GVSウィッチーズ   作:つヴぁるnet

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第19話

 

「はぐれ…ネウロイ??」

 

「ネウロイってのは群体だから基本的に固まって行動する。そこにはネウロイを統率する隊長機が必ず存在する。しかしその隊長機が何かしらの理由でロストした場合率いられていたネウロイは巣に帰ろうとするが、一部のネウロイは稀に彷徨い始めることがある。この時に自立してしまったのが、はぐれネウロイ」

 

「つまり、私たちは辻斬りに遭ったと?」

 

「そう言う事だな。しかもこういったネウロイは強いケースが多い」

 

「!!……そんなことがわかるのか?」

 

「これはまだ仮説だが『はぐれ』と化すネウロイは生存本能よりも戦闘本能が強い。故に統率よりも本能を優先することで自立性を得てしまうんだ。そうして群体から離れてしまい、戦闘本能が溢れるほど戦闘能力が高いネウロイが誕生する。想像してみろ。自身の命を省みない狂戦士が無数の爆発物を抱えて特攻してきたらそこにいた奴らはどうなる?それが今回は翔鶴だった」

 

「なんと恐ろしい…」

 

「統率性を持つ限りネウロイはまだ利口。だがはぐれと化したネウロイは違う。ネウロイは命で生きていない。だから特攻することに抵抗がないんだ」

 

 

身体強化を使い、翔鶴の内部で崩れ落ちた装甲や壁、瓦礫を片付けながら、松葉杖で体を支える隣のウィッチに今回の襲撃を考察する。

 

消化作業は既に終えてるのでこの船が燃える恐れも、沈む恐れもない。

 

あとは援軍に来た他の船に牽引されて扶桑に帰投するだけ。

 

 

 

「情報と援護を感謝する、黒数准尉」

 

「准尉は付けなくていい、新藤少尉」

 

「え?いや、しかし…貴方にも階級が…」

 

「俺に対して階級に拘らないでいい。ただし俺も人の階級にも拘らない。拘るのはそこに敬意するべき人間だけ」

 

「しかし、軍規は…」

 

「わかるよ、わかる。君は勤勉なウィッチに見える。大事にするべきところは大事にする。でも高ければ良いって話じゃない。それ相応ってのが俺の考え。もし与えられただけで、そうじゃない奴が踏ん反り返ると言うなら、シャゲダンでもして煽ってやるよ」

 

「シャゲ…ダン?」

 

「左右にブレてやるってこと。敬意を表するための敬礼ってのは体が真っ直ぐだろ?これは軍律を守るために必要な出発点と終着点。シャゲダンはそこから逸れて従わないってことだ。まあ度が過ぎると北郷が困るから嫌なやつでもある程度は仕方なーーく守るけど、だが!この願那夢を従わせれるのは俺自身と北郷少佐の2人だな」

 

 

 

俺が堅苦しいの嫌いなだけで屁理屈捏ねてるところもあるが、俺が階級を理由にして頑なに従わないのもちゃんと理由がある。

 

俺は立場上、また存在上、他の者に靡けない。

 

例えその場所で軍規を掲げられても理にかなわない事は絶対に従わない。

 

口だけの輩も同じだ。

 

理由があり廃れきった者だろうと関係ない。

 

俺というカラクリを明かされては困るから。

 

だから人格者として信用できる北郷章香以外に触れさせてはならない。

 

俺は彼女に……北郷にしか委ねない。

 

 

 

「話をしていれば扶桑の船だな。ウィッチもいる。舞鶴に駆けつけてくれたようだ」

 

「雪風と時津風…!援軍に来てくれたか…」

 

「あれなら充分に引っ張れるだろう。それなら俺はお暇させてもらうよ。予定よりも二時間多くハッパさんを待たせてるからな」

 

「そ、そうか。行ってしまうのか」

 

「もともとテスト飛行のつもりで舞鶴の近海を飛んでたからな。そこにたまたま翔鶴がはぐれネウロイに襲われていた。狙撃が間に合って良かったよ…… あと見られたのが一人だけで良かった。あ、その件は他言無用な?コレに関してはさすがに隠しておかないと面倒だから…」

 

「もちろんだ。あの黒数准… いや、黒数さんのお陰でこの船は救われた。多くの乗組員やウィッチたちを失わずに済んだ。この礼は必ずさせてほしい」

 

「人類が願那夢に願った。それが声になって届いた。それだけのことだから気にするな、無事で良かった」

 

 

残りの作業は任せても平気だろう。

 

俺は新藤美枝に背を向けながら手を振り、ストライクユニットに魔力を通して一気に空へ上昇する。

 

ストライクユニット特有のスラスター音に気づいた翔鶴の乗組員達は空に向かって大声を上げて可能な限り手を振った。

 

 

「ありがとう!」

「願那夢っ!ありがとう願那夢!」

「黒数強夏!助けてくれてありがとおお!」

「おれたちの英雄!扶桑最強のウィッチ!」

「やはり彼はウィザードの再来なんだ!」

「あなたに感謝を!彗星の魔女!」

「ウラルの黒曜石!」

「ウラルの羽ばたく英雄譚!」

「助けてくれてありがとうおお!!!」

 

 

 

たくさんの声を受ける。

 

一度だけ翔鶴に振り返り、生き残った彼らに手を振って応える。

 

そうするとまた一段声援が大きくなり、海に生きる扶桑人達が俺を見送ろうとしてくれた。

 

そして最後に、遠くの海から声を届かせてくれた勇敢な扶桑のウィッチ、新藤美枝に目で挨拶して一気にブーストダッシュで翔鶴から離れた。

 

瞬く間に小さくなる船。

 

しかしあそこには何百と人が乗っていた。

 

それをたった一機のネウロイが人類を蹂躙しようと空から襲いかかっていた。

 

 

追えない人類の先進。

 

届かない人類の武器。

 

敵わない人類の戦術。

 

 

この冬を最後にネウロイは人間程度を時代遅れとして扱った。

 

その恐怖を刻んで人々は次の年を迎えることになる。

 

そしてまた無慈悲な厄災が、芽吹くはずの春に始まる。

 

 

 

 

「新藤、今は生き残れよ。助けられながらでいい。生き残ればその先で何とかなる」

 

 

 

 

冷たい冬の風は鋼鉄を冷徹にさせる。

 

それは艦船もネウロイも同じ。

 

真冬の季節が扶桑を包み始めていた。

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

 

 

「そんじゃ世話になった、ハッパさん」

 

「気にすんな。しかし滞在日数たった一週間で帰るとか随分と忙(せわ)しいな。しかも話の限りだとお前さんが乗る船は一度佐世保を経由するんだろ?そこまで急がなくても10日待てば舞鶴から浦塩に直行する奴もあったろうに」

 

「確かに舞鶴からウラルへの直行は予定されてるが4日前の騒動によって元々高かった緊張感がより高まり扶桑をつなぐ海路は不安定と断定された。なにせ前日扶桑海にやって来たはぐれネウロイの存在に扶桑皇国軍が気づかなかった程だからな。しばらくは海域調査を強化するためこれ以上の被害を減らそうと出航数は減らされる見通しになる」

 

「んあ、そういうこと…」

 

「察してる通りそんなわけだから10日後に直行が予定された船があっても変更される可能性はあるから近日中に出航が決められた連絡船に乗ろうと決めたんだよ。直行の方が到着早いかもしれないが正直ここら辺は誤差だよ。出航予定変更なく決められた船の方が確実だから今日乗ることにした」

 

「んあ、なんだい。前線が心配で居ても立ってもいられないとかそんな訳じゃないのか」

 

「あはは、それもある。そりゃ第十二航空隊は半年前と比べて随分と立派になったがそれでもウラルを放ってはおけない。今回のことも早く知らせて北郷とまた戦技の練り直しだ。早めの対策が重要だからな」

 

「そうかい。決めたのなら止めやしねぇよ。なら引き続きウラルを頼んだぜ__願那夢」

 

 

 

艦船の軽空母『大鳳』に乗り込み、見送りに母港まで来てくれたハッパさんと別れる。

 

乗船して、転落防止柵に体を預けながら甲板から五日間程テスト飛行でお世話になった舞鶴の航空路を遠目に眺める。

 

それから俺がまたウラルへ出航する話は広めていないのに何処からか聞きつけたのか数十名ほど舞鶴市の住民達がハッパと並んでウラルに向かう俺を見送ってくれている。

 

どうやらまた舞鶴市を救ったことが知れ渡ったらしく、英雄扱いしてくれるらしい。

 

願那夢な俺は人類の希望として来年もまた続くんだと思いながら手を振りかえす。

 

 

 

 

 

 

__ありがとう黒数強夏、またどこかで

 

 

 

 

 

声が届いたのでそちらに振り向く。

 

遠くに見える堤防に手を振ってみた。

 

見えるだろうか?

 

俺は見えてないがちゃんと聞こえた。

 

その届き手はかなり遠くだ。

 

でも確かに松葉杖のウィッチがいる筈。

 

そう思いながら小さくなる舞鶴に背を向けた。

 

 

 

 

 

…

…

…

 

 

 

 

 

 

 

「佐世保って長崎だよな?だとしたらあるかなー、皿うどん」

 

 

デッキブラシを握りしめて寂しい独り言は海の彼方へ。

 

乗員とは言え何もしないのは体に悪いので甲板掃除を手伝っている。

 

最初は「恐れ多い!」と断られたが、空を飛ばない黒数強夏は願那夢じゃないので気にすることはない、ってことでデッキブラシを掠め取って掃除する。

 

この時に薄く身体強化をつかって作業するとなかなか鍛えられる。第十二航空隊がウラルに来たばかりの頃によくやった訓練法だ。慣れくると魔法力の運用がとても上手くなり魔力の燃費が良くなる。

 

例えるならアレだ、ドラゴンボールのセル編でセルゲーム始まる前に孫親子が日常でスーパーサイヤ人状態を維持してたアレ。魔力を無駄に多く使わず必要分だけを丁寧に丁寧に使用する訓練だ。燃費が良くなると数値的に増えるし楽になる。

 

もちろん俺も毎日やっている。

 

最初は鉛筆をそこそこ折った。

震える湯呑みで火傷もした。

勢いよく扉をぶち開けて壊した。

扶桑刀の丙部を握りすぎて潰した。

 

繰り返して、繰り返して、繰り返した。

 

半年で大体出来るようになった。

 

なんなら舞鶴ではリハビリ中だってした。

魔法力の存在バレたし躊躇わなくなった。

 

 

「あ、雪…降ってきたか…」

 

 

暖かいものが食べたい。

 

あんかけ系が良いな。

 

やはり皿うどんだよ。

 

てかこの頃って長崎に皿うどんはあったか?そもそも皿うどん自体いつからあるのか不明らしいが…

 

しかしうどんそのものは江戸よりも前からある訳だから、うどんを焼く発想があるなら皿うどんくらいある筈。いやでもそれは現世での話でここでは何か変化はあるはず。

 

あ、変化といえばこれもハッパさんから聞いた話だけど、この世界での織田信長は本能寺の変で死ななかったらしい。

 

あぁ^〜 原作壊れちゃ〜う^

 

しかも信長の側近にいた森蘭丸ってのはウィッチらしく、なんなら存命した先でそういった関係になったらしい。

 

男と女が二人。

何も起こらないはずがない。

 

しかしそうなるとこの時代で森蘭丸の遺伝子引き継いだウィッチがいたりしてな。てか時代が時代だからユニットも無しに空飛んで一騎当千の活躍をしたんだったんだろ?まず本能寺の変ってくらいだ。ここが原作通りなら変わらず大きな戦いの中で生き残った戦国ウィッチだ。強さが違う。

 

そんな血筋がウィッチになったら猛威を振るだろうな。

 

 

 

「そりゃ俺の遺伝子も欲しがるわけだ…」

 

 

 

この世界だから時折始まる生々しい話。

 

でもそれは俺だから避けれない内容。

 

それは世界で一人だけの男性ウィッチ。

 

軍神(北郷)と並ぶ扶桑最強だとか何だとか謳われているため、ウィッチといったアイドル目線よりも英雄視されるべき人類の希望。

 

その活躍は瞬く間に広がり人々の認知された。

 

結果として……俺は狙われた。

 

この体の、血を、肉を、因子を、遺伝子を。

 

黒数強夏の『力』を欲する者が現れた。

 

 

 

 

_強くて美しい絶世の美女(ウィッチ)を用意した。

_女は好きにしていいから、その種を寄越せ。

 

 

 

_我が国が誇る家名を集わせたから選べ。

_地位も名誉もくれてやる、その種を寄越せ。

 

 

 

_ジャンヌダルクと共に戦った血筋がいる。

_最強同士掛け合わせたい、その種を寄越せ。

 

 

 

 

 

俺は 望まない 望めない そんなことは

 

 

 

 

__何故頷かない?

__何が不満だと言う?

 

 

__何がダメなのだ!?

__これは人類のためだぞ!?

 

 

__貴様はもっと恵まれるべきだ!

__我と来い!英雄は相応しく有るべき!

 

 

 

 

 

靡かない 頷かない 望まない 願わない

 

 

 

 

 

 

「コレは貰い物だ。俺の力じゃない」

 

 

 

 

都合よくある力で強いことをしているだけのそこらの二次小説と変わらない良くありげなキャラクターなんだ。

 

運良く俺tueeeeeが出来ているだけ。

 

俺自身は皆が両手を上げて喜ぶような大層な血筋を引いておらず、そこに力も能力もない。

 

一般家庭で生まれた人間だ。

 

人間でたくさんだ。

 

ただのガンダム好きな青年。

 

至って普通な人間がやれる遺伝子がここにあるものか。

 

俺は違う。

 

だからそんなことを望むな。

 

望むのはせめて願那夢だけにしろ。

 

空で厄災を打ち払う願と(那)夢だけを見てろ。

 

それが君たちの願いだろ。

 

 

…

 

…

 

でも…

 

「でも、仮にだ…」

 

 

 

 

仮に…

 

ああ、仮にだ。

 

こればかりは何度も言う。

 

これは仮の、話だ。

 

もしこの体の血筋にそれ相応のホンモノが流れていたとして…

 

男性の役割として女性に注げる良種を秘めている人間だとして…

 

高貴なる人間同士で子を成すことがこの時代では至って普通の倫理観だとして…

 

そうすることは何も間違いがなくむしろ男として誉高く、正しいことだとして…

 

人類にとって大いに望まれる結果だとしても…

 

そうだとしても…

 

それが正当に選べれることだとしても…

 

それが人類のためだとしても…

 

それが必要なことだとしても…

 

 

 

 

 

___俺は首を横に振って断るだろう。

 

 

 

 

 

だって…

 

なんか…

 

こう…

 

他の女に…

 

俺ってのを捧げるというのは…

 

その…

 

 

 

 

「何故か、すごく嫌だから……」

 

 

 

 

子供っぽい理由が空に消える。

 

これは男として譲れない感情か、それともただ単に受け付けれないからか、理由がわからないわがままな子供が駄々をこねたソレか、自分でもよくわかってない。

 

でも…

 

なんか、それが嫌なんだ…

 

 

 

 

 

「…………ふみか」

 

 

 

 

 

無意識につぶやいた名前。

 

息を吐くように、ほんの少しこぼれた。

 

しかし俺はそのことに全く気づかない。

 

冬の寒さに肌が痺れてるからかわからないがそこに認識がない。

 

いつのまにか解いていた身体強化を入れ直してデッキブラシを動かす。

 

意識出来たのはそれだけ。

 

無意識以外はいつも通りだ。

 

ただ唯一…

 

はやく彼女に会いたいと、思った…

 

求めた願いは白の息として吐き出される。

 

行先はウラルの方か、舞鶴の方か。

 

その名は届くかもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

♢

 

 

 

 

 

 

 

「先生の勝ちです!」

 

「なに…!」

 

「だぁー!坂本でも勝てないのかー!」

 

 

竹井の笛と声、坂本の静かな声、若本の元気な声、冬の寒さに負けない子供達の彩りは白の中で混ざり合い、第十二航空隊は今日も一歩ずつ進む。

 

 

「雪も降ってきたし、今日はここまでにしようか」

 

 

 

12月の初期。

 

空の冷たさにユニットも鈍くなる。

 

代わりにネウロイもそう多くない。

 

唯一、戦いに明け暮れる人類が休まる季節。

 

皆はそれぞれ暖をとって英気を養う。

 

それが人類に許された憩いだ。

 

 

 

「あー、みんなは今の戦闘脚で行える回避機動について何か掴めたりしないかい?」

 

 

暖かい室内に戻り、暖かいお茶で一息付く。

 

周りの子供達もお茶を飲みながら考えた…

 

 

「なんか重たいです」

「寒くてわかりません」

「わかんなーい」

「空で、脳が、ふる、える!…のかな?」

「それは無茶な機動するからでしょ?」

「魔法みたいです…」

「わっかんねーぇ!」

 

 

総勢11名の第十二航空隊。

 

今は黒数が八羽中尉に呼ばれて舞鶴に戻って抜けている。

 

なので私を除いて9名の航空ウィッチたち。

 

訓練生を卒業した彼女達に今回の回避運動訓練の成果を尋ねたが、ピンとした答えは返ってこない。せめて「重たいです」と答えたウィッチだけが参考になる情報か。いや、これは純粋に寒波でユニットが鈍って重く感じているだけだろう。

 

そもそも魔力行使中のウィッチは身体能力が上昇するため重たい銃火器も軽く扱えるようになる。自動で展開するシールドと同じでユニットの魔力補助もあるが、ウィッチの身長の6割ある戦闘脚も例外なく足だけで振り回せるほどに身体強化される。または筋力強化と言った方が正しいか。まあそこはいい。

 

それでも少々ながら重たく感じるのは確か。

 

鉄の塊だから。

 

 

「黒数准尉ならどうするんだろう?」

「そもそも足を止めないって言うからね」

「見て回避は私達には早いってよ」

「シールドに頼るといつか命落とすって…」

「当たらなければどうってことない」

「言った!回避すれば解決だって!」

「准尉と先生だけよ?私達はまだ無理ね」

 

 

そしてこの子達は良く出来ている。

 

考えを放棄しない。

 

自分達でだめなら誰かを参考にする。

 

それを訓練に繋げれるか考える。

 

そう、黒数が考える癖をつけさせた。

 

脳を動かし、体に落とし込む。

 

フラッシュ暗算を利用して鍛えた。

 

 

 

『早い段階で知れることは知っておいて損はない。そしたら日常の一部になる。そうなればキャパシティーが空く。また新たに覚えれる枠が出来る。その時にコレまでよりもっと大きなナニカを吸収するようになる。彼女達には今からそれを繰り返してもらう。いつしか息を吸うようにやってくれるさ。だって人間はそれが出来る様に作られてるからな』

 

 

 

130年分の記憶ツールが人間の強み?

 

それを聞かされた時なんのことかと思った。

 

でも可能性らしい。

 

彼の生きている先の時代ではそこまで人の解明が進んでいた。なんなら人間の脳はまだ10%も使ってないらしい。それが20%になった時人は人を超えるだとか。

 

なんとも信じがたい話だけど黒数を疑わない私がいる。

 

それは私が彼のことを深く信じ込んでいるから。

 

彼なら大丈夫と言える信頼。

 

彼なら問題ないと頷ける実績な。

 

彼なら委ねれるその暖かさを覚えた肌が。

……まったく、ウラルが寒いからかな?

 

彼が発ってからまだ二週間だと言うのに。

今少しだけ彼の温もりが恋しくなるのは…

 

 

「あー、先生まただー!」

「また考えてるよ」

「ほんとうだ」

 

 

「ふぇ?え?な、なに?考えてるって?」

 

 

「みんなわかってるよ、先生のその表情」

「うん、黒数さんを思い浮かべた顔」

「すっごく優しくなってしまう」

 

 

「ぁ、ぇ?そ、そ、そうか…な?」

 

 

「ポニーテールが尻尾みたいに揺れてる」

「推せる」

「え、何その言葉?」

「黒数が言ってたよ?推しって言うらしい」

 

 

頬をペタペタと触る。

 

そんなに変な表情してたかな?

 

鏡がないとわからない。

 

でもそう言われるとちょっと恥ずかしいな…

 

 

「いつも優しい先生がまた一段と微笑む」

「やっぱり黒数マジックだよね、コレ」

「特攻!黒数特攻!別の意味で!良い意味で」

「先生かわいい〜!」「推せる!!」

 

「あ、あはは、はは…?あー、ええと、そんなに先生のお顔変だったかの?むぅ…なんか、少しだけ恥ずかしいな…」

 

「「「あ、これはきゅんです」」」

 

 

 

たまにこの子達、黒数の影響なのか教えなのかわからないがたまに変な事を言い出す。

 

しかもよく統率が取れたように言葉揃えて反応するから少し遅れ気味な私は何を返すべきか分からず困ってる。

 

フラッシュ暗算以上に厄介だなぁ、コレは。

 

とりあえずお茶を飲んで気持ち誤魔化す。

 

ふー、あったかいな。

 

 

 

「あの、先生って…」

 

「??」

 

 

 

そして__油断した。

 

とあるウィッチが不意に尋ねた。

 

それは爆撃型ネウロイ以上の投下だったこと。

 

 

 

 

 

 

「黒数さんと結婚するんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

喉が死んだ。

 

 

 

 

 

…

…

…

 

 

 

 

 

 

「かひゅ、かひゅ、けっほ…けっほ…」

 

 

私は咽せる喉を抑えながら「これで終わり!閉廷!以上!コレで解散!」と自分でもよく分からない語録を飛び出させながら反省会を切り上げて逃げ帰るように食堂を飛び出た。

 

そ、それにしても…

 

いや、び、びっくりしたぁぁ…

 

 

「や、やれやれ、あの子達も随分と躊躇いが無くなってきたことだ。それも全部どこかの誰かさんに似てしまったみたいで…… まったく、困った人だよ、キミってのは…」

 

 

 

個性的な魔女候補生に集われた第十二航空隊だったが、私に軍神の威名が備わっていたため少し遠慮気味に距離を測っていた。

 

けれど「階級なんざ飾りだろ?」と軍規を覚える必要のあるはずの新兵ウィッチ達にそう落とし込んだ上に「准尉は付けなくて良いぞ」と階級関係に拘らせないやり方で距離感を作り接してきた。

 

頭の硬い内弁慶な扶桑皇国軍が見たらさぞかし驚かれるだろう。

 

何せ扶桑の英雄かつ最強の人間が部下にそんなやり方を落とし込み、付け加えるなら軍規や軍律にまったく意識がない姿勢を見せて自由を先行させる。前にも言ったが子供達の近所に住んでいる愉快なお兄さんポジションが良く似合う人だ。躊躇いもなく持ち込んでいる。

 

だがそんな彼の姿を見た第十二航空隊のウィッチは若本を筆頭に遠慮を無くすことを覚えるようになり、激戦を免れないウラル戦線でも笑って語り合える、そんな環境を作り上げた。

 

私なんかではできなかった。

 

彼だからできたことだ。

 

その活躍は第十二航空隊を強くした。

 

感謝しかない。

 

いつだってあの人は、私を大いに助ける。

 

それから、あと…

 

 

 

__そろそろ終いにしてやるよ!北郷!

__随分とご自慢だな!!

__普通なら機関銃で牽制!

__なのに刀には刀で挑んできたその愚直さ!

__北郷の負けだな!

__だぁぁぁ!!捕まえたァ!!

__沈めェェぇぇぇえ!!!!

 

 

 

あんなにも強くなってくれた。

 

頼もしくて…

 

とても頼もしくて…

 

だから、どこまでも…

 

彼は……

 

 

 

「で?結婚するの?」

 

「え?……う、うわああああ!?と、敏子!!」

 

「あははは!驚きすぎよ」

 

「な、なっ!き、きみは…!…もう!!」

 

「ふふっ、ごめんって。しかしそれにしても隙だらけじゃない?こんな誰もいない廊下でボーとしててたら彼がなんて言うかしら?」

 

「け、結婚はまだしないから!!」

 

「あらあら、知らないところでフラれちゃったわね、黒数准尉?」

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

「ヌっ!へっ!へっ!ヘックション!」

 

「おいおい、兄(あん)ちゃん急にどうした?なんか目力強くなりそうなくしゃみしてよ?噂でもされてるのか?」

 

「ただ単に寒かっただけさ。それより店員さん、皿うどんのおかわりあるか?」

 

「あるぜ。サービスするからたくさん食ってくれよ!って、それより兄ちゃん何処かで見たことあるな?…もしや有名人か?」

 

「どうかな。ただ皿うどんが恋しいだけの一般人のつもりだ_」

 

「それよりもお兄さん!私も一緒におかわり良いですか?あと三杯はいけますから!」

 

「那佳お嬢ちゃん?奢りはするけどキミはもう少し遠慮ってのを覚えてもろて」

 

「誰かに奢ってもらう!これ大きな節制ですから」

 

「やだこの子、すごくたくましい」

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フってない!」

 

「そうね。だって『まだ』って言ったもの」

 

「ぇ、ぅぁ…?!そ、そのつもりじゃない!」

 

「あら、なら放って良いんだ」

 

「ぅ、ぅぅ!?ぅ、ぅぅぅぅう!うあ!ああああああああああああ!!!」

 

「なるほど、黒数准尉が言う限りだとこれが脳が破壊されるって状態なのね。あとマーモット状態だったかしら」

 

「鬼畜か!?鬼畜なのか!?」

 

 

ストライカーユニットのようにブンブンと回るポニーテールを落ち着かせて敏子に詰め寄る。

 

彼女は「ごめんごめん」と笑いながら謝る。

 

ま、まったく!この人は日々のストレス解除方を友人で揶揄うことにして!

 

 

 

「でも貴方と黒数准尉、とてもお似合いな組み合わせだと思うわよ?それ以外に有り得ないってくらいにね」

 

「それは…………そのぉ……うん」

 

「……あ、もしかして、章香に誰か許嫁が__」

 

「ああ、それはない。仮にそんなことがあっても私は私より弱い者と嫁ぐつもりはない」

 

「あ、うん。流石に北郷の家名を背負った華族(かぞく)*1ね。ズバっと言ってくれるわ」

 

「だから…私は私で決める」

 

「…… でも真面目にお似合いだと思うわよ?章香と黒数さん」

 

「でも、私は……それが、叶わないんだよ」

 

「それは…黒数さんの方に誰かが居るってこと?」

 

「違うんだ。違うんだよ。私にも、彼にも、誰もいない。でも…ダメなんだよ」

 

「…」

 

「すまない。今日は少し疲れた。私は行く」

 

「え、ええ…お疲れ様、章香」

 

 

 

そう言って親友と別れる。

 

自室にたどり着き、扉を閉める。

 

上着を脱いで、ベッド腰掛けた。

 

 

誰もいない部屋でため息をついて、呟く。

 

 

 

 

「彼はこの世界の人間じゃない。戦争のない元の世界に帰るために戦っている。終わったら帰るんだ。だから求めることが出来ない。そうしてはならない。わたしなんかが… 彼を掴んではならないんだよ……」

 

 

 

そのままベッドに転がり、天井を見る。

 

今は扶桑に居るから、ここには居ない。

 

でも彼は第十二航空隊に帰ってくる。

 

そしたら彼が居る限り賑やかは続く。

 

けど既にある喪失感は、ナニカを締め付ける。

 

 

 

「…」

 

 

 

思い出す。

 

赤城での訓練の成果を、ウィッチのシールドが張れないから作り上げたビームシールドを、守るための盾を、空を隣にする私との約束を守ろうとして、舞鶴の空でその盾を使って私と約束を守ってくれた。

 

私の涙と想いを受け止め、共に背負うことを選んでくれた。約束の続きをはじめて私の隣に彼がいた。第十二航空隊を一つの居所としてあの人は私と歩んだ。ここまで来た。ここまで皆とやってきた。英雄になった。人類が願那夢と言って彼に希望を抱いた。願いを込めた。そうして空高きところまでその人は飛んだ。

 

けれどまだガンダムは飛び続ける。

 

手の届かない場所まで飛び続ける。

 

そうしていつか、この世界から離れる。

 

そんな気がしている。

 

彼は地球の引力に縛られない。

 

いつか…

 

そう、いつか…

 

天空(そら)に…

 

宇宙(そら)に…

 

時空(そら)に……

 

 

 

 

「……………くろかず……きょうか…」

 

 

 

 

理解しろ北郷章香…

 

充分に満たされてるではないか…

 

私なんかではもったいない程なんだ…

 

だからこれ以上は手を伸ばせない。

 

今よりも求めるのは酷だ。

 

わたしにも、かれにとっても。

 

だから…

 

今ある隣を大事にしよう。

 

それでいい。

 

そうしよう。

 

わたし…よ…

 

 

 

「……キミは……こまった…人だな…」

 

 

 

思わず笑みがこぼれる。

 

諦めたような笑みだ。

 

目を閉ざす。

 

冷たい空気が孤独を助長させる。

 

誤魔化し方を忘れて、一雫だけ頬を伝う。

 

嫌に暖かいかな。

 

寂しさを覚えた冷たい肌だから。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

*1:
和の国だと『貴族』って意味

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