ようこそ宝探し屋のいる教室へ   作:奈子野礫

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第3話

あなたが向かった先は、構内のコンビニである。

構内と言っても、敷地内には遊興施設だの商業施設だのが犇くように開設されており、最早都市を形成していると言っても過言ではないだろう。

クラスメイトたちは支給されたポイントをもとにどう豪遊するかに思考を委ねており、浮かれるばかりであった。

繰り返すが、あなたにとっての最優先はミッションの遂行である。そのために必要であれば豪遊もするが、今はその時では無い。

 

コンビニに居たのは、あなただけではない。綾小路清隆と、不機嫌女子。彼女の名前は何だったか。忘れたのか、思い出せないのか、いや、自己紹介の時には居なかったような?

あなたは次第にどうでも良くなったが、あの二人の組み合わせはしかし気になる。エージェント疑いのある男子と一緒にいる女子もまた、エージェントの疑いが、と考えて否定した。綾小路氏はともかく、あの女がその筋の何かにはとても見えなかったからだ。

あなたは自身の人を見る目には自信がある。しかし、それならばあの二人は一体?

綾小路氏のカモフラージュ的行動だろうか。

 

「またあなたなの?」

 

不機嫌女子があなたを見て言った。

あなたは、自身の名前を名乗ってみる。目の前の女子に興味は無いが、雑に扱うほど役に立たないと決まったわけでは無い。それなりに愛想を振りまいてみようという突発的判断だった。

 

「……堀北鈴音よ」

 

気が向いたら覚えておこう。あなたは笑顔でその言葉を飲み込んだ。

視線に気をつけながら、二人が何を見ていたのかを問うと、無料コーナーについてであった。

ポイントが貰えるのに、利用する学生が居るのか?と言うことらしい。最低限のライフラインの確保ということだろうが、綾小路氏はここに何か引っ掛かりを覚えたようだ。

あなたは、この二人の感性と自身のこれまでの生き方の違いに驚愕していた。大金を稼いでいるから金に困らないなどと、トレジャーハンターからすれば意味のわからない理屈である。

トレジャーハンターはミッションの難易度や協会への貢献度によって報酬が得られるが、定給は無い。一発当てて、使い切ったら次の仕事をする。そんな奴らも珍しくは無いのだ。

もちろん銃や薬品の類、あるいは情報への出費も馬鹿にならないと言うのもある。収入に応じて出費も増えるものなのだ。

とは言え、これは別問題である。目の前にある無料コーナーの存在は、あなたには垂涎のものだった。いかに生活費を削るかを考えていたわけだから、ここで節約できるならば活動も楽になることだろう。

あなたは美容や娯楽に関心が薄い。唯一とも言っていい嗜好品はーー無料品の詰め込まれた籠の中に、あなたは無造作にそれを入れた。

 

「あなた、煙草を吸うの?」

 

堀北鈴音からの問いに、あなたは首を振った。

あなたが手に取ったそれは、タバコでは無くアロマの一種である。ラベンダーのフレーバーであるそれにニコチンは含まれておらず、副流煙も無害だ。依存性については否定できないが、それは言わない方がいいだろう。

節約をすると決めた直後の出費であるが、こればっかりは仕方がない。

 

会計の際、あなたは定期購入の手続きをしておく。ついでに、と何気なしに店員に訊ねる。

 

翡翠はどこで売っている?

 

店員は顔色を変えることなく、入荷次第連絡するとだけ告げた。あなたは頷いて、店を後にする。

その後ろをついてくるように歩いているのは堀北鈴音だ。

 

「宝石にも興味があるの?」

 

質問の意図が図りかねているが、同時に相手もまた、あなたのことを図りかねているように見えた。あなたは、そう言う気分だった、と曖昧に答えるに留まった。堀北鈴音はそれ以上深く追求することなく、綾小路氏とどこかへ向かって行った。

所在なさげにしていた綾小路氏は、『翡翠』と言う単語に反応を示していなかった。やはりエージェントではなかったか?

いや、そう判断するのは早計だろう。彼について探るのは、後にしておき、構内の散策を続けた。違和感なく構内を歩き回れるのは、入学後の一週間くらいなものだ。今のうちに何かしらのアタリをつけるため、機会を無駄にしてはいけない。

 

 

その連絡が来たのは、意外にもその日のうちだった。

端末に送られてきたのは位置情報と営業時間を示す暗号で、仮に誰かに見られたとしても迷惑メールと判断されるような文字列である。

あなたはその暗号を解読すると念の為にメールを削除しておく。この端末は学校から支給されたものであり、その履歴を閲覧する権限があってもおかしくない。

必要以上に怪しまれることは本意ではないし、気を付けるに越したことはない。

至る所に設置されていた監視カメラもさすがに部屋にまでは無い。プライバシーは確保されていると見ていいだろう。今後、武器類を隠し持つスペースなども考慮しなければならない。

あなたはこれからのことを考えて憂鬱になりながらも、ミッションについて考える。

調達屋の所在が明らかになった以上、H.A.N.T.の入手に目処がついた。同時に、武器やツールの入手も可能になったと見ていいだろう。

しかしあの調達屋にツケは効かない。師匠払いも受け付けてはくれないだろう。となれば、支払いに要するポイントの入手手段も確立しなければならない。この学校ではあらゆるものがポイントで買える。逆説的には、あらゆるものが売れると言うことでもある。

手っ取り早いのが気持ちよくなれる葉っぱとか銃の流通だが、流石にそれはマズいだろう。まあ、なんとかするしかない。

構内の調査はまだまだである。想像以上に広いし、立ち入り禁止区域への侵入調査も必要だ。そのためには調達屋から物資を仕入れなければならなくて、そのためにはポイントが必要で、はじめに戻る。

あなたは意味もなく、あー、あー、と嗚咽を漏らした。

 

 

調達屋『ジェイド』のもとを訪れたのは、翌日の夜のことである。彼には師匠も昔、ミッションで世話になったことがあったと聞く。その縁であなたもジェイドとは面識があり、面倒な挨拶抜きで仕事の話が出来る幸運に、あなたは喜んだ。

だが、当のジェイドの態度は、あなたの想像するよりも形式ばったものだった。理由を問えば、彼の得意先はあくまでも師匠であり、あなたは新参のトレジャーハンターに過ぎないからだと言う。もっともな言い分であった。

あなたはまず、H.A.N.T.の支給を受けた。外見は学校より配布されている端末に似せてあるため、同時に取り出さなければ併用しても不自然には思われないだろう。SIMカードを入れ替えれば支給端末同様の機能が使用できる改造品である。

予想外だったのは、このH.A.N.T.に7万ポイントを請求されたことだ。あなたは当然抗議するが、調達屋は手間賃込みだと言って譲らない。半導体需要の急増に伴い、原価が上がったのだと言う。

H.A.N.T.は支給品だが、貸与品でもある。以前まで使っていたのは返却したし、その時にいくらかの売却金を得ている。下取りにしなかったのはここへ持ち込むことが出来ないとわかっていたからであるし、売却金は現金で受け取っている。

あなたとて、口座に入っている預金で支払いが出来るならば文句はないのだ。そう思って、あなたは自身の預金通帳の調達を依頼して、調達屋の頭を抱えさせた。天下の亀急便に調達出来ないものがあるのかと煽ろうとしたあなただが、嫌な予感がしてやめておいた。

やめておいて正解である。新人ハンターは自分の常識というお宝から探すべきだ、という、ぐうの音もでない反論を聞かずに済んだのだから。

ともあれ、7万ポイントは支払えない額では無い。これでもサービス価格であることはあなたの知る由もないことだが、ロゼッタ協会のハンターとしては、これがないことには何も始まらないと言っても過言ではない以上、支払わざるを得ない。

何にせよ、あなたはH.A.N.T.を手に入れた。これが秘宝調査の足掛かりとなることは間違いない。この端末には、それだけの力があるのだ。

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