GVSウィッチーズ   作:つヴぁるnet

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第41話

 

 

カールスラント空軍の第3夜間戦闘航空団に民間人協力者という立場で裏向きに所属して早くも二か月が経過した。

 

この数ヶ月はそれなりに忙しく、一年前のウラル戦線を思い出すように活動することで部隊に夜間飛行技術をなんとか落とし込んできた… つもりではある。と、いっても知ってることを教えた程度だが。

 

まあかく言う俺も夜間飛行の経験なんてのは紛い物(バンシィ)に撃ち落とされる迄の二週間程度であるが、それでもこの経験はレント中尉が率いる第3夜間戦闘航空団にとってはウラルという激戦区の中を飛び切った大変貴重な話であり、喉から手が出るほどほしい実体験として受け止めている。その場で経験者が教えてくれることは心強さに繋がっているのだろう。

 

ただし夜間飛行で落とされたことに関してはまだ話してない。言えば士気が下がるから。

 

そんな感じに俺のことは今では頼りにされているが最初はかなり怪しまれた。

 

部隊長のレント中尉が連れて来たってことである程度の信頼はあったが、それでも素性も知らぬ民間人協力者かつ男性が部隊活動を手伝うとなると不安も抱かれる。当然の話だ。

 

だが不信感を抱かれながら摩擦を起こしても仕方ない。なのでレント中尉にはこの部隊以外に俺のことは話さないと約束させ、ストライクユニットで空を飛びながら男性ウィッチであること、また扶桑の願那夢であることをウィッチ達に早々に告げ、プロパガンダによって広まったこの威名を利用して強引に部隊へ馴染んだ。

 

それでも疑われたりしたので模擬戦で飛べること、戦えることを証明する事で無事に受け入れられた。実力主義でハッキリさせてくれるのは嫌いじゃない。それからなし崩しに活動を開始した。

 

最初にカールスラントの過去の夜間飛行の資料や教本、飛行記録を集めて現代で活かせる技術をレント中尉と洗い出しながらこの第3夜間戦闘航空団の方針を定め、できることは早々に着手して環境を安定させる。そのためにまず扶桑の夜間飛行技術から着手。俺の知ってるやり方でこの部隊を動かす。あとはカールスラントの肌色に合った形でアレンジすれば良い筈だから。

 

ともかくそんな感じに第十二航空隊副隊長の経験を活かし、行き詰まること無く事は進む。しかし昼とは打って変わって夜の世界での部隊活動。

 

初めの試みも多く不安事は幾つかあったが、扶桑軍人のように勤勉なカールスラント軍人だったので命令とあらば信じて着いてきてくれたので部隊作りはとても円滑だった。

 

こうして振り返ると内情ばかりの活動記録だが部隊運営なんてのはそれが普通である。

 

環境と補給が大事。

隊員は追って育てれば良い。

 

一年前の第十二航空隊でも任務や訓練以外は飛行記録をまとめて軍に提出する事務作業ばかり行っていた。

 

てか… 今考えたらなんで民間人協力者の俺が書類仕事手伝ったんですかねぇ??機密情報とかもある程度取り扱ってるだろうに。内側事情ガバガバかよ。それだけ信頼されてる理由になるだろうが荷が重すぎる。

 

まあ書類仕事と言っても9割は北郷が事務作業に手をつけ、俺は簡単な1割を担いつつウィッチの育成記録を数値化してまとめるだけの机仕事だった。だから叫ぶほどやってはいない。副隊長にしては楽である。

 

それはともかく過去の部隊作りの経験もあってかお陰でいまそれが活かされている。

 

俺のことを探し求めたレント中尉の目利きは間違いなかったな。

 

 

 

「ヤッベェ…眠い…」

 

 

さて昼夜逆転生活だ、急な眠気に襲われる。

 

一応周りに合わせるため寝る時間早めたり、遅くまで起きてたりと生活リズムは崩れてしまった。

 

で、いまは昼間。今日は特にやることないので適当に見回りして格納庫まで足を運んだのだが春の陽気が眠気を誘う。

 

今すぐアンドラに戻ってピレネー山脈から舞い込む春風を味わいながら羊に囲われつつ芝生で眠りたい気分だ。

 

もしくはコーヒー片手にチェロスでもかじって目覚ましでも洒落込もうかと考えて…

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Z________

 

 

 

 

 

 

「ふぁ!?」

 

 

感じたことない魔法力が脳裏を駆け巡る。

 

お陰で目が覚めた。

 

魔法力を察知して空を見上げる。

 

すると…

 

 

 

「うあああああああ??!!」

 

 

「え、ちょ、おまっ!?」

 

 

 

親方ぁ!

空から女の子がぁ!!

 

ひとりこちらに真っ直ぐ墜落してくる。

 

え?何このエンカウント…

 

てか佐世保でも似たようなことあったような。

 

 

あーもう!仕方ないな!

 

とりあえずビームシールドを展開する。

 

 

「ウィッチ!シールド展開しろ!」

 

「!?」

 

 

叫びが届いたのかそのウィッチは戸惑いながらもシールドを展開する。そしてぶつかった。

 

 

「なんとぉぉ…!!」

 

「うああ!?ああああ!!!」

 

 

シールドとシールドのぶつかり合いによってバチバチと魔力が荒立て、俺は身体強化を行い踏ん張る。そのままズザザザと滑走路を滑り、靴の底が少しだけすり減る。今度の休日に新しいの買わないとな。

 

 

「少しだけ痺れるぞ!」

 

「!?」

 

 

後退りの勢いが無くなった瞬間、ビームシールドを横に払い、ウィッチのシールドを根本から千切るよ振り払うと正面には何も無くなり落ちてくるウィッチのみ。最後に俺は手を広げて落下してきたウィッチを全身で受け止める。身体強化してるとはいえ地面を打ち付けた背中が少し痛い。

 

 

 

「黒数さん!?」

 

 

騒ぎを聞き向けたのか格納庫から飛び出してきた寝巻き姿のレント中尉。その頭には魔道針が立っている。どうやらシールドとシールドの打ち付け合いによる魔力波を感じ取ったようた。

 

あとどうやら起こしちまったらしいな。

 

 

 

「た、た、た、助かっ……た、のか???」

 

「おう、なんとかな…」

 

「!」

 

「とりあえず立てるか?」

 

「ぉ、おう……あ、待って、あ、足が…」

 

 

どうやら震えて立てなくなったらしい。

 

俺は落ちてきたそのウィッチを抱えながら体を起こすと腰に手を滑り込ませ、次に太ももの裏から支えるように持ち上げる。俗にいうお姫様抱っこ。

 

そのままストライカーユニットを脱がすように指示を出してカランカランと音を立てながら地面に転がる。

 

見たところカールスラントの訓練用のストライカーユニットだな。

 

あとこの子の制服を見ると訓練生のモノだ。

 

つまり訓練中に落ちてきたってことか?

 

 

 

「黒数さん、その子…!」

 

「うん、落ちてきた。なので受け止めた」

 

「いや、何を言ってるんですか…」

 

「だよなー」

 

 

正直落ちてくるウィッチの前に立つとか自殺行為に等しいことだ。それを簡単に受け止めたなど理解し難いことだろう。でも事実なんだよな。

 

ちなみにこれで4回か5回目。

 

え?皿うどん娘(黒田那佳)を合わせて2回目じゃないのかって?

 

実は96式のストライカーユニットで不時着しそうになった竹井醇子をウラルで2回ほど受け止めたことがある。今と同じ感じで。

 

だから佐世保でも咄嗟にアレができた。

 

てかなんでこうも墜落してくる訓練生ウィッチやら魔女候補生やら受け止めてしまうのか。

 

これがわからない。

 

 

それから落ちてきたウィッチから所属校やら経緯を話を聞き、先程まで就寝しそうだったレント中尉に訓練校に連絡してもらい、訓練校からは回収してもらうか、もしくはこちらから送り届けることを告げて今は返事待ちである。

 

 

「待つのも暇だな。コーヒー好きか?」

 

「あ、ああ…よ、余裕で飲めるな……」

 

「こら!飲めます!か、頂きます!でしょ?」

 

「ぅ……は、はい、申し訳ありませんでした」

 

「なんか叱り方がお母さんみたいだな」

 

「え、ちょっと!待ってください?まだ私そこまで年齢食ってないわ!」

 

「……」

 

 

とりあえずコーヒーは強がってることがわかったので代わりにココアを差し出し、チェロスも一口サイズに切って、持ってくる。

 

訓練校から返事待ってる間に俺はお目付役も兼ねて同じテーブルに座る。

 

それから俺は思い出したように声をかけようとして、先に落ちてきたウィッチから口を開く。

 

 

「その、ありがとう…」

 

「?」

 

「だ、だから、さっき受け止めてくれてさ…」

 

「ああ、なるほど。それなら代わりにあの魔法力は黙ってくれると助かるな」

 

「!…待て、そう、それだ!何故男が魔法力を持っているんだ!?お前は何者だよ!?」

 

マルセイユ伍長?少しは口を慎みなさい??」

 

「!!?……は、はい…す、すみません…」

 

「(やっぱりお母さん属性あるなぁ…)」

 

 

あと結構怖かった。

あまり怒らない人が怒ると怖いアレやな。

 

 

「で、マルセイユ伍長の質問に答えるとな。コレは訳ありとしか言えない。ただ色々あって魔法力が発現して、あのような芸当ができるようになった」

 

「そ、そうなのか?…あ、いや、そ、そうなんですか?」

 

「……敬語が苦しいなら全然崩して良いぞ」

 

「そ、そうか?は、ははは!なんだ!お前って実は良いやつだな!!」

 

「もう、黒数さん…」

 

「俺は構わんはレント中尉。言っちゃえば民間人協力者で階級なんて無いからな。てかレント中尉も敬語くらい崩して良いんだぞ?」

 

「いえ、私はこのままで」

 

「んん?兄ちゃんは民間人協力者なのか?」

 

「一時的だがな。このあたりの部隊環境を整えるために特別顧問… まあオブザーバー的なモノだと考えてくれれば良い。持っている魔法力はオマケだ」

 

「ははーん、なるほどな、だからか。あー、でもでも!アレ凄かったな!シールドで受け止めて!最後は私のシールドを斬り払って受け止めるなんてさ!最後はビリビリ来たけど」

 

「ええ…ええ!その通りよ!なにせ黒数さんは本当にすごい人なんだから!」

 

「それはわかる!さっきので只者じゃないことはハッキリしたからな!」

 

 

レント中尉も自分のことのように自慢する。

 

あまり崇拝的に扱われてもなぁ…

 

すると連絡が繋がったのか電話が鳴り響く。

 

レント中尉は電話に手を取り、訓練校の関係者たち会話する。

 

 

その間に俺はコーヒー、マルセイユ伍長はココア、一口サイズのチェロスをつまみながら俺は続けて一つだけ念を押す。

 

 

「マルセイユ、今回の事はあまり言うなよ?忘れろとは言わないが口外しすぎるな」

 

「どうしてだ?」

 

「どうしても何も… まず民間人の上に墜落してきたと軍がそう聞いたらどんな処罰が下ると思う?控えめに言ってやばいぞ」

 

「ぁ……………そ、それ…は」

 

 

彼女は問題児なところがあるが今回のことがどれだけ危険なのか理解しているため言葉に詰まった。馬鹿ではないらしい。

 

 

「多分その素行よりも重たい罪が背負わされるだろうな。だから自分を守るためにあまり今回の事は口外しない。それは俺や君にとって必要だ」

 

 

何度も言う、俺は例外だ。

 

そしてさっきの俺は自殺行為に等しい行動。

 

俺はこれまで受け止めた経験があるからあんな所業に抵抗はないが、しかしその実例は抜きに訓練生ウィッチ『ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ』は飛行中の墜落事故の先に民間人を巻き込んだ話が軍に舞い込んだら彼女は一体どんな処罰を下されるか?二度と飛べなくなるかもしれない。

 

 

ではそれなら俺が落ちてくる彼女から避ければ良かったのか?

 

いや、なにを言うか。

 

空から落ちてくるウィッチを見逃すほど俺は落ちぶれたつもりない。助けれるなら助ける。それは第十二航空隊のころから繰り返してきたからこの程度今更だ。

 

それに自動シールドで着地保護されると言ってもウィッチが怪我しないとは限らないし、何より後方には格納庫があった。

 

何かしらの衝撃で被害でも起きたら大変なためそれを考えてあの行動だ。

 

そして民間人の俺が気にしないと言ってしまえばそれで済む話だ。

 

まあ今回の事でマルセイユが何かしらの教訓を得てくれたらそれでいいのでこれ以上話を広げようとは思わない。ぶっちゃけ面倒だ。

 

ちなみに今回のシナリオはレント中尉が訓練飛行中に墜落中のマルセイユを救出して夜間戦闘部隊で保護した流れになってる。そう言うことにしてある。あまり公にできない俺のこともあるし。

 

 

で、それでだ。

 

何故マルセイユは墜落してきたのかと言うと…

 

 

 

「ハルトマンに…負けたくなかったから…」

 

「ハルトマンとは、同じ訓練生の子か?」

 

「ああ、そうだ……絶対に負けたくない相手だから早いタイムでゴールしようと思って…」

 

「無茶してユニットをおかしくしたのか。しかも器用に両足を同時に」

 

「………うん…」

 

「そうか。負けたくない相手がいるならそれはいい事だな。でもそれはそれとして帰ったら大人しくコッテリ絞られて来い。俺から言えることはそのくらいだな」

 

「……」

 

 

どうやら言葉に出されたことで完全に参ってしまったようだ。おそらくいつも彼女なら反感してたが今回はそんな余裕もないらしい。

 

 

「まあやっちまったもんは仕方ないな」

 

「……うん」

 

「なーのーで!マルセイユ!」

 

「あ、な、なんだ?」

 

「今のうちにチェロス食ってお腹満たしとけよ?教官とかに今日は飯抜きだ!とか言われたら空腹でたまったもんじゃないだろ?俺は黙っとくから食べときな」

 

「ッー!に、兄ちゃん!お前って本当にすごくいい奴なんだな!墜落してしまうところを助けてくれたし!あとあまり怒らないし!なぁ?たしか名前は黒数とか言ったか?だよな??」

 

「……俺、名前は言ったけ?」

 

「そこの母さんみたいなウィッチが!」

 

「ああ、なるほど…」

 

 

やれやれレント中尉のやつ、夜間戦闘航空団とは関係ない部外者と会話挟む時はジム・カスタムの名前で通すように言ってたのに。

 

 

 

「出来れば黒数の名前は__」

 

「ああ!それは言わない!約束する!絶対に約束!てかハルトマンよりも一番凄いことを知った私が一番になるからな!だから黒数のことは誰にも教えないね!」

 

 

随分と一番に拘る子だな。

 

それはそれで頼もしい限りだが。

 

 

 

「だから私だけの秘密だな!」

 

「……そうだな。君だけの秘密だ」

 

 

それからハンナ・ユスティーナ・マルセイユを迎えにきた訓練校の関係者がやって来てレント中尉が全て対応してくれた。マルセイユは早速怒られていた。しかしあの怒られ慣れた感じだといつもは問題児なんだろう。まあそんな感じはしていたが。

 

それからストライカーユニットを回収した車に乗り込もうとして、格納庫の影から見守っていた俺の姿を捉えていたマルセイユはコチラに振り向くと誰にも気づかれないようにニカっと笑ってから車に乗り込んだ。

 

……あの子は大物になるな。

 

そんな気がする。

 

 

 

「レント中尉、睡眠時間削ってのご対応ありがとうな」

 

「いえ、お気になさらず。黒数さんも私たちとカールスラントのウィッチのことを助けてくださりありがとうございます」

 

「できることをしただけだ。それでこれから寝るのか?」

 

「はい。少し眠たいです…」

 

 

 

それから解散。

 

 

俺はコーヒーとココアのカップ、それからチェロスを盛り付けたお皿を下げ、再びコーヒーを淹れてから個室に戻る。

 

 

 

「ふー、完全に目が覚めたな…」

 

 

椅子に座り、読みかけの活動記録書を手に取って今回の事を思い返し…

 

 

「今回の事は記録に残さなくていいな」

 

 

 

 

コーヒーの湯気がゆらりと答えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜間哨戒はナイトウィッチか、または夜間パイロットの仕事であるため、基本的にはそれ以外の兵士が飛ぶ事はあまりない。

 

何故なら夜闇の世界から人を守り、安心して眠れるようにするのが夜間戦闘軍人の仕事だから。

 

しかし、いま隣に例外がいる。

 

 

「インカムの調子はヨシ。やれやれ、カールスラントのこういう技術力は本当に高いのに上層部が頭硬いせいで水準満たしてからの開拓能力は低いな」

 

 

眠気を取っ払うためか夜間飛行中はよく独り言を呟くらしいひとりの男性ウィッチ。

 

扶桑から旅人として世界を回ることになったウラルの彗星こと黒数強夏、元扶桑皇国海軍准尉で民間人協力者。

 

しかもそこから【機動戦士願那夢】の威名を持って扶桑海事変といわれる国運を賭けた闘いを生き延びた、たった一人のエースウィザードであることも。

 

それが今はチェロス好きの旅人として訳あって世界を渡り歩く人間。

 

彼のことに関してなにも言わなければあの黒数強夏だとは一眼見だところで誰もわからないだろう。まあ今はその方が都合良いが。

 

 

 

「おー、また地上の光が増えたな、レント」

 

「はい。前よりも協力していただける民間施設が増えました。ありがたいことです」

 

「安全な夜のためにも喜んで協力したいんだろう。あとレントの人柄だな」

 

「いえ、私なんか…」

 

「母は強し」

 

「扶桑の諺……って!またそれですか!?」

 

「慕われるって良いことだよ」

 

「そ、それとこれとは別です!」

 

 

下を見れば民間の警備網から照らされる光。

 

あと距離を均等に測って設置した地上レーダー。

 

また万が一のため地上から発射される大型閃光弾が込められた支援砲などが見当たる。

 

これらは彼と共に考えて、夜間哨戒任務を捗らせるための環境作りを広範囲に行った。

 

その中で特に頑張ったのは元々存在していた民需の上空警備課と連携を取ることによりナイトウィッチの警備網を広げること。また地上に設置してある地上レーダーにナイトウィッチの魔道針と周波数を合わることで索敵範囲を大きく広めることで哨戒漏れの確率を下げること。

 

そうやって軍需も民需も関係なく個人個人の小さな力を合わせることで大きくさせ、地上と連携して夜間を警戒する。

 

こんな簡単なことを私はまったく思いつかなかった。それほどまでにこれまでの私は余裕が無かったらしい。

 

いまは充分に余裕がある。

 

しかしそこに満足しない。

 

フラッシュ暗算を使った特殊な訓練によって感応精度を上げるなどして個人の能力も伸ばしたりと彼は部隊作りに隙がなかった。

 

だから思う。

 

この人はかの軍神、北郷章香が率いる第十二航空隊の副隊長として支えてきた実績は間違い無いんだと。

 

 

 

「なあレント中尉、カールスラントにお土産品とかあるか?」

 

「土産品?誰かにプレゼントを?」

 

「まあ、その……扶桑にな」

 

「?……ああ、なるほどです」

 

 

 

彼が扶桑を想う時、とある人を思い浮かべる。

 

それは第十二航空隊を共に切り盛りして最後まで健在にしてきた協力者。

 

扶桑の『軍神』と謳われるとあるウィッチ。

 

先ほど名前を上げた北郷章香。

 

聞く限りだと『許嫁』らしい。

 

まぁ、なんともロマンチストだ。

 

 

 

「でしたらチョコレートなど如何でしょうか?女性は喜びますよ」

 

「カールスラントのチョコレートか。それはアリかもな。あ、でも持ち運びで崩れないか…?」

 

「うーん、それはそうですね。それならソーセージやビールなどは?あ、けれど扶桑だとお酒は未成年…」

 

()()はもうアガリを迎えた成人女性だよ。だからお酒は大丈夫。好きかは知らないが」

 

「そうですか…」

 

「…」

 

 

 

彼はチラリと扶桑の方角を見る。

 

 

 

「……会いたいですか?」

 

「めっちゃ会いたい」

 

「そ、即答ですか」

 

「だって扶桑皇国軍が軟弱者じゃなければ今頃俺は旅なんてせずに彼女と扶桑にいたはずなんだよなぁ。はー、扶桑の願那夢だとか持ち上げてたくせにいざ戦いが終わったら、怖いからお前は軟禁な!とか仇なすことを考えやがって… 俺は理性のある人格者だよ!敵はネウロイだろうが!まったくよ!」

 

 

 

彼は扶桑皇国軍のことをあまりよく思っておらずフラストレーションが溜まる。

 

正直私も扶桑皇国軍の黒数強夏に対する扱いはひどいものだと考えている。

 

けれど疲弊しきった扶桑からしたら強大な力を持つこの願那夢は警戒の対象なのだろう。

 

不安を抱かれている。

 

だから彼はそれを嫌がり、想い人を扶桑に置いてこの場所までやって来た。ほとぼりが冷めるまでは世界を見て回ることにして。

 

 

だから、彼はここにいる。

 

 

 

「私は卑怯者ですね…」

 

「どうした急に?」

 

「いえ。ただ、なんと言いますか…… 黒数さんがカールスラントまで旅に来てくれたお陰で夜間戦闘航空団は………あっ」

 

「あー、なるほど……?そういうことか」

 

「あ、いや!こ、これはその…!」

 

「いや、気にするな。俺がレントの立場ならそう考えるよ。英雄さんが近くに来てくれてラッキーだなって感じに」

 

「っ……そ、そんなものでしょうか?」

 

「そうだよ。有名人からサイン貰う時とかもそんな感じだろ?あの人は用があってここまで来てくれた。だからサイン貰えた、的な?」

 

「でも、これとそれとは事情が違うような…」

 

「んなこと深く考えんな。俺が別に良いと言ってるんだから。そりゃ俺にとっちゃ望まなかった扱いから旅を始めたけれど、でもこの世界を見てみたいと思ったのは本心だ。なんなら亡くなった親の代わりにフライトする親孝行もこうして果たせているんだ。その過程でついでにウィッチを助けている話であり、俺がそうしたいと思ってやっているんだ。不幸に漬け込まれたなどまったく思ってもなければレントを卑怯者だとか考えたことないな」

 

「……あなたは本当に英雄なんですね」

 

「どうかな。俺からしたら想い人を国に置いてきた最低な男だと思うけどな」

 

「今も想い続けられてるなら、その人はとても幸せだと私は思います」

 

「だと、いいな…」

 

 

そう言って彼は苦笑いする。

 

この人が最低な訳がない。

 

彼は素晴らしい人だ。

 

魔女の箒に息吹を与えてくれる。

 

そんな人だ。

 

 

 

「黒数さん、反応ありです」

 

「どの方向だ?」

 

「このまま正面に」

 

「………」

 

 

彼は一度俯いて目を閉ざす。しばらくなにかを探るように仕草をみせて、顔を上げた。

 

 

()えた。強めの熱量を感知した」

 

 

少しだけ軌道を変えながら感知した方向に指を刺した彼。同じようにわたしも軌道を変える。

 

実は正面と言ってもやや逸れた方角にネウロイが現れたから。だから進行方向を修正する。

 

すると迷いなく速度を上げる。

 

言葉の通り『視えてる』証拠なんだろう。

 

もう見慣れた光景だが、私は内心驚く。

 

 

「まるで夜間視みたいですね」

 

「俺はナイトウィッチじゃないよ。これはあくまで感覚的な話だ。調子が良い時はある程度シルエットも見えるんだが… まあ、いまはこの程度だろう」

 

 

見えてると言うより、視えてる。

 

同じようで彼にとっては違う表現。

 

それは彼本人にしかわからない感覚だ。

 

 

 

「かなり早い個体ですね。既に距離が1200」

 

「中尉、奴をどうする?」

 

「討ちます。私たちは戦闘部隊です」

 

「了解した」

 

 

彼は頷くと異空間から武器を取り出して構える。

 

黒数強夏の固有魔法、武器召喚だ。

 

異界から手のひらに握れるモノ限定として武器を取り出してそれで戦う能力。それ以上の説明はなかったが、おそらくその気になればとんでもない武器まで引き出せるのだろう。力だけ見るとウィザードの再来だ。ますますこの人が凄く見える。

 

 

「さて、変化した現場の様子を見るために今日は飛んでみたが、今夜は通行禁止の標識を乗り越えてきたか悪い子がいるらしいな」

 

「そうですね。ちゃんと注意しなければなりませんね、悪い子には」

 

「やはりお母さんみたいなことを言うじゃないかキミは。マルセイユの言うことは強ち間違いじゃないかもな」

 

「そ、そんな歳じゃありませんから!」

 

 

そう言って彼は先行して、私も彼の言葉に慌てながら追いかける。

 

しかしこれからネウロイと衝突するというのにこんなにも落ち着いている私がいる。

 

それは隣に英雄がいるから?

 

それもある。

 

こんなに頼もしいウィッチはそういない。

 

でも落ち着いて対応に当たれるのは、それだけ私がナイトウィッチとして完成してきてるから。

 

昼間を飛んでた時のように夜も変わらず、中尉としてしっかり立ち向かえるのは指導者がいたおかげだから。

 

なら私はカールスラント軍人としてそれを裏切らないように務めるまで。

 

ナイトウィッチの私が空を飛ぶ騎士(ナイト)として人々から夜を護る意味を込めて。

 

 

 

「レント、トドメさせ!」

 

「そこっ!!」

 

 

先行した彼の上を飛び、上と下を挟み撃ちするように位置取ると銃口を下に向けてネウロイをロックオンする。その間に黒数さんがネウロイの片翼を斬り落として機動力を奪い、幾つかの装甲を砕くとコアが露出する。

 

私は機関銃の引き金を引き、そよ銃口が弾幕が放たれる。

 

そして夜の世界に輝く赤い光を弾丸が貫いた。

 

 

 

「もう俺の役割は不必要だなレント!君は期待されて飛ぶべきだ!」

 

「!」

 

 

 

彼は安心したように笑う。

 

ヒヨッコと言ってくれる日はもうない。

 

それはそれで寂しく思うが、彼の言葉の通り期待されて飛べる日がいま訪れた。

 

私は少しだけ溢れた涙を人差し指を拭って「ええ!そうね!」とこの英雄に力強く返せた。

 

 

 

 

 

 

ナイトウィッチはこうして今日も夜空を飛ぶ。

 

人々の夜を護るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あのぉ…この写真は…?」

 

「む?どうしたのじゃハイデマリー?む、むむむ?ちょっと待つのじゃ!も、もしや写真のこの男は…!」

 

 

 

ちょっとだけ騒がしくなった声。

 

私は反応する。

 

 

「あら、どうしたのお二人とも?」

 

「レント!」

 

「あ、少佐…」

 

 

そこには一枚の記録写真を手に持ったウィッチと、それを覗き込んで写っているものに驚くもう一人のウィッチ。

 

どちらも私と同じナイトウィッチであり、自慢の後輩たち。

 

所属はそれぞれ違うがこの数日間、後進のためにも彼女達には色々と手伝って貰っている。

 

そしてひと段落がついたある日、一部の記録写真を見ていた一人のナイトウィッチの『ハイデマリー・W・シュナウファー』さんが何かに気づいて言葉を溢し、そして隣にいたもう一人のナイトウィッチの『ハインリーケ・ブリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン』さん…… 王室流れの貴族だけあって相変わらず名前が長いわね。だから彼女は簡単にハインリーケさん。その二人は写真を見て驚く。

 

 

「いやいや!レント!どうしたも何もこの写真に写っている者は!!」

 

「あら、その写真… ふふっ、懐かしいわね。ナイトウィッチのための夜間戦術の基板をゼロから作り上げようとしてた頃の写真ね。今こうして見るとわたしもやや幼いわね」

 

「戦術基板?」

 

「む?それってかなり前の事では無いのか?」

 

「ええ、もう4年前の話ね。世間では私が今の夜間戦闘技術を作り上げたと言ってるけど実はこの人が色々とアドバイスしてくれたからここまで漕ぎ着けれてのよ」

 

「な、なんと!?あの者はナイトウィッチではないはずじゃ!それなのに現代の夜間戦闘技術を確立させたと言うのか!?」

 

「ええ、その記録写真が証拠ね」

 

「なんだとぉ!?」

 

 

忙しく記録写真とその記述を見比べるハインリーケさん。

 

貴族の者とは言えないほど騒がしい人だ。

 

 

 

「あの、でしたら…今の私たちに落とし込まれたこの夜間戦闘技術っていうのは…」

 

「ええ、そうね。今はカールスラントに合った戦闘技術に書き換えられましたが、その根本は扶桑の願那夢が作り上げた戦闘技術であることに間違いないわね」

 

「なななッ〜!!は、初めて知ったのじゃ…!まさかこの戦闘技術にそんな遺伝子が…!!まさか私は願那夢だったのか!?」

 

「そうなんですね…私たちが無事に飛べるのは願那夢が護っているからなんですね……」

 

「!!…ふふ、かもしれないわね」

 

 

願那夢に護られている。

 

そう考えるとそうかもしれない。

 

夜闇に怯えず怪異と戦うための戦術。

 

そしてフラッシュ暗算の訓練法。

 

それも彼から始まった遺伝子。

 

 

「それよりもレント!この者は四年前にカールスラントにおったということじゃな!?一体どう言うことだ!奴の空白期の軌跡がこんなところに刻まれてたと言うのか…!」

 

「そうね。話すと少しだけ長くなるわね。あ、だったらこれから街までお茶する予定だからついてくるかしら?今なら当時の彼のことを色々話せるわよ?ハインリーケ」

 

「うむうむ!それはレント!是非聞かせてほしい限りだ!今となっては2000機分の撃墜価値を誇るあの英雄の話!大変貴重じゃ!」

 

「わ、わたしも聞きたいです…!」

 

「ならお出かけね」

 

 

 

個性豊かな二人を連れて街のカフェまで。

 

私は懐かしみながら当時のそれを語る。

 

まだヒヨッコと言われてた頃の自分。

 

目印となってくれた彗星の軌跡。

 

今日この日まで私だけが知っていた記録を二人に告げる。

 

 

 

その人の名は___黒数強夏。

 

夜に怯えていたナイト(騎士)をナイトウィッチにした先駆者であることを。

 

 

 

つづく





【ヘルミーナ・レント】
願那夢たる彗星によって無事に脳が焼かれてしまったナイトウィッチであり、黒数強夏のことを崇拝に近い感情を密かに抱いている。黒数強夏が再び旅に出てからもしっかり部隊を運用していき、長くに渡ってカールスラントを支えることになる。少佐になった辺りで包囲力が高いお母さん属性を見せるようにり後輩から慕われやすい先輩ウィッチになったが「私まだ若いのに…」と悩ましく思うこの頃、1944年である。

【ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ】
問題児故なのか飛行中に問題を起こして墜落したところを黒数強夏に受け止められて怪我なく救出される。誰にも口外しない約束はキッチリ守り、一つの優越感に浸りながら訓練校を卒業、しばらくしてアフリカ戦線ストームウィッチーズに参加。ある日アフリカで扶桑皇国陸軍に所属していた加東圭子に対してマルセイユは驚かせようと訓練校時代に出会った黒数強夏の自慢話を聞かせたが「あー、知ってる、その人そうだから」と慣れたように反応を示し、予想とは違う反応にマルセイユが驚いたらしい(ライーサ・ペットゲン談)

【黒数強夏】
民家人協力者としてレント中尉が率いるカールスラント空軍第3夜間戦闘部隊を二ヶ月ほど手伝うとその部隊を去る。梅雨明けの7月に向けて扶桑に戻ろうと計画を立てながら再びジム・カスタムの名前で梳かし屋を再開しつつ行先であらゆるウィッチと出会い、残りの旅路はカールスラントに費やした。土産コーナーに向かった後はもちろんチェロスも買った。欧州を離れるとしばらくは食べれなくなるだろう。悲しいな。


ではまた

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