GVSウィッチーズ   作:つヴぁるnet

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お ま た せ


またウマ娘でマフティーしてました。
ユニバァァァァス!!!
ってこと。



他に書くものが浮かばない限りはコッチに力入れます。

ではどうぞ


第44話

 

 

 

さて、黒海にネウロイの巣が現れて10日が経過した。

 

ウラルからやってくるネウロイの脅威と睨み合いながらも浦塩では着々と復興作業が進み、その地を守らんとするウィッチ達はそれぞれ陸と空を使ってネウロイの哨戒また討伐に駆り出されていた。

 

それと同じく男性ウィッチである俺も2週間ほど手を付けていた浦塩の復興作業から一度手を引き、キャリーバッグの中に納めていたストライクユニットを引っ張り出すと再びウラルの空を飛ぶことになった。なんというかこうしてネウロイに注意しながらウラルで飛ぶのも懐かしい感覚だ。

 

さて、懐かしい感覚なのはともかく今回はどの部隊にも所属していない嘱託社員のような状態なため現在の俺は民間協力者として浦塩近辺からウラル戦線まで幅広く飛び回り、主に夜間哨戒を目的としている。

 

しかし何故俺が他の兵士を押し退けて夜間哨戒任務に付いてるかというと…まあ理由は単純。

 

ナイトウィッチがいないからである。

 

希少種だもんね。仕方ないね。

 

そもそも現在の陸軍にはそこまでウィッチがいない。一応だが扶桑海事変をモチーフとした映画のお陰で訓練生は確保できたらしいが実戦投入できる兵士はまだ居ないらしくそう簡単にウィッチを導入出来てない。こうした人手不足に人手不足が重なっている状態であり動員できる兵士も限られている現状。

 

そして黒海に出現したネウロイの一部が陸軍の管理する浦塩にやって来る始末。

 

泣きっ面にネウロイも良いところだ。

 

やはりネウロイは害悪。

はっきりわかんだね。

 

そんな陸軍のために夜間能力に適正がある俺が自ら立候補して夜間哨戒任務に当てられている状態だ。まあ夜飛ぶ事態は問題ない。カールスラントで経験あるから。

 

しかしカールスラントから扶桑に帰る間に生活リズムを昼型へと戻したというのにすぐ逆戻りなのは辛いところさん。

 

だがこれも一般市民のためだ。

 

願那夢の威名によって敬遠されていた俺だけど犬房を通して受け入れてくれた人達がいる。

 

これも全て過剰なプロパガンダが原因だけど浦塩の復興は俺自身が望んでいることなので、毎日尽力してくれる民草の安眠くらいはしっかり守らないとな。

 

それに陸軍の駐屯地は一部の海軍から良い雲隠れになっている場所だ。

 

熱り冷めるまではこの場所を利用しようと考えて人員補充の目処が付くその時までは浦塩で飛んでおこうと思っている。

 

その後は…また海外に行くのもアリだな。

 

その時は章香に伝えないと。

 

 

 

 

あ、そうそう。

 

章香と言えばなんだが……

 

 

 

()()()()()は姉上のどんなところがお好きになられたんですか?」

 

「全部」

 

「もっと細かいところとか無いんですか?」

 

「ない。それだけ彼女には魅力なところが多いから」

 

「なるほど。全てがクリティカルと」

 

「それは否定しない。まあ強いて言うなら舞鶴の潮風に靡く章香のポニーテールは好きだよ」

 

 

 

横でうんうんと頷きながら話すのは北郷章香の妹である『北郷鈴香(きたごう すずか)』だ。

 

妹が陸軍にいることに関しては聞いていたが、まさか浦塩に援軍として参戦するとは思わなかった。

 

まあ浦塩の管理は主に陸軍がしている状態なので陸軍が援軍を求めたら同じ陸軍から人員が送られて来るのは当然のことだろう。

 

しかし北郷鈴香に関してはノータッチだったため寝耳に水な状態。あの日は夜勤明けの眠気もすっかり吹っ飛んだぞ。つまり身構えてないから死神の代わりに妹がやって来たタイプ。控えめに言って身内の参上は怖いぞアムロ。

 

それと彼女の階級は少佐であり、姉と同じで優秀なウィッチとして名を馳せており、一年前のウラル戦線でも北側でネウロイの侵攻を抑えていた実戦部隊の隊長だ。

 

それぞれ陸海と姉妹揃って優秀なこと。

 

ただ姉の章香はもう退役したが。

 

 

 

「あ、お義兄さん、そこの七味もらって良いですか?」

 

「どうぞ」

 

 

それと今は朝ご飯中だ。

 

夜間哨戒任務の帰りに食堂に向かった俺は適当にうどんを貰い、夜勤明けの眠そうな瞼半目で麺を啜っていたら「お義兄さんおはようございます」と目の前に座ってきた。

 

これには目を覚ましてしまう。

 

孤児院時代では年下から「お兄さん」と慕われていたけど彼女の場合「お義兄さん」だから意味も理由も盛大に変わって少しだけ身構えてしまう始末。

 

しかも「お義兄さん」と呼ばれるたびに周りの兵士やウィッチから注目を浴びてしまう。周りは俺が扶桑の英雄こと黒数強夏であることを周知しており、そしてあの第十二航空隊の大黒柱かつ機動戦士願那夢の威名を持って扶桑海事変を勝利に導いた人類希望だ。その英雄があの北郷家のウィッチから「お義兄さん」と声をかけられていれば誰もが目を引くことになってしまう。変な噂が広まらなければ良いが。

 

 

 

「お義兄さんはブリタニアから来たんですよね?あの宮藤博士の使用人として」

 

「ああ。生活が安定するまでは宮藤博士を手伝っていた。それで渡欧中の章香と出会い、お役目ごめんになったタイミングで舞鶴航空隊に連れて行かれた。流れではそんな感じだな」

 

「なるほど。しかしそんかお義兄さんは何故魔法力が?」

 

「ややこしい話になるからそこらへんは伏せさせてもらう。まあ色々あったんだよ」

 

「そうですか…」

 

「ただ、そうだな……ひとつ言えることがあるとするなら」

 

「?」

 

 

一度コップに注がれた水を飲み、食堂の窓から見える空を眺め、浦塩の空を飛ぶウィッチを見送りながら…

 

 

 

「俺を見つけてくれた人が章香で良かった」

 

「!」

 

 

紛れもなくその時の気持ちを伝える。

 

俺が出会えた最初の魔女。

 

それが北郷章香。

 

ファーストコンタクトはあまり穏やかではなく刀を向けられている状態で土下座して懇願する俺の姿があった。

 

その後は知人関係として彼女の好意で拾われて舞鶴航空隊入り。気づいたら第十二航空隊の副隊長かつ扶桑の願那夢として威名を背負った英雄になった軌跡。もうあんな出来事も既に二年前の出来事である。時の流れも早いものだ。

 

そう懐かしく思いながらうどんを啜ると目の前に座っている鈴香はどこか満足そうな笑みを浮かべながら…

 

 

「お姉様がお義兄さんを選んだ理由がわかった気がします」

 

「そうか?」

 

「はい。ご勝手ながらですが、私も父上に届いたお姉様の文、読ませて頂きましたから」

 

「ああ…なるほど」

 

 

 

願那夢を演じる黒数強夏の事前情報は章香の書いた文から得た訳か。まあ妹君からも気を許されてるようで俺は安堵するよ。

 

 

「しかし、似てるな」

 

「?」

 

「そのサイドテールにしてある髪、ポニーテールにしたら章香と見間違えそうになるな」

 

「ふふっ、よく言われます。今は垂れ目とつり目で見分けつきますが昔は髪を下ろしていてるだけでもよく間違われました。お義兄さんにも見せたかったです」

 

「姉妹揃って似てるいるかも気になるが幼い頃の章香は是非見たかったな」

 

「実はそれなりにやんちゃだったんですよ?学業はとても真面目で優秀かつ魔女学校も主席で合格するほどでした。しかしその分力比べが好きな魔女候補生の一人でして、誰も勝てないほどに強かったんです。もしあの頃にネウロイが扶桑を襲っていたとしてもお姉様なら一人で追い払っていたかもしれません。そう言われるくらいにお姉様は私と比べて凄かった…」

 

「鈴香も陸軍では名が有名だろ?」

 

「それはお聞きます。私のことも皆が讃えてくれる。けれど【軍神】として謳われるお姉様はほんとうにすごくて、それでいて…勿体無い…」

 

「…かも… な。彼女があと三年遅く産まれていたら、類い稀な才能と力でネウロイを押し返していたかもしれない。でも、章香が先人としてその時代を生きて、駐欧武官としてブリタニアへ来てくれたから俺は彼女と出会えた。たらればで勿体ないことを思い浮かべるのと同時に、彼女がそうであって良かったことを俺は彼女に感謝するよ。だから今、俺が章香の約束の先で飛んでいるんだ」

 

「!」

 

「章香の教えが俺にある。約束は果たされてもう隣を飛ばなくなった彼女だけど、しかし北郷章香って名を持つ偉大な魔女と飛んでいたファクターはこの魂に刻まれている。だから俺は惜しく思わない」

 

 

北郷章香のアガリを聞いた時、それは北郷鈴香と同じ考えをした。

 

もっと彼女が長く飛べるなら、隣で約束を果たせる時間はもっとあったかもしれない、そう考えたことは幾度なくある。

 

でも時間は進む。

 

だから後ろ髪引かれるのは彼女のポニーテールだけにして俺は許させる限りを尽くした。

 

ブリタニアで出会い、赤城で学び、舞鶴で約束を結び、ウラルで共に戦い、扶桑を守った。

 

それらの追憶がこの記憶になり、今も力になっている。ビームサーベルによる接近戦も章香が稽古を付けてくれたから今がある。もちろんそれ以外にも多く彼女から与えられた。

 

そうして北郷章香のファクターが黒数強夏を生かし、願那夢を健在にしてくれる。

 

俺はアガリを迎えた章香を惜しく思わない。

 

だって今も俺は彼女を隣にして戦っている。

 

そう感じているから。

 

 

 

「やはり貴方は、お姉様に相応しい以上を感じさせてくれるお人なんですね」

 

「ただ必死なだけだ。あまり(いだ)きすぎるなって」

 

「ふふっ、わかりました。でもこれはひとつだけ伝えさせてください」

 

「?」

 

 

 

彼女は食器を持って立ち上がり…

 

 

 

 

「私はお姉様を尊敬します。そして扶桑の英雄たる願那夢のことも尊敬します」

 

「!」

 

 

ご機嫌なサイドテールを揺らしながら彼女は食堂を去る。

 

俺はその言葉を受け止めながら彼女の後ろ姿を見送り、そして食べきったうどんのスープに視線を移してしばらく眺める。そこには俺の顔が写っているが、一瞬だけスープが揺れるとガンダムの顔に変化した……ように見えた。

 

 

「やれやれ、眠気でまともじゃないな」

 

 

俺はスープを飲み干すと立ち上がり食器を片付けて食堂を去る。

 

この後は任務報告書をまとめる予定。

それが終わったら寝る。

てかやはり眠い。

報告処理は犬房にでも押し付けようか。

 

そんなことを考えてると西から風が舞い込む。

 

それはウラルの方からだ。

 

 

 

「黒海か……」

 

 

この数週間で世界は騒ぎになっている。

 

扶桑海事変の時も世界はそれなりに騒ぎになっていたが今回は扶桑ではないヨーロッパの方にベクトルが向いており、様々な国がネウロイの対応に追われている。

 

まあ、それもそうだ。

 

充分な戦力を完備できてない国に唐突な大戦力の到来かつ新型ネウロイが続々と現れた。戦線構築が追いついてない現状として早急な戦力強化と武装強化が望まれている状況下であるが、もちろんネウロイが待ってくれる筈も無くその間にいくつかの街を陥落させた。

 

そんな扶桑も他国と同じ状態であり、散発的ながらも浦塩近辺まで黒海からウラルを超えて現れたネウロイの攻撃が届こうとしている。まだ一年前に比べてかなり控えめは侵攻であり、扶桑に主軸を当ててないような軽量な物量であるが疲弊している扶桑皇国からしたらネウロイが現れただけでも悲鳴ものだ。

 

正直あの日の朝、俺がネウロイの強襲に気づかなかったら浦塩は打撃を受けていたし、扶桑全体は相当頭を抱える羽目になっていただろう。

 

しかもあの夜、適正者は居らずとも夜間哨戒に出向いていた兵士は陸軍から出ていた。

 

だがやはり夜間に適性のあるナイトウィッチのような兵は一人も保有してないことを考え、実のところ防衛体制が不十分な苦し紛れな復興作業であることが伺える。

 

そのため俺がこうして出ている状態だ。

 

 

…………てか、海軍と連携取れていれば人手不足なんて問題解決できると思うんだがねぇ?

 

海軍も同じように人手不足なんだから今こそ陸海は力合わせて扶桑の戦力復興を目指すべきだと思うんだが……

 

やれやれ…

 

扶桑は結局、扶桑(にほん)に変わりないって事か…

 

 

 

「もういいや、さっさと寝よう…」

 

 

 

犬房は見つからなかったので自分で報告を済ませた。そして眠りつくとにした。

 

 

 

あ、ちなみに徴兵中として軍から綺麗な個室を与えてくれた。

 

これも願那夢故なのか待遇が良い。

 

個室はありがたく頂こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして睡眠から5時間後。

 

手の甲から痺れを感じ取った。

 

___願那夢(やくわり)が倒すべき存在を訴える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今から約一年前、南の方からその名が届いた。

 

____願那夢。

 

ウラル戦線の北にその威名が刻まれた新聞記事が手元に届く。

 

私はその内容を手に取り確かめた。

 

扶桑陸軍の穴拭智子を筆頭とし、扶桑国民にこのヒーロー性とアイドル性を伝えるため新聞記事には大きく映し出された写真が何枚か載せられており、それと同時に最前線で闘うウィッチが健在であることを証明する。

 

その中で特に目が着いたのは別枠として記事に載せられている、扶桑刀を握りしめた男が一人写し出されていること。

 

その名前は【黒数強夏】である。

 

そして私の姉、章香が率いる第十二航空隊の副隊長かつ准尉の階級を持った男性ウィッチとしてその輪の中にいた。

 

私はすぐに気になり姉章香に文を送った。

 

 

__彼は何者?

 

 

返ってきた答えは『信頼できる者』だった。

 

姉章香の言葉に嘘はない。

それは知っている。

 

それでも私は少しだけ心配になっていた。

 

しかし姉章香の『信頼できる者』の言葉とはすぐに答え合わせができた。

 

次々と舞い込む第十二航空隊の情報。

 

どれも活躍のみが耳に入る。

 

その中で願那夢の名はよく耳にした。

 

ネウロイに対する、迎撃、追撃、反撃、どのような条件だろうと貢献してきたその活躍は紛れもなく英雄のそれだ。

 

世間はもう彼の活躍に期待する。

 

願う。または。夢見る。

 

そう感じさせる安心感。

 

何より姉章香が彼のことを喜んでいる。

 

それが妹の私にとってなによりも証拠だ。

 

だから私はその存在を受け入れ…

 

そして…

 

ほんの少しだけ願那夢の存在に憧れる…

 

 

 

 

しかし残酷は等しく訪れる。

 

ある日、願那夢は夜闇の中で落ちた。

 

穴埋めのため慣れない夜間哨戒に付き、その先で人型ネウロイと対立し、そして願那夢は闇の世界で翼を折られてしまい、その威名は空の彼方で砕かれた。

 

だが願那夢の墜落()は世間に広まることなく一部の人間のみ知る事実となる。

 

軍の士気低下を恐れてた故の処置だ。

なんとも寂しい知らせだろうか。

姉章香の隣人は容易く消え失せる。

それがあまりにも心を締め付ける。

 

そんな悲しい事実を受け止めながら陸海は浦塩まで撤退することになった。

 

だがそこに願那夢の姿が見られず知らないはずの周りは何かを察し始めていた。

 

 

__願那夢は第十二航空隊にいないのか?

 

 

この機密情報もいつのまにかその他の兵士たちにも広がり、願那夢という大戦力の低下を目の当たりにしたことを実感し始める。

 

更にネウロイの止まらない侵攻も合わせた状況が悪化し始める中、扶桑陸軍は大規模な動員を行いネウロイの撃破に向かったが多くの死者と負傷者を出しての大潰走を生み出し、扶桑皇国軍はボロボロに追い込まれる。

 

私も怪我を負いながら浦塩に戻り、願那夢を無くしながらも気丈に振る舞う姉章香から「よく頑張った」と言葉を貰いながら私は浦塩を後にしようと輸送船に乗り…… 追い打ちとばかりに人型ネウロイが浦塩上空に現れた。

 

絶望をその目にした。

 

その人型ネウロイは初めて見た。

 

しかし何故か……怒りと悲しさが湧き上がる。

 

直感的だが___アレが願那夢を墜とした。

 

そう感じ取った。

 

すると一年間のウラル戦線で名を馳せていた第十二航空隊はこれを迎撃しようと迎え撃つ。

 

しかし半分以上のウィッチが損耗している状況で人型ネウロイを討てる望みは願那夢と同格と謳われる姉章香のみであった。

 

私は怪我で動けず輸送船で眺めているだけ。

 

姉章香にその空を任せていた。

 

しかし人型ネウロイの強さは人智を超えた暴力により第十二航空隊は半壊する。

 

そして同時に姉章香はアガリを迎えていた。

 

弱った魔法力は遠くからもわかった。

私達はよく似た姉妹だから。

 

姉章香も願那夢と同じようにあのネウロイに討たれて墜ちてしまう…??

 

重なる絶望はすぐそこに。

 

何もかも終わりを迎える。

 

そして___希望は宇宙(そら)からやって来た。

 

 

 

__約束を果たしに戻ってきた!!

 

 

 

願那夢は彗星の如く現れると姉章香を助けた。

 

そして人型ネウロイを返り討ちにする。

 

今も思い出す。

 

あの"夏"の下で戦う彼は"強"かった。

 

それが『強夏(きょうか)』って意味なのかと思わせるほどに願那夢の威名に相応しい姿を浦塩の空で見せつける。そうして第十二航空隊と浦塩に残された者たちを救った。

 

あの希望は未だ健在である。

輸送船から喜ぶ声。

同じく私は輸送船から見ていた。

なによりその活躍を初めて目にした。

 

そして納得がいった。

 

姉章香が願那夢と謳われる黒数強夏に信頼を置いている理由が。

 

それから私は怪我の治療で扶桑に帰るも、石川の実家に戻ることはなく怪我を隣り合わせにして忙しく軍務に周っていた。

 

その間に姉章香は黒数強夏を連れて実家に案内し、父との会合と盃を交わすと彼の存在は確かなものとして受け入れられた。

 

なるほど、つまり『もう逃げられないぞ』ってことだろうか?姉上もよくやる。

 

あと父上とも盃を交わしたみたいだ。

 

完全に彼は北郷家の人間だ。

私も賛成だ。

 

 

それから挺身作戦が開始。

 

陸海共同の作戦。

 

そしてここでも願那夢は活躍していた。

 

扶桑を形作った光の旗を掲げ、多くのネウロイを撃ち落とし、颱風の中だろうと怯まない。

 

また訓練期間を前倒しに参戦した訓練卒業生が多い作戦だったが、その戦意を保たせようと先陣を切り、誰よりも多くの傷を背負おうと立ち向かう姿はまさに英雄そのもの。とあるウィッチの話では浦塩で現れた人型ネウロイが強化された個体と再び戦闘を行い、コレを討ち取ったのだそうだ。

 

ああ、もしかしたら、この世界では彼よりも強いウィッチは全盛期の姉章香を除いて存在しないのかもしれない。それほどの活躍と強さを見せた。

 

しかし対するそんな姉章香は少ない現役期間を引き換えにウィッチの可能性を守ろうと、私の元隊長であった江藤敏子と共に作戦外から活躍を奪い取ろうとする一部の海軍と対立していた。

 

それも命を懸けて止めるつもりだった。

 

私はそれを挺身作戦の終わった数ヶ月に車椅子生活中の姉章香から聞かされた。

 

これには私も姉章香の行動に憤りを感じて少しだけ説教をしてしまう。戦いで命を落として本物の軍神になるなど指導者として後続に見せれない姿。そんなの言語道断であるから。

 

それとこのタイミングで姉章香が現役時に父へ送っていた文を読んだ。

 

彼の人間性がよく書かれていた文である。

 

どこか惚気のようにも感じたが、それと同時に私は黒数強夏に対して深く感謝の意を抱く。

 

姉章香の命を救い、そしてあんなにも女性らしい顔をさせた唯一の存在。

 

そして約束は必ず果たし続ける黒数強夏。

 

 

__今は離れ離れ。

__けれど彼はまた逢いに戻ってくる。

 

 

そう信じている姉章香は……美しかった。

 

離れ離れ……ああ、ひどい話だ。

 

彼は願那夢としたの力を畏れた海軍から軟禁を言い渡されていた。英雄に対して酷い扱いだ。

 

すると彼はそれを断って海外に逃げていた。

 

 

__大人(こども)に付き合っていられるか。

 

 

そう言葉に残した黒数強夏だが、姉章香とはまた一年後に出会う約束を結んで彼は旅に出る。

 

そして約束通り姉章香の元に戻ってきていた。

 

なんとも行動力の高い男だ。

 

内弁慶な扶桑男児は少しくらい彼を見習うべきだろう。

 

なにせあの人は願那夢の名前だけが一人歩きしていない立派な人間だ。

 

それなのに軟禁…か。

馬鹿らしい。

たしかに付き合っていられない事だ。

 

まあ海軍はこっそり帰ってきた黒数強夏を知らないみたいだ。

 

それに軟禁と言っても一部の組織がそうさせたいだけで全体的な意志でもないらしい。

 

しかしそれでも彼の存在がその者たちにとって厄介なのは間違いなく、そのうち扶桑にいる彼の存在を海軍は捉えるだろう。

 

だからそれを考えた黒数強夏は海軍の管理外である陸軍が監理している浦塩の復興作業に参加することにして腰を落ち着けるみたいだ。

 

なるほど。

 

ココならそう簡単に見つかるまい。

 

ただもっと堂々と扶桑に居座ってほしい限りだ。

 

その権利も意味も有る筈なのに。

 

これだから上の組織と言うのは…

 

私の元隊長、江藤敏子のようにため息が出る。

 

でもお陰で初めて彼とこの場で出会った。

 

何故なら私は陸軍のウィッチ。

 

浦塩復興のための支援部隊として参戦する。

 

だから……彼の活躍を見れる。

 

密かに憧れているその英雄譚に。

 

今の彼は階級も何も持たない民間協力者としてだが、その空気は昼夜違うとも感じられる筈。

 

 

 

 

 

そう考えて…

 

 

 

「散開!まとまらないで!」

 

「何よコイツ!?」

「こ、これもネウロイよね!?」

「このっ!人型のピエロもどきめ!!」

 

 

哨戒任務中、突如謎の物体が現れた。

 

最初は空から瘴気が現れた。

 

すると瘴気は渦巻き、小さな無数の物体がネウロイを構築するとそこにはピエロのような形をした大きな人型ネウロイが現れる。するとそのピエロは腰から筒状の浮遊物を多く飛ばすと飛んでいる私達を包囲するとビームを放ってきた。

 

急な包囲攻撃で一人落ちた。

 

そしてピエロ自身からもビームが放たれる。

 

 

「間違いないッ、この人型は…!」

 

「ち、近づけないっ!」

「くっ!どこまでも追って…!」

「このっ!このっ!!このっ!!」

 

 

なんとかあのピエロを撃退したい。

 

しかし回避で手一杯だ。

 

銃口を向けても飛び交う物体が射線を切るように狙ってくる。

 

 

「なんとか回り込まないと…!」

 

「キィィィ!!」

 

 

逃げ場など無いとばかりにあのピエロは延々と攻撃を放ってくる。

 

消耗という概念のないネウロイに対して制限のある私たちは圧倒的不利だ。

 

時間が私たちを追い詰める。

 

 

「ッッ、はぁぁぁぁあ!烈風斬!!」

 

 

扶桑刀に魔法力を纏わせるとそれを斬撃として放つ。

 

姉章香の編み出した技。

 

いくつかの飛び交う物体を斬り壊しながら迫り来る斬撃に対してピエロは回避を選んだ。

 

少しだけ攻撃の嵐が止んだ!

撃退か、もしくは撤退するな今のうちに…!

 

 

 

「キィィィ!!」

 

「「「!!??」」」

 

 

しかしピエロの腰からさらに飛び交う物体が放たれる。

 

しかも……壊した倍近くだ。

 

 

「そ、そんな…!」

「うそっ……!?」

「北郷隊長の烈風斬がっ!」

 

 

飛び交う物体は一斉にコチラに銃口を定める。

 

次はコチラの番。

 

落ちたウィッチの後を追わせようとする残酷。

 

そう告げるように光が___放たれ。

 

 

 

 

 

『あまり調子に乗るなよ、紛い物が』

 

 

 

 

 

 

「キィィィ!!?」

 

 

背後から熱源を感じる。

 

その瞬間、ピエロの右腕が砕けた。

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

周りの隊員は驚く。

 

ピエロの腕が弾け飛んだから。

 

私はサイドテールを揺らしながら振り向く。

 

そこには…

 

 

 

「いやー、流石っす!」

 

「寝起きドッキリにしては気合入りすぎだ」

 

 

 

まずひとりの陸軍ウィッチ。

確か……そう、犬房准尉。

 

そして、もうひとり。

 

 

「まさか…」

「うん、あれは!」

「ええ、間違いない…!」

 

 

そこにはこの世でたった一人の男性ウィッチ。

 

願那夢___黒数強夏が飛んでいた。

 

 

 

「お義兄さん!?」

 

「おはよう鈴香。まあ予定より3時間早く起きて眠い限りだよコッチは…」

 

「あの、もしや、貴方が援軍として…」

 

「いや違うっす!願那夢さんが察知して来ただけっス!」

 

「さ、察知…?」

 

「紛い物には敏感なんだよ俺。それとこの犬っころはお目付け役だ。許可なしにこの空域を飛行しているから捕まえてきた」

 

「いやー、急に廊下で『少し付き合え』って言われて少しだけドキドキしたっすよ〜、うえへへへ〜」

 

 

クネクネと反応を見せる犬房と言う名の陸軍ウィッチ。

 

その犬房に対してやれやれと表情を見せる黒数強夏はどこか眠そうだ。

 

寝ているところを起きてこの場所までやってきてくれたようだ。

 

正直……助かった。

 

 

 

「犬房、北郷少佐と連携してここから退け。あとは俺がやる。ぐっすり寝ているところ起こされてかなり機嫌が悪いんでなァ…」

 

「あわわわ、願那夢さんの睡眠妨害は犯罪級っすねぇ、くわばらくわばら…」

 

 

 

そう言った黒数さんは私たちの前に出ると手元から筒状の長物を召喚するとそこから光の刃が音を立てて伸びる。

 

すると目の前のピエロも同じように筒状の長物を引き出すと光の刃を伸ばしていた。

 

………ッ!は、離れないと。

 

 

 

知識の保護者(キュベレイ)は睡眠不足がどれだけ命取りか分かってんのか?ああ別に言葉は通じなくてもいいぞ。ただ…この代償は高く付くからな!紛い物がァァ!!」

 

 

空気を震わせる願那夢のストライカーユニットと共に破壊した右側から強襲する。

 

 

「さぁ!今のうちに退くっす!このままだと私たちを巻き込みそうになって願那夢さんは本気を出せないっスから!」

 

「え、ええ、わかったわ…」

 

「隊長!その前に仲間が下に!」

 

「もちろん回収するわ。早めに行きましょう」

 

 

 

激戦地となるこの場所から私たちは去る。

 

睡眠妨害を受けた不機嫌な願那夢の怒声はウラルの空で響き渡る。

 

 

 

「行け!ファング!」

 

「キィィィ!!」

 

 

 

無数に飛び交うビームの嵐を潜り抜けながら願那夢はピエロに立ち向かう。

 

彗星の如く疾る『願い那は夢』は再びこのウラルの空で荒れ狂うことになった。

 

それは一年前と全く同じ光景となるだろう。

 

私はそれを目の当たりにした。

 

 

 

 

 

 

つづく

 






【黒数強夏】
人手不足故にカールスラント以来の夜間哨戒任務に付くことになり、陸軍の民間協力者として浦塩の夜空を守る。北郷章香の妹である北郷鈴香と出会い「お義兄さん」と呼ばれる羽目になるがそれでも付き合いは良好で朝の食堂で会話する中。朝じゃなくてもいいからチェロスがメニューに入ってくれたらなー、勝手に思ってる。

【北郷鈴香】
姉章香の妹。母の北郷二海の血が濃ゆいのかややイタズラっぽい性格を秘めているが姉章香のことは尊敬して、敬愛している。浦塩で黒数強夏と出会い、姉章香に相応しい人間がどうか遠回しに判別していたが速攻で合格点を与え、二人の幸せを願っている。実は願那夢のファンだったりするが本人には直接伝えていない。江藤敏子の元部下だった。

【犬房由乃】
わんわん。


ではまた

スピンオフ『魔女たちの軌跡雲』は読んだことありますか?

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