Lycoris Record : 彼岸花の回顧録   作:フェデラルジオグラフィック

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自衛隊のクーデター事件は秘密裡に処理されたので、「後日談」になります。
文字数が中途半端なのと長々引っ張る気はないので一話で済ませます。


東京 官庁街

6月22日 0時00分 東京 永田町 首相官邸

 総理大臣執務室では、二人の男が立ってタバコをふかしながら談笑している。

 

「長船君、よくやってくれた。これでこの国も安泰だ。君に頼んで正解だったよ」

 

「総理の支援があってこその結果です。特に習志野につきましては動かれれば我々では対処できませんでした。あとは私の部下が優秀だっただけです。私はたいしたことはしておりません」

 

「謙遜することはない。私は明日赤坂で手続きを済ませた後に退陣を表明する予定だが、影響力がなくなるわけではない。次の首相に来年度君の組織の予算を増やすように交渉するぐらいのことはできる」

 

「感謝いたします、総理。総理こそマスコミ対策のほうお疲れさまでした」

 

「その時間を稼いでくれた君の手腕あってこそだよ、ところで…」

 

総理大臣が話を続けようとしたとき、執務室の扉が勢いよく開け放たれた。二人が振り返って見たのは、秘書官と内閣情報調査室長が顔色を変え、汗まみれになっている様である。内閣情報調査室長が早口で言いだす。

 

「そ、総理!ラジオをお聞きください!」

 

「ラジオ?」

 

総理の言葉に反応して秘書官が室内の内線電話へ向かう。

 

「ああ、私が手配します。…もしもし、秘書官だ。BBCワールドサービスを執務室のスピーカーに流してくれ」

 

『プツッ…ザザッザ……繰り返します、アメリカの国際報道連合社の報道によりますと、日本の東京にてクーデターが発生したという未確認情報が入ったとのことです…』

 

「なんだと!?」

 

総理が悲鳴を上げるが、キャスターはそれにかまうことなく淡々と原稿を読み上げる。

 

『…詳細については確認中ですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、専門家はクーデター軍によって通信施設が停止されている可能性があるという見方が出ております…』

 

「なんということだ!速やかに事実無根であるとの声明を…あ」

 

 総理大臣とDA長官は事の次第に気付く。そして顔色を変える。報道管制の時間を稼ぐために主要な通信施設の機能を破壊工作によって停止させたため、それまでに送った電報を肯定することも否定することもできない状況に陥ったのである。DAは通信を止めることを優先するあまり、その後の復旧を迅速に行うことまで考えが回っていなかった。そのため、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この状況を世界中の報道機関はどうとらえるか。それは先にキャスターが述べたとおりである。

 

 DAはクーデターの鎮圧には成功した。ただしクーデターを隠蔽することには失敗したのである。それもおよそ考えられる最悪の形で。

 

 国際通信用無線局の機能が復旧し、通信が回復するのはそれから一時間後のことであった。日本政府は事態の釈明に追われたが、国内的にはクーデターを隠蔽できていたことが幸いであった。

 

『アメリカの国際報道連合社の報道は、全くの事実無根であり、悪質な捏造である。同時刻に起こった通信途絶については、国内の通信施設の技術的不具合により輻輳が発生したことによるものである』

 

これが当時の日本政府が出した公式見解であり、今回の事件は「国際報道連合社誤報事件」として記録されることとなる。「捏造事件」と記録されなかったことが、当時の日本政府の最大限の配慮であった。

 

 

 

6月22日 0時30分 東京 通産大臣の寝室

 

 通産大臣は自分の私邸の寝室から電話をかけている。

 

「ああ、もしもし、私だよお。『マスコミ対策』、難しい中よくやってくれたねえ。彼らの力があれほど迄に強力だったとは。今後は彼らと上手い関係を構築していかなければならないと思うねえ。

 

ああ、キミも知っているとは思うけど、私自身がマスコミとやり取りすることは禁止されていたからねえ。君がマスコミに漏ら…オホン マスコミの相手をしてくれて助かったよ。おかげで私は次期総裁だ。そして次期首相でもある。

 

お褒めの言葉は実際になってからで頼むよお。今回の件もあるから君には欲しい椅子を最優先で用意しようじゃあないか。

 

何、今の椅子で構わない?それじゃあ今回の功績には釣り合わないと思うんだがねえ。

 

ああ、ことがことだけにあまり露骨にはできないか。ならば今回はお言葉に甘えさせてもらって、功績を見て優先的にポストを用意することにしよう。私は君に感謝しきれないからねえ。

 

まあ、なんだ、機会があったら君の所へ生酒でも届けることとしようじゃあないか。その時にでも今後のことを改めて話しよう。じゃあ今日は遅いから切りますよ。朝に党本部でまた会いましょお。それではおやすみなさい、幹事長」

 

 

 

1960年6月23日 東京 赤坂

 

 1960年6月23日、赤坂のアメリカ大使館にて新日米安全保障条約の批准書が取り交わされ、即日発効された。そこまでの道は平ではなかったが、ともかく日米関係は一新されたのである。そしてその日、時の内閣総理大臣は退陣を表明することとなった。その後の1960年7月18日、次の総理に選ばれたのは、前内閣で通信産業大臣を務めていた男であった。新しい首相の下、日本は「経済の時代」を突き進んでいくこととなるが、それはまた別の話である。

 




というわけで三無事件ではなくUPI誤報事件をもとにした自衛隊のクーデター未遂事件でした。

今回の話は小林久三氏の「皇帝のいない八月」をベースに
・1961年のUPI誤報事件
・1961年の朴正熙クーデター事件
・60年安保闘争と自衛隊の法的立ち位置問題
・アイゼンハワー訪日中止決定
・旧安保体制では米軍が日本の内政に介入できる余地があった
・川島正次郎は自民党総裁選で大野伴睦を事実上裏切って池田勇人についた
・池田内閣はそれまでと異なりマスコミ対策に力を入れていた
等のエピソードをブレンドしております。

アイゼンハワー訪日中止(6/17)から安保改正(6/23)までにすべてを終わらせる関係上、かなり時系列的に忙しないお話となってしまいました。

いったんこのシリーズは止めて、最終話を拝んでから何か別のものでも書こうかと思います。

気が向いたらこのシリーズ内で
・「北」の国から
・自然災害事案
あたりで一本書くかも。
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