GVSウィッチーズ   作:てっちゃーんッ

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Q_ゲーム起動して吸い込まれたけどあり得るの?

A_異世界転移モノ(二次小説)ではこのくらい嗜みだから。


ではどうぞ


第27話

 

 

 

バァン(大破)!!

 

 

 

 

「いッッたぁぁ!」

 

 

 

ゲーミングチェアから崩れ落ちる。

 

そして目を覚ます。

 

 

 

「え?え?何?え、こわっ…」

 

 

混乱しながらも崩れ落ちた床の上で周りを見渡す。

 

住み慣れた部屋。

 

孤児院から出て一人暮らしを始めたその日からお世話になっているワンルームだ。

 

フローリングや壁の模様、大して多くない私物を見てここは自分の部屋で間違いないと理解する。

 

そして何故だか半年以上空けていた気分。

 

どうしたと言うのだ?

 

寝落ちにしては深い眠りだった気もする。

 

飲み慣れないお酒に酔ってそこまで意識が落ちてしまったのか?

 

もう少しアルコールを体に慣らさないとな。

 

そう考えながら立ち上がり、ゲーミングチェアに座り直して前を見る。

 

テーブルには飲み掛けのアルコール。

 

その横にはマウスパッドとスマートフォン、前にはキーボードとモニター。

 

あと何故か犬の折り紙が置いてある。

 

いつこんなの折った?

 

それと犬の鼻先は焦げたように黒く滲んでる。

 

アルコールに手は出したけど火遊びなんてした記憶はないぞ?なんだこれは…

 

 

しかし、それより…

 

 

 

「どうなってやがる…」

 

 

 

PCモニターに英文でデカデカと刻まれた『コンテニュー』の文字だ。

 

プレイヤーにYESかNOを促している。

 

その決定画面の奥では敗北して地面に朽ちているジム・カスタムの姿が一つ。

 

これはプレイヤーの情けなさ故だろうか。

 

てか…なんで負けてんだ?

俺はいつのまにかプレイしたか?

 

プレイして寝落ちたのな?

 

エクバなんて目を覚ましてないと大変なゲームだと言うのに。

 

 

だめだ。

なにも。

なにも、覚えてない。

 

それにしては頭を打ちつけられたような感覚がある。

 

痛くはないが…

 

もしや夢の中でぶたれたか?

 

親にもぶたれたことないのに。

 

まあ、ぶたれるまえに他界しちまったけど。

 

 

 

「はぁ……でも、なんか、わかんないけど、俺は何か大事なモノを、置いていったような…」

 

 

 

ゲームの勝率か?

 

それとも約束事か?

 

気を紛らわせるようにゲームの電源を落として頭を描く。

 

しかし曖昧な記憶が駆け巡る。

 

このつっかかりに嫌気を感じ、湧き上がる焦燥感にため息が止まらない。

 

何か手探りでこのもどかしさを探そうと考えて机のスマートフォンを手に取り、画面を明るくすると一通のメールが届いていた。

 

 

「あ、そういや、明後日アルバイトか…」

 

 

就活前に挟んでいた派遣のアルバイト。

 

イベントスタッフ系の仕事であり、社会勉強も兼ねて2年近く携わった。

 

そして今回の仕事を終えると契約終了である。

 

それで仕事内容は…

 

 

 

「軍用機の展示会?また一部の層にブッ刺さるイベントだな…」

 

 

 

まあ別に珍しくない。

 

イベント系は大体こんな物だ。

 

そこまで大変な仕事じゃなさそう。

 

むしろ立ちっぱなしで暇疲れしそうだ。

 

そして、その派遣先は…

 

 

 

 

「舞鶴市??え、どこだ?…… うわ、ココって関西じゃないか。わざわざ都内から人員を派遣するほどか??」

 

 

 

随分と贅沢な運用に首傾げながらも…

 

それと同時に…

 

 

 

「でも、この、舞鶴って…」

 

 

 

足を踏み入れた事ない……

筈なのに、とても懐かしく感じる響きだ。

 

そして俺は何故こんなにも騒がしい??

 

疑問を抱きながらも、思い出せない。

 

これは………なんだ??

 

俺は、一体何を思い出せない??

 

 

「ッぁ、やめだ、やめだ、もう、寝よう…」

 

 

 

気分が悪い。

 

気分がすぐれない。

 

ないはずの記憶が俺に訴える。

 

忘れていることがあると、訴える。

 

まるで自分じゃないみたいだ。

 

 

 

「……俺は…」

 

 

 

そして、そうやって趣味に没頭することもなく落ち着きの無い日をしばらく過ごしていた。

 

それから当日は現地に向かってイベント内容を頭に叩き込み、支給された服を着こなすと舞鶴市で軍用機の説明会や誘導など良くありげな仕事を果たしながら忙しくなくイベントは無事に進んだ。

 

しかしイベント会場から遠くの海を眺めるたびに小さな幻覚を見る。

 

 

人が飛んでいるんだ。

 

魔法使いのように空を飛んでいる。

 

 

夏でもないのに暑さにやられたのか?

 

でも空が俺に訴えてる気がする。

 

 

 

「____誰だ」

 

 

 

待っている。

 

待っている、俺のことを。

 

そう感じてならない。

 

仕事に集中して誤魔化す。

 

そこそこ人がやってくる展示会イベントを難なく進め、舞鶴市での役割を果たし、そして数日間のイベントは無事に終了した。

 

 

 

「九五式、それから零戦……これは、翔鶴の模型か?」

 

 

 

展示されてる軍用機に関してはレプリカか本物かわからない。

 

イベントの説明でもあまりそこら辺は触れられてない。

 

まあ仮に本物だとしても燃料とかは入ってないだろう。

 

動かす手段は限られている。

 

しかし俺は驚く。

 

あまり興味ない軍用機の名前を知っていた。

 

俺はいつ知った?

 

耳にしても『零戦』って言葉を聞いたことあるかないか程度の話だ。これならまだガンダムの兵器の方がよく耳にしている。

 

けれど何故だか知らないが…

 

コレは、携わった…

 

携わって、理解しようとした。

 

誰かに…

 

誰かで…

 

誰かと、これらを一緒に…

 

 

 

「ナニカが、俺の中でつっかえている…」

 

 

 

そして俺の中でナニカが朽ちている。

 

段々と、朽ちようとして…

 

だが、踏みとどまろうとしているんだ。

 

俺の中にある、大事な意味が。

 

存在意義が、与えられた使命感が。

 

冷たい鉄の塊に惹かれている。

 

 

 

 

__回せ。

 

 

 

 

 

落ち着かない。

 

 

 

 

 

___回せ。

 

 

 

 

 

落ち着けない。

 

 

 

 

 

____回せ。

 

 

 

 

 

落ち着けれない、ッッ!

 

 

 

 

「どうしました、黒数さん?」

 

「!?」

 

 

横から声をかけられる。

 

仕事の仲間だ。

 

それと頼れる仕事の先輩だ。

 

 

「ああ、いえ、なんでも無いです、先輩」

 

「本当ですか?もしや今回で最後の仕事だからやや張り切りすぎましたか?」

 

「そ、そうですね、少しだけ頑張りすぎたんだと思います」

 

「そうですか。でもそれだけ物事に尽くせるならあなたは大丈夫です。行先がどんな場所でもやっていけるでしょう」

 

「…そうですか?」

 

「ええ」

 

 

長いことお世話になった先輩から励まされつつ展示イベントを片付ける。

 

それから帰投時間まで時間がある。

 

観光の許可を貰い、それぞれ舞鶴市で時間を潰していた。

 

そんな俺は街中でグルメを巡ることもなく真っ直ぐと海の近くまでやってきた。

 

脇に溢れ蕎麦屋を通り過ぎて、浜辺に足を付ける。

 

 

 

「…」

 

 

 

ザザァーと、波の音が随分と気持ちいい。

 

海が無い場所で過ごしているから新鮮だ。

 

いや、でも何か、違うんだ。

 

海で過ごしたことのある記憶がある。

 

だから不可解だ。

 

何故だ?

 

何故こんなにも懐かしめるのか。

 

やはり、俺はナニカが決壊している。

 

あったはずのナニカが…

 

 

 

「舞鶴の海は健やかだな…」

 

 

 

騒がしさを落ち着かせるため、砂浜を歩く。

 

この不可解を確かめるべく砂浜を歩いてみる。

 

しばらく歩き、足を止めた。

 

また海を眺めてみる。

 

 

 

「静かなのに…でも、騒がしい」

 

 

 

何もない、平和な水平線。

 

けれど全身がざわつく。

 

何もない海上の空。

 

だが……音がする。

 

プロペラを回す音がした。

 

何も飛んでないのに、そこにある。

 

刻んできたモノが、そこに描かれる。

 

 

 

「俺は……」

 

 

 

頭に触れる。

 

すると痛みが増してきた。

 

思い出させるかのように、訴える。

 

痛みと、そこから裂かれた哀しみが。

 

俺から、オレを奪った意味が。

 

そこにあった存在意義もが、足から奪い取ったように、それは確かな喪失感だ。

 

 

 

__足りない……ナニカが、足りない。

 

 

 

息を吐く。

 

息を吸う。

 

息を噤む。

 

目を閉ざして鮮明にする。

 

無いはずの記憶だ。

 

しかしそこへ矛盾する様に、経験したことのある思い出がこの場所に刻まれている事を、足の先から浮遊感と共に思い出させようと、訴えて、訴えている。

 

 

 

「っ」

 

 

 

これは………黒数強夏??

 

何故、自分の名前が??

 

俺は確かに黒数強夏。

 

でもその意味はもっと別の形で注がれた。

 

これは……願い?また()は…夢??

 

それは確か…

 

 

 

 

「____ガンダム」

 

 

 

 

 

__だから!

__人の心を見せなければならないんだろ!

 

 

 

 

「っ!」

 

 

 

 

聞こえた。

 

聞こえてしまった。

 

よく聞いたことある声だ。

 

これは、確か……そう、アムロ。

 

 

 

「ぁ、ぁぁ、ぁぁ!」

 

 

 

砂浜に膝をつき、そこに崩れ落ちて、痛む頭を押さえて、その訴えが『黒数強夏』って人間を確かにさせていたことを少しずつ思い出す。

 

 

俺は見送られた。

 

この声に。

 

それ以外にもあったはずだ。

 

 

この空で『約束』を果たそうとして、一度は落ちてしまって、でもまた飛ぼうとして…

 

 

 

 

 

俺は子供達を死なせやしない!!

 

 

過ちはマフティーが粛清する!!

 

 

応えろよ!ユニコォォーーン!!

 

 

頼む!ガンダム!天まで昇れ!!

 

 

勝利を掴めとォォ!轟叫ぶッ!!

 

 

見えた!?月は出ているか!!?

 

 

行け!行け!ホワイトドール!!

 

 

俺が!俺たちが!ガンダムだ!!

 

 

弱かった自分とお別れをした!!

 

 

轟けぇ!!アトラスガンダム!!

 

 

 

 

 

 

 

数々ある声に惹かれて、押されて。

 

 

 

 

 

 

 

__さあ!向かってくれ!

 

 

__僕はあなたを信じてますから!

 

 

__もちろん!これからだよ!

 

 

__いけ!今すぐ行くんだ!

 

 

__兵士達よ!進軍ス!

 

 

__加速しろ!!誰よりも早く!!

 

 

 

 

 

 

 

心を揺れ動かされた物語の英雄達にその魔法を託されて…

 

 

 

 

 

 

 

 

__頑張れよ、殻のついた、ひよっこ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺には【続き】があったはずだ。

 

ガンダムバーサスの【続き】が!!

 

 

 

 

「そうだ!そうだっ!俺はそうだった!」

 

 

 

 

震える手で顔を押さえて、指の隙間から見開かれた目は海面を捉え、ひどい耳鳴りは人々の嘆きに代わり、この世界にない別の世界の願いが『黒数強夏(ガンダム)』に訴えている。

 

 

 

でも…

 

それは…

 

勝手に願わせただけの使命。

 

 

 

ただ…

 

そう…

 

俺はそれよりも先に投じた、名がある。

 

 

 

"その人"だけの、黒数強夏。

 

"その人"だけの、約束事。

 

"その人"だけの、隣を…

 

"その人"……いや、違う。

 

そんか曖昧じゃない。

その人、なんかじゃない。

 

俺にとって…

 

黒数強夏にとって…

 

大事で…!

 

大事な…!

 

大事である!

 

間違いに、その人は……!!

 

 

 

 

くろかず…

 

くろかず……

 

すまない………

 

わたしは君抜きでは……

 

無理だ…

 

 

 

 

 

 

「____うあああああああッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂浜での約束を思い出す。

 

 

舞鶴の、砂浜での、やりとりを思い出す。

 

 

弱さを打ち明け、俺に願った女性がいた。

 

 

その人は、なにかと自己評価が低い。

 

 

でも俺にとって素敵で素敵な女性なんだ。

 

 

それに対して人類は願那夢を求めた。

 

 

英雄を欲した。

 

 

その結果として魔法陣から厄災を払いしガンダム(武装)が召喚されて、空にあの頃の続きを願った俺を通されると言葉遊びの如く、その世界に都合の良い黒数強夏がガンダムバーサスとして招かれた。

 

 

でも、彼女だけは違った。

 

 

都合の良い黒数強夏を願うのではなく、俺自身を見て、助けてほしいと言ってくれた。

 

心を打ち明けれる相手として、頼りにしたい一人の人間として、助け合える関係として、黒数強夏って人間の手を掴んだ。

 

それは俺にとって孤児院にいた頃のように年下の子供が年上の黒数強夏(おれ)に助けを求めてくれて記憶や経験があったから、同じように頷いて助けた。

 

そりゃ、そのスケールは孤児院時代の頃とは違うかもしれない。やっていることは戦争に身を投じる行為である。けれど苦難逃れること叶わないその果てだろうと彼女を助けようと思ったから便利に与えられた力を持って、俺にとって正しくあった。

 

ガンダムかつ願那夢として。

 

 

 

 

「あぁ…ぁぁ、まい、づる、の、うみ、だ…」

 

 

 

 

思い出す。

 

明白に思い出す。

 

もう忘れない。

 

俺は、訴えてた願那夢の俺を思い出した。

 

願那夢だった俺が、空っぽで『続き』を始める前の俺に『願うぞ』と続きを訴える。

 

 

 

タイトルは__ストライクウィッチーズ。

 

引き金は__GUNDAM VERSUS(ガンダムバーサス)

 

その主人公(パイロット)は___黒数強夏。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

そして………

 

 

 

 

それから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しだけ時間が掛かった」

 

 

 

約10日間だ。

 

忘れて、思い出して、整理していた。

 

全てを終えてから俺はモニターの前にいる。

 

この世界でやることはやった。

 

この世界で可能な限り繋ぎも絶った。

 

あとは自然と色々な物が俺から無くなるだけ。

 

世間には迷惑をかけてしまうだろう。

 

でも、一人いなくなる程度良くあることだ。

 

俺の中では二人失っている。

 

意図的な消失を望むが、だが、ここからは俺の物語。

 

俺はこの世界から黒数強夏を無くす事を決めた。

 

そのつもりで今はいる。

 

 

 

「ははは、まったく…これで願い叶わずに戻れなかったらお笑い草だな…」

 

 

 

でもやったものは仕方ない。

 

今日までそのつもりで進めてきた。

 

でも戻れる確信はある。

 

どこでも購入できるゲーム機とゲームディスクだけど、画面のスイッチを入れてゲーム機を起動させれば、そこに刻まれた画面は…

 

 

 

【continue】と刻まれた画面。

 

意味は継続。

 

もしくは__続き。

 

 

何も選択してないのに、ただそれがパッと画面の真ん中に出てきて、ムーンレイスよろしく早く戻って来いとばかりに訴える。

 

 

 

「まるで異世界転生系のノベルだな。でも選ばれてそうなってると言うことはそうだろ?まったく、もしこれが今流行りの二次小説なら在り来たり過ぎた展開でとんだ駄作扱いだよ。もう少し捻れっての…」

 

 

 

思わず失笑してしまう。

 

けど目の前がリアルだ。

 

そしてこれからもリアルだ。

 

俺はストライクウィッチーズで『続き』を始めようとする、俺だけの現実だ。

 

 

 

「魔法は奇跡か…」

 

 

 

片付いたテーブルの真ん中にひとつだけ場違いなモノが置いてある。

 

いや、場違いではないか。

 

俺にとってはキーアイテム(犬の折り紙)だ。

 

 

 

「宮藤芳佳。君の魔法は外の世界でも人を救うらしいな。お陰で頭の痛みも無くなって、つっかかりも取れて、記憶も、経験も、役割も、定かになった。それと…」

 

 

 

宮藤芳佳から土産話の代わりにお礼としてくれた鼻先の赤い扶桑犬の折り紙。

 

あと鼻先が赤いのは宮藤芳佳が折り紙中に指を切って赤くしてしまったから。それでも俺は気持ちの篭ったお守り代わりとしてその扶桑犬の折り紙を彼女から貰った。

 

それから舞鶴の空でハッパさんと飛行テストをして俺は空から落ちて、両足は大怪我を負って病院で昏睡状態にあった。

 

すると眠りつく意識の中でガンダムの英雄達と会うのと同時に『犬』も現れるとボロボロに怪我してた足を舐めて傷を治してくれた。

 

その犬は、宮藤芳佳からお土産として渡された扶桑犬の折り紙だった。

 

そして赤い鼻先は宮藤芳佳の血。

 

それが魔法(奇跡)として力が働いて俺を救った。

 

 

 

「あ、そうだ…」

 

 

 

俺は『コンテニュー』のYESのボタンを押す前にその犬の折り紙に指を割り込ませ、紙を開いた。

 

そして孤児院で子供達によく作ってあげた『とある生き物』の形に折り直して、完成させた後それをポケットに収めた。

 

これからの"布石"として、願いを込める。

 

 

 

「よし、戻るぞ、ガンダム…」

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

「約束を今果たすぞ、北郷章香!」

 

 

 

 

 

 

ボタンを押す。

 

コンテニューのYESを押す。

 

続きからを意味する画面は切り替わる。

 

意識は飲み込まれた…

 

黒数強夏は…

 

ストライクウィッチーズの世界に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月14日

 

黒数強夏の死を悼まれてから早くも一ヶ月が経過していた。扶桑皇国軍が代表とする最強格の男性ウィッチ、もしくは願那夢の消失によって軍は困惑と動揺を生み、彼の影響を強く受けている場所では大幅な士気低下を起こしてしまう。

 

それでもネウロイの攻勢は鳴り止まなず、追い討ちをかけるように扶桑皇国軍を追い詰めていく。

 

ただ唯一幸運なのはその日、夜間哨戒にて黒数強夏と交戦した人型ネウロイがその先から現れることが無かったことだろう。

 

大打撃を受けた軍が再編されるまでの間、命を賭けて新型ネウロイを抑えたその功績は亡くなった後も讃えられる。誰もがそう感じる。

 

それでも夜間適正の低さゆえに無茶な夜間任務に当てたことで、軍兵の登録上として海軍に種別される黒数強夏の運用を取り決める海軍は陸軍から多大な非難を浴びたり、また陸軍の再編成の遅さによって海軍は負担がかかったことで黒数強夏を失う羽目になった、など、互いに揚げ足取りに勤しんだりと仲違いを繰り返しながら扶桑皇国軍はそれぞれの役割を果たす。

 

でも、勘違いしてはならない。

 

黒数強夏その消失に対していちばん心痛めたのは陸軍でも海軍でもない。

 

 

 

その側近にいた 北郷章香 であることを。

 

 

 

 

 

「君が居なくなって一ヶ月だ…」

 

 

 

回線が途絶え、彼の身を案じて、通信室でその無事を祈り、どうかまた「おかえり」を言えるように彼の姿を待ち望み、そして彼は帰ってこなかった。

 

何かの間違いかと思った。

 

何かの嘘かと思った。

 

あの人が落とされるなど考えなかった。

 

例え、夜闇の中でもあの人ならどんな厄災だろうと振り払い、最後は朝日が見えるその真ん中で無事な姿を見せてくれる、そんな人間だったのに、不可解な魔力を感じ取ったその空で彼は朝日と共に散った。

 

おかえりと、迎える言葉も叶わず、失意と、その無力感に飲まれ、震える体はしばらく止まらず、初めてその日隊長であることを忘れて膝から崩れ落ちた自分がいた。

 

 

黒数…

 

くろかず…

 

くろ、かずっ…

 

 

彼の魔法力を感じ取れなくなったことがなによりの証拠である。1日、2日、3日と第十二航空隊も黒数強夏の捜索にあたり、ウラルの戦場を探し回った。けれどネウロイは追い討ちをかけるように人の体を脅かす瘴気を広めながらその活動域を扶桑皇国に伸ばし、そして黒数強夏の生存は絶望的になった。

 

捜索が困難と化した10日目。

 

扱いは戦死となった。

 

 

……信じていたのだ。

 

ずっと信じてた。

 

彼はどこかで生きてるはずだと。

 

その魔法力を感じ取れなくなったにも関わらず彼は何処かで生きているはずだと、崩れ落ちそうな自分の心を守るようにそう願う。

 

もう存在しない存在に私は願っていた。

 

けれど、彼は英雄を否定する人間そのまま。

 

都合の良い無敵の英雄では無かった。

 

だからこれが現実。

 

これが事実。

 

願那夢は厄災の中に堕ちた。

 

 

 

「……」

 

「竹井、しっかりしろ!そんなんだとバカ数が報われないだろ!」

 

「若本…」

 

「オレ達が継いで、バカ数の跡を無駄にしないように飛ばないと!誰が願那夢の軌跡を覚えるんだよ!第十二航空隊をここまで強くしてくれたバカ数の多くを無駄にするな!」

 

「っ、ごめん、ごめんね。そうだよね、その通りだよ…でも、わたし、それでも涙が止まらなくて…」

 

「……もう泣くのはやめるんだ。そんなのバカ数が……オレ達の副隊長が望まない」

 

「醇ちゃん、若本の言う通りだ。私達は准尉が教えてくれたことを守り、無駄にしない。わたしたちで継がないとならない。願那夢だった人に空で報いるんだ」

 

「美緒ちゃん…」

 

 

 

彼の消失に悲しむウィッチは多い。

 

だけどネウロイは悲しみを待たない。

 

願那夢を踏み台に人類を追い込まんとする。

 

だから涙に頭を垂れてる場合でない。

 

しっかり顔を上げて空を見る。

 

彼がその場所に願っていたように。

 

私達で『続き』を始めることを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして7月25日

 

 

ウラルの戦場で 山 が動いた。

 

 

 

 

 

つづく







元の世界の黒数強夏を捨て。
箒の世界で黒数強夏の続きを始める。

その人間の魂と意志が然るべきところに惹かれるのはガンダムあるあるだからこのくらい普通なんですよ、ええ。


ではまた

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