Lycoris Record : 彼岸花の回顧録 作:フェデラルジオグラフィック
1961年6月21日 20時00分 総武隊
千葉の房総半島の南端付近、人気のない農地が富士山の陰に太陽が隠れあたりが暗くなる中、学生服の少女たちはトラックの荷台にかかるキャンバスの隙間から様子をうかがう。
「後方よし」
「左よし」
「右よし」
「前方よし」
それだけ述べると白い学生服姿の四人はトラックの荷台と運転席から飛び降りる。ただ持ち物は明らかに学生服とは似合っていない。一人は学生服と同じロゴマークの入った学生鞄を背負っている。二人目は学生鞄と懐中電灯を持っている。ここまではまだいい。三人目は鞄がなく竹でできた梯子、四人目は鞄がなく厚手のゴム手袋とボルトカッター。明らかに不審者である。そんな彼女たちの真上には電信線と電源線。遠く離れたところでは海底電線の中継所の街灯が光るのが見える。
「急げ、人払いができるのはそれほど長くない」
学生鞄だけを持った一番背の高い少女がそういうと、三人目が電信柱に梯子をかけ、一番背の低い四人目がその梯子を上る。その手に持っているのはボルトカッター。海底ケーブルの通信基地と陸上の通信局を結ぶ電信線と海底ケーブルの通信基地の電力を支える電源線を切り落として物理的に国内外の通信を遮断する任務である…のだが。
「おい、どうした、さっさとしろ」
「カッターが…届かない」
「はぁ!?おい、梯子もう少し上げろ!」
「これ以上は無理です!バランスを崩します!」
「その梯子、誰が選んだんだ?」
一人目が二人目に聞く。
「…山崎さん」
「この班の要員じゃない上にウチの支部で一番背が高い奴じゃねえか!アイツは一番小柄で身軽だから梯子に上っているんだぞ!」
「すっすみません!」
「おい、降りてこい!私が代わる!」
大慌てで一番小さいリコリスが梯子を下り、一番背の高いリコリスにゴム手袋とボルトカッターを渡す。ゴム手袋をつける代わりに学生鞄を押し付け、急いで梯子を上るが…
「クソ!山崎の奴、自分の背丈に合わせて梯子選びやがったな!アイツ後で覚えてやがれ!」
それでも切れたのは一番自分に近い電信線一本だけ。まだケーブルは三本ある。しびれを切らし梯子を下りたリコリスは自分の鞄をひったくりながら言う。
「銃を使う!」
「えぇ!?ケーブルをこんな夜中に撃つんですか?」
「あそこを見ろ」
そう言って指をさしたのは電信柱の上のほう。
「あそこの白い部品がケーブルと柱を固定しているんだ。いつか新聞で読んだがあそこが壊れてケーブルと柱が接触するとケーブルが短絡を起こして使い物にならなくなる。*1私が狙うから、お前はその懐中電灯でケーブルの固定部を照らしてくれ。二人は周辺警戒!」
リコリス二人が見張る中、銃声が八回轟く。銃弾はケーブルを撃ち抜くことはなかったが、ケーブルと柱の固定部を打ち砕き、ケーブルが垂れて地面に近づく。その垂れ下がったところを手袋をはめなおしたリコリスが手早くボルトカッターで切り落とした。
「よし、任務完了だ。銃声を聞きつけて大騒ぎになる前に撤収するぞ」
薬莢を回収したのち、少女たちは再びトラックに乗り込み何事もなかったかのように走り去っていく。これで任務完了だ、と主導したリコリスがハンドルを握りつつ考えていた。
20時25分 総武隊、任務完了。この報告を聞いたDAは20時30分から始まるマスコミとの折衝に間に合ったと判断していた。しかし、彼女たちがもたついている10分ほどの間に、国際報道連合社が一本の電報をアメリカの本社へ送っていたのである。その内容はたった四単語の短いものであった。
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たきなさんならこの状況だと梯子に見切り付けてさっさと4発で済ませてしまいそうですよね。
現場のモデルは千倉海底線中継所です。