Lycoris Record : 彼岸花の回顧録   作:フェデラルジオグラフィック

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リコリコ11話、クライマックスまであと少しですね。


笹子峠

1961年6月21日 22時06分 クーデター部隊車列

 

 自衛官300名を満載した2.5tトラックと4tトラックの車列。真夜中に明かりのない道を一列になって進む様は後ろから見れば赤い火の玉が並んで進んでいるかのように見える。甲府盆地を抜け、笹子峠を目指し次の山道へと突き進む。笹子峠を抜ければ、小仏峠までは下り坂である。小仏峠を抜ければ東京まで一直線だ。土浦、大宮、習志野から集まる600名の同志と共に、日本をあるべき姿に変えるのだ。私はこの崇高な使命に誇りを持ち、また一部隊とはいえ栄えある指揮官として先頭車両の荷台の一番運転席に近い場所に座っている。その脇には副官が、目の前では無線を担いだ通信手が他の同志たちと連絡を続けている。

 

「甲州より各隊、我 笹子峠に入るにつき通信終了す、オワリ」

 

「よし、アンテナを一回たため、トンネルに入るからな。運転手、このまま進め。早めに峠を抜けるぞ」

 

 峠を目指しディーゼルエンジンがうなりをあげる。山中にある国鉄の駅を通り過ぎると笹子峠は目の前である。ただし峠道と言ってもカーブが連続する急坂はない。二年前にトンネルができたため、中腹まで行けばあとはトンネルをまっすぐ進むだけである。ただし出たところにはヘアピンカーブがあるので速度を上げすぎないように注意しなければならない。そんなことを考えていると、前に山肌が見えてきた。トンネルの入り口である。ただしこれは笹子トンネルではない。そのひとつ前の小さなトンネルである。その小さなトンネルを抜けたまさにその時、目の前が光に包まれトラックが急停止した。幸い玉突き事故にはならなかったが立ち往生である。よく見ると笹子トンネルからまばゆい光が浴びせかけられている。光の元を見ると、どうやら探照灯をつけたハーフトラックが左車線を塞いでいる。

 

畜生、なんだなんだ、と部下たちがざわつくのを私は一言で制する。

 

「鎮圧部隊だ、準備しろ、まだ降りるな」

 

目くらましをくらったこととトラックにすし詰めにされているからか部下の動きは鈍い。

 

『クーデター部隊の諸君に告ぐ、クーデター部隊の諸君に告ぐ、君たちは完全に包囲されている。無駄な抵抗はやめて、直ちに投降しなさい…』

 

「若い女の声じゃないですか?」

 

「それよりも敵を探せ」

 

副官に敵を探すように指示するが、自分で見ても敵がよく見えない。自分自身は明るい光に曝されて周りは真っ暗なので目が慣れない。無線手が慌てて最後尾と連絡をつけるが、最後尾も装甲車が塞いでいて下がれそうにないようだ。このままではジリ貧だ。私は運転手に指示する。

 

「右側車線は空いている!トンネルを突破しろ!」

 

エンジンが再度うなりを上げ、トンネルへ突入する。相手も予期していたのかハーフトラックが前に出てトラックの進路をふさいだため、正面衝突を起こす。

 

「ぐっ!」パァン!!

 

後続車も動き出していたので今度こそ玉突き衝突となった。そしてそのはずみで誰かのM1ガーランドが暴発する。それが合図となった。

 

『Open Fire!!』

 

ハーフトラックから英語が聞こえるや否や、その銃座に据えられた機関銃が射撃を開始する。アンテナを伸ばそうと立ち上がっていた無線手が真っ先に血煙になる。銃声が怒号と悲鳴とまじりあう。もはや統制も取れず、各員が文字通り闇雲に撃ちまくるのみ。直後に運転席を貫通した弾が足を貫き、激痛が脳を塗りつぶし、真っ白に塗りつぶされた視界の端に無線機が映った。まだ使えそうだ。私は部隊間の周波数に合わせ、送話器を口に当て、通話のボタンを押す。トンネルの中だから伝わるかどうかは分からない。だが部隊指揮官として状況報告はしなければならないのだ。

 

「こちら…甲州…こちら甲州…我々は…鎮圧部隊に…包囲さる…」

 

直後、ハーフトラックの銃座が私の頭と無線機を同時に薙ぎ払った。

 

 

 

 

 

1961年6月21日 22時38分 中央隊

 

「Ceasefire! Ceasefire!」

 

 中央隊の部隊長の大尉が命令を出すとピタリと銃声がやむ。探照灯の光が硝煙や土煙を照らしある種の煙幕となっている。その煙が晴れると、そこには穴だらけになったトラックの列。穴からは赤い液体がしたたり落ち、血まみれの人間があちこちにひっかかっている。一部の人間はうめき声をあげている。

 

「リマ、前進して確認しろ」

 

リマ(Lima)とはリコリスを指す符丁である。単純なイニシャルだ。

 

「ラジャー、第一班、第二班、前進。他は待機」

 

少女たちの最先任である赤服が大尉に返答し、間髪入れずに慣れた手つきでウォーキートーキーの短距離無線で指示を出す。指示を出すと眼下の茂みから一斉に少女たちが立ち上がり、トラックへと隊列を維持しながら前進する。その様子を見ながら隣にいた少尉は英語でぼやく。

 

「大尉殿、やっぱり彼女たち気味悪いですよ。本当に昨日即席訓練を受けただけの少年兵なんですか?ウチの訓練所の新兵共はあれよりも一、二歳は上なのにライフルどころか隊列を組ませるだけで二日はかかりますぜ。それをたった一日でライフルから無線、隊列までそれなりにこなせる彼女たちは一体何なんですか?」

 

「…少尉、黙っていろ」

 

大尉はただ諫めるだけである。

 

 そんなやり取りをしているうちに少女たちはトラックに取りついた。荷台や道路に散乱する人間を検索し、武器を道路外へ蹴り飛ばしていく。動きが少しぎこちないが兵士としては許容範囲程度の動きで粛々と進めていく。そんな中一人の少女の動きが止まる。よく見ると足元にいる一人が辛うじてだか生きているようである。彼女は彼に対しカービン銃を向け、

 

何の躊躇もなく発砲した。

 

「なっ!」

 

米軍兵士はあっけにとられるが、車列全体のあちこちで同じ光景が繰り返されはじめたあたりで大尉が我に返る。

 

「Ceasefire! Ceasefire! 撃つのをやめさせろ!」

 

「ああ、やっぱり少年兵ですね」

 

少尉は目の前の光景を見て少しだけ表情を緩ませる。赤服の少女はウォーキートーキーを再度握って指示を出す。

 

「米軍指揮官命令だ、銃は使うな、繰り返す、銃は使うな」

 

その連絡を受けて、道路上の少女たちはカービン銃を背負う。その光景に大尉が安堵したのもつかの間。今度は銃剣で次々と生存者を刺し殺し始める。大尉含め米軍兵士は少女たちのあまりの冷酷さに顔を青くして絶句する。それをいいことに学生服姿の少年兵は次々と生存者にとどめを刺していく。

 

 15分後、道路上に残っていたのはトラックだったもの、自衛官だったもの、そして誰が一等か二等か分からなくなった少女たちだけ。

 

「大尉、道路上の部隊から連絡、脅威はすべて排除されました…大尉?」

 

返り血を浴びていない赤服の少女の問いかけに米軍兵士は唖然としたままである。少女は大尉を小突いて意識を戻させる。

 

「あ…え?」

 

「大尉、道路上の部隊から連絡、脅威はすべて排除されました。我々はこれより後処理に入ります。ご協力ありがとうございました」

 

「あ…ああ、わかった…し…少尉」

 

「は…はい」

 

「兵士たちに伝えろ、事前計画に従い直ちに撤収するとな」

 

「わかりました…」

 

目の前の惨劇による衝撃がいまだに残る中、アメリカ人は新兵のようなぎこちなさで撤収準備を始める。一方日本人はそれが当たり前であるかのように死体や残骸を滑らかな動きで片付け始めていた。

 

笹子峠を含め五方面作戦は下記の時系列の通りおおむね順調に推移した。

 

6月21日

20時21分 国鉄より寝台特急さくら号にて四名の死体発見の第一報

22時36分 大宮駐屯地でのクーデター司令官狙撃に成功

22時42分 習志野駐屯地内にて第一空挺団による武装解除完了

22時58分 笹子峠にてクーデター部隊武力鎮圧完了 逮捕者無し

23時36分 取手手前にてクーデター部隊武力鎮圧完了 52名逮捕

23時59分 Direct Attack、総理官邸にクーデター鎮圧成功を報告

 

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この作品の二次創作で銃撃戦全カットってなかなかないんじゃないかな?()

次回「報道管制」
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