GVSウィッチーズ   作:つヴぁるnet

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第6話

 

 

「はい…はい…はい…はい…はいっ!以上!」

 

「むむっ…」

 

「さて、答えは?」

 

「よし……75…!!」

 

「惜しい、答えは85だ。繰り上がりをひとつだけ逃したな」

 

「ああああー!」

 

 

頭を抱えて悔しがる北郷章香。正解まであと少しだったことが相当効いたのだろう。

 

 

「なるほど… フラッシュ暗算、なかなか難しいな」

 

「こればかりはもう記憶力の勝負だよ。頭の中で噛まず、瞬間的に計算してトータルする。慣れも必要だけど毎秒身構えてないと何処かしらで詰まってわからなくなる。それが難しくて面白いところ」

 

「つ、次は私がやろう!」

 

「良いぞ」

 

 

少し厚めの紙に書かれた適当な数字。

 

それをランダムにシャッフルした後準備を終えたのか北郷は8枚ほど用意した。どこか楽しさ交えながらも挑戦的な目で「いくぞ!」と彼女は訴えると、一気に揃えた数字を捲る。

 

一枚に対して1秒か2秒くらい。

 

そして…

 

 

「答えは77だな」

 

「む?そうかのか?」

 

「いや、決めてないんかい!」

 

「はっはっは!私自身も分からないように適当だからな」

 

「なるほどな。負けず嫌いめ」

 

「なっ!」

 

 

それから選んだ数字を合計するとたしかに77で答えが合っていた。

 

まあ出された数字は小さいものばかりだからそこまで苦戦はしなかったが、北郷は感心したのか誉めてくれた。

 

でも何処か悔しそうにしていたけど気づかないフリをした。

 

 

「紙が勿体無いからあまり用意してないが、小学生の頃は3桁とかもやってたぞ」

 

「そうなのか!?」

 

「ああ。これ、そういう競技だからな。ただ俺は小学生の頃にやってた程度だから。この暗算競技は突き詰めていくと本当はもっと凄いことになってるよ」

 

「賢さとは様々だな。恐れ入ったよ。とりあえず… 悔しいからもう一度挑戦させてくれないか?」

 

 

 

 

負けず嫌いなのは確かなようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリタニアから扶桑に向かおうとして10日が経過した。船酔いなどは起こさなかったが如何せん道楽に囲まれた前世ではない70年ほど前の時代の世界だ、訓練やブリタニア語の勉強などを除いて暇を持て余しそうになる。

 

まあそんな時は赤城の艦内で手伝えることをして時間を潰すようにしている。

 

 

「黒数くん、料理の腕はとても良いな!さすが宮藤博士の使()()()だな! 」

 

「黒数くんはブリタニアでどんなお手伝いをしていたんだ?やはり使用人だから身の回りのお手伝いなのか?」

 

「はい。短期間だけですが、宮藤博士のブリタニアでの生活基準をある程度確保することを目的としてまして、それでもう終わったので扶桑に戻ることになりました」

 

「なるほどなー、そういうことか。それで料理やら掃除やら得意なのか」

 

「しかし珍しいな。その年齢なら大体は軍人を目指そうとするだろうに」

 

「あー、そこら辺は色々とありまして、とりあえずこれ以上は機密なんであまり喋ることは許されてません、申し訳ないですが」

 

「おっと、それは悪いことをしたな」

 

「まあ、赤城にいる間だ。時々で良いから厨房を手伝ってくれたらありがたいよ」

 

「訓練後にくたばってなければいくらでも手伝いますよ」

 

 

じゃがいもの皮をナイフで剥きながら赤城の調理兵と会話する。船に乗せさせて貰っている身なので可能な限り手伝おうと考えて、まず俺に出来ることは料理の手伝いだった。

 

最初は、あの宮藤博士直属の使用人と言うことで宮藤博士に関係しないそれ以外の手伝いは遠慮されていたが、既に使用人から外されているただの穀潰しと化した身なので幾らでも手伝うと調理兵に伝えれば、じゃがいも皮剥きを初めとして今は色々と厨房の手伝いをさせてもらっている。昨日は大量の肉じゃがを作って大変だった。

 

まあ宮藤博士直属の使用人の話は全くの嘘だけれども、俺がただ赤城に乗っているだけの生活に罪悪感あるのでどこかで還元しようと考えてこの結果だ。

 

ちなみに北郷章香も手伝おうとしてたが調理兵からは「だ、ダメです!」と断られていた。

 

扶桑に帰れば階級が少佐になるからこう言った区分違いの仕事は遠慮されているんだなー、と思っていたが別にそう言う訳でもないらしく、ただ純粋に…

 

 

「メシマズってほんとうにあるんだなー」

 

「めし、まず…?」

 

「あー、いや、こっちの話です」

 

「?」

 

 

北郷章香は壊滅的な料理センスのお持ちのようだ。

 

例えばおにぎりの中に、魚の目やタコの脚、蟹の爪をそのまま詰めてしまったりと彼女が料理に手をつけるとかなり酷いことになるらしい。

 

軍の中でもそこそこ有名な北郷章香だからこそ彼女がメシマズな話も広まっているようだ。

 

 

はえー、しかしメシマズとかまるでアニメだな。

 

 

そういやアニメだったわ、この世界。

 

 

 

「しかし黒数くんはこの先どうなるんだ?宮藤博士の使用人から外れた以上君は自由人なんだろ?」

 

「もし勤め先が決まってないなら調理兵として志願すれば良いんじゃないのか?ここに来てくれるなら歓迎するし、赤城じゃなくても加賀に乗れるかもな!」

 

「海の男も良さそうですが、実のところ次の配属先はもう決まっているんですよ。まあそこら辺も含めて機密ですが、食いっぱぐれる事は無さそうです」

 

「おお、そうなのか?まあ大凡予想は出来そうだけどな」

 

「そうなると今後に向けて今日も北郷大尉にシゴかれる感じか?」

 

「ええ、この後ボコボコにされそうです」

 

 

 

じゃがいもの皮を剥き終えて鍋の中に投入する。

 

今日は海軍カレーのようだ。

 

これは空きっ腹に良さそうだ。

 

 

 

「時間なのでそろそろ行きます。ありがとうございました」

 

「礼を言うのはこっちさ。気が向いたらまた頼むよ」

 

「夕飯楽しみにしてろよ!」

 

 

北郷章香に訓練を受けている。

 

それはつまりそういうことだと認知されている。

 

本当は扶桑に着くまであまり目立つ事はしない方が正しいだろうが、既に遅しと言うべきか北郷と関わる事で「彼は既に私が目を付けた」と周りに牽制しているのだろう。

 

これでも結構な頻度で俺と一緒にいる事が多い。

 

もちろん戦技研究の技官として赤城にいる間も艦内で仕事をしているが、ほとんど役割を終えた今、書類整理を行う以外あまりやることもないらしく、余った時間は訓練に勤しむのと同時に俺を巻き込んでいる。たまに空を飛んでは飛行訓練を行なっている姿も見られる。

 

 

「と、考えていると早速だな…」

 

 

甲板に出ると一つの細い飛行機雲。

 

鉄の箒ではなく、ストライカーユニット。

 

背中にランドセルのような形をした魔道エンジンを背負って彼女は飛んでいた。

 

 

 

「ウィッチか…」

 

 

やはりこの世界はストライクウィッチーズなんだと改めて思い知らされる。

 

綺麗に旋回する北郷章香は腰に付いている二刀流の扶桑刀を引き抜いて、赤城から浮き上がる洋凧(ようだこ)に向かって突き進むとそれを撫で切る。

 

安定した飛行、正しい軌道、魔道エンジンを背負いながらもブレなく振るわれた太刀筋に甲板から見ていた海兵たちは「おお」と声を漏らす。

 

感心したようなその声を浴びながらも次々と真上に浮かぶ洋凧にすれ違いながら扶桑刀で切断して、腰にぶら下げていた機関銃を構えて切断した洋凧に追撃を行う。

 

練度の高い動きを見せた。

 

 

「…」

 

 

 

扶桑のウィッチはこれだけ動ける。

 

その姿に海軍は安心と喜びを見せて、北郷章香も空から彼らに軽く敬礼する。

 

それは扶桑からしたら希望だろう。

彼女が居れば安泰だ……!!

 

そう感じる勇士ある姿。

 

 

 

 

 

しかし、それでも…

 

 

「私はまだ実戦の無いウィッチだ。二週間前のブリタニアの時だって民間に避難を呼びかけていただけだ」

 

「それでも立派だろ?戦場になるかもしれない港町に残っていた君は軍人だ」

 

「でも私はウィッチだ。空を飛べる兵士。あの時はたしかにウィッチの数に対して新型ネウロイと渡り合えるユニットが足りず、出撃許可を頂けなかったのもある。しかし私は海から迫り来るネウロイを見ていただけ。私はまだヤツらと戦った事はない…」

 

「…」

 

 

そう、北郷章香はまだ何一つ実戦を積んだ事ない無いウィッチだ。

 

元々、戦技研究技官として戦闘には赴かず、現時点で最大限に引き出せるストライカーユニットの空戦技術を開発して、それを実践に落とし込ませる役割を担う。ネウロイを倒すために出撃するウィッチではない。

 

まあでもこればかりは時代の違いもある。

 

何せ20年前に勃発した第一次ネウロイ大戦を終えてからはネウロイの数はそう多くなく、第一次の大戦から逃亡した残党処理程度のネウロイしか存在してないためネウロイ討伐のために飛ぶウィッチはそう多くないようだ。北郷章香もその一人。だからこそ次の戦いのために戦技研究を行なっていたのだが、こればかりは時代の違いだ。

 

平和で穏やかな頃に軍へ加入した彼女の軍人生活はそういうものだった。

 

だから今もこうやって空を飛び、訓練を行なって、いつでも戦えるように準備をしている。

 

それでもどこか……()()()を持ち合わせていた。

 

 

「ふふっ、こんな私が大尉で、次は少佐か…」

 

「そんなこと言うな北郷。君の他にも似たような軍人ウィッチはいる。それに戦う事全てが海軍なのか?それは違うと思う」

 

「わかっているさ。私も理解している。だから私が作り上げた戦技研究によってこの先ウィッチ達がネウロイと渡り合えるなら、この遺伝子は無駄ではない、そう思う……思いたい」

 

「それでも納得行かないか?今の自分が」

 

「かも…しれないな」

 

「そうかい……………ほれ、北郷」

 

「?」

 

 

 

木刀を投げ渡す。

 

北郷が受け止めた瞬間、俺は斬りかかった。

 

その攻撃は受け止められる。

 

 

 

「ッ……不意打ちとは、また随分なやり方で」

 

「お前を倒して代わりに俺が少佐になってやる。そしたら不安も消えるな、北郷」

 

「たしかに、不安も、重荷も、無くなるだろうが、しかし……これは譲れんっ!」

 

「!」

 

 

魔法力は使われていない。

 

しかしその腕力で攻撃は弾き返されて、次は北郷から攻撃が襲いかかり、次は俺が木刀を受け止めた。

 

 

「私はそれでも軍を持ち、導き手となる!そのためにも重ねてきた形を裏切らない!」

 

「ははは!しかし初陣果たせないコンプレックスなら一等兵から始めれば気は楽だぞ!今ここで俺に譲っちまえよ!そしたら俺が君を部下にしてやるよ!」

 

「あっはっはっは!面白いことを言うな黒数!なら倒してみるんだな!そしたら階級だけじゃない!私が君になんでもくれてやろう!」

 

「言ったな?言ってしまったな軍人さん?言質取ったからな?規律を守る軍人さんだから嘘は吐かせないぞ!」

 

「はっはっはっは!君が私を倒せたならな!その代わり君が負けたら今日から腕立て伏せを倍にしてやろう」

 

「やってみせろよマフティー!」

 

 

 

強引に木刀を打ち払い、距離を取る。

 

この騒ぎに海兵が集まるが特に慌てもせず「いつもの二人か」と傍観する。

 

 

 

「今日は観客増員日だ!ここで負け姿を晒すのは怖いなぁ北郷!」

 

「なに、いつもと変わらない日だよ。君が私にシゴキ倒されて、腕と一緒に震えているんだ。甲板の上でね」

 

 

10日も木刀を振るわされたら流石に型にもなるのか俺も構えはそれらしく作れる。北郷もどこか嬉しそうにしながら俺と相対して、油断なく木刀を構える。さすが免許皆伝持ちと言うか、剣に於いて構えが様になっている。

 

やはりカッコいい軍人さんだ。

 

その上、空を飛べる。

 

期待のウィッチ他ならない。

 

 

「流石にある程度わかってきたんだ!今回は特別性で行ってやるよ!」

 

「特別性?何かわからないが楽しみにしてるよ」

 

 

しかし観客多いの困るな。

 

そこら辺うまくやらないと。

 

まあこの至近距離かつこの赤城に乗っているウィッチはここにいる北郷だけだ。

 

そこまで不安視する必要もないか。

 

 

 

「てぇぇい!」

 

 

俺は雑に斬り込んで、北郷は一歩下がり、再び同じように斬り込んで回避を誘う。

 

すると俺は誘った先にある水入りバケツを蹴り飛ばして北郷の視界を奪う。

 

 

「!」

 

「そこっ!」

 

 

一気に踏み込んで突きを放つ。

 

しかし相手は流石に経験者。

 

軽い動作で水入りバケツを真上に弾き飛ばして更にこちらの木刀の突きも弾いた。

 

 

「特別性とは、水バケツかな?」

 

 

笑みを浮かべながらも真剣な目でこちらを射抜く彼女は怖い。

 

しかし俺は観客として集まった軍人から見えない角度に体を振り向いて、脇元に用意してた片手をグッと握りしめた。

 

手のひらに収まる程度の光。

 

それは魔法力。

 

ウィッチにしか無いと思われた、魔法力。

 

 

「なにっ!!?」

 

 

 

しかし、ただ展開しただけ。

 

特にシールドも放たれず、バーサスの武装も召喚されず、俺の魔法力が手元に集まっただけ。

 

例えるなら瓶の蓋を開けて中身を見せた程度。

しかし魔法力がある。

それだけで北郷を驚かせるに充分だった。

 

俺は魔法力をチラ見せさせた手を伸ばす。

 

反応に遅れた北郷は一歩後ろに回避。

 

しかし扶桑人の勤勉さによって綺麗に磨かれた甲板の床はよく滑る。

 

 

「ぅぉ!?」

 

 

体制を崩そうになった北郷に俺は踏み込んで、彼女の木刀を手で掴んだ。

 

攻撃手段を押さえつけられて目を見開く彼女。

 

俺はトドメを刺そうと木刀を握りなおす。

 

 

 

「これでェェ…!!!!」

 

 

 

完全に隙ができた。

 

とうとうこれで決まってしまう。

 

見ている、誰もがそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空っぽになったバケツが落ちてくるまでは。

 

 

 

 

__ガツンッッ!!

 

 

 

「ああああ!!!いっで ええええええ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

腕立て伏せが二倍になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、やめたくなりますよぉ、赤城生活…アーナキソ」

 

 

どこぞの迫真空手部では無いが、バケツ直撃から迫真的な声と共に勝負は決まってから二倍になった腕立て伏せの後、バケツ水で汚した甲板を掃除しているところだ。

 

 

 

「ああ、もう!!一度限りの特別性だったのにもうこの先通用しねぇじゃねぇかチクショォ!あと少しだったのにぃ!!」

 

 

今頃、艦内は海軍カレーで夜ご飯だろう。

どうせ俺の負け姿が話題になってる。

 

 

悔しい………でもっ、感じちゃうッッ。

 

 

まあ、感じるのは頭の痛みだけどな!

ははは、ワロス。

 

 

 

 

「てか、あとどのくらいで扶桑に着くんだ?」

 

 

 

順調に海を進む航海。

あと今日の俺の後悔。

 

それは波風に乗せた赤城は海をかき分ける。

 

周りには何も無いな。

 

どこも海一面でむしろ怖くなる。

 

しかもそれが夜となると尚更だ。

 

 

「これで落ちたら誰にも見つからないとか、夜間偵察ウィッチも恐ろしいことをする…」

 

「だが哨戒があるからこその戦線維持だ。疎かには出来ないな…」

 

「そうなると夜に向けてかなり訓練が必要に……って!?…ああ、北郷か」

 

「後始末は終わったかい?」

 

「いま丁度な。ほら、ピカピカだろ?お陰で明日からこの輝きが俺の敗北を思い出させてくれるよ」

 

「ふむ、輝かしい思い出だな」

 

「この頭の痛みも込めてな、ちくしょうめ」

 

「はっはっはっは!」

 

 

 

カラカラと笑う彼女。

 

もう昼間の曇り顔は無い。

 

だから…

 

 

 

「ありがとう、黒数」

 

「どうした急に?甲板の掃除くらいいつでも手伝うが」

 

「あっははは、そうじゃない。私が言いたいお礼は昼間のことだよ。その…気を効かせたな」

 

「ああ……そっちか」

 

 

 

飛行訓練後の北郷の着陸に俺は居合わせた。

 

それから甲板に出たあと会話を挟んで、彼女のこぼした劣等感を聞いた。いつものようにカラカラと笑う彼女だけど、その時だけはそうも行かずどこか表情は弱々しかった。空を飛ぶ事ができる一人の軍人ウィッチとしての悩みだろう。

 

俺には彼女の悩みを取り除けない。

解決することもできない。

 

でも、一掴み程度の不安なら拭えるはず。

 

そう考えて木刀を投げ渡した。

 

彼女が言ったお礼はあの時のことだろう。

 

 

「別に。俺はただ偉かったら虐められる必要もなくなるからお偉いさんの地位が欲しいなぁ、って思ってただけだし。まあそれが叶わずしてこうして腕立て伏せと甲板掃除だけどな。結局虐められて終わりだ」

 

「虐めたつもりはないな。ただ少しだけお灸を添えようと…ふふっ」

 

「お前絶対バケツ思い出しただろ?」

 

「だ、だって、あのバケツは…ぐ、ぐっふっ、アッハハっはっは!あっはっはっは!あれはダメだ!思い出してしまう!ぐふっ、くくっ」

 

「ヤベェ、迫真超えて目力先輩なりそう」

 

 

 

まあ夜だからそんなことしないし、そもそもあんな声出せるわけでも無く、やれる以前の話になるがともかくしばらくはこの話題に苦しまれそうだ。だから赤城生活やめたくなるんだよ。

 

艦内での寝泊まり自体はそこまで苦じゃないんだけど、いじり倒されてしまう未来はアムロの言葉を借りるなら…

 

__圧倒的じゃないか!ってところ。

 

 

 

「く、くふふ、す、すまない、ふふっ… そう拗ねないでくれたまえ、黒数」

 

「ふん… まあいいさ!美人さん一人を笑顔に出来たからこの痛みは誇らしいよ」

 

「びっ!?ぇ、うぅえ?!」

 

「どうした?」

 

「ぇ?あ、ああ、いや、なんでもない。なんでもない、ぞ?…そ、そうか… び、美人なのか…」

 

「ほえー?あー、なるほどなるほど」

 

「な、なにさ…」

 

「別に?ただあまり褒められなれてないんだな、って思っただけ。良いことを聞いたね」

 

「く、黒数…!」

 

 

すこし考えるそぶりを見せて、北郷は少しソワソワしだす。

 

チラッと、目線で牽制して…

 

 

「お世辞抜きに綺麗だよ、北郷」

 

「っ〜!」

 

 

してやったり!

 

 

… …思ったが、よくよく考えたらかなり恥ずかしい言葉だ。

 

しかも漫画などによくあるテンプレのような掛け合いだと思うと、急にとんでもなく恥ずかしくなってきたが、流石にここまできたら俺は負けたくないのでポーカーフェイスを突き通して勝利者になる。

 

 

すっげぇー、虚しくなるなぁ、コレ。

 

しばらく忘れられなくなって枕元で悶えそう。

 

言わなければ良かった。

 

アホらしいわぁ。

ほんまつっかえんわぁ…

やめたらこの仕事(そうじ)?。

 

 

 

「まあ、なんだ。悩みすぎんなよ、北郷」

 

「黒数……」

 

「俺は軍人じゃないし、この世界の迷い子で戦争をよく知らない消費者だ。でも北郷の悩みはなんと言うか、見ている側の一人の目線からしたら考えすぎたと思う」

 

「…なぜ、そう思う?」

 

「違うからだよ」

 

「違う?」

 

「時代が違う。ネウロイは20年前に一度なりを潜めて収束した。今は残党狩り程度の数しか蔓延っておらず、被害も多なくない。今は平和そのものだ。それはつまりネウロイを討伐する機会は無いって事だ。だから対ネウロイのために訓練している他のウィッチだって北郷と同じ状態じゃないのか?」

 

「それは…そうだが」

 

「だとしたら高くなってしまった階級は仕方ない話だろ。そこに戦果を上げれずとな。そもそも求められてるのは実戦経験のある北郷では無くて、()()()()()()()()()()()()()()()じゃないのか?」

 

「!」

 

「部隊を作るんだろ?そして活かすんだろ?自分の戦技研究が正しい形で、正しい力で、正しい戦果として、その日まで重ねてモノが裏切りじゃない、これまでの軍生活が世界の平和を願った賜物として報われるために、そう頑張ってきた自分のため、そこに劣等感を持ち込むのはお門違いだ。そうだろ!北郷大尉」

 

「ぁ…」

 

 

 

両肩を掴む。

 

そのときに、少しだけビクッと跳ねた気がした。

 

その眼は、まだほんの少し弱々しい。

 

でもその眼は、間違いなく多くを見てきた。

 

空を、ウィッチを、研究を、学んで得てきた。

 

ならば絶対に無駄なんかではない。

 

劣等感を持ち合わせるべきじゃないんだ。

 

 

 

「それでも、初陣果たせないことが階級に対する裏切りで、それはお飾りだと、自分の積み重ねを嘲笑ってしまうなら、それこそ扶桑皇国に対する裏切りだ」

 

「っ!」

 

「お前は軍人だろ!国のために戦う兵士だろ?階級に見合わない身丈がなんだ、そんなの関係ない!その日のために裏切るな!再びネウロイが襲ってきても戦えるために準備してきた君の積み重ねを悲しく笑うな!階級も!成果も!研究も!全てもだ!」

 

「わ、わたしは…」

 

「それでも不安なら、俺も一緒に飛んでやる!」

 

「っ、君…が?」

 

 

 

発言に驚く彼女の両肩を離して、少しだけ俺は周りを見渡す。誰も見てないことを確認してから手元に集中する。すると昼間の模擬戦で見せた魔法力が青白い色を放ちながら集まる。

 

 

 

「!」

 

「これが俺の魔法力。そしてこれが叡智から与えられし力…!」

 

 

その光を掴んで手を横に払う。

 

払った距離に合わせて光が伸びて、俺のイメージした武装が、ガンダムバーサスに登場する機体に使われる武器が瞬く間に召喚された。

 

 

「ぶ、武器が…!?何もないところから…!?」

 

「こいつはジム・ライフル。俺の世界の過去や未来に()()()()()()起きたかもしれない戦争の果てで作られた兵器だ」

 

「み、未来の、兵器?」

 

「あくまで『もしかしたら』の兵器だ。俺の世界にはそう言った()()があるんだよ」

 

「戦争の教材…!」

 

 

正しくはアニメとかコミックとか、またゲームとか、そう言うことだが、ここらへんは色々と話すと面倒なのでこちらの世界ではそう言うことにしておく。信じてもらえるかも怪しいからな。

 

まあ、ガンダムの作品のことを教材と言うのも、当たらず遠からずであるが、参考になるお話なのは確かだ。

 

実際に『ポケットの中の戦争』とか『閃光のハサウェイ』とかは、人を見ても、軍を見ても、それは面白かった。

 

戦いが始まり、戦いに脅かされると、そうなってしまうんだと言う、教材が。

 

 

「これはその教材から得た兵器達。何故これが力になったのかわからない。でも戦いの渦に巻き込まれたと言うのは、この世界に於いて、黒数強夏と言う人間が戦争の中で存在したら『もしかしたら』このように収まったと言うことなんだと思う。何故この力なのかはハッキリしてない。だが魔法陣のことも併せて考察するならば…」

 

 

俺はジム・ライフルを強く握りながら感じるとその兵器は青白い光の線を作りながら瞬く間に消える。北郷は再び驚き言葉が出ない。

 

 

「これは人類の願いだ。その願いは黒数強夏に当てはめられた。黒数強夏たる俺にその武器を与えられた。この世界で俺だけが知るポケットの中のような戦争。それがこの世界の人類を救うための武器になったから。でもなぜコレなのか。それは考えたら実はとても簡単な話だった」

 

「それ…は?」

 

 

 

辛うじて出た言葉。

 

真上を、空を、または宇宙(そら)を見上げながら、俺はこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

G U N D A M(ガンダム)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんてことない、一つのタイトル。

 

それを何もない空に呟き、夜闇に消え征く。

 

しかし、この世界で放たれた言葉。

 

この世界に存在しない無い、一つの物語り。

 

 

 

 

「がん、だむ…」

 

「戦争に打ち勝つために作られた人類の兵器。それはガンダム。宇宙(そら)を巡るための存在。それはまるで…」

 

 

 

 

 

__(そら)を飛ぶ、ウィッチみたいものだな。

 

 

 

 

まあ、戦いの舞台は少し違うかもしれない。

 

あれは宇宙戦争、こことはまた戦場が違う。

 

でも同じことがあるとするなら。

 

それは人類が戦いに打ち勝つための兵器。

 

ここでの敵はネウロイだが…

 

『そら』に向けて放たれるのは同じこと。

 

それはガンダムも一緒なはずだ。

 

 

ああ……だから、この力なのかい??

 

モニター越しに触れたゲームタイトルが、この世界に蔓延る人類の敵が、魔法陣に刻まれた人類の願いが、俺を選んだのかい?

 

まったく、恐ろしいことをするもんだ。

 

 

 

「俺も、これがガンダムから始まった力なら()()を飛べるよ。飛んでみせる」

 

「!」

 

「だから、北郷。きみが敵を討つ時に初めて空を飛ぶなら、俺も一緒に飛んでやるよ」

 

「くろかず…」

 

 

 

まだ飛べるための方法を知らない。

 

その道標もまだ見ていない。

 

でも、ガンダムは宇宙を飛べる。

 

ならこの力は間違いないはずから。

 

 

 

「まあ、その時はエスコートは任せろ。扶桑の美人さんをひとり、この大空を案内できるならこれほど光栄なことはないさ」

 

「!!… ぷっ、くくっ…… あっはっはっは!おまえと、言うやつは!まったく、またそんなことを言い出して!あっはっはっは!」

 

「おいおい?魔法陣から招かれしこの世の英雄が直々にお手を拝借しようとしてんだ。光栄な事この上ないだろ?」

 

「くっ、ふふふっ、ああ、そうだな。かもしれないな。でも、大丈夫だ。そうならないようになるさ」

 

「そうかい?…いや、そうだな。きみは部隊長になって空を飛ぶんだ。後ろの者に積み重ねて来た背中を見せる。ならエスコートされる側なのは間違いだったな。北郷大尉」

 

「もう、きみは、ほんとうに…まったくだよ」

 

 

 

困ったように、でもその笑みは真っ直ぐだ。

 

そこに不安もなく、躊躇いもない。

 

いまやっと、彼女らしさが顔を出してくれた。

 

 

 

「でも空を飛んでやるのは本当だ。方法はまだわかってない。

 でも出来るはず。この力がホンモノ(ガンダム)なら…なんとでもなるはずだ

 

「ふふっ、そうか」

 

 

笑顔を取り戻す。

 

恥ずかしいセリフも報われたようだ。

 

 

「だから北郷も扶桑に帰ったら1秒でも早く少佐になって俺を部隊に引き込んでくれ。それが君の重ねて来た特権だからな」

 

「ああ、必ずそうするよ。だから黒数、そのためには…」

 

「?」

 

「もっと強くならないとな」

 

「あー、そう返されるかー」

 

「明日も負けたら腕立て伏せは倍だ。早く夜ご飯を食べて、早く寝て、明日に備えてくれ」

 

「わかった…いや、違うな」

 

「?」

 

 

俺は彼女に振り向き、ピシッと真っ直ぐ背を伸ばして、額に手元を持っていき…

 

 

「了解です、北郷少佐」

 

「!」

 

「…」

 

「……ふふっ」

 

「?」

 

「君に、ふふっ…敬礼は似合わないな」

 

「随分と失礼な奴だな、オイ」

 

 

 

はっはっは!!と甲板から響く声。

 

それは軍人である以上にウィッチ(少女)の声。

 

彼女の本心から、もしくは北郷章香から引き出された音色だった。

 

 

 

 

「ところで、昼間の模擬戦で私に勝てたら何を願うつもりだったんだ?」

 

「願い?ええと、なんだっけ… あ、そうだ、思い出した。いま俺は倉庫にハンモック作って寝てるだろ?ひどいよな宮藤博士直属の使用人だと言うのに部屋が無いから倉庫に空いてるスペースがあるからそこにしてくれなんて」

 

「ブリタニアやカールスラントから物資を多く引き取った故に置き場所が限られているんだ。物資をわかりやすく小分けするためにも黒数が来る前から部屋を占めすぎたな。それに関してはすまないと思う」

 

「まあ急にお邪魔する形になった俺も悪いからあまり文句は言わない。だから一部屋分だけでも小分けした物資をまとめて良いならその許可でも貰おうと考えた訳。一応勝手ながら俺の使っている倉庫内は実のところ綺麗にまとめ直して、別の部屋の物は置けるように準備してあるんだ」

 

「いつのまに」

 

「それで物資の移動許可もらいたくてな」

 

「なるほど、そんなことか。なら私が君に部屋を与えれるようにしてやろう」

 

「…まじ?」

 

「ああ。むしろもっと早く言ってくれたら良かったものを、そうすればこちらも考えだと言うのに」

 

「いや、まあ、ほら?俺が乗り込んだのは表向きだろ?少しばかしは負い目あったからよ。でもここに来てある程度還元してるつもりだからこのタイミングかな〜、と考えたまでだよ」

 

「特勝な心掛けだな。まあとりあえずそこは任せたまえ。なんなら今から話を持って行ってやろう」

 

「マジ!?助かる」

 

「はっはっは!」

 

 

 

それからモップとバケツを片付けて、食堂に。

 

海軍カレーを食べていると北郷章香がやって来てなにか紙切れを渡して来た。

 

彼女から「その番号だ」と伝えられた。

恐らく部屋番だ。

 

すると「あまり周りに言うなよ」と彼女は言葉を残して去っていた。

 

色々と押し切った話なのか?

とりあえず騒ぎにはしたくないらしい。

 

それから倉庫で使っていたハンモックを片付けて違和感を覚える。

 

物が運ばれてない??

片付けた訳でもなさそうだ。

 

もしかしたら、物資と一緒に使える部屋でも用意して、後々その物資を動かす考えだろうか?

 

部屋に慣れさせるためにも早めに伝えてくれたのだろうと考えて、紙切れの書いてある番号を探して、見つけた。

 

俺だけの部屋。

 

そう思って扉を開ける…と。

 

 

 

「さっそく来たか」

 

 

 

何故か北郷章香がいた。

 

なぜ……??

 

いや、もしかして片付けてくれたのか?

 

それにしては荷物が散乱しているが…

 

 

「む?どうした?」

 

「いや、えっと、どう言うこと?俺の部屋だよな?…あ、もしかして部屋の番号間違えたか!?」

 

「??、いや、ここであっている」

 

「え…なら、この荷物は?」

 

「私のだ。それからきみはそっちのベットだ」

 

「……はい?」

 

「厳密には『俺の』じゃなくて『私たち』の部屋だな」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前 は 一体 何を 言っているんだ ??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この言葉を理解するのに腕立て伏せと同じくらい時間がかかったらしい。

 

 

 

つづく






唐突な男女二人の同室。
まさにアニメ的展開ですね。
なので何も問題ない。




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