ようこそ宝探し屋のいる教室へ   作:奈子野礫

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第1話

「懐かしいものよ」

 

目の前の老人、遺跡案内人であるサラーは、ふとそんなことを言った。薄暗く不気味な洞窟を軽やかに歩く彼とあなたしか、この場には居ない。だから、その言葉はあなたに向けたものなのだろう。

 

「お主の師匠にも、こうして案内をしたことがある。あの時はまだ駆け出しでな、しかし、心構えは立派に一人前で……」

 

この案内人に渡りをつけたのは、他ならぬあなたの師匠である。そのような繋がりがあるとまでは聞かされていなかったが。

紹介を受けたあなたが彼を訪ねた時、妙に熱心な歓迎ぶりを受けたのはその時の冒険に起因するのだろうか?

あなたがその推測を投げかけると、老人は一言、「命を助けられたよ」とだけ返した。

その言葉には、いくつもの思いが込められているように感じたが間違いではないだろう。組織にこそ属しているが、トレジャーハンターなる生業は決して日の目を浴びることのないことを、あなたは師匠から幾度となく教えられている。協会からの支援を受けられるとは言え、この仕事は常に危険と隣り合わせであるのだ。

 

話の種にでもなればと、最近の師匠の様子などを話してやると、老人はことのほか楽しそうに笑ってくれた。まるで孫の近況に喜ぶ祖父のようだ、とあなたは感想を持った。すこしばかり申し訳なくも思ったが、すぐに気にすることもなくなった。

あなた自身の近況もまた、今頃師匠によって協会内の飲み会の席で肴の扱いとなっているだろうと想像したからである。

 

遺跡に入ってから、一時間が過ぎようとしている。

この遺跡は文献を読み解いたことで発見されたばかりであるが、協会の調査では危険度も低いと推定し、経験の浅い新人トレジャーハンターであるあなたに白羽の矢が立った。あなたに課せられたミッションは、最奥にあるとされる秘宝の回収である。

あなたは師匠から「とりあえず行ってきて」と適当な一言で放り出されたことをまだ根に持っているが、師匠抜きでの本格的な未踏遺跡の探索は初めてであり、端的に言って緊張していたし、興奮もしていた。舞い上がることでミスをしないように、と案内人には言われていたが、あなたはそこまで子供ではないと反論したときのことを思い出す。その反応こそが子供だと言われて、ぐうの音も出なかったのだ。

 

歩き続け、やがてやや開けた広間のような場所へ出た。

あなたは案内人を背に下げ、暗視ゴーグルによる偵察を行ってみれば、三十メートルほど先の空中で影が横切っていくのが見えた。耳をすますまでもなく、聞こえてきたのは羽ばたきの音だ。

鳥か、蝙蝠のような生物の類いだろう。このような遺跡の中では独自進化を遂げるためか、地上の生物よりも獰猛な傾向にある。放置するわけにはいかない。

あなたは咄嗟の判断を迫られている。

ナイフか、銃か。考慮されるのは、射程、命中率、威力、消耗だ。

あなたはホルスターから銃を引き抜き、音を頼りに構えをとった。静かに待つ。一秒、二秒、そして三秒目のタイミングで目測をつけた方向へ発砲。視認したわけではないから、当たらないことは百も承知である。

突然響いた撃音に相手は驚き、警戒し、そして敵視したようだ。その正体が滑空し、あなたに向かって飛んでくる。それなりのスピードであり、あなたの腕では鉛玉を当てるのは難しいと言わざるを得ない。

あなたはすかさず、逆手でナイフの柄を握った。敵はやはり蝙蝠だ。大きさは三十センチほどだろうか。徐々に近づいてくるそれは、あなたへ噛みつこうとしているらしい。剥き出しの牙はまるで肉食獣のようであり、あなたの装備を貫通し得るものであるのは間違いない。

あなたは迎え撃つ姿勢だ。距離が迫る。

ーー今。

やや上体を捻りながらの一閃。今回の冒険にあたってあなたが師匠から贈られた、ロゼッタ協会謹製のサバイバルナイフは、見事に蝙蝠を真っ二つに切り裂いていた。

残心。決して油断せず、対象の生命が潰えたことを確認しつつ、辺りを伺う。幸い、他に敵性存在は感知できないようだ。

 

倒した蝙蝠は、協会の研究機関に回されることになる。案内人は手持ちの荷物袋にその死骸を入れて背負い直して進んでいく。

道中では壁に埋め込まれた宝石を発見した。明らかに研磨されたそれは人工的にそこへ収められたものであるように思えた。少し離れた場所では壁画と思われる彫り物も発見した。

あなたはロゼッタ協会より支給されている端末である、H.A.N.T.を起動して写真で記録しておく事にする。

H.A.N.T.には、これまで通った道が記録されていた。帰り道もこれで迷うことはないだろう。調査記録を残しつつ、あなたは先を急いだ。

 

 

秘宝の収められている遺跡には、科学では説明しきれないことが起きるという。オカルトだ、と一蹴できればよいのだが、協会に所属しているトレジャーハンターが口を揃えてその存在を認めている以上、疑いようのない事実と言える。

そして現に今、あなたの目の前にもその一端が現れていた。

 

 

最奥にあった祭壇。そこに祀られていた秘宝と思しき『盃』を手に入れ、あなたたちは帰路に着こうとしていた。

初めての探索を危なげなく終えられるのは、運と実力を兼ね備えていなければならない。そこに油断があったわけではない。

だが、遺跡は秘宝を収め、そして守っているのだ。

 

あなたと案内人サラーは、追手を振り切るために走っていた。

往路では見かけることのなかったゾンビーーとしか形容のしようがないものーーが、秘宝を持つあなた達を追いかけているのだ。

人型であることに気が緩くなりそうだったが、どうみても意思の疎通は取れない。足は遅いが、得体の知れない言葉をこちらに向けてくるため気色が悪い。案内人に断って、一体を相手取ってはみたものの、銃を数発受けたところでびくともしなかった。やっとの思いで頭を吹き飛ばしてみたものの、その足は止まらない。

時間が経てば経つほどその数も増える以上、ここは逃げの一択でしかない。

あなたは労案内人サラーを気遣おうかと思案したが、その健脚ぶりに閉口し、むしろ置いていかれないように走るのに精一杯だった。

H.A.N.T.のマップ案内を頼りに、あなた達は一路出口を目指した。

 

息も絶え絶え、出口に出たあなた達は、薄暗い空に歓喜した。後ろからはまだゾンビが迫ってきている。このまま外にまで出てきたら、大事件じゃないか。

しかし、外にさえ出てしまえた以上、逃げ切ることも容易いはずだ。H.A.N.T.を通して協会に報告を入れたあなたは、増援へ期待を寄せる。

 

だが。

 

「おッ、お主は……!」

 

トレジャーハンターの仇敵、秘宝の夜明け(レリックドーン)

秘宝の力による世界支配を企む組織である。

 

「以前にも似たようなことがあった気がするよ、案内人。そうは思わないかね?」

 

仕立ての良いスーツにシルクハット。葉巻を咥えたその男は不遜な物言いで案内人へ言葉を投げつつ、あなたは視線を向けている。値踏みをされているようで不快に思ったあなたは、軽蔑の視線で返す。

 

「その目つきの悪さは、まるで彼のようだ。将来有望だ。なればこそ、ここで潰すには惜しい」

「一応聞いておくとしよう。貴様らの要求はなんじゃ?」

「秘宝だよ。秘宝だとも」

 

正面にはレリックドーンの構成員が銃を向けてきている。後方からはゾンビの群れ。絶体絶命のピンチというのはこのことだろう。

ここで秘宝を渡せば見逃してくれるのかもしれない。

だが、あなたは新人とは言え、ロゼッタ協会のトレジャーハンターである。それも、黄龍の称号保持者を師匠に持つ、だ。

師匠であれば、ここで秘宝を渡すようなことはしない。ここで秘宝を渡すような弟子であるなどとは、師匠には胸を張って言えないだろう。しかし絶体絶命。ロゼッタ協会の救援がくるまで持ち堪えられるとはとても思えない。

どうするべきか。迷うあなたの頬を冷や汗が垂れた時、大地が揺れた。

 

「む、これは……」

 

レリックドーンの構成員ばかりか、幹部と思しき男までもが目線をあなた達から離れたその一瞬を、あなたは見逃さなかった。

あなたは案内人を抱えて横っ飛びすると、先程まであなたがいたところを銃弾が通り抜けていくのがわかった。そしてその銃弾は今にも地上へと出てきたゾンビへと命中し、その敵視を擦りつけることに成功した。

 

「くッ、またしても!」

 

幹部の男を守るように布陣した構成員は、遺跡から溢れるゾンビに向かって発砲を続けている。幹部の男は、しきりに辺りを見回しているようである。亡霊か何かが現れるのを警戒しているようにも見えるが、間違いなく今がチャンスだろう。

あなたはそう判断し、戦線となったそこから脱出を図る。逃げ道も分からない逃走ではあるが、H.A.N.T.があれば協会はあなたの位置を特定出来るはずだ。

 

 

果たしてロゼッタ協会の迎えが来て、あなた達は救出された。秘宝を回収し、なおかつレリックドーンと対峙して守り切ったというのは、新人トレジャーハンターの戦果としてはなかなかのものである。

遺跡の難易度自体はさほど高くはなかったが、案内人を無事帰還させられたことに安堵するばかりである。

案内人と取り止めのない話をしていた最中、H.A.N.T.がメッセージの通知を告げた。

 

「もう、次のミッションが決まったのか?」

 

案内人の言葉に、あなたは頷いた。

 

「そうか……今回もまた、助けられた。嬢ちゃん、お主も命の恩人じゃ。恩人の無事を、儂は祈っとるよ」

 

ミッションをクリアしたことで、あなたは一人前のトレジャーハンターとして認められた。

あなたに課せられた次なるミッションは、とある学校に潜入し、その謎を調査し解明することだ。

そのために、あなたはーー受験勉強をしなければならない。

 

 

 

送信者:ロゼッタ協会

件名:探索要請

 

日本にて、超古代文明にまつわる秘宝の存在を確認。

場所は東京都に所在する全寮制『東京都高度育成高等学校』の敷地内。

本メールを受信した担当ハンターは準備を整えた上で受験し、学生として入学せよ。

尚、今件の関連資料は自動的にこのH.A.N.T.に転送される。

 

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