GVSウィッチーズ   作:つヴぁるnet

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既に存じてる方もいると思いますが
この作品は原作のスピンオフ
『1937扶桑海事変』が舞台です。

もっさん事、坂本美緒がまだ12才の頃ですね。あとアニメのブレイブウィッチーズ1話に校長として登場した北郷章香もこの頃はまだ19才だったりと扶桑を支えた英雄でした。

てか1973年の人類サイド辛過ぎだろ…
しかも舞鶴飛行隊のほとんどが新兵って…


ではどうぞ


第8話

 

 

日本であるが、日本ではない。

 

ここは扶桑皇国と名付けられた島国。

 

史実の日本とは異なり、鎖国せず、国外へ貿易大国として大いに発展した。

 

故に共通語として扱われるブリタニア語が扶桑に舞い込んで、初等部(小学生)の間では算数や国語のように必須科目となっており、子供が2桁の年に踏む段階では誰もがブリタニア語を使い始めている。

 

だから国境を超えても皆が皆困らず、流暢に会話できる訳だ。すごい世界だな。

 

そりゃ渡米後すぐに会話できてしまったアニメでも納得だ。

 

 

ちなみに俺も赤城の中で再度勉強を行った。

 

ちょうど優秀な先生(北郷)がいたから勉強は進んだが、やはりブリタニア(英語)は使ってないと忘れるもんだな。

 

しかしそんな心配はすぐに解消される。何せ先生となってくれた北郷に関しては指導者としての器は武道だけでは無く、学道も大いに兼ね備えていたので、学びの場として設けられたのが同室である事も相まって勉強はすごく捗った。

 

頭脳明晰な戦技研究武官としての指導力。

 

νガンダムのように伊達じゃない。

 

 

 

「あれが扶桑か!」

 

「はっはっは!その通りだ」

 

 

 

まあ、そんなこんなで20日が経過。

 

とうとう扶桑に到着したのだ。

 

お世話になった赤城から降りて寂しさを感じる。

 

仲良くしてくれた乗組員との別れも少し寂しかったが一生の別れでもない筈。

 

俺の帰還もまだまだ先になるだろうから、またどこで不意に会える筈だ。

 

さて、悲しみ耽る暇はない。

 

 

扶桑帰投後、なし崩しに北郷章香は動いた。

 

まず大役としての勤めを果たしたことで彼女は昇進することになり大尉から少佐になった。

 

エクバで例えるなら……銀色プレート。

 

マジで…???

まだ未成年の子供が…???

一個隊を率いれる少佐になるの???

 

相変わらずとんでもない世界だな…

 

それで欧州での戦技研究の成果を活かして彼女は皇国に提言を行い、舞鶴に舞鶴航空隊を設立する。この時に講道館剣道免許皆伝を受けた師範代として着任すると、舞鶴航空隊の飛行隊長に任じられて航空ウィッチの育成に着手することになった。

 

案外すんなりと話が進んでいたが、元々そうなる予定だったらしく、早め早めのウィッチの育成が望まれてたので既に配属準備が完了していた舞鶴航空隊に有力と認可された魔女候補生(育成ウィッチ)、もしくは舞鶴海軍付属小学校から軍加入を許された者達が数名送られてくると彼女の役割は一週間も掛からず早急に設けられた。

 

この手際の良さ。

皇国としての仕事の速さに脱帽した。

 

 

 

 

さて、そんな時俺はどうしていたのか?

 

忙しい北郷を他所に、俺はとある案内人に招かれて舞鶴にある講道館を案内された。

 

海から近く、少し出れば潮風が気持ちいい。

 

潮騒を感じるここは後に舞鶴航空隊の航空ウィッチを育てる大事な育成場。

 

北郷を始めとして、主にココで活動を始めることになるから、その確認として連れてこられたのだ。潮騒の音を聴きながら、次に道場の脇に作られた蔵まで案内された。

 

この蔵は元々は管理室として使われていたが生活用品を取っ払うとしばらくは倉庫として使われていたらしい。しかし蔵の中身は管理者達が既に取っ払ったらしく、しかも中を軽く改修して綺麗にされていた。それから簡単な生活用品を並べたと話を聴きながら、鍵を渡された。

 

講道館から数メートル離れた蔵。

 

そう、これから俺が利用する拠点だ。

 

 

 

お、お荷物ってことかな??

蔵だから…??

 

 

 

「まあ、冗談はさて置きとして…」

 

 

 

横須賀まで遠すぎるぞ、宮藤さん!?

 

京都の路線長すぎんだろ!!

教えはどうなってんだ教えは!?

 

 

 

 

 

手紙を一枚捲る。

 

 

 

 

 

『長旅になるけど、よろしくね⭐︎』

 

 

 

 

 

「あんのぉ生活力皆無研究馬鹿眼鏡め!絶対に娘さんに日々の散らかし具合伝えてやるわ!ブリタニアで水揚げされた魚と一緒に恐れてやがれぇ!!」

 

 

 

 

古き良き、そんな蒸気列車に揺られながらあまり人の乗っていない空間で長旅の悲鳴をあげる。

 

今頃、眼鏡でも輝かせて『b』と指でも立てているんだろうな、そんな気がしてならない。

 

 

「でも()()に頼まれたことだ。ちゃんとこの手紙は宮藤家に届けよう」

 

 

 

大事に手紙を閉まう。

 

そしてお楽しみを開ける。

 

駅弁だ。

 

 

 

「思わず奮発してしまったが… このくらいはいいだろう!金はある!京都の駅弁めちゃくちゃうまそうだな!」

 

 

実はブリタニアにあった魔法陣、俺はこれの第一発見者として国から報酬金を与えられた。

 

最初は何のことかわからなかった。しかし魔法陣と言うのは国が求めている秘宝であり、発見者には報酬が与えられるとか、なんとか。

 

それを俺が…

 

いや、北郷章香が「見つけた者がいます」と報告して、俺を第一発見者として軍を通して国に紹介した。

 

それで彼女は「報告に時間が掛かる」と言っていた。もちろん彼女の有情が働いて、俺のために時間を設けたのもあるが、魔法陣の発見者は北郷ではなくそのまま俺に委ねるつもりだったらしい。

 

もう、神様、仏様、北郷様だな。

 

これは彼女に足向けて寝れねえや。

同じ部屋で眠れなかったのもあるがな。

 

ちなみ寝相で北郷に足向けたことがある。

つまりもう既に足向けてた寝てたわ、すまねぇ。

 

 

罰当たりな英雄もいたもんだ。

 

レジェンド(英雄)だけに前格()らしい。

 

 

 

 

「しかしすごい報酬額だったな。持ちきれなくて半分は宮藤さんに渡したけど」

 

 

 

俺が使用したことで文字が消えてしまった魔法陣だったが、人類の叡智たちが扱っていた過去の遺産が手元にあるだけでも万々歳らしく、それが少しでも魔法陣の研究材料になるなら大金は大したことないらしい。

 

そうなるとその魔法陣から現れた俺はとんでもない価値になるな。

 

俺の骨とか血液だけで国買えるのでは?

 

恐ろしい。

 

 

まあ、それよりも恐ろしいことはある。

 

これは、おそらくだが…

一番恐ろしいのは…

 

 

 

__種馬として使われるだろうな、黒数。

 

 

 

 

全く笑えない表情で告げる北郷は印象的で、その言葉の通り俺の扱いはこの世でまともではなくなる。そうなると高潔な血筋を引いたウィッチに子を孕ませて強い戦士を作り上げる。それは人類と世界の平和ためだと正当化を行いながら、ヒトを生み出すためのマシーンとして扱われる当事者は望まない結果になりそうだ。

 

そこに愛も何も無い。

 

 

 

「これならまだ北郷の方が___」

 

 

 

 

 

 

 

北郷がなんだって??

 

 

 

 

 

 

 

「ゲッホっ!ゲッホっ!おえっ!喉に詰まったぁ!!ゲッホっ!!」

 

 

 

待て待て待て!

そうじゃない!!

 

違う違う違う!

そうではない!!

 

そんなつもりじゃない!!

げっほ!げっぼ!!

 

 

思考をかき消すように慌てて水を飲む。

 

喉の器官に引っかかった食べ物に苦しみながら胸を叩いて落ち着かせる。

 

 

「ふ、ふー、けっほ…」

 

 

やめやめ。

 

こんなの駅弁食べながら考えることじゃない。

 

味がわからなくなる。

 

難しいことも、変なことも考えるな。

 

今は純粋に長旅に苦楽を感じるんだ。

 

これから大事な手紙を渡しに行くんだ。

 

 

 

「一眠りするか…」

 

 

 

到着はまだまだ先。

 

俺は食べ終えた駅弁を置いて背もたれに寄りかかる。こちらに来る前に腰掛けたゲーミングチェアよりも座り心地が悪い。しかし疲れた体なら休まる場所を求めてあっさりと眠りつける筈だろう。そう考えて眠りつく。

 

まだまだ横須賀は遠いみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝早くから出発したとはいえ空はオレンジ色の綺麗な夕焼け。

 

あと1時間で横須賀の太陽は落ちそうになっている。どこか泊まれる場所を探すべきか?

 

いや、その前に駅からそう遠くない場所に配達先のご家庭がある。先に届けるべきだろう。

 

目指す先は『宮藤診療所』と言われる、名の通り患者の治療を行うところだ。

 

この辺りではそこそこ有名みたいで『宮藤』の名前は親和性が高く感じられる。やはりあの宮藤博士のことも関係してるからだろうか?名前を出せば教えてくれる。

 

あとは純粋に町のお医者さんってポジションだからこそ親しまれているのかな。この時代で治療できるところが身近にあるとそれはすごく頼もしいからだろう。

 

 

 

「もしやあれか?すこし急ぐか」

 

 

落ちる日に負けない駆け足。

 

赤城で北郷にみっちり鍛えられた体力が足取りを進めてくれる。

 

そして、その家の前までやって来た。

 

看板を見る。

 

書いてあるのは宮藤診療所の五文字。

 

間違いない、この場所だ。

 

 

 

「あの…おにいさん?」

 

「うおっ!?」

 

 

声をかけられるまで気づかなかった。

 

横に女の子がいた。

 

それよりも……アレ?

 

たしか、この子って…

 

 

 

「あー、君はここの子かな?」

 

「う、うん、そうだよ。ええと、お、お母さん呼んだ方が良いのかな?」

 

「そうだね。もしご両親がいらっしゃったら少しお話があるんだ。と言っても、この手紙を渡すだけなんだけどね」

 

「お手紙…?どこか遠いところ?」

 

「その通りだよ。ブリタニアにいる()()()()博士から__」

 

お父さんから!!?」

 

「ふぁ!?くぅーん…」

 

 

 

急な大声に少し意識が飛びそうになる。疲れが後押ししてるらしい。すると小さな女の子の声を聞いて家から大人が一人やってきた。

 

 

 

()()、どうしたの?」

 

「あ、お母さんっ!あのね!あのね!!」

 

 

 

芳佳……ん?

 

んん??

 

よしか……芳佳…??

 

いや、待てよ、まさか…

 

まさかだけど、もしかして…?

 

この女の子って…

 

 

 

宮藤芳佳…??」

 

 

 

 

まだ幼いだけの女の子。

 

しかし後の英雄が___そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんかすいません、ご馳走になってしまった上に泊めて貰う形になりまして。でも本当に良いんですか?ご無理なさった上でお招きの方を致してましたら…」

 

「いいえ、構いませんよ。私の夫がお世話になったみたいでとても感謝しています」

 

「なぁに、構いやせんよ。この診療所には一人か二人程度患者を見るための部屋もあるからねぇ。しかしまさか彼が()()()()使()()()()()()()()()とは全く知らんかったねぇ…」

 

「いやぁ、今日は唐突にすみませんでした。宮藤博士に関しては扶桑の重要人として渡英される方なので、あまり近辺の詳細を語るのは些か危険だった故に、今日まで隠していました」

 

「なるほど、そう言うことだったのですね…」

 

 

宮藤一郎の妻である宮藤清佳さんと、宮藤芳佳ちゃんの祖母である秋元芳子さんはそれぞれ宮藤一郎に対して反応を示す。

 

渡された手紙を読んで色々と現状を知ったみたいで、その時に俺の話も載っていた。

 

秋元芳子さんの言った通り、俺のことは短期間だけ雇われた使用人として認知された。

 

もちろん俺からも、宮藤博士の生活環境を整えるため共に渡英して、扶桑から次の船がブリタニアまで来るまでが使用人としての仕事期間である、そう伝えた。

 

まあ、もちろんこれは作り話。

それは嘘だと言われる可能性もある。

 

しかし宮藤一郎が書いた手紙はすぐに本人の文字だと宮藤清佳さんは理解したので俺の話も信じてくれた。少しだけ心痛むな。でも実際に生活環境を整えたのは本当だから全面的に嘘かと言うとそれはやや違う。

 

俺は、それらしい、ことをしたまでだ。

 

 

「ねぇねぇ!強夏お兄ちゃん!またお父さんのお話聞かせてよ!」

 

 

すると大人同士の会話に割り込んできた元気いっぱいの女の子。

 

またの名は宮藤芳佳。

 

お目目をキラキラとして訪ねてくる。

 

 

「またかい?もうほとんど話したぞ」

 

「えー、まだ色々あるよね…!?」

 

「どうかな。君のお父さんはいつも研究詰めで家にはあまり居ないんだよ。自分も宮藤博士とあまり関わりが無いからそこまで話せることはないぞ?」

 

「…ほんとうに?」

「こら!芳佳、あまり困らせないの」

「でもー!だってー!」

「ごめんなさい黒数さん。この子ったらお父さんのこと大好きでね…」

 

「いえいえ構いませんよ。それに父想いの良い娘さんじゃないですか。そのことを宮藤博士が聞いたら大泣きしてくれますよ」

 

「強夏お兄ちゃん!強夏お兄ちゃん!もっともっと色々聞かせてよ!なんならお兄ちゃんのことでも良いです!」

 

「わわわ、っと、危ないっ!?わかった!わかった!とりあえず湯呑み持ってるから揺らさないで!危ないぞ!」

 

「こら芳佳!」

 

 

ユサユサと肩を揺らす宮藤芳佳。

 

俺は湯呑みを溢れないように格闘しながら、同じように聞かせてあげた話をしてあげる。

 

その度に父宮藤一郎のブリタニア生活と毎日ストライカーユニットの研究に勤しんでは、いまもウィッチのために空飛ぶ箒を完成させようと活躍している。話してあげた内容は変わらない。

 

それでも話してあげれば喜んでくれた。

 

 

「じゃあお父さん元気なんだね!」

 

「ああ。とても元気だよ。相変わらずお片付けに手が伸びなくて家の中は良く散らかっていたけどね」

 

「むむ、じゃあ帰ってきたらお母さんとお説教しないと!」

 

「それが良い。泣いて喜ぶぞ」

 

「むー、泣いても許さないもん」

 

 

どうやら散らかし癖は渡英する前から娘にも知られているらしい。

 

何というか、良くある印象だが、博士って感じがするな。

 

 

「黒数さん。お湯の方入れましたのでお入りください」

 

「お、お風呂まで!?い、良いんですか??」

 

「はい。ぜひ湯船でお疲れを癒してください」

 

「っ〜!! た、助かります!!」

 

 

 

それから湯船もお借りした。

 

ヤベェ…日本の風呂だぁ。

あ、ここでは扶桑か。

 

でも赤城ではシャワーのみだったから湯船は大変嬉しい。湯に浸かるのも大凡一ヶ月ぶりだな。

 

感動すらしてしまう。

 

そして風呂上がりに宮藤芳佳から冷たい飲み物を受け取って一気飲みしたら、もう一杯持ってきて「もう一回!」と頼まれたので、また一気飲みしてみせたら拍手された。

 

なんか微笑ましいな。

 

それと可愛らしい娘だな、宮藤一郎。

 

さっさと完成させて扶桑に戻ってこいよ。

娘のために。

 

それから部屋に招かれて新しい布団が一枚敷いてあった。お礼を言って寝転ぶ。

 

あー、和の国ぃぃぃ、これぞ日本(扶桑)

 

 

「ソロモンよ、私は帰ってきたぁぁ…」

 

 

布団の上でだらしなく横たわる。

 

これだよ、コレ。

和国って感じだ。

英国には無い安心感。

 

扶桑の敷布団気持ち良すぎんだろ。

 

 

 

「黒数お兄ちゃん?」

 

「ふぁ!?くぅーん…」

 

 

 

だらしないところ見られて思わずそのまま現実逃避のために気絶するところだったが、そんなことしても仕方ないので耐える事にした。

 

急なエンカウントはやめようね。

 

 

 

「どうしたんだ?遅くまで起きて、怒られないかい?」

 

「うん、大丈夫だよ。それよりも…あのね」

 

 

少しだけモジモジとしながら言葉を探す。

 

そして…

 

 

 

「お父さんのお手紙ありがとう」

 

 

少しだけ恥ずかしそうに。

 

それからぎこちなく頭を下げる少女。

 

俺は少しだけ目を見開いた。

 

しかしその姿に笑みで応える。

 

 

 

「君のお父さんも寂しがってたよ。娘にも会えないってな」

 

「!……ほんとう?」

 

「ああ、もちろん。少しお話するかい?」

 

「う、うん」

 

「じゃあ、そうだな…」

 

 

 

俺は敷布団の上に彼女が座れるスペースを空けると、その隣にちょこんと座る宮藤芳佳。

 

まだ小学生で低学年だろうか?

俺よりも二回以上も小さい。

 

 

「…」

 

 

孤児院にいた頃を思い出す。

 

こんな感じに自分よりも小さな子供が何人かいたんだっけか。

 

あの環境では自分が一番年上だったから、似たような現状下に巻き込まれた年下の子供たちから俺は兄と慕われていた。

 

ちょこんと座ってこちらを見ながら「どうしたの?」と首を傾げる芳佳を見て思い出す。

 

もうあの場所から卒業した記憶。

 

今は無事に大人となった。

 

 

 

「って、風呂上がりかい?しっかり乾かさないとダメだよ?」

 

「えへへっ、お兄ちゃんからもっとお父さんのお話聞きたくて」

 

「やれやれ。散々話しただろうに。それに芳佳ちゃんは知らない男の人と話すのは怖く無いのか?今日会ったばかりの人だよ?」

 

「??強夏お兄ちゃんはお父さんのお手伝いさんでしょ?なら大丈夫じゃないの?」

 

「こりゃ肝が強い。まるで物語の主人公だな」

 

「しゅじんこう?ここの主人は、今はお母さんだよ?」

 

「あっははは。そうじゃ無いがまあ良いか。とりあえず後ろ向いて。髪が乾くまではお話してあげるよ、芳佳ちゃん」

 

「うん!ゆっくりで良いからね!」

 

 

 

念のため、宮藤清佳さんが用意してくれた小さなタオルと、何故か北郷から渡された携帯用の櫛を荷物から取り出して、後ろを向いて湿っている髪を見せる芳佳の後ろに俺は座るとタオルを髪の毛に当てる。

 

髪を引っ張らないように、水滴を丁寧に布で拭い取りながら、空気に透かして乾かし、櫛で適度に髪の毛を整える。しかしこの世界に来て女性の髪をペタペタ触るようになるとは、まあこの子はまだ子供だからノーカンで良いかな。しかしそうなると北郷も未成年だからノーカンになるのか?雰囲気からしてもう大人って感じはするけどな。

 

 

 

「君のお父さんはとても聡明な方で色んな人に期待されている人だね」

 

「うん!お父さんは凄く頭が良いんだよ!私が知らないことは何でも教えてくれるんだ!」

 

「そうだな。そして知らない人だろう助けてくれる優しい人だ。それはつまり芳佳ちゃんみたいな人って事だ」

 

「えへへへ」

 

 

ああ、本当にな。

 

全く素性の知らない怪しさ満点な俺をどこまでも助けてくれた。

 

こうして扶桑に来れたことも、そして宮藤家に泊まれたのも宮藤一郎さんのお陰だ。あの優しさに俺は永遠と頭が上がらないんだろう。

 

だから俺は代わりに誰かを助けようと思う。

 

 

少し、彼女にこんな質問をしよう。

 

 

 

「芳佳ちゃんは、お父さんの作ったストライカーユニットを履いて、空を飛ぶのかい?」

 

「ネウロイを倒すための道具?」

 

「ああ。ネウロイは空を飛ぶ。地球の引力に縛られた人間は空を飛べない。でもウィッチは魔法の力で飛ぶ。君のお父さんはそれを助けるために空飛ぶ箒を遠い場所で作っている。芳佳ちゃんは魔法が使えるんでしょ?」

 

「わたしは… まだ分からないの。でもお父さんにはね、人を助けれる立派な人になりなさいって言われたの。ネウロイのいる空に飛ぶことがわたしの立派なのかな…」

 

「立派ねぇ…」

 

 

 

戦うウィッチになりたい…とは、言わない。

 

でもこの世界では、魔法力が備わっているウィッチは戦うため軍に入ろうとするケースが多い。

 

しかし彼女はまだ小さな女の子だ。

 

去年、小学校に入学したばかりの子供。

 

未来はまだわからなくて当然。

 

 

 

「芳佳。立派かどうかってのは周りの人が決めることだ」

 

「周り…?」

 

「俺はやっと二十歳になった。大人の仲間入りになった。でもこれが立派な人間なのかはわからない。大人になっても台無しにしてしまうのは自分自身だ。その時に周りの人たちが立派かどうか決めるんだよ」

 

「じゃあ、空を飛ぶと、立派なのかな…?」

 

「それは芳佳ちゃんの力次第だよ。自分の考えを示すんだ。その時に周りが決めてくれる。もちろんそれが空を飛ばないことでも、それ以外の事でお父さんとの約束を果たせる筈だよ。君は君のやり方で、その時が来たら決めて良い」

 

「決める……んん、ふわぁぁ…むにゃ…」

 

 

湿った髪をタオルで優しく包んで、ポンポンと挟むように叩いて布に水分を吸い付かせる。

 

仕上げに椿の素材で作られた彩り豊かな櫛を月に反射させながら、サラサラになり始めた髪に癖を付けさせないため、櫛で整えて女性の魅力を仕立てる。

 

会話はもう少しだけ続く。

 

 

 

「……これはとある物語さ」

 

「んん……? もの、がたり……?」

 

「とある子供は親に親をしてもらえず、その子供は大人を知らず、でも強制されたような戦いの先で役割を背負い、子供でありながらも大人としての立派を尽くそうと足掻き、あらゆるモノを無くしながら、時には腕の中でも尊敬していた誰かを亡くしながら、戦いの根源を全身全霊で貫いて、それで…」

 

「ん、んん……むにゃ…それ…でぇ…?」

 

「いや、どうだったかな。これは二通りの未来が用意された物語だ。だからどちらが結末として自然で正しいのかもわからない。でもその子供は立派を果たそうと最後まで戦った。死んだ者の魂も背負いながら最後まで……芳佳?」

 

「すぅ……すぅ……」

 

 

うとうと、と、ゆらゆら、と、背もたれなく座ってる姿勢を倒さないように頑張りながらもその瞼は閉じていた。

 

俺は少しだけ前に移動して彼女の背もたれになり、前髪の辺りを最後の仕上げとしてタオルで拭き取って、指先で湿り具合を確認する。

 

 

 

「芳佳、報われない物語は沢山ある。もちろん可能性の獣を乗りこなして父上の願いを乗せて果たした青年だっている。データの世界だろうと自分の好きを突き通してひとりの少女を掴み取った子供だっている」

 

「すぅ…すぅ…」

 

 

タオルを置いて、櫛も安全なところに置く。

 

力なく夢の中に飛び込んだ少女の腰と足に手を回して両手で抱き上げて起こさないように俺は立ち上がる。

 

 

 

「この世界はわからない。俺と言うイレギュラーがあって、俺の知っている筈の出来事は変わるのかもしれない。まあ、そこまで覚えても無いから、覚えても無い事に対して心配しても仕方ないか」

 

 

 

廊下を歩き、彼女の寝室を探す。

 

寝る準備をしていた彼女の母、宮藤清佳を見つけたので、腕の中で眠る彼女の寝室まで案内してもらい、起こさないように運ぶ。

 

奥方に感謝されながら俺は部屋に戻り、髪を梳かした時に使用した櫛を荷物の中に仕舞った。

 

窓から見える満月を見る。

 

無数の星を描く広い世界だ。

 

 

 

「宮藤芳佳、君の宇宙(そら)を観てた」

 

 

 

画面越しにだけど、空を駆け巡るヒーローの物語を学生時代に見ていた。

 

一度見ただけだから、そこまで詳しく覚えてはいないが、この世界の事と、ウィッチって存在と、物語のタイトルは覚えている。

 

正しくは、思い出した、って事になるが。

 

 

 

「ぶっちゃけ無いようなモノだな、この原作知識も」

 

 

 

敷布団に残っている二人分の温もり。

 

俺はそれを背中に感じながら布団の中に。

 

目を閉じて、呼吸は浅く。

 

眠りつく前に、俺は呟くように…

 

 

 

 

「ストライクウィッチーズ、か…」

 

 

 

 

寝息と共に、その言葉は消えた。

 

 

 

つづく






そういや日刊ランキングに載りましたね。
この作品。

やったぜ(UC)

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