Lycoris Record : 彼岸花の回顧録 作:フェデラルジオグラフィック
嵐のような事情聴取が済んで待機室にいた私に一人のサードが私の青い制服の肩を叩いて声をかける。
「すみません。司令が司令室に来るようにと」
「司令が私を?事情聴取はもう済んだはずだが」
司令室の前に立ってドアをノックする。
「入れ」
「失礼します。お呼びでしょうか」
入ってみると司令が座った眼でこちらを見つめていて、私は思わず姿勢を再度正してしまった。
「ああ。朝の件は知っておるか?」
「はい。食事中に件の無線を聞いていましたから」
「つい一時間ほど前にな、あれはサリンという毒ガスを用いた攻撃であることが判明した。攻撃に巻き込まれたリコリス20人以上が都内の病院で動けないそうだ」
「はい、ファーストやセカンドも何人か含まれていると聞いてます」
「先ほど長野の支部から連絡があってな、同じサリンを使ったテロ攻撃が昨年の6月にあって、その実行犯としてとある教団が浮上している。その教団への警察の強制捜査が予定されているそうで、側面支援として長野・山梨・静岡・神奈川のリコリスも動員されるらしい。あれだけの事件を起こされたんだ、こちらとしても黙って見過ごすわけにはいかん。君、ちょっと行って現地指揮、してこいや」
「私が…ですか?」
あまりにも無茶な話である。
「そうだよ、君だよ。一年前のマフィア相手の作戦で30人のリコリスを指揮して、全員無傷で任務を完遂した君こそ適任だよ」
「無茶を言わないでください。あの時はセカンドとサードのみの部隊でしたよ。私は御覧の通りセカンドです。長野がワザワザ連絡してきたということはすでに向こうの人選は固まっているはずです。その中には現地指揮担当としてファーストも何人か入っていることでしょう。そんな中にいきなり本部からセカンドがひとりやってきて、『私がこの事件の指揮を執る』なんて言おうものなら反発されるに決まっています。そうすれば指揮系統は滅茶苦茶になって予定されていた任務がおぼつかなくなりますよ。」
司令は黙っている。私さらに一言加える。
「どうしてもっておっしゃるんでしたら紙ください」
「なんの紙や?」
「『本日付でファーストリコリスに任命する』って辞令ください」
「あのな、たったいま昇任させたとしてもな、制服も身分証の更新も間に合わんぞ」
「え、あの、すみませんが強制捜査はいつ行われる予定で?」
「3月22日だ」
「明後日じゃないですか!?」
「どうも今回の捜査は各県警と関東管区の刑事部が主体で計画されたそうだ。警視庁警備部はこのことを正確に把握していなかったらしい」
私は仰天して次の言葉を絞り出すのに少し時間を空けてしまった。とにかく朝の事件に関わる強制捜査を成功させるために私ができることとして、司令に対する不義理を承知で私自身の職責を下げる方向に交渉しなければならない。
「…わかりました、ではせめて同格となるファーストを一人つけてください。その参謀として『作戦指揮の助言をする』形でなら何とかしましょう」
「それは却下だ。朝の一件で動けるファーストが減っているし、残りのファーストも同日都内での強制捜査にかかわる任務に駆り出されることになっている」
「それなら私ができるのは『本部から派遣されるリコリスの責任者』という立場までです。お願いです、東京を攻撃されたという事情はよく分かりますが、指揮系統を乱して強制捜査が失敗すればそれこそ最悪の事態になります。お互いに時間もありませんからどうか今回は各支部の顔を立ててあげませんか。次の捜査で主導権を握る方向で調整すればいいのではないでしょうか」
司令はしばらくしかめっ面で頭を下げ、少し考えてからこう言った。
「分かった、その方向で進めるから君は準備してなさい。今日の夜には現地に向けて出発してもらう。」
「ちなみに、場所は?」
「山梨県の富士九一色村だ」
「…東京本部より本職以下、セカンド2名、サード6名、これより指揮下に入ります」
本栖湖のほとりにあるホテルを貸し切った臨時指揮所での私達の着任報告に対し、はい確かに、と現地リコリス部隊の最先任のファーストリコリスは応える。すでに到着していたリコリス達は私達に慰めの言葉をかけてくれたが、長野から来たファーストは一緒に仇取ってやろうぜ!と発破をかけてくれた。聞くとどうやら松本での事件で相棒を失ったらしく、弔い合戦だ、といって直談判し今回の任務に無理やりねじ込んでもらったそうな。当時セカンドの身だったのでおくびにも出さなかったが、こういった手合いは物事を引っ掻き回すので手綱をしっかり握らないとあとあと厄介なのである。
私たちが追加されたため任務のブリーフィングが改めて実施される。我々リコリスに与えられた任務は警察官が強制捜査に入っている間、各教団施設に設置された封鎖線を内側から突破し逃亡する教団関係者、または外側から攻撃を試みる教団関係者の無力化ないし排除である。
展開場所は各教団施設間の封鎖線の外側の地域のうち、主力部隊は林や空き家など身を隠して待機できる場所が指定された。一部は任務区域の外側から不審者が来ないかを、あるいは報道に扮して内側から突破した教団関係者がいないかを監視し、任務区域に排除対象が現れれば最寄りのチームが待機場所から出動して対処する。
編成としては基本的に支部ごとにチームを組むこととし、山慣れしていない私達には道案内として山梨のサードが2名つけられた。私達東京隊はセカンドと彼女たちを1名ずつつけた5人組の2チームとした。
展開場所は教団施設群の北側、大室山のふもとの県道71号線沿いと決められた。北側には監視を兼ねて長野隊が展開し、必要に応じて互いにバックアップを行う手はずになっている。急遽参加が決められたため、配置場所の調整が間に合わず、身を隠す場所に困らない北側の補完に回された格好であるが、新参者の身の上ではやむを得ない。
翌日3月21日は山梨組により即席コースながら山林での活動についてのイロハを教わる。
朝の6時から9時ごろまで野生動物や触れると毒になる植物について徹底的に教え込まれ、
それからは追跡訓練として山中での走り方を教わる。
コンクリートジャングルに慣れ切った身からすると足場が不安定で色々とつらいものがある。なぜ長野や山梨組が安定して走れるのだろうと観察してみれば、彼女たちはよく見ると運動靴を履いている。私たちは東京から出るときに「通常通り」革靴を履いていた。都会では学生服に革靴のほうが自然にふるまえるが、山林で革靴はかえって動きを縛る枷でしかない。山梨組に無理を言って昼休憩時に車を出してもらい、富士山駅前で適当な靴を調達。靴の慣らしは追跡訓練と本番で行う。
日が暮れる前にホテルに戻り任務内容と展開位置を最終確認。警官隊の突入は朝7時ごろの予定だが封鎖はそれよりもっと前に始まるので、明日(3月22日)は日の出前から行動を開始することになる。そのためリコリス達は本番に備え、早めに床に就くのであった。
次回「教団施設強制捜査」
他の人の小説の書き方を参考にしつつ、段落の使い方や会話文の書き方など試行錯誤しながら書いています。