランド」
「前から安心はしてるが、見て確信だな」
「そうだな。自慢の教え子達だ…」
扶桑前線に赴任中のガランドも扶桑ウィッチの練度の高さと安定した空戦に頷き、北郷も教え子の成長にホッとしながら竹井の活躍を下から見守り、先生として誇らしげに笑みを浮かべていた。
「う、撃ち落とし…た?」
「よくやった、理想的な動きだったぞ」
「く、黒数さん…!」
「追撃の際、自分からネウロイの真上を取って攻撃の命中範囲を広めた。最適解を理解してるからできる賜物だ。それはつまり竹井の重ねてきた経験と努力の証、自分の積み重ねを裏切らなかった。よくやったよ」
「!、!!」
「准尉とか抜きにして、俺が竹井の頑張りを誇りに思う。だからありがとう」
武器を握った手で流石に頭をワシャワシャとしする訳にも行かないので、ニカッと笑いながら親指を立てて彼女の成果を誉める。
そして仲間も合流を開始。
竹井もワンテンポ遅れて追いかけてくる。
「低コストらしい、動きだったな」
北郷や坂本が3000や2500だとしたら竹井は2000くらいの力だろうか。
他のコスト帯に比べて爆発力に欠け、扱いが難しい不安定なコスト帯だが、位置取りと体力調整の見極めが出来る者ならば2000の強みを大いに引き出せる。
それが竹井だとしたら…
「僚機として頼りになるなぁ、本当に」
戦況を握るのは3000と考えられるがその支え柱を作るのは案外2000コストだ。
これらが的確に仕事すれば、敵なら鬱陶しいことこの上ないのが抵コストの強み。
おう、つまりお前のことだよアルケイン。
あと烙印、テメェもやぞ。
お前ら違う意味で姫プしてんじゃねーぞ。
「さて、帰ったら改めてさつま芋だな」
ウラルの秋風は、次世代の息吹かな。
ここに新しい風が舞い込んでいた。
♢
さて、任務を無事に終えた午前中。
午後になると俺は焼き芋をウィッチ達に振る舞った。それから俺も遅れて焼き芋を齧りながら北郷が不在の執務室で今回の戦闘データを整理する。今回現れた新型ネウロイに関してだが恐らく今後はもう現れないだろう。
何故ならコチラにあの性能が通じないことを知ったから。なのでネウロイも新たに進化を重ねてコチラを凌駕してくるだろ。そのため人類側も今後の予測も必要になってくる。つまり新たな武器の新調やストライカーユニットの性能向上が求められ、俺たち自身も戦術の見直しを行なったりと忙しくなる。今頃陸軍の加藤中尉が頭を悩ましながら上層部に新兵器の提供を掛け合っているだろう。
俺も帰ってから忙しく、第十二航空隊のローテーションを確認して予測外にも対応できるよう後で北郷にも考案する必要がある。
てか新型ネウロイが現れるごとにコレだ。
対応と対策の繰り返し。
エクバも同じ。新しい機体が投入されるたびに阿鼻叫喚しながら機体の対策を考える訳だ。それがリアルで起きている。でも彼方では百円玉を入れて新機体の恐ろしさを確認できるが、この世界では空で命を支払って初めて新型を理解するようになる。随分と軽い命だ。
まあそろそろ本格的に寒くなる。
そうなるとネウロイも大人しくなる。
奴らは冷たい空と水は苦手のようだ。
なのでしばらくはその勢いも鎮まる。
唯一、人類が息を吐けるタイミングだ。
「てか、このさつま芋、もう少し甘味が欲しいな」
忙しくも、一足先に息を吐いてる俺氏。
もし次も同じ質のさつま芋が届いたら薄く焼いてハチミツでも付けて少しスイーツ風にしてみるか?お金がそんなに多くなかった孤児院でもさつま芋はコスパが良かったから良く作ってあげた記憶。
立派な兵士になった第十二航空隊のウィッチとはいえ、まだ子供だから喜ぶだろ。
コンコン。
「?、どうぞ」
扉に声を掛ける。
すると…
「あの、黒数さん、失礼します」
「お?竹井か、どうした?」
「ええと、お茶を持ってきました…」
「おお、ありがとうな。丁度欲しかった」
戦いでは最後の辺り勇ましかったのに、基地に戻って今はまた借りてきた猫のようにおとなしくなった。まあそれが竹井だろう。
そんな彼女からお茶を受け取って喉に流す。
程よく熱い温度だ。
もしや気を利かせてくれたのか?
__だとしたら将来良い奥さんになるな。
「ふぇ?」
「?」
竹井の素っ頓狂な声が耳を通り抜ける。
どうした?
「あ、いえ、なんでもない、です」
「?」
とりあえずお茶を飲み干す。
彼女にお礼を言いながら書類に目を向けるとまた不意に声をかけられる。
「あ、あのっ!」
「?」
意を決めたように声を上げる竹井。
少し驚いた。
しかし彼女は続ける。
「く、黒数さん!その、た、たくさんをありがとうございます!」
「おお?どうしたんだ?突然面白い扶桑語にしてきて」
「え?あ、いや、これは、ぇっと……ぁぅ」
「どうどつ、少し落ち着きな。ちゃんと聞いてるから」
と言っても、少しプスプスと顔を赤くしながらお盆で顔を隠す。
随分と可愛らしい。
その頭またワシャワシャとしてやろうか?
「んー、そうだな… よし、竹井。少しそこに座ってくれ。俺と話をしよう」
「はなし…?」
俺は机から立ち上がり、二人分の椅子に竹井と並んで座る。少し緊張気味の彼女に俺は引き出しにあったお菓子を渡す。そんな俺は袋を開封してバリバリとお煎餅を齧ってお腹を少しだけ満たすと竹井もおずおずと袋を開封してお煎餅の先端をリスのように齧る。
ある程度お煎餅を食べてお茶を喉にながしてから不意に俺は語る。
「俺はさ、確かに舞鶴にいた頃は誰よりも竹井に気にかけた部分はあった。君も恐らく分かっているはずだ。私は舞鶴航空隊の誰よりも心配されているんだと、な」
「!」
俺は舞鶴で目を覚まして、准尉として舞鶴航空隊に加わり直して、北郷と共にウィッチ達の教育に力を注ぎ始めた。
そこには役20名を超える魔女候補生。
その中で俺は竹井醇子を強く気にかけていた。
ほんのちょっと過保護だったかもしれない程度によく気にしていた。
でもそれにはちゃんと『理由』があった。
「でもさ。ウラルに来てからの君はちゃんと前に進める立派なウィッチだと分かった。だから俺は改めたよ、君は立派なんだって」
「そう…でしょうか?」
「そうだよ。だから俺は決めたよ。
あの『約束』はもう必要が無いなって」
「約束…?」
「元扶桑皇国海軍、竹井准将」
「!!??」
「君の『お爺さん』との約束だ」
_まーた面会ですか?俺は動きませんよ。
_これは失礼。確かに車椅子で不自由する老いぼれの相手は面倒じゃろ。だが少し付き合ってくれぬか?
_そうだな…面白い話をしてくれる庶民派なら老いぼれだろうと好きかな。
_ほほほっ、そうかそうか。なら丁度良い。儂も療養中故に軍服は許されておらぬ身での。しかしそんな錆びた老いぼれは過去の栄光、つまり未来の自慢話をさせてはくれんか?
_未来の自慢話?
_……聞いてくれるか?
_聞きますよ。車椅子に鞭打って来てくれたんだ。貴方のような澄んだ方なら聞きたい。
_ほほほ、澄んでるときたか。なら儂もまだ捨てたもんじゃないな。ありがとう。なら少しだけお主の時間を失礼しよう。黒数殿、先の短い儂には、この先多くの未来が待ち受けるウィッチが一人いる。その者は北郷少佐を師として仰ぎ、舞鶴航空隊の魔女候補生として奮起しておる。名は竹井醇子。儂の大事な孫娘だ。
_孫娘……
_とても可愛らしい珠のような子じゃよ。
_その子を、俺に…どうしろと?
_なに、ただお主に見守ってほしい。お主がウィザードじゃなかろうとも、ウィザードのような人類の救世主なら、どうか未来の若者を見守ってはくれないか?
_何故俺に?あの場には北郷少佐がいる。
_お主の眼は少女を兵士として見ない
_!!?
_故にお主の声は近しく分けなく暖かく感じておる。それはウィッチの存在を少女としてそのままに受け止めているホンモノだからじゃな。
_それは、今の時代で愚かでは?
_でも彼女達は、まだ子供であろう。
_それは、そうだが…
_なら……お主なら
「君のお爺さん、本当に凄かったぞ。初めて出会ったその数分でそう言ってくれたんだよ。あんなの初めてだ」
「お爺ちゃん…」
「で、話の通り俺は竹井を気にかけた。でもちょっと違った。君のお爺さんは『見守って』欲しいと言っていた。そんな俺は君に贔屓していた。つまりそれは成長を信じてなかったことになる。だからごめんな…竹井」
「っ!ち、違います!私は黒数さんがいたからこんなに頑張れました!そんなこと考えないでいいです!」
やはりこの子は優しい子供だ。
戦いに出る必要のない子供だ。
だがそんな子供に、俺は戦いを教えてくる。
必要とは言え嫌になるな…
本当に…
「わ、私、本当は、特別ウィッチになりたいなんて思ってなかったんです。でも世界がウィッチを求めるから、たまたま魔法力が見つかって講道館に行って、そこでいろんなウィッチ達に出会って、それで美緒ちゃんにだって…」
服をギュッと掴んで彼女は語る。
そこには劣等感を交えながら。
「でも、たくさん劣っているから、たくさん怖くなって、それで…ダメになって…」
「たくさん…か…」
そうは言うけど、実際のところ最新鋭の第十二航空隊の隊員を見たら少なからずそうなるに決まってる。俺だってたまに思う。空はともかく地上では木刀を握ると未だ坂本美緒や若本徹子に勝てないんだから。強すぎだろ。
しかしその第十二航空隊をそうしてるのは紛れもなく俺や北郷だ。恐らく扶桑海軍で一番成長が早い部隊だ。なのでグングンと伸びていくあのウィッチ達を見て見劣りを感じてしまうのは仕方ない話だと思う。
その中でワーストって言葉を当てはめるなら竹井醇子になるだろうが…
いやでも…
「君は、とても立派だよ?」
「はい、黒数さんは私に何度もそう言ってくれます。そして黒数さんなら嘘を言ってない事はもちろん分かってるつもりでした。でもその言葉が私には遠くて、雲のようで、だから私こそ黒数さんを信じてなかったと思います。むしろ一番信じてなかったのは私の方で…」
「いや、竹井、それが普通だよ。特段おかしくなんてない」
「…そう、ですか?」
「ああ、そうだ。大体俺だってな『歴史の英雄たるウィザードの真似事してウィザードのような活躍ができるだろ』って整備士のハッパさんに何度も言われた事がある。そんなの言われたところで俺はあまり信じてなかった。だって考えてみろ?自動でシールド張れない実質オワタ式な英雄なんてひっくり返せばただの空飛ぶ馬鹿だ。良くも悪くも運の良いだけの男だ。そんな奴に『お前は英雄になれる』なんて言われても疑うって」
俺はハリボテのウィッチ。
叡智から託された貰い物によって空でイキっている主人公だ。よくありげな二次創作物の主人公のそれ。俺はそんな奴だ。そもそも二十歳超えた大人が何やってるのやらと今でも思う。
思うけど…
けれど…
「誰かが俺にそう期待する。そうなってくれると信じている。それってあまり無いことだと考える」
まあこんな世界だからこそ一日でも早く厄災を振り払ってくれると信じている。
いや違う。
そのナニカってのに信じていたい。
なんでもいいから、そうであってほしい。
その必死さが無力な人々から伝わっている。
「そうして出来上がったのが機動戦士願那夢って大層な望みかな。世界も随分と好き勝手してくれる。でもそれだけの大役を誰かが果たしてくれるような夢物語を地球の引力に縛られた人類達が宇宙に願っている。その対象ってのが黒数強夏だった話だ。皆が俺に期待する」
「…すごく、重たいですよね……」
「そうだな。重くて重くて、本当に重たくて仕方ないよ、竹井」
椅子に腰深く凭れ掛かり、天井を見る。
半年前までは平和ボケしてた人間だ。
戦いなんて画面越しだけ。そう考えていて、ブリタニアで武器を握りしめて、小さなウィッチと共にネウロイを討ち滅ぼした。初めて敵を殺して俺は生き残った。そこからこの世界が望む俺の役割は決まったんだ。知ってるから。分かってるから。俺から始まった。
「……こわい、ですか?」
「もちろん!」
ケロッとしながらバッと起き上がる。
それに驚く竹井。
俺はなんてことないフリをする。
フリをしている……が、でもそれでいい。
「だから考えすぎないで良い。もう始まってしまった物語だ。戦いに身を投じてしまった以上は考え過ぎない。でも考える。生きるための戦いと帰れる場所を。そのための力はここにあるから」
重たい役割だけだ、それ相応がある。
真似事をするくらいのソレがある。
なら俺はガンダムを信じている。
「だから竹井、よく聞いて。さっきの話だ。信じられるのも、信じられるのも、まずは疑うところから始まる。人間はそれが普通だ。だって自分のことは自分がよくわかってるつもりだから他者から受けた想いや言葉が自分相応なのかなんて、そんなの自分が決めることだ。信頼なんて基本は難しいんだよ」
だからニュータイプに希望を抱く。
そこに偽りなんて物は一つもないから。
「空を飛んでるのは自分だから、自分しか信じてないのは当然だ。周りの期待なんて恐ろしく極まりない。俺だっていつまた北郷の
エクバもそうだ。
素性知らぬ相方をシャッフルで信じれるか?
難しいだろ。
つまりそういう事だよ。
「…けど……けど…誰か、が…」
「?」
「誰かが、わたしにそうであって欲しいと思ってくれるなら、そこにがんばりたいと思うのは変ですか?」
「!」
されどこの子はとても優しい。
悩まして、苦しんで、考える。
でも、誰かに向けて頑張りたいと思える。
歩の遅いウィッチだけど、その分、踏み締めた足とその地固めはとても強固である。
恐らく、それが竹井の強さ。
「そんなことない。すごく同感だ。その通りだよ」
「わっ…」
その頭に優しく手を置く。
手触りが良くて、優しい温度が伝わる。
その時、カラカラと笑う癖に何かと自己評価の低い彼女の姿を思い浮かべた。
確かに、そうであって欲しいと思うなら、その人のために頑張りたいと思ったのは、おかしくなんてないはず。
『だから、その信頼に、くろかずに、わたしのよわさを、どうか、置かせてくれ…』
__きみ、抜きでは、無理だ……
その言葉は今でも覚えている。
だから頷いた。
彼女のためにしてあげれることを。
頑張りたいと思うことを。
俺は『誰か』に始めた。
「やはり、君は立派だな。自慢だよ」
「あ、ありがとう、ございます……えへへ…」
褒めるところしかないので褒める。
そして素直だから素直に喜ぶ、少女。
「だから俺は、そんな君に2つ分、見せないとならないことがある」
「2つ…?」
ひとつは…
コツンと彼女の額に指を置く。
「世間では俺を最強と思ってるらしい。衰えを知らぬ故に空から宇宙に向かう英雄だとか。それが
だから…
「竹井__そのくらいすごい俺を信じろ」
「!!」
目を見開く少女。
それは身長差があり、大人だからやれる事。
それは子供騙しを指に乗せた、ズルさ。
「そしたら世界が最強と謳う黒数強夏って男性ウィッチが信じる竹井醇子ってウィッチはどうやらこの世界で間違いないからな」
額に置いた指を再び彼女の頭に。
少しだけワシャ、ワシャと二度、触れた。
「そして、もう一つは」
俺はその頭から手を離して…
「俺は
「!!」
対等に__願う。
年齢など、階級など、そんなの関係なく。
ここにいる俺が、黒数強夏が、願っている。
この素晴らしきウィッチに。
「黒数さん」
願いは届いただろうか?
彼女は改めてこちらに向き合う。
「わたし、頑張って、黒数さんにもっと信じられたいです。だから黒数さんを信じます」
その眼は優しくも、強固である。
あの車椅子の老いぼれと同じで。
「だから、わたしも、もう一度だけ」
ほんの少しこぼれていた涙を彼女は拭い。
その表情は劣等感に苦しむ姿はなく。
劣等感を理解した上での姿。
「黒数さん!わたし、もっと第十二航空隊で頑張りたいです!そして黒数さんだけじゃないです。北郷先生や美緒ちゃんや、そして皆のためにも私はウィッチとしてもっと高く飛べるようになりたい。そしてそうなれる気がします、ここなら…!」
「!」
「最初に出会ったのは北郷先生です。でも今一番出会えて嬉しかったのは黒数さんです!だから見守ってくれた黒数さんに、気にかけてくれた黒数さんに、わたしはまた告げます!たくさんをありがとうございます!そしてこれからも!」
__よろしくお願いします!
ああ、なんだ…ここにいるじゃないか。
なあ、見てるか?不自由な世界よ。
もしくは重力に囚われた人類たちよ。
俺なんて
彼女こそがウィッチで、人類の願いや奇跡を背負える空だよ。
「ああ、よろしくな、竹井」
「はい!」
___お主なら
ああ、確かに、その通りだと思うよ。
車椅子のお爺さん。
貴方の孫娘は、立派な未来のウィッチだ。
つづく
~例えばこんな数年後~
_え?わたしが尊敬する人ですか?
_はい、そうですね。
_まずわたしの先生、北郷中佐。
_それと坂本少佐もです。
_もちろん他にも多くいますよ。
_皆さまはとても立派ですから。
_でも…
_先人として私が一番尊敬している方は…
部下を束ねるようになったウィッチは空を見る。
あの広いどこかで飛んでいるだろうか?
それとも、もうその場所で飛んでないだろうか。
わかるのは、その者のみ…
広大なこの宇宙を辿る…
_いえ、なんでもないです。
_その人は、皆が等しく思ってます。
_どこまでも素敵な方だったことを…
_解散したあの日から誰もがそう感じてます…
記憶と共に、強固な眼が優しさで語る。
もう一度だけ空を見た。
どこかで 彗星 が疾った気がしたから…
的な??
違う意味で黒数は遺伝子を残しましたね。
さてはオメー主人公だな?
ではまた