GVSウィッチーズ   作:つヴぁるnet

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ブラックコーヒー好き?


ではどうぞ


第21話

 

 

「北郷、ただいま。舞鶴から戻ってきたよ」

 

「「「!!?」」」

 

「く、黒数!?…ああ!おかえりなさい!よく戻った!」

 

 

ウラル前線にある名も無き扶桑前線基地に戻ってきた黒数強夏はまだ明かりの付いている食堂に顔を出すと、夕食を食べていた第十二航空隊と、お茶だけを飲んでいた北郷章香らは彼の唐突な帰還に驚き、手が止まる。

 

黒数強夏は現れるタイミングが悪かったか?と苦笑いするが、湯呑みを置いた北郷章香は第十二航空隊のメンバーよりも先に彼の元に寄り歩いて無事の帰還を喜び、彼の巻いている深めのマフラー外しながら遠征の勤めを労う。

 

すると真冬の寒さにて頬や耳を赤くなっている肌を見た北郷章香は次に彼の手袋を外し、冷え切った彼の両手を掴んでその冷たさに驚いた。

 

 

 

「もしかして車を使わず浦塩から飛んで戻ってきたのか?」

 

「地面はほとんど凍ってしまいタイヤが動きづらいと聞いてな、だから飛んだ方が早いと思って軽く防寒済ませてからお土産だけ持ち込んで一気に空を突き抜けたよ。大きな荷物は後日届くらしい」

 

「そうか…… いや、そうかじゃない!まったく君って人は!飛んでる最中は魔法力で防護してるとはいえ流石に頑張りすぎだ。ああ、もう… 手が氷のように冷たいじゃないか」

 

「北郷の手は暖かいな。女性だからか?」

 

「たしかに女性の体温は高いが今魔法力で熱を与えている。それでも私の手まで凍りそうだ」

 

「ならその手を離せばいい」

 

「君の頑張りが凍りつく訳には行かない。このまましばらくジッとしてくれ」

 

 

そして彼女はマフラーと手袋を横にまとめながら彼の冷え切った彼の両手を、自分の暖かい両手で抱きしめるように握りしめて、昂まった体温で生み出される暖かい息を吹きかけて彼の指先から温めた。

 

そんな彼女に黒数強夏は少し驚いたが彼女なりの温もりある労りだと受け止めて、しばらくなすがままに温度を受け止める。

 

 

そしてこの食堂には他の者もいる。

 

特に第十二航空隊のウィッチが。

 

だから、突然…

 

 

「もう夫婦だよね?」

「ああ夫婦だね、どう見ても」

「てか夫婦のほかに言葉ある?」

「いや夫婦で間違いないと思う」

「なら夫婦ってことで」

「もう夫婦で良いや」

 

 

今日は渋めのお吸い物。

 

黒数強夏の横には長崎からお土産として買ってきたカステラが置いてあり、甘いお菓子が視覚的に舌を甘く刺激してくれるが、この夕食から砂糖味が口の中に広がるのは絶対にあの二人からだと皆は理解した。

 

また黒数強夏を副隊長として敬愛する竹井醇子も自分のことのように幸せを感じては二人のやり取りを暖かく見守る。もし本当にこの二人が結婚した場合、ここにいる誰よりも一番祝福するのは彼女だろう。それだけ隊長想いなウィッチである。

 

あと若本徹子は「はいはい、いつものいつもの」と見慣れたようにお吸い物を啜り、なぜか甘くなる味に顔を顰める。渋めの緑茶を飲む。やはり甘くなっている。いつもお世話になっている隊長が幸せそうなのは構わないが味覚を狂わせるのは少し勘弁してくれ。

 

それと恋沙汰関連にまだ若干疎い坂本美緒だけは味覚に変化なく普通に食べていた。そういうところだぞ未来のもっさん。

 

 

それから遅れて第十二航空隊のウィッチからも帰還を労わる。やはり皆の副隊長だ。帰りを待っていたのは皆も同じ。そして忘れずお土産を買ってきた黒数強夏の親戚のお兄さんムーブはウラルに戻ってからさっそく健在であり、カステラのお土産はウィッチ達に大変喜ばれた。

 

しかし北郷章香だけは「なぜ佐世保の?」と疑問に首を傾げていた。そこから導き出された解答としては佐世保を中継して浦塩に戻ってきたんだろうと予測してそれは正解である。頭脳明晰な彼女は変わらず流石だろう。

 

 

 

「黒数、少しだけ湯浴びして温まってくるといい、冷たいままだと体を壊しそうだ」

 

「そうだな。なら軽く浴びてくる。上がったら話がある。早めに情報共有しておきたい」

 

「では執務室を暖めて待っておくよ」

 

「助かる」

 

 

まだ冷たい彼の両手だが、気持ち程度には温まったと思い、北郷章香は彼の手を解放するとヤカンに水を入れて沸騰させいる間に黒数強夏はお土産の袋から二人分のカステラを引っ張り出しながら、夕食中の第十二航空隊のウィッチ達に「後で食えよ」と一言告げて食堂を去る。

 

食事中のウィッチ達から喜びの声が上がった。

 

 

「君はいつも誰かを優先してばかりだな…」

 

 

食堂を出るその後ろ姿を見送り、年相応に喜ぶ可愛い教え子の姿にほっこりとしながら、北郷章香は話し合いの準備をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「舞鶴でも同じ個体が現れた」

 

「なに…?」

 

 

 

話していたのは新型ネウロイの話。

 

早めの情報共有と考えて黒数は帰ってきたばかりにもかかわらず北郷章香とソファーに腰掛けてお茶を飲みながら説明する。

 

真冬になるとネウロイの動きも鈍くなる。

 

そのため今年最後の攻勢とばかりに少しだけ規模の大きな侵略がウラルでも起きたらしいが冬の冷たさに鉄の塊も動きが鈍く、第十二航空隊や陸軍の第一戦隊の連携力にてネウロイ殲滅にそう手間取らなかったらしい。

 

ただ何処かの前線では隼のように飛ぶ新型ネウロイが浦塩の北で現れたことの報告が。

 

しかもその動きは名の通り素早く、今よりも暖かい季節で飛び回られた場合、今のユニットの性能で追いつくのは困難だと戦術予報士はそう予測する。実際に隼のように素早いネウロイが現れた戦線では優秀なウィッチが一線交えているが半数は打ち取れずに逃している。

 

黒数強夏はその特性と形を北郷章香が持つ情報とすり合わせて…

 

 

「やはり舞鶴のが、そのはぐれかもな…」

 

「扶桑はまた君に助けられたな…」

 

「無事に終えたのならそれでいい。辻斬りにあった翔鶴も助かった。俺も実際にその新型と交戦して理解した。そのかわり一部は訓練内容の練り直しだな」

 

「やはり君が第十二航空隊に落とし込んでくれる高速戦闘技術が活きてくるな。ふふっ、時代遅れの私はお役目ごめんかな?」

 

「ガランドと同じ冗談を言いやがって… てかそれは困る。俺は机なんかを相手にしたくない。それに君がそこに立ってくれないなら隣を飛ぶって約束は無くなってしまうだろ?それは俺が困ってしまう」

 

「約束………か」

 

 

すごく嬉しい言葉なのに、今も守ってくれる約束なのに、北郷章香は一瞬だけ表情を曇らせてしまつ。

 

緑茶を飲むことで湧き上がってしまう情けなさを誤魔化した。

 

 

「ああ……あと、これも伝えないとな…」

 

「?」

 

 

少し重たそうに吐き出される言葉。

 

黒数強夏は一度だけ間を置いて、濁すこともかんがえずに、二人だけの胸に収めていた禁忌を告げた。

 

 

 

ビーム兵器を使ってしまった」

 

「ッ!!?」

 

 

 

ビーム兵器__それは戦争を変えた。

 

実弾よりも、殺傷性の高い攻撃。

 

普通の人間からすれば視認するには難しく、攻撃を悟るには間に合わず、防ぐにはそれ相応を必要とする、戦争の時代を塗り替えてしまった恐ろしい兵器だ。

 

そしてそれはこの世で最も既視感がある。

 

ネウロイの攻撃。

 

これもビーム兵器だ。

 

戦車や戦闘機を一撃で葬るこれは、この時代を先取った絶望の光であり、人類はこの攻撃に対抗手段がなく蹂躙されるばかりである。

 

そのため宮藤理論が救いだった。

これのおかげで今の厄災と戦えるのだから。

 

それでもネウロイのビーム攻撃は今も猛威を振るい、その殺戮マシーンは進化と共にまだ成長しようとしている。だからネウロイから放たれるビームはいつの時代でも恐れられている。

 

それはつまり『ビーム兵器』そのものが恐れられることになる。

 

だから、人は考える。

 

そして、最前列で戦う軍は考える。

 

これらを人類も使えたのなら奴らと同じ土俵に立つことは可能では無いのか?

 

それは実際にいまから6年先の未来で『ウォーロック』として実行されてしまう出来事であるが1938年を跨ごうとする今でも軍は恐ろしいことを考えている。まだそれを実行開発可能とする力を持たない時代だがその想像を秘めるものは少なくない。

 

 

そして、それを…

 

 

 

__黒数強夏 が 抱えていることを。

 

 

 

 

「ロングレンジ・ビーム・ライフル」

 

 

 

立ち上がり、幅を確保して、実際に召喚する。

 

両手で抱える大型のビーム兵器。

 

大きな銃口とスコープがその恐ろしさを物語る。

 

 

 

「一応紹介するがコイツは、ジム・スナイパーって機体の武装でな、コレがまたブッ壊れなんだわ。スナイパーライフルのビーム版と言えばわかると思うが、これ一つで駆逐艦程度なら容易く貫通する。だから翔鶴を襲った新型ネウロイは一撃で倒せた」

 

「使わなければなら無いほどだったなのか…?」

 

「実弾じゃ間に合わなかったと思った。かなり離れていたからな。あと一撃で倒さないとネウロイがビームを放っていた。だからコイツでぶち抜く必要があった」

 

「目撃者は…?」

 

「ウィッチがひとりだけ。状況が状況だけにちゃんと視認した人は他にいない。それでそのウィッチと話してこのビーム兵器については秘密にしてくれたよ。だから今のところは大丈夫だと思うよ」

 

「そうか……それは、良かった…」

 

 

 

黒数強夏は武装を消して座り込む。

 

カステラを一口だけ食べて一息つく。

 

しかしその表情はあまり晴れていない

 

 

「来年は確実に厳しくなる。もしものことも考えると、俺は…」

 

「っ、ダメだ、黒数…!」

 

 

北郷章香は彼の考えを止める。

その言葉は何が飛び出すかわかっていた。

 

 

「君は無事に帰るべきだ!五体満足で役割を果たして、それで戦争とは関係ない空の下で生きるべき人間だ、そうだっはず…!」

 

「それは…」

 

「黒数の力はこの世の望み。人類のために生きた叡智がこの世の人類を救おうと君を選んで授けてくれた平和の禊。それは逸話と同じで厄災を祓いし賜物。でも君はその前に人間だ!もっと大事にして良いはずだ……だ、だから、わ、わたしを、その……縛る……あの、だから、その…理由に…しなくたって…」

 

「…」

 

 

 

最初は人助けのつもりで彼に提案し、そんな彼は北郷章香の善意に甘えた。

 

それから彼はこの世に降り立ったのは前世(バーサス)の続きだと考え、ネウロイを討つことがこの世に望まれた役割(ゲームクリア)なんだと思っている。

 

だが……北郷章香との時間を得て、黒数強夏は認識が変わった。

 

思ったよりもこの世界はリアルだった。

 

思ったよりもGUNDAM VERSUSだった。

 

思ったよりも残酷が迫り来る世界だった。

 

そんなストライクウィッチーズの世界で黒数強夏は彼女の抱える不安を聞き、北郷章香は彼に寄りかかり、漣の聞こえる舞鶴で…

 

その男だけの機動戦士願那夢(ガンダムバーサス)が始まった。

 

でも、そうなったのは全て…

 

この()()()()()()()から。

 

 

 

 

「わたしが…………縛ってしまったのか…?」

 

「違う」

 

 

 

行き着いた答え。

 

それは認めてしまいそうな答え。

 

しかし黒数強夏はすぐに否定した。

 

 

 

「こっちを見ろ」

 

「んぐっ!?」

 

 

伸ばされた片手で顎を捕まれると、俯いていた北郷章香は顔は、グイッと黒数強夏に振り向かされた。

 

 

 

「縛られたなんて思ってない。俺は君を支えたいと思ってここに居る。当初の目的よりも随分と根深く関わっているが、それは俺がそうしたいと思ってこの場所まで君に付いてきた。断じて君に縛られたなど、俺は考えてない」

 

 

真剣だ、それから全否定だ。

 

彼は少しだけその言葉に怒っている。

 

彼女の考えを「違う」として。

 

 

 

「だけど、私は、君に、助けを求めてしまって…」

 

「なら俺がやったことは全て間違いだと否定するのか北郷章香?」

 

 

 

この世界はアニメや漫画だ。

この能力もアニメや漫画だ。

 

二つの要素と物語りが黒数強夏を出合わせた。

 

良くありげな二次小説の展開。しかし命の安い世界で人類が残酷に追い込まれる様を目の当たりにして黒数強夏は戦う。危なくも自己暗示に近い形で自分はこの世界の願那夢として空を飛ぶべきだと、この世に望まれた役割に身を投じている。

 

だから『本心』だ。

 

そうしてるのも、そうやってるのも、そうなっているのも、全ては、彼が頷いた先で宇宙を巡っている。

 

 

ならここにいる少女の事だって……

 

 

 

「助けたいから、助けた……じゃ、ダメか?」

 

「っ!」

 

 

 

そうしたいから、黒数強夏はここにいる。

 

 

 

「けど、本来なら…君は…!」

 

「関係ない!」

 

 

 

普段見せない怒気に北郷章香は怯んだ。

 

その気迫は空を飛んでいる時とまた違う。

 

人として本気の彼がそこにいる。

 

 

 

「帰るべき目的を忘れた訳じゃない!この世に来た役割から逸れた訳じゃない!どうでも良いからここに居る訳じゃない!俺は!俺が!黒数強夏がっ!君を支えたくて!北郷章香を助けたくて!この場所にいるんだよ!」

 

「ぁ……」

 

 

 

先ほどまで、冷たかった。

 

両手の指先も、吐く息も、氷のように。

 

しかし、今は熱の込められた、高い温度。

 

それだけ燃料の込められた言葉なんだ。

 

 

 

「全部やる。ネウロイを倒すし、俺は無事に生きるし、北郷も支えて、約束も果たして、そして全て背負い終えて、俺は無事に帰る」

 

 

 

それが簡単にできる世界じゃない。

 

充分承知の上だ。

 

でも彼の宇宙に……頭をぶつける天井は無い。

 

 

 

「多いのは今頃だ。願那夢の名前に数え切れないほどの人類が希望を乗せているんだ。多くの想いを背負う分には今更だよ。構うものか」

 

「黒数…」

 

「それに……約束がもう一つあるんだよ。幼い頃から抱えてきた黒数の約束が」

 

「やく…そく?」

 

「前の模擬戦で少しだけ言ってたよな?あの時は途中で会話を切り上げたが、ここでその続きを教えるよ」

 

 

黒数は一度気持ちを落ち着けるために少し冷めた緑茶を飲み、熱量で乾いた口の中を潤す。

 

カステラをひとつまみしながら見上げる。

 

語った。

 

 

「俺の両親はまだ幼かった俺を家に置いて外出中に死んだ。前日に予約していたフライトに乗って家族旅行を計画して、楽しい旅にしようと約束していた。全てな」

 

「!」

 

「何もかも失った。この世界の空のように俺は見上げることができなくなった」

 

「くろ…かず…」

 

「でも孤児院にいた先生が失った命は空で見ていると教えてくれた。最初は疑心暗鬼な言葉だったけど、でもあらゆる教材(ガンダム)を見て、悲しいことばかりだけど俺は宇宙(そら)はそうであって欲しいと()()()んだ。この世の人類が宇宙を飛ぶ願那夢に願うように」

 

「…」

 

「俺だけが残った。でも俺だけが生き残っている。出来なかった約束は俺がまだ抱えて生きてる。親がやりたかった計画を、空の旅を、大人になった今なら俺が親の代わりに見てあげれるはず。だから空を目指した。そうすれば孤児院の先生が言ったように、亡くなった命が空に近い気がするから」

 

「だから、約束を…」

 

「この世界の空と、俺のいた世界の空は、鉄と火薬の色で全く別物だけど、でも同じ宇宙(そら)ってことならあの頃の続きを少しくらいなら約束を果たせるはずなんだ。ストライクユニットでそれができる…」

 

 

彼にはもう一つだけあった。

 

この世界で空を飛んでる理由が。

 

それは彼の過去と家族。

 

不自由だった前世では叶わない。

 

だがココでなら叶うはず。

 

でもその先に厄災があり、奪う存在がいる。

 

彼も奪われた、災害という厄災に。

 

けれどガンダムの作品を見て、抱いた。

 

報われない事が多い世の中でも、報われる物語はどこかにあるから、だから彼にとって『そら』はそうであって欲しいと願っている。

 

 

 

「ああ、そうか……だから、なのか…」

 

「?」

 

「俺がこの世に選ばれたのは」

 

「黒数?」

 

 

 

そして納得したように言葉をこぼす。

 

言葉にして、それが何故か?

 

それがどうしてなのか?

 

()()()()()そう思い込んで目指した。

 

でも、この世の願いとして、宇宙が繋いで選んだとしたら、人類が叡智(ウィザード)に救いを願った魔法陣から現れた黒数強夏ってのは…

 

 

 

 

「俺が____願ったからなのか…」

 

 

 

 

__空に近づきたい。

 

あの頃の続きとして。

 

 

__宇宙(そら)に近づきたい。

 

あの場所なら居るはずだから。

 

 

__時刻(そら)に近づきたい。

 

あの瞬間を願いとして見てたから。

 

 

 

ストライクウィッチーズ。

 

それは空の物語。

 

そしてそこはあの頃を綴れる軌跡。

 

 

この場にいる黒数強夏は、その場所(そら)に、幼い頃の続きを願っている。

 

__機動戦士ガンダムの儚さから。

 

 

 

それは今…

 

この世の願那夢(くろかずきょうか)として、その場所(ウィッチ)に、人類は救いを願っている。

 

 

 

 

「はははっ、ぁぁ、それはまた、残酷だな…」

 

 

 

もっと平和に叶えられても良かったのでは?

 

この世界が都合良く語られるだけの絵本物語りだけで済まされたのでは?

 

でも、そうなってしまっている。

 

地球の引力に引き寄せられたが如く。

 

 

「でも、後悔なんてしてない。悲しい世界に導かれてしまった事実はある。でも俺はコレが願って与えられた一つの果たし事ならこの世界で全うしてやる。それが願那夢と言われても、叡智が望んだ形でも、人類が願った役割でも、この世界で空を飛んで、この世界の宇宙にあるかわからないあの頃の続き願う。なんだ、簡単じゃねーか」

 

 

 

黒数強夏は疑いもなく、疑問もなく、何かを悟ったように、言葉を続ける。

 

それはまるで……宇宙を理解した者(ニュータイプ)のように。

 

それが少しだけ…北郷章香は怖く感じた。

 

でも、それは不意に取り払われる。

 

彼は手を伸ばした、彼女の頭に。

 

 

 

「わっひゃ!?」

 

「……」

 

「な、ななな、なんだ!急に!?」

 

「……」

 

「ぁ、ぁ、ぁぅ!?」

 

 

 

唐突な接触。

 

もしくは肌の触れ合い通信だろうか?

 

随分と一方的な通信状況だが。

 

 

 

「きみは、()()は、まだこどもだな」

 

「!!??」

 

 

 

ふみか?

 

ふみか??

 

ふみか???

 

理解が追いつかない。

 

それよりも不意に横から頭を撫でられて、年相応よりも少し幼げな可愛らしい声が漏れてしまい、あまりの恥ずかしさに抗議気味な視線をその男に送る。

 

だが思わず頬が熱くなる。

 

そこには、扱いに慣れている年上の男性。

 

実際に昔の彼を見た訳じゃない。

 

しかし溢れんばかりのその雰囲気と表情を見て北郷もわかってしまう。

 

孤児院時代によく歳下の面倒を見て成長してきた年上姿の黒数強夏だ。

 

あまり味わった事ないような優しさと、暖かさと、穏やかさと、また慈愛に近い熱量が、北郷章香を不意に襲いかかり、なによりもコチラも慈愛に近い感情を向けていた異性に触れられている事が鼓動を早める。

 

北郷章香はふと、竹井醇子の姿を思い出す。

 

もしや黒数強夏に撫でられる少女はいつもこのような危険性に触れられているのか?

 

でもコレがとんでもないほど幸福感を与えてくれているのか?

 

頭脳明晰の北郷章香でさえこればかりはキャパオーバーになっていた。

 

メモリーといった感情が追いつかず情報処理に忙しい体の熱が高くなる。

 

ぁ、うっ!

 

 

 

__彼は危険人物だ!

__歳下の倫理観を、乱す者だ!

 

 

 

 

「ぁぁぁー、うぇ…眠っ、ぅぅ……」

 

「ふぇ?」

 

 

 

そして頭から手が落ちて、黒数強夏は背もたれに倒れて寝息を立てていた。

 

 

 

「黒数?」

 

「すぅぅ…すぅぅ……」

 

 

 

寝ていた。

 

かなり疲れているのだろう。

 

それもそうだ、極寒の中を飛んできた。

 

体も疲労でたくさんだ。

 

なのに無事な姿を見せようと優先した。

 

もしくはお土産を持って第十二航空隊を喜ばせようと頑張ってくれたのかもしれない。

 

いつだって変わらず皆のために黒数強夏をする。

 

それがあまりにも危険だ。

 

ああ、色んな意味で彼の存在はウィッチにとって危険すぎる。

 

しかしもう既に遅し。

 

北郷章香の男性観は少しだけ破壊されていた。

 

この男によって。

 

 

 

「もしかして、先っきの手つきも、あと…ふ、ふみ、章香って、な、名前も、寝ぼけてた、からなのか?」

 

「すぅ……」

 

「………ッー!!!!」

 

 

 

ああもう!!

 

わからない!!

 

なんなのだ君は!!

 

 

そんな嘆きが広まる。

 

仮に寝ぼけだとしたら恐ろしい。

 

他の女性が勘違いする、してしまう。

 

てか、少なからず、そう思って___

 

 

 

「ん"ん"ん"ん"!!! おおお、落ち着け!」

 

 

 

ブンブンブンブン!!とポニーテールを激しく揺らしながら否定する。

 

恋愛感情じゃない。

 

これは……そう、信頼だ!

 

または大事にされているんだ!

 

そうに違いないし、彼の場合は普通そうだ。

 

上官は北郷章香だが、この部隊で一番年上は黒数強夏で、皆の兄のような人だ。

 

空では厳しく鍛え、地では愉快に振る舞う。

 

子供からすれば理想的な先人だろう。

 

それを彼がそうしてるだけ。

 

 

 

「……まったく、君って…人は…」

 

 

 

だが、それを超えた感情になってしまいそうになるのは彼のせいで、自分のせいじゃない。

 

そしてそれが「残念」だと思ってしまうのも間違いではない。

 

だが、これで完全に心の棲み分けがハッキリしてしまった…のだろう。

 

コレがひとりの女性として諦めをつけるべきかまだ少しわからないが、でも最前線で戦う兵士としてはこの上なく頼もしい存在で頼りにし続けたい人間。

 

 

「…」

 

 

年が明けても変わらずそこに居て、共に空を飛んで先行してくれる。

 

そんな人が、コレからも第十二航空隊を支えてくれるんだ。

 

 

 

「お疲れ様、黒数…」

 

 

 

 

お返しでは無いが、コチラもひと撫でだけ。

 

とても良く頑張った男を労う。

 

北郷章香の表情は穏やかだ。

 

そのまま次の年を迎えるだろう。

 

 

 

 

 

つづく

 







はー、あまっっっ!
書きながら飲んでた緑茶が甘ッッッ!
なんやこれ。カテキンと糖分間違ったか??


さて、とうとう20話超えてここまで来ました。

一旦、気持ちの整理が着いてしまう北郷章香。
そしてなにかと勝手に悟ってしまう黒数強夏。

1937年、最後に必要な心の整理でした。
カステラも糖分がキャパオーバーだよコレ。

ちなみにやっとこれで『一巻』目が終わりです。
少し寄り道しすぎだぞ…


ではまた
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