可能なら今年中には書き終えたいところさん
「こんなタイミングで来るとは思いませんでしたよ、宮藤さん」
「それなら僕は君自ら『
「あー、うん。それはその、アレだ。記者の質問に対して咄嗟に名前が思い付かなくて、それで真っ先に浮かんだ単語がガンダムだったからそのままソレを伝えたら『願う夢』なんて大層な威名を込めてくれた訳だよ。いやー、この時代の人間すごいよね?はははは、はは… はぁぁぁぁぁ…」
「遠い目をするほどなんだね…」
マジであの解答は今でも間違えたと思う。
かと言って今更ヒーローネームを否定しても面倒だ。
願那夢の名前によって成立するプロパガンダもある訳だし、こればかりは甘んじて受け止めるしか無い。
過去の俺を恨むんだな。
あー、でも悪い事ばかりじゃ無いぞ?
願那夢の影響によって第十二航空隊へ補給物資をそこそこ優先的に回してくれるし、応援してくれる人達からは嗜好品などがよく届いている。
緑茶とかお煎餅、ミカンとかマスカット、高級なハチミツとかの品も届いたことがある。
こういうのマジでありがたいから贈り物には感謝している。だから頑張りで応えよう。
「それで宮藤さんはこんな危ないところまでどうしたんです?正直去年と比べてこの前線基地はそこまで安全じゃ無いですよ?明日にでも放棄する可能性あるんですから」
「それは充分承知の上だよ。しかし僕が選んでこの前線やって来たのは扶桑皇国の主力機となる『零戦』の性能をこの目で確かめるため。一応テスト飛行時や国外からの報告書などで零戦の戦場に於けるその機能性は耳に届いてるけど、やはりどのくらい実用的なのかをこの目で見てないとならなくてね」
「あー、零戦ですか!あれかなり良いですよ。自分が零戦使って飛んでだ訳ではありませんが実際に並走して理解してます。今後、扶桑皇国軍の主力機は零戦を基準としたストライカーユニットなると考えてます。あの空戦能力は俺好みだ」
「そうなのか?はははは!世界的スーパーエースがそこまで言ってくれるとそれ専用に魔道エンジンを開発したのは苦労の甲斐があったよ」
「でも、零戦に関しての実戦的飛行能力を視認したいなら第十二航空隊じゃなくても別の軍隊で良いのでは?」
「それはそうかもしれない。しかしわざわざこの基地を選んだ理由は二つある。まず一つは君の書いた零戦に関する論文のおかげだよ」
「論文…?………あー、もしかして…」
「去年の冬だったかな。優先的にブリタニアまで届いたよ、君の書いた論文がね」
「冬は訓練除いて基本的に暇だったんだよ。それで北郷少佐に時間があるなら書いてみないか?ってことで試しに書いた。まぁ戦技研究報告書の内容そのまま主観で論文に落とし込んだだけなんだけどね。てかおそらく北郷少佐とほとんど内容は同じだと思うぞ。意見出しながら書き合ったし。多分どこかで北郷章香の写し書きって言われてそうだな…」
「いやいやとんでもない。なかなか面白い論文だったよ。かなり事細かに書かれた零戦の実戦的飛行記録書はもう興味深くてね。もうコレはユニットに携わる開発者としてこの目で見るしかないと考えたんだ」
「でもどうせなら夏頃に実戦投入された96式の時に来ても良かったのでは?平均化前なら陸軍の第一戦隊も一緒でそっちの方が収穫は多かったはず。てかその段階でも既に北郷少佐が1937年中期の航空ユニットにまつわる戦技研究報告書を上層部に送ってたと思いますが。恐らく開発部にも届いてるはず」
「それは知ってるよ。実のところ夏の終わり頃にはウラルに向かう予定だったが状況が変わってね。多忙故に視察は先送りになった。しかし年明けた頃に扶桑皇国軍は軍力の平均化を狙い始め、それと同時に零戦の普及率が70%を超えた段階で君の論文を見て僕は思ったんだよ。コレは激戦区だからこそ見なければならない光景がある。そう思って半ば強引にやってきたんだ」
「選んでくれたのは嬉しいですけど、他の部隊も優秀ですよ?」
「もちろん他の部隊も回るよ。参考材料は幾らあっても良いからね。だがそれでも第十二航空隊が駐屯する前線基地を選んだのは、二つあるうちのもう一つが理由だ」
「その、もう一つの、それとは?」
「君だよ、黒数くん」
「あ、使用人の件はお断りします」
「まだ何も言ってないよ!?」
「え?てっきりまた一緒に暮らそうとか言われるかと…」
「そりゃ君との生活は楽しかったけれど、残念ながら目的は違うよ。僕が黒数君に会いたかったのは、君が扱うジェットストライカーに関して用があるからだよ」
「ああ、やっぱり…」
「そのやっぱりってのは、どうやら知ってるみたいだね?」
「ええ、知ってますよ。俺が扱う『ジェットストライカーユニット』は宮藤さんが計画した戦闘脚ですよね?」
「その通りだよ。それは僕が渡欧する前に計画した新兵器だ。しかし開発したところで扱えるウィッチはいない。あとコストパフォーマンスが悪すぎて量産に向かないと考えた結果、計画は凍結した」
「開発の筋書きを終えてる時点で相当だと思うけどなぁ…」
「作ったところで使ってくれる人がいないってのは作り物として致命的だけどね」
まあ、その通りだな。
当時はまだ戦技研究が初期段階でストライカーユニットの取り扱いが確立されてなかった頃であり、そんな時代にジェットストライカーなんて高性能を渡されてもそれを乗りこなせるパイロットは誰一人いなかった。
あと致命的欠陥と言えば燃費の悪さ。
それと魔力行使の扱い辛さ。
簡単に言えば狭い上に曲がりまくったパイプに水を通すのと、真っ直ぐ綺麗なパイプに水を通すのと、どっちが負担の少ないか話である。扱うなら後者の方が圧倒的にいい。
そのため完成とは程遠い。
「しかしいつしか耳に入った。願那夢を名乗る扶桑のウィッチがプロペラを回さずスラスターを使って空を飛ぶ話を。それを聞いた僕はもしや?と思って扶桑の新聞に載せられた写真や記事を見た。それで確信したんだ。コレは間違いなく凍結していた計画の一部を利用した戦闘脚なんだと」
「正解です。ちなみにこれは舞鶴にいる八羽中尉が開発してくれました」
「ハッパさんだね、知ってるよ。彼は僕の同期だ」
「あー、やっぱりか…」
まあ薄々予感はしてた。
だってあの人も大概だからなぁ。
やはりヤベーヤツは惹かれ合うんやなって。
「それでだ、黒数君。もう分かってると思うが僕に君の扱うジェットストライカーを近くで見させてほしいんだ」
「それが目的の二つ目ですね?」
「その通りだよ」
「わかりました。あ、それと…」
「?」
「俺はコイツをジェットストライカーと呼ばずにストライクユニットと呼んでいます。俺の専用機ですから」
そう言って俺はストライクユニットを履いて空を飛び、ユニット性能を宮藤さんに見せた。
そして…
「すごいのはわかる。時代を先取りしたとんでもない機能性なのも見ただけでわかる。だからこそ
「ですよねー」
そりゃだってこのユニットって5、6年は先取りした性能だからな。
話の通り、時代を置いていってる。
いくら宮藤さんのような開発者でも時代が追いついていないのなら開発したところでその活かしどころが無い。
てか、そもそも…
「俺の持ち合わせてる魔法力の関係でまた話変わるんですよね。この世のウィッチでは扱いきれないと思います… と、いうより俺だからコレは奇跡的に飛んでいる状態なんですよね…」
「魔道原理だけを追求するならまだこのユニットに近づけることは可能だが、それに向けてのコンパクト化を目指さないとシステム内部のキャパシティが追いつかず最悪として空中分解が始まるね」
ゴーストファイターまっしぐらな話に口から木製エンジンが吹き荒れそう。
そんなユニット誰が乗るかよ…
あとさりげなくコンパクト化まで考えてるあたり世界はまだ
しかも遠回しに開発可能と言ってるあたりこの人やっぱりとんでもないわ。
「ま、それでも、凍結していたジェットストライカーが飛べるところが見れて僕は大変満足かな。だからありがとう黒数くん」
「礼を言うのはこっちですよ宮藤さん。俺はコレがあるから第十二航空隊の副隊長として空を飛べている。あなたが計画してくれたお陰で願那夢はこうして顕在だ。だから絶対に無駄なんかじゃない」
「!!…… ははは、そうか。それなら無邪気ながらもロマンを求めて僕は良かったよ。なにせ当時は無茶な開発だと呆れられて頓挫したユニットだったからね」
「設計図あるだけでも俺はこえーよ」
「理論は幾らでも生み出せた。しかしやはりコンパクト化が難点だ。そこまで技術が追いついてないからね。でも君の場合ユニット内部で余計に魔法変換させずそのまま放出して飛ぶ荒技だから実現可能にした。恐れ入ったよ」
ユニットに
なら
こう言うこと。
うん、言葉にすると意味がわからねぇわ。
「ともかく君がコレで空を飛んでくれたのなら僕は満足だよ。課題はとてつもなく多いが、ジェットストライカーがちゃんと飛べることはこの眼で見た。それならあとは実行するだけ。そうして時代に追いつけばいい。簡単な話だ」
「その前にネウロイが居なくなれば良いんですけどね」
「それはもちろんだよ。でもこの厄災はそう簡単に世界を諦めない。僕はそんな気がする。だからそのための翼をまた考えるさ」
「カッコよ…」
だからこの人はウィッチの父なんだろう。
魔女のために空飛ぶ箒を与える魔法使い。
もしかしたらウィザードってのは、このような人ことなんじゃないかと俺は思った。
…
…
…
それから宮藤さんは2日ほど滞在した。
そして早くも明日には次の基地に向かうらしい。
やはり無理言ってスケジュールを詰め込んだ結果のようだが、楽しそうにこの忙しさを味わっていた。
その最終日として別れの前にブリタニアから持ってきてくれたワインを空けて嗜んでいた。
「乾杯」
「いただきます、乾杯」
特に飾らず、少しとっ散らかった格納庫の入り口横で木箱をテーブル代わりにワインの香りを漂わせる。
スッと一口飲んで舌で回した。
美味しいな。
「楽しかったよ、黒数くん」
「俺も楽しかったですよ宮藤さん。色々と意見交換できてまた幅が広まりそうだ」
「素人目線で良ければ幾らでも話すよ」
「開発者どころかストライカーユニットの生みの親が直々に言葉をくれるんです。気取ったコメンテーターの記事の何百倍もマシですよ」
「それだけ世界は焦っているからね。一人でも多くの兵を集めようとプロパガンダも濃くなっている。ブリタニアでは英国に所在するウィッチの半分以上の徴兵が済んでるらしいよ。戦力化の増強をかなり急いでる。ウィッチの保有が少ないヒスパニアも同じようにね」
「扶桑皇国も同じでした。お陰で人手不足が加速している現状、なりふり構えてないのか人格者とは程遠い魔女教官も現れる始末。俺の世界の時代なら真っ先に補導されてるぞ」
「戦争で荒んでしまうんだ。人もどこかおかしくなる」
「……」
荒んだ心に武器は危険…か。
ウッソ・エヴィンも言ってたセリフだ。
あ、でも佐世保のあの教官代理は普通にクソだったと思うけど…
それとも俺だけ時代錯誤してたんかね?
まあウィッチに対する理解力がない指導だったから同じ指導者として見逃せなかったのは確かだが…… いやそれにしてもアレはやはり酷かったわ。
あと佐世保の
根が強い娘だったからそこまで心配なさそうだけど。あとジェンコ・ジュンコ。ハッパさんに続いて原作から似た人がいるもんだ。やはりこの世界どこか違うらしい。
まあそもそもGUNDAM VERSUSとして引き込まれた時点で異色なのは確かだな。
そのためガンダムに影響して何か変化してるところもあるのだろう。俺がバーサスの武装が使えるようにこの世界もニュータイプに感化されたごとく何処か変わっているらしい。
「黒数くんは……いまこの場にいるが、その後はどうするんだい?」
「え?」
「君は元の世界に帰るよう模索していた。そして動きやすさを求めて君が住んでいた国と酷似している扶桑皇国に向かった。しかし思った以上に軍へ入れ込んでいた。お節介なのは充分承知だが、少しだけ心配になったんだ…」
「……」
「君は言った。英雄にならない。だからこの世界に意味を齎さないと思っていた。でも今は手違いあれど
「その…俺は……なんと、言うか…」
「あ……す、すまない。 かなり踏み込み過ぎたことを言った。気にしないでくれ。ワインのおかわりいるかい?注ごう」
「……はい。頂きます」
空っぽのグラスに注がれる。
それを一口いただいて、ぼーっと空を見る。
視線の先では、ネウロイが多く潜んでいる。
平和だった自然は瘴気に侵されている。
世界を絶望に染めようとする如く。
「ただ、俺は…」
「?」
「あまり考えないようにしてます」
「…」
おそらく…
帰ることが正解だ。
しかし…
残ることも、おそらく正解だ。
ならあちらの世界に未練がないのか?
そう尋ねられたらそれは少し解答に困る。
失った者は大きい。
家族だ。
でも得た物も大きい。
意味だ。
俺が大人になるまで支えてくれた人も少なからずいる。
だから、どっちもだ。
そしてこちらの世界も似たようなことが起きている。
なにせ、これから失わせるモノ達は大きい。
それはネウロイ。
けど、失わせないための賜物はとても大きい。
それはガンダム。
これを知り、これを持ち、これを得て、俺はこうして空を飛んでいる。
世界の流れがそうするように、黒数強夏を必然としてウィッチのように飛ばせた。
ならコレを俺が放棄するまで、否定して背けるまでどこまで続くんだ。
「でも…わかることは…ある」
「…聞いていいかな?」
ワインをまた一口。
乾きそうになる舌を転がせるように燃料を。
そして宮藤さんを見ながら、応える。
「あの魔法陣は、厄災に立ち向かった叡智達が人類をまた救えるように残した。厄災と戦えるウィッチの武装を。でも俺は少しだけ違うと思う」
「?」
「アレはウィッチだからじゃない。空を飛べる者に…もしくは飛びたい者に託したいから、夢と希望を残された」
「飛びたい者…?」
「俺は… 幼い頃に家族無くしてます。良くありげな事故でした。でも俺からしたら厄災と変わりないです。恨んでいました。なんで俺の家族なんだと。そして沢山悲しみました。どうして奪ったと」
「…」
「前日まで家族旅行が待ってました。空の楽しいフライトが間もなくありました。しかしそれは叶わない時間になって俺の中で止まりました。でも空に死んだ命があると知って、もしそこに近づけるなら親の命は戻らずとも時間は進めれる、そう思っていました。実はこの世界に来る前に旅行の計画立てていたんですよ。空の旅を… 家族の続きを俺は行うために」
「立派な…親孝行だね…」
「俺も思います。だからそれだけ空の続きを求めていました。願ってました。そして今は…違う形で果たされた。叡智達が刻んだ魔法陣からこの世界に招かれて」
「…」
「これはあくまで考察だ。もしかしたらそうじゃないかと思うだけ。でも考えれる理由を述べるなら、黒数強夏は空を求めた。それはウィッチもしくはウィザードとして。そして…」
宇宙を再び見る。
「ガンダムが希望であった。俺が前向きに生きる
「…」
「噛み合ったんだよ、黒数強夏は。この世界で飛ばせるにふさわしい主人公があるんだよ。それがこの世の
「……そっか」
ロマンチストなところがある宮藤さんだから俺の突拍子も無い話でもふわりと笑って肯定しながらワインを飲む。
例え信憑性がなかろうともワインのつまみとしては少しくらい役割を果たしただろう。
「だから今はあまり深く考えずにこうしているよ。でもこれで良いと思う。だって…」
「空を飛ぶときは…考えないからだね?」
「その通りだ。さすが
「空は窮屈じゃない。自由であるべきだよ」
俺のグラスと宮藤さんのグラスをチンっと合わせて味を深める。
ああ、そうさ、その通りだ。
やってることは放任的で、危機感の薄れた有様だけど、でも
なら俺はそうしていた。
俺はそうでありたい。
だから今は深く考えない。
もし考える時が来たら、その時は翼を折り曲げて飛ぶのをやめたときだ。
ならその時に考えれば良い。
翼を閉じる…
もしくは箒を置くべきか。
またはそれを使って空を飛ぶべきか。
その時に選べば良い。
それに…こうすることが別の意味でも正しい。
何故ならコレは続きだ。
画面越しのトライアルモードの続きだ。
何故そう思うのか?簡単な話だ。
だって俺が魔法陣から引き出したものはジム・カスタムの武装だから。
機体選択画面でジム・カスタムを選んでスタートを押したから。
その続きがコントローラーの代わりとして手元に収まっている。
これが……
選んだ君の【役割】だってことを。
「でだ、宮藤さん」
「?」
「帰るつながりの話ですが、宮藤さんこそ扶桑には帰らないんですか?」
「ああ……扶桑…か」
「ええ。是非実家に戻って愛娘にお説教でも受けてください」
「お説教…?」
「生活力の危ういお父さんを『めっ!』としたいらしくお家で待っています」
「君言ったのかい!?」
「はい」
「そこはもっと悪びれてくれないかな!?」
生活力皆無メガネがずれ落ちる。
ワインの味付けを変えて嗜みは続く。
つづく
この二人だけにしか知りえない特別な関係は好きですね。
互いに同じ空(宇宙)を見ている者同士として。
ではまた