GVSウィッチーズ   作:つヴぁるnet

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第38話

 

 

__足折れてるな、その羊。

 

__え?

 

 

 

それは、約一ヶ月前の会話。

 

 

 

__毛に埋もれて見えないが足を庇っている様に見える……どうだ?

 

__え、嘘……あ、本当だ!?なぜ気づかなかったんだろう!?

 

__恐らくその子が隠してたんだろう。

 

__そんな!ごめんね、ごめんね!気づいてあげれなくて!

 

__メェ…

 

 

放牧中に調子の悪い羊が一頭だけ。

 

しかし何が原因で調子を崩してるのかなのかわからないでいたその時、一人の男性が通りすがりにそう言った。見たところ良くありげななんてことない観光客の様な気がしたけれど、その男性から一瞬だけ背筋が這いずるプレッシャーのようなモノが感じられた。それから調子の良くない羊の脚を見た。

 

たしかに文字通り浮足立った歩き方。その羊は極力地面に足が付かないようにしていた。脚は何処かで捻って、それで運悪く折れるところまでやってしまったのだろう。

 

早めに療養と考え、ひとまず羊達を小屋に戻そうかと考えたが周りには放牧したばかりの羊で、戻すのは少し手間だ。

 

羊は芝を()むことに夢中だから言うこと聞くか分からないから。

 

すると…

 

 

 

「羊なら代わりに見ておこうか?」

 

「!」

 

 

ありがたい申し出に感じられるが、大事な羊を素性の知らぬ部外者に任せて良いものか?

 

でも足の不具合を一眼見て只者ではない。

 

その意味では信用に値するのだろうか。

 

そう考えているとその人は岩に立て掛けていた私の杖を手に取るそれをクルクルと回し、羊の群れに杖を向けて…

 

 

 

あまりその場から動くなよ?

 

「「「メェェェ!??」」」

 

 

100頭ほどいた羊が同時に食む草を止めると全ての羊が顔を上げてその男性を見た。

 

 

「え、すご………」

 

「イケ、メェェェン」

 

 

 

これがこの人。

ジム・カスタムさんとの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__とまぁ、○○製って感じにあらゆる国がストライカーユニットを手掛けてるが、宮藤理論確立された以上作りはほぼ同じになった。なのでこれが仮にカールスラント製の戦闘脚だとしてもブリタニア方式のマニュアルで整備しても行き着く先は一緒だ。メンテナンスする順番が違うって程度の認識で良い。ただ今よりも時代が進んだら根っこは宮藤理論のまま独自の開発法を生み出すと思うけど、でもここら辺なら基本的にブリタニア製もしくはカールスラント製の骨組みで製造されてるだろうからそちらを中心に学べばまず整備技術は問題はない」

 

「ふむふむふむ、なるほど!!」

 

「とりあえずこの廃棄処分間近だったユニットを使ってレクチャーする。昨日の続きは覚えてるな?」

 

「大丈夫だよ!」

 

 

それから実技に取り掛かる。

 

作業台の上に置いてあるジャンク品はアンドラに来た行商人がジャンク品として売っていた廃棄処分される手前のストライカーユニットであり、外装も抉れ、中身はほとんどズタズタである。

 

魔力を通す魔道線は生きてたので外装は手直しして中身の部品を入れ替えれば半分くらいは動くだろうがアンドラには魔女がいないので今現状ストライカーユニットか動かなくても無問題だが、整備の練習として使うにはぴったりなので購入した。

 

 

「ジムさん、このユニットはジャンク品と言ってたけど、高くなかったの?」

 

「普通なら戦闘兵器って事で安くはないが保存状態の悪さと適正価格に対してのロストコストを追求しまくってめちゃくちゃ値切ったから大丈夫だ。それに金は持ってるからな。高値の換金物も多く持ってるし金銭は気にするな」

 

「へー、独身貴族って凄いね。でも授業のためにわざわざ買ってくれるなんて…」

 

「前に寝泊まりのための羊小屋を貸してくれてたお礼だよ。にっちもさっちもわからないあの時は大変助かった。大人買いに関しては子供が気にしなくていい」

 

 

それから購入した参考本を開きながら俺がこれまでの経験を活かしてジャンク品のストライカーユニットをバラして、直して、整備して、取り扱い方、そのやり方を教える。

 

俺自身もライセンスを取得した整備士ほど出来るわけでもないが簡単なメンテナンスならある程度できる… と、言っても実のところ戦闘脚はそこまで複雑じゃないので整備する手順さえ覚えれば原付バイクの整備とそれまで変わりない。重要なのは使用者に見合った微調整がその時にできる技量だろう。

 

特に飛行型のストライカーユニットはそこら辺かなりデリケートな部類だ。使用者の魔法力に耐えれずプロペラが内側で噛んでしまうとプロペラが閉じて落下する恐れもある。翼ってのは折れやすく脆いんだよ。

 

 

ガチャ

 

 

「マリア、それとジムさんも、そろそろお昼ご飯よ。キリ良く切り上げていらっしゃい」

 

「奥様、ありがとうございます」

 

「いえいえとんでもない。いつもありがとうね、この子のために」

 

「構いませんよ。滞在中はお暇なので、このくらいでしたら幾らでも」

 

 

 

こうしてお昼になるといつもお昼ご飯を一緒に頂いている。ありがたい。

 

 

「ふむふむ、これがこうなると、こっちのプラグは先に外すことになって、ああ、そしたら側面に付属する回路は…」

 

「あらあら、こうなるともう止まらないわね」

 

「マリア、お昼ご飯だってよ。今回はこれで終わろう」

 

「え…?あ、そうなの?…って!母さんいつのまに来てたの!?」

 

「あら?声届いたわね。それともジムさんだから反応してくれるのかしら?まったく、この子ったら」

 

「夢中になれるのは才能ですよ」

 

「ち、違うから!ジムさんはユニット整備の先生だからそこはちゃんと聞いてるだけ!」

 

「お昼、ありがたくいただきます」

 

「ええ、冷めないうちにどうぞ」

 

「ちょっと!?話くらい聞いてよ!そりゃ話を聞かなかった私も悪いけどさぁ!」

 

 

 

それからほんの少し不機嫌なマリアを交えて彼女のご家庭でお昼を頂き、それからマリアは羊の放牧のため家を飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 

さて、お昼を頂いた俺はそのまま町中に。

 

キョロキョロと見渡す。

 

 

 

「日当たり良いし今日はこの辺りでやるか」

 

 

小銭入れ代わりの空き缶を用意して、道具袋から用意した小道具を取り出す。

 

適当な木箱とお客様用の椅子を適当なお店から借り、ブリタニア語で『梳かし屋』と書かれた暖簾を下ろして準備完了だ。

 

すると…

 

 

「あらジムさん、今日もですか?」

 

「ええ、天気がよろしいので」

 

「そうなの?では今日もお願いしようかしら」

 

「はい。では椅子にどうぞ」

 

 

手に持った小道具、それは櫛。

 

揃えてるのは竹櫛や、椿櫛に、つげ櫛、あと普通のヘヤブラシなど、髪の手入れをするための一式だ。これを魔力で髪を梳かす。

 

 

「ジムさんに髪手入れしてもらってからは夫に褒められましてね。少し若返った?って」

 

「本当ですか?それはよかったです。髪は女性の重要な武器ですからね。男性の目を釘付けにする大事な要素。僭越ながら自分で良ければ本日もお手伝いさせていただきます」

 

「うふふ、それは頼もしいわね」

 

 

 

ウィッチの魔法力は不思議なことに体の汚れを落とす能力も備わっている。

 

また魔法力による身体能力の向上も相まって活力を与える能力も秘めているのが、魔法力の凄いところだ。そんな感じに身体共に健康的な状態が続くため魔女に美形が多いのは大体理由に当てはまる。美魔女って奴だ。

 

なのでそれを利用した魔力エネルギーで髪の毛に溜まるダメージを回復させ、櫛で綺麗に整えて髪に活力を与え、艶を作る。

 

と、言っても劇的に変わる程ではないが、櫛を入れる前と入れた後なら手入れした後の方が心なしか綺麗に映る。これが結構評判良い。

 

まあ魔法力で手入れしてることに関してはシークレットであり、この『梳かし屋』ってのはこれまで渡り歩いた先で手に入れた櫛を使って髪を梳かしますよ趣旨であり、言わば靴磨きに似たようなものだ。

 

日本円で言えば一回100円くらいだがほんの数分程度の手入れなので妥当な額だと思えるしなんなら無料でやっている。

 

お金はその時のお気持程度に頂いており、お金に関してもそこまで困ってないが、路銀の足しになればと思ってやっていることだ。

 

それでも大体は貰ってる。

 

無料でやってるのは興味持って集まってきたお子様くらいだろう。モスクワとかバルセロナでも大体そんな感じだった。

 

ちなみにバルセロナでウィッチのイリスにこの訓練を設けたのだが、それは元々俺が『梳かし屋』として路銀稼ぎに店を開いてたから設けれたことだ。魔力行使の訓練になる。

 

 

「ありがとうございます。ジムさんのお陰でまた若返りました」

 

「元々若々しいじゃないですか」

 

「あら、口がお上手ね」

 

「よく言われます」

 

 

 

それより何故『梳かし屋』なんて稼ぎ思いついたのかって?

 

別に、大した話じゃない。

 

まあ、強いて言うなら、綺麗に靡くそのポニーテールを毎日と言って良いほど手入れしてきたのは俺だから、それを思い出の一つとしてそこからなんとなく始めただけの話であるから。

 

 

 

「シルヴァーナ、少しココで待ってなさい」

 

「はい、お父様」

 

 

次のお客が来てもいいように櫛を手入れしていると少し離れた街灯の近くに一台の馬車が止まる。それだけでお貴族が手配した立派な乗り物だとわかり、馬車から出てきた男性も貴族服を纏っているので身分の高い人だとわかる。この辺りの人じゃないのはわかるがアンドラまで何用だろうか?

 

 

「……?」

 

「…」

 

 

視線を感じたので顔を見上げると馬車の窓からは赤色の髪に大きな白のリボンを巻いている少女がこちらを見ていた。目が合わさっても毅然とした態度で大人しくこちらをジッと見ている。

 

俺は指元でクルクルと櫛を回してリアクションを取ってあげると少しだけ目を見開いて、次にブリタニア語で書かれた『梳かし屋』に視線が行くと何かを考える素振りを見せると馬車の扉が開いてこちらまでやって来た。おやおや?

 

 

「お兄さん、その、梳かし屋って、なんですか?」

 

「文字通り、髪を綺麗に梳かすお店だよ」

 

「ほんとう?……わたしもしてくれる?」

 

「おう、全然構わないぞ。でもお父さんを馬車で待ってなくて大丈夫?」

 

「……少しくらいなら、大丈夫」

 

「わかった。なら俺もそのためにちゃちゃっと済ませようか。ほらここに座って。それとその真っ白リボンは外して良いか?」

 

「あ、待って、自分で外す…」

 

 

ふわりと揺れる薄めの赤毛とそのポニーテールから外される真っ白リボンはいまの彼女のトレードマークだろうか。

 

それから薄らと手のひらに魔法力を纏わせ、櫛に流しながら赤毛に通す。イリスに教えたのと同じ通りに。綺麗に櫛を通す。

 

やや癖毛が強いな。

 

 

「お嬢さんはどこから来たんだ?」

 

「父上とロマーニャ帝国の方から来ました。今日はその付き添いでこの場所まで。兄さんはアンドラに住んでいるんですか?」

 

「自分は旅の者だよ。とある遠い島国から海を渡り、歩いたり、飛んだり、そしてココまで。そういやロマーニャ帝国も横断する時にトリノの辺りは足を踏み入れたかな」

 

「旅は楽しいですか?」

 

「かなり楽しんでますよ。まあ少々厄介事を招いた上でこうしてるところもあるけど」

 

「厄介事…?」

 

「ああ。例えば最初は英雄、最後は恐怖のカケラ、そう扱われてしまうと次に閉じこめられてしまいそうになった。自分はそれがとても嫌で外に出た。いまは旅をして逃れているつもり。でも… それはそれで旅を楽しんでいる。けれどまたいつかその場所に戻る。そう約束してるからな……さて、髪の毛はこれでどうかな?」

 

 

手鏡持って手入れ後を見せる。

 

 

「あ、綺麗になってる。すごい…! これどうやったの?お屋敷の人でも苦戦してたのに…」

 

「ここだけの話。実はお兄さん旅する魔法使いなんだよ」

 

「え?………嘘っぽい」

 

「おやおや?そんなこと言うと魔法が解けて癖毛が戻っちゃうぞ?」

 

「え?」

 

 

するとぴょんと真上に毛が跳ねる。

 

俗にいうアホ毛ってやつだ。

 

まあこれもこれで可愛らしいが。

 

 

 

「あ!…も、戻して!」

 

「ははは、残念だけど魔法も一緒にタイムリミットだな」

 

「え?」

 

「ほらほら、そこ」

 

 

 

櫛でちょんちょんと先を示すとそこに少女の父親が戻ってきていた。

 

 

 

「シルヴァーナ、馬車で待ってなさいと言ったじゃないか」

 

「あ、お父様…」

 

「そこの方、娘が申し訳ない」

 

「いえいえ、とんでもない。お嬢さん、今日は来てくれてありがとうな。楽しかったよ」

 

「!……いえ、わたしこそ、綺麗に梳かして頂きありがとうございます」

 

 

 

綺麗にお辞儀する、少女。

 

本当に良くできてる子だよなぁ。

 

まあそもそもこの世界の女の子ってかなりしっかりしているんだよね。

 

それが英才から備わったとするとまた違う。

 

 

 

「あのお父様、先に馬車まで向かってください。わたしもすぐに向かいます」

 

「む?…ふむ、わかった。それとそちらの方、しばし娘が世話になった。礼を言おう」

 

「いえ、お気になさらず」

 

 

 

どこから見てもダンディーって感じの男性は場所の方に足を運び、そしてその娘は再び俺の方に振り向く。

 

 

「あの、もしよろしければ名前をお伺いしてもよろしいですか?」

 

「名前か?俺はジム・カスタム。皆からはジムと言われてる」

 

「わかりました。では改めてジムさん、本日はありがとうございました。あと、ちゃんとした硬貨をお持ちではないで代わりにこちらの方を受け取ってください」

 

 

何か差し出される。

 

これはメダル?

 

 

「これ普通の硬貨じゃないな?もしやアンティークコイン??」

 

「いえ、そちらはアンティークコインのレプリカです。ちなみに刻まれてるのは女神キュベレの銀貨です」

 

「おお、キュベレ!たしか大地女神って意味だったな?でも良いのか?こんな根無し草なこんな素晴らしいモノを貰っても?」

 

「はい。受け取ってください。純銀なので売値も高いかと思われます」

 

「いや、売らないよ!大事にするって」

 

 

 

それから馬車は動き出した。

 

そのまま町の奥に。

 

お貴族の住まう屋敷に向かっていく。

 

それにしても今日は凄い人に出会ったな。

 

まさかロマーニャ帝国からやって来た貴族の娘の髪を梳かすなんてね。

 

旅してると何が起こるかわからないな。

 

 

 

「さて、店仕舞いだな。流石にこの時間は寒くなって来た」

 

 

 

本日のお客は7人。

 

今日の夜ご飯分のお金は集まった。

 

道具をまとめて宿屋に向かい、部屋に荷物を置いたあと、適当な酒場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、お腹を満たしたあと宿屋に直行せずそこら辺を適当に散歩する。

 

やってることまるで隠居生活だ。まあ隠れて生活してるような状態だから強ち間違いないと思うけど、それでも旅自体は楽しんでるのでそのうち戻った時の土産話として沢山話せるだろう。

 

それでも外をほっつき歩くのも寒いのでとっとと宿に戻ろうか考えていると…

 

 

 

「あれ?」

 

 

 

なんとなく町の入り口付近まで歩いていたのだが、なんとそこには…

 

 

 

「?……あ」

 

「こんばんは、また会ったな」

 

「もしかしてジムさん?」

 

「おう、赤い髪から分かりやすかった。ええとシルヴァーナだっけ?お昼ぶりだな」

 

「はい、ごきげんようです」

 

 

お行儀よくお辞儀する。

 

なんか貴族というよりお嬢様って感じだな。

 

まあ、そう安易と表に現れやしないだろうが。

 

 

 

「ところでお一人かい?また君のお父上が心配するんじゃないのか?」

 

「……少しくらいなら、大丈夫」

 

「そう言って、今日のお昼はちょいと叱られたんじゃないのかい?あまりおイタが過ぎると悪い奴に捕まっちまうぞ?」

 

「大丈夫です、今はジムさんがいますから…くちゅん!」

 

「流石に夜は寒いな。ほれ、上着だ」

 

「え、でも…」

 

「お兄さんは魔法使いだからな。寒さには特段強いんだよ」

 

「……子供騙しです」

 

「そんなことないさ。ほら、真上に立つその癖毛以外は綺麗に毛先が伸びてただろ?魔法使いだから綺麗に手入れできたんだよ」

 

「それは…そうですけど」

 

「良いんだよ。とりあえず子供は甘えれる内に甘えとけっての。ほらほらほらほら」

 

 

ゴリ押して上着を着せる。

 

ちなみに寒くないのは本当。

 

魔法力があるから。

 

 

 

「で?どうしたんだこんなところに一人で?」

 

「……それは」

 

 

問いてみる。彼女は迷いながらも何かゆっくりと言葉にその理由を出そうとしていた。

 

 

「あの、ですね…」

 

「うん」

 

「もしお兄さんが本当に魔法使いだと言うのなら、声が聞こえたりしますか?」

 

「声?」

 

「はい。私になにか声が聞こえてんです」

 

「ふむ、どんな感じのだ?」

 

「その、なんというか……見つけてほしい?」

 

「見つけて欲しい?…それは人の声?」

 

「分かりません。でもここに来てから何か求める声が聞こえたんです。それが何かわかりませんが…」

 

「ふむ。なるほど……声か…」

 

「わかりますか…?」

 

「…」

 

 

少し考える。

 

声……なんの声だろうか。

 

ここアンドラに来て聞こえたことはない。

 

でも、この世界であり得ることを考えたらそれは何か不思議なことなんだと思う。

 

だから考える。

 

 

 

求める…か。

 

 

 

「シルヴァーナ、その声は君に求めるような響きだったのか?」

 

「え?う、うん……そんな感じがした」

 

「そうか。ならその魔法が解けない内に俺と探ってみるか?」

 

「え?」

 

 

俺は首を傾げるシルヴァーナの後ろに回ってその両肩にそっと手を置く。ビクッと震える体。

 

 

「ジ、ジムさん?」

 

「安心しろ、これは髪を梳かす時と同じだ。さてシルヴァーナ。まずは目を閉じて、次に耳を立てて、それから求めるナニカを強く感じ取ってみて。それが形にならずともシルヴァーナって魂に訴えかけている、そのナニカがあるのならそれは間違いなんかじゃないから」

 

「!………うん、わかった」

 

 

 

ピレネー山脈からアンドラに舞い込むのは穏やかな風。それが俺たちに流れ込む。

 

すると少女の体から鮮やかな緑色のオーラが溢れ出す。しかしそれは俺と彼女にしか見えない二人だけの光だろう。

 

それを言葉に表すなら『共振』の二文字だろうか。まるでサイコフレームの光のような。

 

 

 

「『シルヴァーナに届こうとする声が本当ならソレは間違いなんかじゃない。だからもっと見開いて。それをよく聞いて』」

 

「『うん』」

 

 

アンドラの町から意識が広がる。

 

すると___町の上に意識が浮いた。

 

 

 

「!!??」

 

 

 

少女は驚く。

 

空を飛んでいることに。

 

町の入り口には俺たちが並んでいる姿も。

 

そして再び意識がアンドラに飛び交う。

 

まるでそれは……そう。

 

大地女神(キュベレイ)のファンネルのように意志があってこのピレネー山脈の中を飛び回る。

 

 

 

___そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『メェェェェ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!」

 

 

 

シルヴァーナは意識が体に戻る。

 

不思議な出来事に驚き目を見開きながらも、聞こえた声を頼りに町の外に走り出した。

 

 

 

「おっと、随分と足が速いな」

 

 

俺は入り口に飾られた松明を適当に掠め取ってシルヴァーナを追いかける。

 

そんなシルヴァーナは意識の奥で探し当てたソレを求めるように夜空の草原を駆ける。

 

 

 

「はっ、はっ!」

 

 

そしてシルヴァーナは立ち止まる。

 

そこには…

 

 

 

「メェェェ…?」

 

 

 

 

 

声の主___一匹の『羊』がいた。

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ、ちゃんと聞こえたから」

 

「メェ、メェ」

 

 

 

するとその羊も声を返す。

 

伝わっているみたいだ。

 

 

 

「(それより、この羊…?もしや…?)」

 

 

 

俺はその羊から霊的なナニカを感じ取る。

 

だが害があるようには見えない。

 

ただ、不思議なだけだ。

 

 

 

「こんばんは。あなたのお名前は?」

 

「メェ?」

 

「あ、お名前は無いの?それは寂しいね」

 

「メェ…」

 

 

 

そんな少女は、臆することなく、躊躇うことなく、羊に寄り添う。

 

その姿は何というか隣人って言葉が似合うように感じられた。

 

 

 

「なら自己紹介をしましょう」

 

「メェ?」

 

「わたしはシルヴァーナ。それから貴方の名前は……あ、無いのね?それなら…」

 

「メェ?」

 

「うん、決めた! 貴方はペコラスチャン!」

 

 

 

こりゃまた唐突かつ不思議な名前。

 

でも愛情に近い感情を込めて名を決めた。

 

そんな気がするから、これはそれで良い。

 

 

 

「よろしくね!ペコラスチャン!」

 

「!」

 

 

少女の一方的な対話。

 

でも羊も楽しそうに耳をピクピクと動かして反応する。

 

そして…

 

 

 

「メェ!!」

 

「うん、よろしく____え?」

 

 

 

 

その羊は光った。

 

まるでその少女に応えるようにだ。

 

その光は粒子となり少女の体に浸透する。

 

そして…

 

 

 

「あれ?」

 

 

その少女に、耳と尻尾が生えていた。

 

 

 

「えええええ!!!??」

 

 

驚きの声が草原に広がる。

 

 

 

「なるほど、普通じゃないとは思ったが、まさかそう来るか…」

 

 

これは感覚的な話だが、質量が違った。

 

軽いと言うか、浮いてると言うか。

 

ともかく肉が詰まってない、そんな感じ。

 

フワッとした感覚だがその羊が光となり、シルヴァーナに浸透したことで理解した。

 

 

ハッキリ言おう。

 

さっきの羊は___使い魔だ。

 

 

 

「君は魔女としての才能があるんだな」

 

「え?」

 

「今の羊は使い魔だ。そして使い魔はその者に魔女の適性が無ければ見えることはない。しかし君は見えた上で語りかけた。しかもその上で名を与えた。契約に至るまでは充分だな」

 

「わたしが……ウィッチ??」

 

「シルヴァーナ、羊のペコラスチャンを強く求めてみて。そしたらその場に見えるはずだ」

 

「え?…う、うん……」

 

 

少女はまだ実感の湧かないままも先ほどの羊を求めて念じる。

 

するとパッとその場に出てきた。

 

 

「メェェェ」

 

「!」

 

 

 

間違いなくそこにいる。

 

周りには見えない。

 

だが彼女には視えるその魂がそこにある。

 

ソレ()はシルヴァーナにとって間違いなく本物にした証だ。

 

 

 

「メェ!メェ!」

 

「うん、うん!そうよ!私シルヴァーナ!よろしくねペコラスチャン!」

 

 

 

 

 

 

この日、少女は魔法使いを信じた。

 

 

 

つづく





【マリア】
アンドラに住まう羊飼いの娘。バルセロナに向かったイリスとは友人関係であり幼少期は二人揃ってピレネー山脈を走り回ったほど。とある魔法使いさん曰くマリアは身体能力が高く、また頭の容量は良いため、もし魔女なった場合早い段階でエースウィッチに仲間入りできると思っている。滞在中の魔法使いさんからストライカーユニットの整備のやり方を教わりと魔女の箒を束ねる役割を覚える。後にイリスと共に【アンドラの魔女】として故郷を守るようになる。

【シルヴァーナ】
この時まだ10歳であり、アンドラまで父の会合に同行し、その目的地で魔法使いさんに出会う。あまり感情を表に出さない静かな子供だが自分を分け隔てなく付き合ってくれる人を望んでおり、それが羊のペコラスチャンだった。その後探しに現れたシルヴァーナの父にウィッチとなった娘に驚かれたが魔法使いさんの説明によって事情を把握し、それから数年後シルヴァーナは飛行ウィッチとして軍入する。その後の飛行訓練中に魔法使いさんと再び出会い、ルミナスウィッチーズとして参入後も出会う機会が訪れたり何かと顔を合わせる機会が多い。ちなみに渡したキュベレのアンティークコインはシルヴァーナのお屋敷のVIPパスとして利用できるがそこは伝えてない。

【とある魔法使いさん】
半年前から櫛で髪を綺麗にする梳かし屋を開きながら旅先で路銀稼ぎしつつ、時折悩めるウィッチを助けている。不思議ながらも魔女候補生となるウィッチを中心に手助けすることが多いクソボケ君ムーブをかましているが、それでも扶桑に置いて来た『止まり木』に一筋なので他所に惹かれる心配は無い模様。アンドラで最高のお昼寝スポットを見つけて盛り上がり中。そろそろチェロスが食べたい。



ではまた

スピンオフ『アンドラの魔女』は読んだことありますか?

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