GVSウィッチーズ   作:つヴぁるnet

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お久しぶりです。
ウマ娘でエイプリルフールネタしてたら一か月経過。
時の流れ早くね?


ではどうぞ


第42話

 

 

釣り糸を垂らして、眺める先は扶桑海。

 

その先にウラル、もしくは浦塩。

 

そして扶桑皇国の国運を賭けた戦いがあった。

 

扶桑の人々はその戦いを知っている。それは穴拭智子を主役に置いた『扶桑海事変』の名で放映されている45分の映像で詳しく見られるから。

 

実際に俺もこの目で見てきた。

 

ほんの少しだけ造作されてる部分もあったがイメージアップとして美化させるためにも必要な事だろう。しかしそれ以外はほとんど事実として語られている内容であり映画の完成度はまあ高く感じられた。

 

端役として第十二航空隊のメンバーも出てきたことも併せ、少なくなったウィッチを補充する目的の映画としては成功だろう。

 

 

 

「ただ、ちょっとだけ寂しく感じるのは仕方ないことだろうか」

 

 

 

そして俺がその映画に出ることはなかった。

 

当たり前だ。

 

何せ俺は扶桑を出たから。

 

皇国軍の軟禁を嫌って国外に逃げ延びた。

 

そのため俺自身その映画に登場することは一切ない。それでも映画には『黒数強夏』を数秒だけ映し出したワンシーンがあった。まあ俺に似せた誰かさんを使ったんだと思うが、しかし俺に許可無く登場させるとは随分と著作権に甘い時代だ。まあ願那夢の名が扶桑に轟いてしまったのだから映画制作部としては出さない手はないのだろう。

 

しかし女性だけではない、男性である俺が活躍した事実が深まったお陰なのか、扶桑男児の兵士補充も成功してるらしい。やれやれどこまで俺を利用するかこの国さんは。

 

そりゃプロパガンダとして願那夢を受け入れたのは俺自身であるが、当初の目的としてはウラル戦線で戦う第十二航空隊の支援物資を確保するためであってお国のためにこの名を捧げたつもりは無い。

 

今頃アレコレお国に言うつもりは無いがここまで都合よく使われるとほんの少しだけイラッとしたのは仕方ないと思う。

 

 

 

「あーあ、ハリセンボンが釣れたか。これはまた厄介な」

 

 

魚は釣れても全部リリースするつもりだがハリセンボンはなにかとテンション下がる。

 

すると当然のように膨れやがった。

 

これでは釣り針が取れない。

 

 

「やれやれ、萎むまでしばらくバケツの中で放置か」

 

 

 

適当に座って麦わら帽子を揺らす。

 

 

 

「魔法力があるとはいえ流石に夏は暑いな…」

 

 

流石に長時間照らされるのは辛い。

 

少し熱くなった麦わら帽子を一度取り、発熱のために仰いでから、また被る。バケツにはまだまだ膨らんだままのハリセンボン。随分と泳ぎ辛そうだ。

 

バケツから視線を外し扶桑海を再び眺める。

 

見えたのは船、または軍船。

 

なんの船だろうか。

 

吹雪型か?

 

まあ……どうでもいいか。

 

お借りした麦わら帽子を再度揺らす。

 

 

 

「しかし、帽子で、顔バレ”防止”とか良くありげな駄洒落にしては少し笑えないな、これも」

 

 

熱中症対策の意味もあるが、本命は顔バレの防止になるためである。

 

さて、これを聞いてる人はご存知だと思うが俺は扶桑に戻ってきた。

 

カールスラントで一ヶ月近くを過ごし、それから扶桑の梅雨明けに合わせて足を踏み入れたことのあるモスクワまで向かい、それから一直線にウラルを突き進み、そして懐かしの浦塩まで向かった。到着した浦塩では既に復興作業が進められており、扶桑は国力の回復を目指している。逞しい国だ。

 

それはともかくまず軍人には警戒した。

 

しかしどこも浦塩は陸軍ばかりだった。

 

恐らく大規模徴兵したにも関わらず地上戦で浦塩を守れなかった尻拭いとして陸軍は復興作業に当てられたのだろう。あと純粋に扶桑海事変の終戦後で物資も人員も枯渇してるため陸軍兵士を任務に当てれない状態が続いてるのか。そのダブルパンチが今も効いてるのだろう。

 

そのため海軍はいないとなると俺は少しだけ気を緩めれた。理由としては簡単。俺に軟禁を求めてるのは海軍だから。厳密には海軍に所属する堀井中将であるが。こいつが張本人。そのため海軍全てって訳じゃない。でも海軍の眼には気をつける。そんなところだ。

 

それでも約束を果たす前に黒数強夏がであることがバレると面倒なのでさっさと扶桑行きの連絡船に乗り込んで移動した。もし尋ねられたら測量士とでも名乗っておくことにしたがそんなことは起きず無事に扶桑に到着した。

 

しかし出来れば堂々と扶桑に足を踏み入れたいものだ。俺は第十二航空隊のためと言って空を飛んでいたがお国のために戦ったことに違いはない。もっと歓迎される形で扶桑に戻ってきたかったが、一部の人間に怖がられてるんじゃどうしよもうないところさん。

 

てかもう海軍さんは私念だけで軟禁を言い放った堀井中将の狂言からさっさと目を覚ましてくれよな、頼むよー。

 

 

思わずため息ついてしまう。

 

 

 

 

ザッ、ザッ

 

 

 

「?」

 

 

すると後ろから足音が聞こえる。

 

あともう一つの音。

地面を支えにするような音だ。

 

俺はそれは何か知っている。

 

だから海に視線を向けたまま後ろの人間に語りかける。

 

 

 

「リハビリにしては少し大変じゃないか?」

 

 

 

 

__章香。

 

 

そうやって冗談を叩けば…

 

 

 

 

「このくらいなんてことないさ。むしろこのくらいは頑張らないとな」

 

 

 

___強夏、と俺の名が返ってくる。

 

 

もう今のでお分かりだろう。

 

石川県の潮風にポニーテールを揺らしながら一本の松葉杖で体を支えている俺の元隊長である軍神ウィッチ、そして俺が逢い焦がれていたひとりの女性…

 

北郷章香が隣に立っていた。

 

あとその手には何本か飲み物を入れた袋をぶら下げている。

これは今、彼女が買ってきたものだ。

 

 

 

「買ってきてくれたのは嬉しいが松葉杖なんだから無理する必要ないだろうに…」

 

「このくらいなんてことないさ。ちょっとしたリハビリにもなる。さて、どれどれ… おや?ハリセンボンが釣れたか。しかし君にとっては外れかな?」

 

「約束を果たせない嘘つきだったらこのハリセンボンは飲む予定だったけど、章香との約束を守った俺はもう飲む必要が無くてな。だからコイツは逃すことにした」

 

「ふふっ、そうか」

 

 

時間が経って萎んだハリセンボンから釣り針をとって海に放り投げる。

 

海の底へと逃げる魚を見送り、残りの餌を釣り針に引っ掛けて海に吊り下げる。

 

それから一度、指先に魔法力を纏い、それを海の方に鋭く払い飛ばすと、指先に付着していた餌の汚れが取れた。ほんと魔法って便利だ。

 

 

それから彼女が買ってきてくれた飲み物に手を伸ばして喉に流す。甘いサイダーだ。

 

欧州ではあまり飲めなかったからな。

 

しかし代わりにコチラにはチェロスは無い。

寂しいな。

 

すると潮風が熱した頬を冷ますように撫でる。

 

彼女が来たことで歓迎してるみたいだ。

 

舞鶴のように柔らかでとても気持ちがいい。

 

すると彼女も松葉杖を置いて隣に腰掛ける。

 

 

「海の家はここからそう遠く無いが、必要以上に動きすぎるのはどうなんだ?」

 

「そこまで軟弱に落ちぶれて無いさ。まだ松葉杖は必要だがこれでも快調に目指せている。このくらい動けないとな」

 

「俺から見れば動きすぎだ。久しぶりに会ったと思ったら松葉杖を片手に素振りしてるし。少し目を疑ったよ。また一年後に出直そうか迷った」

 

「それなら先ほどのハリセンボン飲ませるしかないな」

 

「冗談だ。俺が耐えられない」

 

「それはどっちかな?」

 

「どっちもだよ。ハリセンボンは勘弁だけど章香と会えないのは耐えられないな」

 

「ふふっ…そうか。私も同じでよかったよ」

 

「そうか」

 

 

 

 

 

 

 

ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!

ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!

ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!

ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!

ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!

ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!

 

 

 

やっべぇ!!やべぇぇええ!!

 

幸せすぎる!!!

 

アカン!!!

 

めっちゃ幸せすぎてどうにかなる!!

 

あ^〜 たまらないぜ^〜

 

ほんまに幸せすぎるんよ!!

 

もうアクシズとか片手で余裕で抑えれるわ。

何も怖くねぇし。

 

ああー、これだよ、これ。

章香と話すとすごい落ち着く。

俺はこれが欲しかった。

 

もうね、あのね!

 

なんかね!!

 

こう……好き!!(語彙力ゴミカス)

 

てかもう色々と思い出す。

 

第十二航空隊で彼女と共に切り盛りしてた頃のこの感じ、本当に懐かしい。

 

実家のような安心感とはこの事だな。

 

もうめっちゃ好きすぎる。

 

そうだよ。

これが恋しくてたまらなかった。

 

欧州を旅している間は自分を優先していたが今こうして共に時間を共有すると彼女が隣になくてはならない。とてもそう感じる。今そのくらい幸せが駆け巡る。時間止まって欲しい。

 

 

ああ!やはりそうでしたか!

宇宙の心は章香だったんですね!

ゼロシステムもそう言ってる。

 

私がそう判断した。

ふぁ!?なんだこのダブスタクソ親父(おっさんは)!?

 

 

 

「強夏……君は、これからどうするんだ?」

 

「身の振り方か?そうだな。まあ考えてることは二つある。まず欧州に足を踏み入れたが実はブリタニアには向かってない。だから次はブリタニアに向かって宮藤博士に顔でも出そうかなって考えてる」

 

「そうか…また扶桑を出るのか……」

 

「うん。まだ正直…扶桑には居辛いかな。俺に軟禁を求めるやつがいる限りこの島国で腰を落ち着けないし、誰かに迷惑かけて生きていくことになってしまう。それは勘弁だ」

 

「……私に、力があれば…」

 

「章香は何も悪くない。悪いのはそうなってしまう世界と人の弱さだ。そしてそれは俺にも当て嵌まることだ」

 

 

俺の弱さ。それは憎悪から。

 

だからあの時のフレンドリーファイアーは疑いようもない。

 

けれど俺は躊躇わなかった。

 

湧き上がってしまった一握りの憎悪がネウロイだった装甲を盾にし、その情動に身を任せた俺は砲弾を戦艦に押し返した。

 

それはそこにいる人を怯えさせた。

 

その瞬間、扶桑の願那夢は綺麗に飾られる英雄ではなくなった。

 

それが俺の結末。

 

願那夢をしていた俺の行方。

 

始まったのは軟禁と逃亡。

 

そうさせたのはこの理不尽な世界に生きる人の弱さであろうか。

 

では、そう成してしまった先でどうすることが正解か?

 

まずできることは時間の解決。

熱りはいつか冷める。

手に届かないと理解すれば諦めるだろう。

 

しかしそれだけで終わりは迎えない。

その後の願那夢は人にとって何と成らんか?

 

 

 

英勇かつ英雄?

 

凶器かつ狂気?

 

無涯かつ無害?

 

 

 

いや、これは選択じゃない。

 

選択であるが、どれかを選ぶものじゃない。

 

 

 

(のが)れるが、でも逃げるのは無しだ」

 

「強夏?」

 

 

 

俺を最後に見届けた人が言った。

 

 

__逃げれば、一つ。

__進めば、二つ。

 

 

もう踏み入れることない孤児院でこれまでお世話になった院長が最後に与えてくれた言葉。

 

俺は扶桑から逃げた。

行先で経験が一つ、手に入った。

 

言葉の通り。

 

 

では次に進めばどうなるか?

 

俺は進むようなことはしなかった。

 

ひっそりと願那夢をなぞり、ジム・カスタムの名を偽っていただけ。

 

でも代わりにレント中尉が夜闇だろうと進み、二つ手に入れた。

 

ナイトウィッチの未来。

それから期待を背負って飛べる自分自身の強さ。

この二つをつかみ取った。

 

これは願那夢のお陰だと。

 

だからそれは俺にとって一つの証明にもなった。

 

それが再確認できた、旅路だった。

 

 

 

「章香ってさ、俺のことをあまり英勇視しなかったよな」

 

「英雄視… どうだったかな。でも最初は君に期待した。ブリタニアの魔法陣から現れたというのだからコレはもしかしたらと思った。でも強夏はなんてことない迷い込んだ人間だと言って否定した。だから私は強夏を英雄視することをその時にやめた。しかし君はその果てでそうなった」

 

「そうだな…」

 

「けれど私は君を英雄とか思う以上に、この弱さと脆さを隠せずに涙をこぼした私を理解して寄り添ってくれた、そんな隣人として私は君を見ていた。だから君に対して英雄なんて単語は頭から無くなっていた。今だから言える。私は黒数強夏って人間に惹かれていた。そこに願那夢だとか英雄だとか関係なかった。でもそれは君も同じだった。私を軍神として神格化して謳う扶桑海軍はそこにあったが、でも君は私のソレを気にすることない。むしろ『みんなの可愛い先生』として揶揄ってくれたくらいに」

 

「まあ、可愛いのは事実だからな」

 

「!…ま、まったく……やれやれ、このノーガードにはネウロイ以上に参るよ」

 

「でもそれは互いに『ヒト』としてしっかり見てたから。俺は黒数強夏であり、君は北郷章香として。だからあんなにも足並み揃えて部隊運営ができた。俺たちはちゃんと分かり合っていた証拠だ。なあ知ってるか、章香?その時の俺たち周りから夫婦とか言われてたらしいぞ」

 

「うぇ、そ、そうなのか??!!…ぁ、ぅ、ふ、夫婦……わ、わ、わたしと、き、きみが?ふ、夫婦?…そ、そうか……夫婦……夫婦か……」

 

「まあ、これは…()()()だな?」

 

「!!!」

 

 

揶揄うように、頬を指で突く。

 

すると目を見開いて真っ赤になる彼女。

とても可愛い。

 

やっぱり章香しか勝たんな。

 

そんなこと言ってると釣り針の餌が取られた。

 

魚釣りはこれで終わりか。

 

最後に釣れたのがハリセンボンってのも俺に対する当て付けみたいで少し笑える。

 

俺も嘘つきじゃなくて良かったな。

 

さもなければ針千本を飲まされる所だ。

 

 

 

「魚釣り、久しぶりにできて良かったよ」

 

「…海は好きか?」

 

「厳密には舞鶴の海の上が好きかな」

 

「そうか。そうだな……私もそうだ」

 

 

 

そう短くて言葉を交わし合いながら俺は汚れてない方の手を章香に差し出す。松葉杖が折れないように彼女を立ち上がらせて共に北郷家に向かう。まあその前に海の家まで向かってお借りした釣竿を返さないとな。

 

久しぶりに釣り出来て楽しかった。

 

 

 

「もう、明日で3日目か…」

 

「早いな」

 

 

 

扶桑の滞在期間はほんの3日。

 

当初は彼女に元気な姿を見せ、欧州でのお土産を渡したら1日も経たずまた直ぐに扶桑から旅立とうと思った。

 

しかし章香の母である二海さんが「長居は無理でもせめて3日は娘のために」とお願いされた。

 

正直、俺も可能なら1日以上は彼女と共にしたかったから、その3日間だけを受け入れた。

 

石川なら軍の手もそこまで伸びないだろうから大丈夫だと判断してそこそこに滞在している。

 

それで章香と語り合った。欧州での旅を。もちろんカールスラントで夜間専用の部隊運営したことも。コレには流石に驚かれたが誰もわからない夜の世界の戦い、俺が裏方で動いてたことは問題なかったと伝えた。

 

あと願那夢を探し求めたウィッチのために力を貸したことも伝えた。半分呆れられたが俺が変わりないことに安心してくれた。

 

だがその代わり「そのレント中尉とはどのような関係だ?」と少しお目目のハイライトが消えてたのは怖かった。

 

たしかに部隊運営のためとはいえ二ヶ月間は共に切り盛りした関係だからな。

 

これは俺が悪い。もし俺が章香の立場ならすごく不安になってしまう。軽率だった。

 

それでも心には常に章香が真ん中にいることをちゃんと伝えた。あくまで願那夢として手を差し伸べたことも。それでも苦しい言い訳。ひどい男であることは否定できない。

 

でも彼女は俺を信じていたのか「ふふっ、冗談だ」と俺を揶揄う。

 

不安にさせた俺が一番悪いのだが、そんな彼女に仕返ししたくなったのでその体を抱きしめてキスして、それで何度も耳元に「章香」「君を愛してる」と囁いてやった。

 

それ以上のことはしなかったが互いにそれは幸せだった。正直そのまま襲いたかったけれども。

 

 

それから一年前に見せてくれた袴姿の章香に見惚れながら石川の下町を歩き回り、また歌舞伎を見に行ったり、話題の扶桑海事変の映画も共に観て、石川の味噌料理に舌鼓して、適当に下町を散歩して、それで海の家に寄って釣りを堪能した、今日で3日目である。

 

……時の流れは早く、それは残酷だ。

 

 

 

でもやはりこうなったの全部堀井中将のクソ野郎が原因だよな?ぶっちゃけ俺って何も悪くないよな?どうする?せっかく扶桑に戻ってきたしここで奴を処するか?たしか奴の場所は大本営だよな?ストライクユニットなら一時間で向かえるし、なんならコチラから出向いてやるぞ?堀井ィくぅん??

 

「きょ、強夏…!?待て待て!落ち着け!戻ってこい!!」

 

 

 

幸せトリップしてるのにこれが長続きしないのは全て堀井とか言う俗物野郎がいるからだ。

 

……あー、マジで屠ってやりたい。

 

てかさ、あんなヤツは軍に要らないよな?

 

不要だろ?いらないだろ??

 

別に消えても問題ないよな?

 

 

 

「あ、そうだ。章香って退役したのか?」

 

「うわぁ!急に落ち着くな…」

 

「え?……俺なんか言ってたか?」

 

「……い、いまのフラストレーションは無意識か……やれやれ、たまにこの人がわからなくなるな…

 

「?」

 

「い、いや、なんでもない、気にするな。それより退役の話だったな?それなら坂本達を見送った後は前線から身を引いたよ。魔法力の減少でまともに戦えないからな。それでも軍との関わり続くと思うが」

 

「そういや軍人一族だもんな。退役したとはいえ軍もウィッチとして経験豊かな章香に頼りたいところあるだろうし、療養後は何処かしらで使われる可能性はあるのか」

 

「かもしれないな」

 

「あー、こう言ってはなんだが… これまで戦いに捧げてきた青春時代を取り戻すような何か好きなことするとか考えないのか?例えば元陸軍の江藤敏子のように喫茶店開くとか色々あるだろ?てか江藤も軍人一族だった筈」

 

「無趣味な私に難しい話だよ。それに敏子は勇ましいからな」

 

 

 

そりゃ幼い頃から軍に尽くしてきた人だよな。

 

こうして聞くと立派な人だ。

 

凡ゆる人から慕われる。

 

でも彩りあるはずの青春時代を戦いに使った。

 

しかし箒を置いた今、彼女にそれ以外にあるもと言ったら、剣術くらいか。

 

開こうと思えば道場も開けるのか。

 

 

 

「だったらさ、俺と扶桑を出て旅するか?」

 

「君と?ふふっ、なるほど。それはそれで楽しそうだ。ではその時が訪れるなら無趣味な私をしっかりエスコートしてくれるのかな?」

 

「おいおい?欧州で駐在武官してた経験のある章香が何言ってんだよ。ブリタニア語や英国のテーブルマナーは誰より詳しいだろうに。どちらかといえばエスコートされるのは俺の方だろう?」

 

「君の引いてくれる手に興味があるんだ」

 

「そうかい?ならちゃんと体を健在にしておくんだな。俺の旅路はちぃとばっか響くぞ?」

 

「君はよく知ってると思うがこれでも第十二航空隊の隊長だったウィッチだ。体の丈夫さには自信があるよ。響く程度なんてことはないさ」

 

 

 

それから家に辿り着く。

 

時間の許す限り俺は彼女と語り合う。

 

これまでの一年分を埋めるように。

 

 

 

 

「そういえば身の振り方に『二つある』と言っていたが、もう一つはなんだ?」

 

「あれ?言ってなかったか?」

 

「ああ、少し話が脱線してたからな」

 

「そうか。じゃあ改めて、俺の考えたもう一つの身の振り方はだな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日、俺はこの島国(ふそう)を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやー!

どうもどうも~

 

ごきげんようですございます〜

 

わたくし、犬房由乃(いぬふ さゆの)と申します。

いやー、お世話になっております。

 

平穏が訪れた扶桑ですがいまは国の立て直しのため私は浦塩でスコップをザクザク回して現在復興作業中なんですねー、これが。

 

何せこの辺りは超大型ネウロイによって破壊されたのでほとんど更地みたいな状態でしてね、いやー、酷いことしますなネウロイも。

 

とある英雄さんの呟きを語るなら「ネウロイは害悪はっきりわかんだね」とまんまその苦言に尽きる。その通りですよ。うんうん。

 

それでこの浦塩をですね、また使える街にしようとするため皆で復興させようと雪崩れ込みました。

 

そこには一般市民の志願者で多く溢れてます。

もちろんウィッチもいます。

 

まあ殆ど徴兵先が決まらない陸軍のウィッチさんばかりですがね。

 

仕方ないです。

 

海軍に比べて終戦後の陸軍には物資が足りないですからねぇ。平和の代償でございましょうか。

 

まあそれでもこの浦塩をまた賑わせたい気持ちはありますので私は新たな任務を受けるまで絶賛スコップ片手にザクザクとしてます。

 

でもせっかく陸戦から空戦に切り替えれたんですよ。飛べるなら飛びたい限りですねぇ。

 

 

あ!あ!

 

それよりもですよ!

 

私のお近くにとんでもない人がいるんですよねこれが!ご紹介します!

 

なんとなんと!

 

浦塩に扶桑の英雄さんが復興作業に来ているんですよ!おどろきました!

 

 

 

「何一人で興奮してんだ?」

 

「いえいえ、なんでもないですよ。ただ英雄の願那夢さんがココに来るなんて考えもしてませんでしたから」

 

「今の俺は根無し草だよ。第十二航空隊の解体と共に民間人協力者としての契約が終わったからな。それで自由になったからしばらく世界を旅してた」

 

「おや?まるで加東大尉みたいですね。あの方も陸軍から一線を引いた後は扶桑を出てジャーナリストとして世界を回っているんですよ。何処かで会いませんでした?」

 

「いや、特に?」

 

「そうですか。まぁまぁ、それだけ羽振りよく世界を回れるのでしたらそれはとてもいいことですよ。戦いが全てじゃないですからねぇ」

 

「だな」

 

 

 

スコップを壁に立てかけ、支給品の炭酸飲料(サイダー)を喉に流して平和を噛み締める。

 

しかし世界ではまだネウロイの脅威がところどころに起きている。主にウラルから散った残党ネウロイが原因ですがオストマルクを中心に抑えているみたいですね。

 

たまに扶桑海にもネウロイは現れてるみたいですが一ヶ月の間に小型が一機か二機が現れる程度で比較的平和です。

 

 

 

「そういえば黒数准尉はどうして復興作業のため浦塩に来たんですか?」

 

「第十二航空隊を切り盛りしてた頃、この浦塩からよく支援物資が届いた。それは部隊運営のための建材だけじゃない、子供達が喜ぶ甘いものとかも豊富に届いた。だから最後まで戦えたし、すり減ることなかった。浦塩にはとても感謝してる」

 

「なるほど。その恩返しの一端として復興作業に来たんですね?」

 

「まあそんなところだ。後ここは陸軍しかいないからな。色々と都合が良い」

 

「??」

 

 

なにやら復興作業以外に別の目的もあるみたいですが私程度では英雄様の考えなど計れません。

 

なので今はこの方と共に同じ目的を持てる、それを噛み締めてこの浦塩を復興させる。

 

私にできることはそれだけでしょう。

 

 

 

「あと犬房、俺はもう軍人じゃないから准尉はいらない。さん付けも不要だ。普通に黒数とかで良いぞ」

 

「!」

 

 

 

そう言った彼は作業道具を持って現場に戻りました。全身に薄らと魔法力を纏い、意識が続く限り身体強化を行い続ける。

 

そして大きく見える背中。

 

だから既視感はありました。

 

あの夜間哨戒でネウロイから私を助けてくれた時の姿と、それはよく重なります。

 

 

 

「私にとって貴方はいつでも英雄様ですよ」

 

 

 

スコップを掴み、私もその後に続きました。

 

 

 

 

つづく

 






さて、章香と約束を果たしましたね。

役一年ぶりの再会ですが、荒ぶることなく昔と変わらず二人の間は穏やかに流れてます……と、思いきや黒数の内側は大変なことになってますね。そりゃ愛した女性がいつでま可愛いもん。仕方ないね。あ、もちろん章香の内側も大変なことになってます。なにせ互いに重役から解き放たれてこれまで以上にノーガードできるようになったからな。ぶっちゃけ黒数にメロメロだよこの娘さん。てか早く結婚しろ。さもないと作者がブチキレそう。てかキレた。


【北郷章香】
扶桑海事変の終戦後は退役し、その箒を置いた。実家の石川で療養に取り組み、車椅子生活から松葉杖に代わり、片手で素振りできるくらいに回復した段階で黒数が戻ってきた。ちゃんと約束通りに戻ってきた彼に北郷の内心は黒数で大変なことになっていたがそこは理性と共に完成された人格者、第十二航空隊の兵役時と変わらず「おかえり」と「ただいま」だけで二人の心は伝わりあった。もうこの二人夫婦では?役人のボブは訝しんだ。

【黒数強夏】
扶桑に置いてきてしまう彼女の不安を取り除くべく「一年経ったらまた逢いに戻ってくる」と約束を交わし、そしてその通りに欧州から扶桑までちゃんと戻ってきたフットワークの軽すぎるヤベーヤツ。ただしまだ追われてる身なので扶桑での滞在は考えておらず、直ぐに去ってしまう予定だったが二海さんに引き留められて三日間だけ彼女と共にした。それから扶桑を出て浦塩に向かう。海軍の目が届いてない場所なので今はしばらくはそこで生活を考えながら、熱り冷めるまで今後の予定を考えている。

【犬房由乃】
願那夢する黒数強夏に脳を焼かれた一人。浦塩で復興作業を手伝いつつ次の任務を待つ。黒数強夏とは班が同じなためよく会話し、時間を使っては魔法力の技術を聞いたり試したりと、その知識を彼から吸収している。黒数強夏曰く彼女は可能性の塊として評価が高く、第十二航空隊時代に引き抜きたかったと考える。それを聞いた犬房由乃の脳は再び焼かれたようだ。



ではまた

スピンオフ『魔女たちの軌跡雲』は読んだことありますか?

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