ようこそ宝探し屋のいる教室へ   作:奈子野礫

4 / 8
第4話

入学してしばし。調査の進捗は芳しくない。一般的に立ち入り出来る区域に異常は無く、行き詰まっていたからだ。

あなたはやはり、とポイントの入手について思いを馳せる。

豪遊自慢に明けるクラスメイトたちも、やれ新型のゲーム機だの洋服、化粧品にポイントを費やしているらしい。すでに手持ちのポイントでは先行きが不安なのはあなたも同じだが、その中でも特に危ないのはあなたである。ポイントの残高ばかりは知られるわけにいかない。

あなたはラベンダーの香りを振り撒きながらアンニュイなため息をついた。

 

あなたに自覚が無いのはいつものことであるが、あなたの容姿は客観的に見て整っていると言える。時折ポンコツじみた言動があることにさえ目を瞑れば、既に他クラスにさえ知られる高嶺の花であった。

目立つ容姿はトレジャーハンターにとって、必ずしも不利益にはなり得ないが、なにぶんあなたの師匠は無意識に人をたらし込むプロであった。あなたもその資質を受け継いでいたし、あなたのその雰囲気は周りの注意を集めるに充分なものだった。

 

にも関わらずあなたの周りに人が集まってこないのは、ひとえにあなたの目撃情報によるものである。放課後、目的があるのかないのか分からないが構内を放浪し、実際にはアロマであるものの煙草らしきものを吸いながら物思いに耽る姿は、一般的な高校生から見れば奇異に映ったことだろう。

端的に言って、あなたは浮いていた。

 

あなたはふと、綾小路清隆氏へと視線を向けた。あれからも時々様子を伺っているが、特に怪しいそぶりは見受けられないあの男に、あなたは当社の疑いをすでに捨てていた。堀北鈴音に振り回されている彼が秘宝調査のため送られたエージェントであるとは、到底思えなかったからだ。

もちろんあなたも傍目から見ればエージェントとはほど遠いのだが、当然その自覚はない。

 

四月半ばになり、あなたは活動の開始を決めた。ポイントの入手についてである。

違法なものの販売は公序良俗に反するが、これはギリギリ違法ではないものも含まれる。恐らくポイント移行の履歴は追えるようになっているから、現金取引のようにバレなかったら大丈夫とやることはまずないだろう。問題行動が取り沙汰され退学になっては元も子もない以上、ルールの範囲内で真っ当に稼ぐ必要がある。

 

真っ先に考えたのは、各種部活動への殴り込みだ。バスケやサッカーのようなスポーツはルールが分からない。将棋やチェスのようなボードゲームは、遺跡の謎解きギミックに通ずるところがあるから得意なほうだが、本職には叶わないだろう。 剣道や射撃、ボクシングや空手、柔道なら圧勝できるだろうがボロが出かねない。

面倒だからハッキングしてやろうかと思ったが、そのツールとなるPCを入手するポイントもない。

となれば、グレーな部分を攻めつつ楽に稼げる手段は最早ひとつだけだ。起点となる親に販売益が収入として入ってくるシステムを構築し、不労所得を得るーーネットワークビジネスである。

 

代表的なネットワークビジネスの商材には、壺や圧力鍋、健康食品などがある。あなたの栽培知識を用いれば美容に効果のある薬草による健康食品を生み出すことも可能だが、許認可を受けていない医薬部外品を取り扱うのはリスクが大きい。何より元手が無いのである。

 

あなたは支給されている端末へSIMカードを移し、有効化する。これから行うことが、万が一にもH.A.N.T.経由でロゼッタ協会、ひいてはあなたの師匠へ漏れることを防ぐためだ。

端末のカメラを起動し、あなたは自分自身に向ける。角度を調整し、顔が映らないようにしながら胸元に指をかけた。露骨な露出はしない。あくまでも想像を掻き立てる程度である。男心をくすぐるアングルがどのようなものか、あなたは熟知している。

パシャリ、と撮影音が無音の部屋に響いた。

 

自撮りである。

 

なれた手つきでブログを開設したあなたは、そこへ撮影された写真をアップロードする。世の中の男子諸君というのは、合法的な女子の写真が好きなのである。

ブログには数日かけて記事を投稿し、ファンクラブの登録へと誘導する。会費は月あたり1000ポイント。特典はもっと色々な写真ーー具体的にはメッセージ入りの写真を個別で販売するなどだが、会員を紹介すると紹介した会員には500ポイントのキャッシュバックもする。

いける。あなたは確かな手応えを感じていた。

あなたはトレジャーハンターだ。何よりもかけがえがなく、輝いており、価値がある。そんな秘宝とはすなわちあなた自身である。あなたという秘宝を、写真という形ではあるが身近に感じる手段を大衆に提供するのである。これはあなたにとっては、富の再分配である。

 

着想としては、すでにネットアイドルと化していた、ハンドルネームを『雫』という少女から得ていた。金も取らずに何やってんだ、コイツと思ったあなたである。もっとも、あなたと彼女では求めるものが違っているのだから仕方がない。

あなたは念入りにプライバシーを隠すし、路線もアイドルでは無い。名目的には女学生への支援だ。

この計画に抜かりはない。

 

 

四月末日。会員登録数は300人を超えていた。学生以外にも広がりを見せているらしい。オプション写真の販売益は優に50万ポイントを稼ぎ出していたし、単純にポイント支援をしたい会員向けの投げ銭ページも開設した。一時は四桁まで落ち込みそうだったあなたのポイント残高も、今や七桁に差し掛かっている。

アカウントBANにさえならなければ、ここからも増えていく一方だろう。あなたは後日、調達屋相手に札束ビンタをする妄想に耽りご満悦だった。

 

翌日、あなたは寮のエレベーターで櫛田桔梗に出会した。定型的な挨拶を交わすと、彼女は不意に話を切り出した。

話を聞くに、今月のポイントが振り込まれていないとのことだった。10万ポイントの振り込みを当て込んでいた庶民たちには、この不手際は痛手であろう。

あなたは少し大げさに相槌を打ちながら教室へ向かった。

 

 

結論から言えば、これは不手際ではなかった。

各クラスの授業態度や小テストの結果が評価が点数としてつけられ、それをもとに支給額が決まるとのことである。

つまり、D組の評価は0点ということだ。あなたは他人事で特に気にもしていなかったが、居眠りの常習であるあなたも失点の一端を担っている。

 

 

誰とも無く、このままではいけないという結論に至ったらしい。

張り出された小テストの結果に危機感を覚えたクラスメイトたちは、来たる中間試験に備えて勉強会をするようだ。

あなたは自身の学力は平凡だと認識していたが、それは偏った知識が故だった。一般的な同年代の学生と比べれば、義務教育を受けていない事実はとても信じられないほどである。

自由時間は自撮りに明け暮れていたが、成績はさほど悪く無く、赤点回避は間違いなさそうである。

かと言って満点優秀生を目指す価値があるかと言えば、安易に頷けないところである。収入を手にしたあなたは、ようやく秘宝調査に乗り出すことが出来るのだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。