ようこそ宝探し屋のいる教室へ   作:奈子野礫

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第2話

あなたの次なるミッションは、学生生活であると言っても過言ではない。

やたらと力説する師匠を尻目に、あなたは受験勉強に明け暮れた。

最終学歴が小学校中退なあなたの社会性も危惧されていたようだが、すでに一人前のトレジャーハンターであるあなたである。潜入ミッションに備えて集団に溶け込むスキルくらいは身につけている、と反論するばかりだ。

したがって、目下の課題は学業、そこに尽きる。

 

あなたが自信満々で受験を終えてしばらく、届けられた合格通知を師匠に見せていた。師匠は祝意を述べるが、どこか疲れ果てているように見えた。あなたはその様子から、試験結果に何か細工でもしたのだろうか、と疑った。それも間違いでは無いが、あなたの師匠が疲れている理由の主たるものとしては、義務教育をさせていなかったことを無かったことにするための工作にかかった手間であることをあなたは知らない。

あなたは深く追求することをやめた。ともかくとして、ミッション開始なのである。

 

 

あなたは真新しい制服に身を包み、バスで目的地へと向かっていた。東京高度育成高等学校。進学・就職率がほぼ100%と言われても、あなたには関係ない。どのようなカリキュラムがあるのか、全寮制というが生活はどのようにしていくのかなど、新入生が向ける関心のどれひとつたりとも興味がない。

あなたにとって今、何よりも重要なのは、そこにあるとされる秘宝の存在、それのみである。

バスの車内では何やら騒動があったようだが、あなたは一切気づいていなかった。

 

バスが到着した。道行く学生は、新入生なのだろうか?

すでに友人を作っているような会話も聴こえてきていて、あなたはちょっと気後れしている。交友関係を広げていくことも、場合によっては必要になってくるのだろうが、それは自身の身の上がバレるリスクも内包している。慎重に行うべき案件だろう。

あなたは思考を広げながら、振り分けられたD組の教室へと向かった。

教室に入った瞬間、それまで廊下にまで聴こえて来ていた声が一瞬の静寂に変わったのち、何とも評し難い喧騒になった。あなたは驚きのあまり、後ろを振り向くが、そこには一組の男女がいるのみだった。

彼らがどうかしたのだろうか?

男子のほうは背が高く、身体つきもしっかりしている。気だるげそうな視線をあなたに向けている。

女子の方は黒いストレートの髪が印象的で、不機嫌さを隠そうともしていない。あなたは、自分が何かしただろうかと考えてみるが、彼らとは初対面であるはずで、身に覚えが無い。

 

「そこに立たれると入れないの。邪魔よ」

 

ごもっともであった。あなたは一言謝り、席へと座った。

周りを見渡してみるが、あなたは一抹の不安を抱くばかりだった。どうにも不躾な視線があなたに向けられているようだし、動物園かと見紛うばかりの騒ぎようである。

あなたは数年間学校というものとは縁がなかったが、これが果たして普通なのか、異常なのか、その判別がつかない。

やがて、教師と思しき女性が入って来ると、学校に関する説明をして去っていった。

あなたにとって優先すべきはミッションであり、学生生活を送ることではない。しかしながら、学生生活をなげうってしまえば、ミッションの達成は困難なものとなるだろう。

毎月ポイントの支給される端末。なんとなく、あなたには馴染みの深いものであるように感じた。10万ポイント。レートは日本円と同等と見て良いのだろうか?

そして、この学校において、ポイントで買えないものは無いという。

 

あなたのもとに、天啓が降りて来た。秘宝に関する情報もポイントで買えるのかもしれない、と。

 

あなたは頭の中で、これからの流れをシミュレーションしていく。H.A.N.T.をはじめ、武装の類も持ち込みが出来なかった現状、ポイントを貯めることは優先しなければならない。生活費としても考える必要がある以上、支給されたポイントを節約して貯めるだけでは駄目だろう。

ある程度、積極的に獲得していくことも考慮すべきだ。入手手段の特定を急ぐべきだ。

H.A.N.T.も早急に入手しなければならない。先行して潜入しているというエージェントを探し出して受け取るのだ。武器弾薬が必要になるかはともかく、調達屋の存在は大きい。

秘宝については、現時点では何一つ分からないため手の打ちようがない。探っていることを悟られないように探るのは得意ではないし、いっそのこと地下に遺跡でも埋まってくれればと思うばかりである。

ああ、と口寂しくなったあなたは、指先を胸元に伸ばしていた。目的のものは持ち込みができなかったのでそこには無かったが、癖になっている以上仕方がない。

いずれにせよ、教室で取り出すようなものでは無いのだが。

 

「ね、次、あなただよ」

 

声をかけられた。前の席に座っていた女子が、あなたを呼んでいたようである。

 

「自己紹介。ぼーっとしてた?」

 

次、と言われて何のことか聞き返そうとしたところで答えてくれる。なるほど見回してみれば、初対面同士仲良くしようということだろう。順番に自己紹介をしているようで、次があなたのターンであるらしい。

 

四条きりん。いまいち覇気のない名前であることは認めるし、もう慣れている。あなたは自分の名前を名乗り、自己紹介と言うからには他にも何か付け加えるべきだろうと結論した。

しかし、趣味らしい趣味は特に無く、学校にも通わずナイフや銃の整備だの、鍵開けの訓練だのと、おおよそ一般的な学生の感性とはかけ離れた生活を送っていた自覚があった。

あなたは、趣味は植物を育てることと読書だと言った。これは嘘では無い。植物は各種薬草の栽培のため日課にしていたし、毒草を見分けるためにも知識を詰め込まれている。読書にしたって、古文書の解読に自信がある方なのだ。

運動も得意であるが、言及はしなかった。運動といっても格闘技、剣術、パルクール、投擲とかの事だったからだ。一般的なスポーツについては、身体能力でのゴリ押しは出来るだろうが、テクニックや経験があるわけでは無い。迂闊な発言は避けるべきだった。

最後に、よろしくと告げて締めておく。周りの反応は静かすぎて判別が付かないが、おかしなことは言ってないはずだ。

あなたは着席し、再び思案に戻ろうとーーして。

ふと、目が合った。

先程、教室の入り口でキツそうな女子と一緒にいた男子である。さりげなく観察してから目を逸らしたが、あなたはどこか、違和感を拭えなかった。何かを隠しているような、こちらを品定めしているような、そんな視線だった。

彼の名乗った名前は綾小路清隆。聞き覚えのない名前である。

 

自己紹介の流れが終わると、思い思いに解散していく。あなたは前の席に座っていた女子が立ち上がったタイミングで声をかけた。

 

「櫛田。櫛田桔梗だよ。自己紹介聞いてくれてなかったみたいだけど、覚えてね、四条さん?」

 

あなたは思考しながらでも周りの環境音を聞き取ることができる。櫛田桔梗という名前も、彼女の自己紹介も聞いていたし、なんなら暗記出来ているのでリピート出来るのだが、その主張は一笑に付された。ギャグの類と思われたらしい。

 

あなたは、ところで、と話を振る。聞きたいのは、綾小路清隆についてである。この質問は彼女にとっては意外であったようだ。

 

「綾小路くん? うーん、私も初対面だし、綾小路清隆、って名前しかわからないなぁ」

 

櫛田は、たしか、と前置きをつけ、綾小路清隆という名前を教えてくれた。だが、名前ならあなたも知っている。

綾小路清隆について何か知っているか?と訊ねたにも関わらず、返ってきた答えが綾小路清隆という名前というのは、期待はずれにも程がある。情報料が足りなかったのだろうかと思ったが、櫛田の表情を伺うに、本当になにも知らないようだ。

あなたは話を切り上げて礼を言うと、名残惜しそうな櫛田を置いて教室を出て行く。

 

綾小路清隆。当然、その名前に聞き覚えはない。全てを把握しているわけではないが、同年代のトレジャーハンターの数は少ない。コードネームを使うような凄腕ならともかく、偽名の可能性も捨てきれないが、同業者のセンは薄いだろう。

では、敵対組織であればどうか。秘宝の夜明け。彼はその構成員なのだろうか。あなたと同様に、秘宝を狙って送り込まれたエージェントが他に居ないとも限らない。

杞憂に終わるならばそれに越したことはないが、警戒レベルを一段引き上げることにする。

 

まずは、調査のための基盤を作るのだ。不自然に思われないよう日常生活に溶け込みながら、核心に迫っていく。それがあなたの考える、デキるトレジャーハンター像であった。

 

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