あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ…?
おれは石川県加賀市に連れて行かれたと思ったら北郷家の玄関前に降りていた…
な…何を言ってるのか、わからねーと思うがおれも車越しではわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
サイコミュ兵器だとかガンプラバトルだとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ…
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
「むしろ片鱗で済めばいいんだけどなぁ…」
さて、現実逃避も許されない最中、俺は北郷家の家紋が刻まれた門をくぐり抜けたあと先導する北郷家の案内人の後を着いて行くのだが、向かう途中で章香が「先に向かってくれ」と行先で別れてしまい俺は案内人と取り残される。
俺も「はい?」とワンテンポ遅れて返したが既にポニーテールを揺らしながら別の道に歩みを進めてしまいその声は届かない。
そうやって廊下の真ん中で佇んでしまうが案内人から進むように催促されて引き続き案内される。
客間に到着した。
案内人が襖を開けるとそこには座布団が二つだけ敷かれた畳の部屋だった。
わぁ!ここが客間ですか(白目)
色んな道具がありますねぇ(撹乱)
こんなに揃っているとは思わなかった(恐怖)
のように、現実逃避を試みた故に電波を受信してしまった俺はキャパオーバーを起こして立ち止まっていたが案内人はそんな事を気に留めず「こちらの方でお待ちください」と一枚だけ敷かれた座布団に待機場所を差し出される。
俺は「あ、はい」と半ば諦めながら一つだけ用意された座布団の元まで向かう。
最後に役人から「何卒宜しくお頼み申し上げます」と意味深な言葉を残して襖を閉じらた。
もう嫌な予感しか漂ってない。
てか俺はこれから一体何されるんですか??
石川まで来たものだから本格的な慰安旅行だと思ってワクワクしてたらアクセル全開!ハンドルを右に!そうして温泉町から離れて行く。
これにはインド人も右にびっくり。
それから答え合わせとして北郷の実家に連れてかれてしまい、言葉が出なかった。
その後も大した説明もなく家紋をくぐり抜けて奥までドナドナされてしまう始末。
今宵は夏なのに身が震えてきたゾ…
「な、何が目的なんだ…???」
実家に連れていかれる。
まあ、これは、うん、わかる。
自慢の部下だとか、頼もしい仲間だとか、色々と募った想いを元に私は元気ですと親に報告したい気はわかる。俺も親が生きてたら優秀なウィッチとして成長した竹井とかめちゃくちゃ自慢したいし。これは副隊長として本心だ。
けれど……招かれるにしても流石に……ねぇ??
コレがもし華族でもない普通の一軒家、まあつまり身分に囚われのない平民だったら現世にいた頃のように「あ、どうもです」とか「お世話になってます」のように社交辞令のためほんの少し畏まるくらいで、あとはその場の雰囲気と空気で徐々に打ち解けつつ和やかを望める筈だよ、うん。
てか俺もそういう経験あるし。孤児院の出として世間に疎い中で色々教えてくれたりとお世話になった人はそこそこいて、その親に挨拶だってしたりと経験はしてきたよ。
煽り抜きで「助かりました」だから、ほんと。
もっとわかりやすく例えるならアレだ。
宮藤家に手紙を届けに宮藤博士のご家庭を訪ねたあの程度の感じだ。
あのくらいならまだ全然ご両親に顔出しするくらい平気だ。
お世話になってる身故に直接のお礼も言えるし、あまり気負わないで済むからな。
とりあえず、そのくらい全体的に難易度低くいほうが精神的にも助かる。
だけど今の現状どうだ?
招かれたのは華族の家。
あのね?章香が内緒でどこかに連れて行くことは良いんだよ。まだ浦塩が生きてた頃だって第十二航空隊のウィッチ達にお出掛けとして港町に連れてきて、帰る前にサプライズで貸切の温泉に連れて行くなど喜ばせる事はあった。彼女は人にサプライズができるユーモアセンスをお持ちだ。それはいいことだと思う。
けれどさ……上げて落とすの怖すぎだろ!?
そりゃ俺が一方的に期待した結果なんだろうけど、でも石川県の加賀市に連れてこられたら流石に温泉地を相手にその気になるよ。
てか湯船に浸かるなんてそうそう無いからな。
ウラルじゃ最後の方なんかネウロイにほとんどインフラ破壊されて浴びれるのは水道のホースとそれで普通だったし。だから温泉地はあまりにも期待値が高かくてオラワクワクしてたぞォ!!(過去形)
しかしワクワクは浜で死にました。
ネウロイを討つために…!
いや今回はネウロイ関係ないか。
あ、でもネウロイはくたばれ。
「でも華族の御実家に招くのは流石にマキオンのV2アサルトバスターがS覚醒で蹂躙してくるレベルの話だぞ…」
もう一度言うけどこれが普通のご家庭ならまだ良かった。ここまで気負わない。緊張したりはするけどここまで恐れない。しかしコレが民草とかのレベルじゃなく華族に招かれた上に、北郷の家名を持つ章香から直接北郷家に招かれたってことだ。しかもほぼ強引にな。
え?
北郷家は他の華族と比べてまだ小さい方?
いやお前さぁ…住民登録すら済ませてない世捨て人からしたらそこに大差ないからな??
「と、逃走経路を探っておくか……」
とりあえず言われた通りに大人しく座布団に正座した後、怪しまれない程度にキョロキョロと見渡して万が一のための逃げ道を模索し、頭の中で逃走ルートを確保しているとザァー!と襖が勢いよく開かれた。
一瞬にして部屋の空気を張り詰めさせるような威圧感が頬を撫でた。
俺は背筋を伸ばして身構える。
そこには一人の男性。
間違いない。
北郷章香の___父親だ。
「お主が__黒数強夏か?」
「あ、はい、そうです」
お、死んだ?
これ死んだか??
また現世に戻る??
いや戻れる訳ねぇだろ。
次は奇跡起こらないって。
それよりどうする?
この場をどう凌ぐっぺ??
誰でもいい、教えてくれ。
なんなら院長でも構わないぞ。
……え?何?
教えを乞うならゼロシステムが一番?
馬鹿野郎、あんなのに頼めるか!!
まずゼロは何も言ってくれないんだよ!!
え?なに?
手段はある?
逃げれば一つ?
進めば二つ手に入る?
あー、なるほど。
でもこの場に二つあるのは座布団だけだよ。
ははは、草バエル。
やかましいわ。
___お前を殺す(デデン!)
「お、お、お…」
「?」
「俺が
「………」
混乱から生まれた謎の主張が部屋の中で響き渡り、静寂の中に消える。
そして男から反応は無かった。
「………以上です」
以上じゃなくて異常だった俺氏。
無事、木製エンジンで燃え尽きる。
もうやだ、お家帰りたい!!
まあ元々帰るお家なんて無いけど。
仮にあっても舞鶴にある蔵か?
てかそこはどうでもいいよ。
え?なんで願那夢を名乗っただって?
いやだって自爆ショーのWガンダムは参考にならないから物語終盤で対話の作品と化したOOガンダムなら何とかなりそうだと思って願那夢名乗ったけど、見ろよこの静寂!!
ははは、なぁ、お前ら…
こんな世界で満足か?
俺は、嫌だね…
ロックオン、ロックオン…
ちなみにロックオンされてるのは俺の命運。
見ろよ、この人の立ち姿。
家名を背負った人間だぞ。
「願那夢か、名は聞いておる…」
「!」
「よくその命一つでウラルの侵攻を止め続けてくれた。扶桑皇国を、その国民を、守りたい一人の軍人として、感謝する」
「い、いえ!頭を上げてください!そんな!恐れ多いですから!!」
その男は頭を下げた。
規律に忠実な角度だ。
だから、まぁ確信に繋がる。
「あの、失礼ですが、海軍少将の『
「いかにも」
「!!、ふみ……あ、じゃなくて…自分の上官である北郷章香少佐からお伺いしております。この世で一番尊敬すべき素晴らしい父君である方だと…」
「……そうか」
「はい。そして、その北郷章香少佐も大変素晴らしい方です。自分は少佐に多く助けられて今があります。だから願那夢は名乗りは有りしも一人歩きしてる名ばかりした英名です。それを背負う人間は大したことありません。俺は… まだそれ相応に歩めてる者だとは…」
「……娘から、文が届いておる」
「え?」
「自分に勿体無いほど素晴らしい男性に出会い、日常に於いても、戦場に於いても、手のひらに乗せきれぬほどの資産価値を秘めたその男に対して自分はそれ相応かと、不安を抱く文が何度か届いておる」
「!?………」
「まったく、相変わらず……」
その眼は少しだけ寂しそうで、もしくは悲しそうで、だがそれが北郷章香だからと納得したような視線と、見え隠れされるため息混じりの言葉が続き…
「自己評価の低い」
「自己評価の低い」
と、俺もそう言葉を重ねれば。
「ですよね?」
「!」
目を見開いた男が、北郷章香の父親がいる。
「だから、その… いつも俺が否定するんですよ。章香は凄いって。君は皆が自慢する第十二航空隊の隊長なんだってそれを繰り返す。その度にほんの少し困ったように笑う。けれど自分の精一杯を何事にも費やすそんな人です!それが彼女の最大の美点で、俺はそれをよく知ってます!近くで見てきました!地でも、空でも、海でも、あらゆる場所で!本当に素晴らしいウィッチであることを…!」
「…」
「だから、自分は章香と出会えたことが__」
「……章香…か」
「え?あ、はい、ふみか………ぇ??……ッッ!!??ああああ!いや!ええと!あ、あの!これは!その!違くて…!」
「……」
うわああああ!!やばいって!?おいおい!父親の前で流石に呼び捨てはやばすぎだろ!?せめて『娘さん』とかだろ!?ああああ違う!それも全然まずい!!てか、いやいやいや!!何親しげに人の娘さんの名前をこうも呼び捨てしてんのさ!?まずいって!やばいって!
あかん、茂史さんの肩が震えてる。
これは…これは…!!
殺され__!!
「………ふっ」
ゑ?
「はっはっはっはっはっは!」
「!!?」
大笑いされた。
いや、それはそれでこの後が怖いのですが…
「なるほど、確かに聞いた通りの男だ」
「ええと…」
急に北郷茂史の雰囲気が変わる。
寡黙そうな雰囲気はそのままだが、先ほどまでとは打って変わってどこか柔らかな表情を見せると張り詰めていた空気はいつのまにか落ち着いていた。
「黒数強夏と言ったな?」
「は、はい!」
「うむ。気に入った」
「うぇ!?」
「お主なら任せられるだろう」
「…ええと、何をですか?」
「章香のことだ」
「……あー、ええと、それは、つまり北郷少佐を上官に置いた副隊長としての…」
「むぅ…そうではない。君が我が愛娘の許____」
__あなた、お待たせしましたわ!
襖の奥から人の声が聞こえる。
すると北郷茂史「入れ」と一声。
すると「失礼します」と声が聞こえる。
一瞬、章香かと思った。
しかしすぐに違うことがわかった。
そらから襖が開き、二人の女性が入ってくる。
一人はどことなく章香に似た女性だ。
もしや茂史さんの奥さんか??
これも一瞬だけ章香かと思った。
遠目から見れば似ていると勘違いするかも。
そして、最後に入ってきたもう一人の女性が俺に姿を見せる。
「ッ__!!!???」
いつもの軍服の代わりに色鮮やかな振袖を揺らし、トレードマークのポニーテールを解いて髪を長く下ろし、一本の
この姿に、心臓が全身を打つ。
その女性はこちらを見て…
「く、黒数……その、ま、待たせたな…」
「ッ〜!!」
声を聞いて、北郷章香である事はわかった。
「あなた見て!この子ったら、久しぶりに着飾られちゃって!とってもお似合いね!」
「お父様、その…振袖、どうですか??」
おずおずと尋ねる章香。
その姿は第十二航空隊の隊長ではない。
敬愛する父を前にした『娘』の姿だ。
「ああ…とても似合っている」
「!!…はい、それは良かったです」
「きききき、き、きた、きたご、う??」
再びキャパオーバーとなった脳内で情報処理が追いつかず、手をワナワナとさせ、口をパクパクとさせ、なんとか引き出せた彼女の名前で確かめる。
こちらに一度驚いた目をして、ふわりと笑い。
「ああ、私だよ___黒数」
「………まじ、か」
ここに来た時の衝撃によって脳内でアクシズが落ちてのだが、今の衝撃でもう半分のアクシズ落としが始まった。
お陰でサザビーは爆散し、サイド7は真っ平だ。
「あら、娘があまりにもめんこいから言葉が出ないかしら?」
「!!……そ、そうなのか?黒数…?」
「へ?……あー、ええと、うん。……え?なんだって?」
「!」
「あらら『うん』だって。よかったわね、章香」
「え?……ッ!!?あー!待て!違う!そうじゃない!これはそのっ!」
「あら?じゃあ可愛くないのかしら?」
「いや!そんなこと!全然!めっちゃ可愛らしいですよ!本当に見違えました!いつもの軍服とは打って変わって印象も大きく…!すごい…いい、と、おもいま、す………ああ、とても綺麗だ」
「〜〜〜ッ!!」
この時の俺はもう、何を語り告げるべきかわからなくなり、それはもう、心のままに言葉を重ねていたから、それを聞いた彼女の心情なんかお構いなしであった。
だけどこれは間違いない。
振袖を揺らす北郷章香は美しかった。
「さぁ!夕飯しましょう!」
「っ!は、母上!私も手伝います!」
「あ、それはダメよ、貴方料理下手だから」
「ぐあっ」
「…………………ハッ!!」
ワンテンポ遅れて正気になる。
すると目の前には膝から崩れる章香の姿。
え?どうしたん??
あー、料理?
うん、下手超えて壊滅的だから立たせない方が良いな。
「く、黒数!お前もか!?」
「おにぎりに生牡蠣入れるとか本当の意味で飯テロする章香にキッチンは立たせれないな」
「うぐっ!?いや、でも、あの頃とは比べて少しは良くなったぞ!?」
「仮にグレードアップしてもおにぎりに甘納豆は無いわ。おせちかよ」
「な、納豆の巻き寿司はあるのに…!」
「捻り込み *1くらい捻りすぎなんだよ!もう少しご家庭の味を想像しろよ!もっとありきたりなシンプルな具材で良いからさ!」
「っ、なら、夏みかん、とか…!」
「それならまだ米だけでいいわ!」
「あらあら、茂史さん見て。お弁当の具材のことまで考えてるなんて。もう既に先のことを考えてるのね」
「
「あら?一度会ってみたいと思ってたのは茂史も同じじゃないかしら?私はただ愛娘が紹介したい自慢の
「やれやれ、たまたま帰ったからいいものを、まさかそのまま都合良く出会えてしまうとはな。最初は願那夢が来ると聞いて何事かと思ったが、少しイタズラが過ぎるぞ」
「ふふふっ、だってあの娘自ら『二人に紹介したい』と言って異性を連れてきたのよ?なら母として愛娘の頑張りを手伝わないわけにはいかないわね。だから少しくらいは魔法のイタズラを込めさせて貰ったわ」
「……変わらないな、君は」
「あら?そんな私を追いかけてきた扶桑の男は誰かしら?」
「一方的に追いかけて来たのは二海のほうだろ」
「そうだったかしら?ふふっ」
それぞれがこの日、想い人に寄り添う。
それはどこか似たもの同士に見えたから。
「な、ならば、蟹はどうだ!」
「蟹の具材ねぇ…」
「ちゃんと身は入れる!」
「……殻は?」
「え??……ああ!もちろん!剥くと思う!」
「お前もう船降りろ。赤城のな」
「ブラックジョークにしてはキツイな!?」
ブリタニア在中経験だけあってジョークに理解がある章香だが、それでも料理に対して理解が足りないず、そんでもってメシマズ属性はこのまま変わらないような気がした。
そして北郷家と食卓を囲い夕食をいただく。
石川県の数々の名物に舌鼓を打った。
あと
♢
さて、食事を終えて一休み。
縁側から、夜空を眺める。
もう諦めたが、4日分の泊まりが確定した。
それとついさっきまで北郷家と共に食卓を囲ったのが嘘みたいだがそこに馴染んだ俺がいる。
まあそれでも緊張した。
章香の父こと北郷茂史さんとは比較的良好な関係を築けたと思う。食事中は寡黙的に箸をすすめてたので会合後はあまり会話を持たなかったが代わりに章香の母である『北郷
__章香はどうですか?
__振り回されていませんか?
__料理は上手くなりましたか?
娘の前でそんなことを聞くもんだから章香も焦りながら頬をほんのりと赤く染めつつ母親の活発具合に苦闘する。これには扶桑の軍神も母親には勝てないらしい。母は強しか。
途中で茂史さんが二海さんを止めてたけどクスクスと笑い流して娘の自慢話を続けるあたり相当娘さんのことが好きなんだろう。微笑ましい限りだ。
まあ章香のことは色々聞けて楽しかった。その代償として頬を赤くしてうつ向く章香の姿は印象深かった。これには第十二航空隊の隊長であることも忘れて愛情注がれたただ一人の愛娘なんだと理解する。だから俺も章香が部隊の上司であることを忘れて色々質問しながら二海さんと会話を交わして良好な関係を築けた。かなり楽しい食卓だった。
最後はジト目の章香から抗議気味に恨めしい視線を受けたけど「今の君は何も怖くないな」と食卓にて解かれた緊張感から、いつもの調子を持ち込んでその頬を指で突っつきカラカラと笑い返してやった。ささやかながらも半ば強引に連れてきた報復だと思って受け止めてもらおう。
それから食事を終えて寝泊まりのための部屋に案内される。役人から荷物を受け取り、適当に転がし、蚊取り線香を焚きながら縁側に座って今日を振り返る。そんな夜だ。
「……」
そして思い出すのは章香の姿。
振袖、髪飾、口紅、香水、下ろした髪。
華族の娘だけあってその姿に貫禄があった。
だから…
その…
ああ、もう…
語彙力が無いな…
わかった、正直に言う。
「めちゃくちゃ綺麗だったな…」
いつもの彼女は軍服に身を包み、空を飛んでネウロイと戦い、軍属の者としてこの扶桑皇国を守り、第十二航空隊の飛行隊長として先陣を征く皆の自慢の隊長を演じる。それが北郷章香だから。
でも今日は違う。
北郷家の娘として振る舞っている。
敬愛す父の前では一人の娘として。
活発な母の前でも一人の娘として。
装束に身を包んだ一人の娘として。
もう一つの北郷章香の姿を俺は見た。
「……」
そう考えると心臓がうるさい。
今までとは違う熱。
俺は一体どうしたのか?
…
…
いや、もしかしたら…
だが、でも、それは…
「黒数強夏」
「!」
横を見る。そこには北郷茂史さん。
酒瓶を持ってやってきた。
二つの杯を持って。
「飲めるか?」
「あ、はい! 飲めます!」
改まって緊張する。
だが付き合い望まれて断る訳にはいかない。
茂史さんは隣に座る。
そして注いでくれた。
てか海軍の少将が注いでくれるとか普通に恐れ多すぎるぞ。
「乾杯しよう」
「は、はい!お供します!」
ぎこちなく返しながら盃に手を取り、飲む。
ほんのりと辛い味が口の中に広がる。
スッーと頭を貫く感覚だ。
でも、何か、一歩だけ進めた気がする。
大人の付き合いとしての大事な一歩だろう。
重みがあるこの味を確かめていると盃を膝に置いた茂史さんから声をかけられる。
「改めて、娘が世話になっている」
「!」
その声は海軍少将としてでは無く、一人の父親として耳に届く。
「何度も守ってくれたみたいだな。感謝する」
「い、いえ!そんな!大層なことは!じ、自分も章香さんから、大変お世話になっている身ですから、その、こちらこそ、茂史さんの大事な娘さんにはご迷惑をお掛けしております…」
迷惑かけてるのは確か。
それもブリタニアの頃からだ。
魔方陣の事を黙ってくれて、根なしの俺のために少なからず時間を与えてくれた。
そのころから、彼女に救われてる。
「娘を…章香どう見てる?」
「どう、ですか…」
「率直に聞きたい、娘の事を」
「…」
これは娘を思う父親としての言葉だろうか?
もしくは軍属の者としての尋ねるべき事か?
俺は少しだけ考え…
「章香さんはとても聡明かつ洗練された立派な方です。対する自分は根無しの世捨て人でして、本当なら彼女の部隊の副隊長に着任することすら怪しい者です。その隣に相応しいとは言えない立場にあります。正直、恐れ多いですよ…」
「……やはり、文に書いてある通りだな」
「?」
「気にするな」
そう言って盃に注がれた酒を喉に流し、再び月を肴に静かな夜夏の音が耳を通る。
俺も香り交わせ静かに眺めていた。
「ウィッチ…ですね」
「?」
「防波堤の右上、あれナイトウィッチですね」
「…よく見えたな」
「ええ、ウィッチはよく見てきましたから。だから目で追ってしまうんです。昼も夜もどこかで空を飛んでいると思うと、気づいた時には深い
「…」
「だから『見える』と、言うより『見えてしまう』ってのが正しい表現です」
「ウラルの最前線を支えし部隊の副隊長が言う言葉なら、それは間違いないのだろうな…」
「あとは……俺が
「……君にとって、それは特別か?」
「はい」
「フッ…即答か」
「この願那夢って言葉にいろんな意味が募ってますが、俺にとってコレはとても重要です。これがあるから今がある。そう断言できる。俺が黒数強夏たらしめるための魔法の箒。一度は落ちてしまった魂ですが宇宙に残した彼女との約束を続けるためにコレは飛んだ」
「…」
「彼女に___章香に願われたから」
今と同じような夏の季節だった。
ネウロイの来襲。
初陣の彼女は精一杯を貫き通した。
けれど怪異は簡単に空を奪い取った。
舞鶴も教え子も守れず、終わると思った。
しかし駆けつけた俺が空を取り返した。
それが俺にとっての『GUNDAM』の始まり。
そして魔女の隣を飛ぶ『黒数強夏』の始まり。
全ては舞鶴の海から何もかもが、始まった。
「黒数強夏」
年季の込められた、重い声。
その声色は海軍少将としての声にも捉えれた。
しかし、少し違う気がした。
温かみが篭った、別の重みを背負いし男の声。
率直に言えば『父親』としての声色に聞こえた。
その人は月を見ながら、表情は見せない。
横顔を暴かず、俺も真っ直ぐ月を眺める。
それは、しばらくして…
「これからも娘の事をよろしく頼む」
俺は、二つの言葉で返事をした。
その声は月夜に消えてゆく。
「くろ、かず…」
曲がり角の影なる暗黙にて、昂る感情は行き所を見失い、振袖を掴む事で鎮めようと、しかし熱昂まる頬は染まる赤に正直であり、それ影に隠すため魔女は俯き、昂まる熱量を堪える。
けれど想い人の名をその口でなぞれば、その声色には特別な感情が含まれている。
波打つ蒼海に、彗星 と 魔女 。
互いにその名を呼べば、静かな夜に胸打つ鼓動はどちらも同じくらいに、それはとても…
響き渡るのだから。
つづく
修羅場にしようかと思ったが北郷家の人間は人格者であって欲しいからこんな感じに収まった。ワチャワチャ具合を期待させた方は申し訳ないな。でも章香が可愛いからヨシ!
因みに振袖=勝負服的な。
どうであれ親公認ってことだな。
はい、GG。
【
扶桑皇国海軍少将。一言で述べるなら寡黙的で怖い。実際に怖い。現在は講道館で海軍の育成に当たる。親だけあって娘の自己評価の低さは見抜いているが、第十二航空隊結成後に文を受け取ってからはその筆書に心の安定を察する。しかし二度目の文にて願那夢の異名を持つ黒数強夏を副隊長に置いてることに驚くもそれが心の安定剤と知り、尚且つ、けたたましい活躍にて信頼できる男と認める。実際に出会って黒数強夏を確信した。
【
元海軍ウィッチであり、第一次ネウロイ大戦後の残党処理を行う部隊として欧州の空を鉄の箒で飛び回っていた。また同じ部隊に同期のジュンコ・ジェンコがいた。かなりのイタズラ好きな性格だったがとても優秀なウィッチであり、正反対な性格の茂史と出会ってからは一途に想いをぶつけると後に結婚する。もちろん血筋の関係としてコチラが北郷家の者である。娘をとても溺愛してる。
【北郷章香】
北郷家の娘として生まれる。父からは剣術と二刀流を学び、母からはその当時の飛び方を学ぶ。魔法力発覚後は父と共に皇都へ向かい英才教育を受けて優秀なウィッチに成長する。扶桑皇国を守ることに青春時代の全てを注ぐ一心だったが見事に黒数強夏の存在にて男性観が破壊されてしまった。自己評価弱々な隊長さん。でも第十二航空隊の皆からとても慕われている。ただ黒数のせいで教え子から「先生可愛い!」と言われるようになってしまった。反応に困ってる。先生可愛い。また反応に困る。先生可愛い。以下のやり取りをしばらく繰り返す。
ではまた