ようこそ宝探し屋のいる教室へ 作:奈子野礫
あなたは情報収集のため、図書館に赴いた。あまり期待はしていなかったが、息抜きを兼ねた調査でもある。存在するとされる秘宝が地域に根ざしたものに関連するようであれば、何かしらの伝承が残っていてもおかしくはないという判断だった。
図書館では、多くの学生が試験勉強をしていた。その中にはDクラスの学生もおり、あなたを見かけるや近づいてくる者もいる。櫛田桔梗である。
「四条さんも来てくれたんだ。嬉しいな」
あなたは何のことか、と思い返すが、心当たりは一切ない。約束でもしていただろうか、と訊ねてみれば、彼女たちはここで勉強会をしているのだと教えてくれた。あなたは、勉強は試験があるからと思い立ってやるものではないというスタンスである。日々のコツコツとした積み重ねが試されるものだと思っているからだ。
それが勉強をしたくないが故に出てくる言い訳であることを察されるわけにもいかず、ここへは本を読みに来ただけだと告げた。
参加を提案してきた櫛田桔梗は残念そうであったが、強く引き留めはしなかった。誰に対しても分け隔てなく接している彼女ではあるが、あなたのことは苦手であるように見える。どこか距離を置いたような対応ではあるが、角を立てずにやり過ごせるのは、持ち前のコミュニケーション能力所以だろう。
あなたは短い一言で謝り、目的に合致しそうな本を探すことにする。
放課後の図書館は、随分と利用者が多いらしい。蔵書の充実度を鑑みるに、趣味人には垂涎ものだろうことが察せられた。
「どういった本を読まれるのですか?」
そこへ、不意にあなたへ声をかけてくる人物がいた。振り向いてみれば、本を抱えた少女があなたを見ている。その表情からは、興味と関心、そしてわずかばかりの怖れが読み取れた。
「ああ、すみません。私、Cクラスの椎名ひよりといいます。あなたは四条きりんさん……ですよね?」
あなたは頷いた。どうして自分のことを知っているのかと問うと、椎名ひよりは、あなたが一部では有名人であることを教えてくれた。
あなたは閉口した。何故、という疑問が脳内を流れていく。
「とても目を惹く容姿をされているから」
椎名ひよりの口振りは柔らかかった。その言葉が本心かどうかは判断がつかないが、褒められて嬉しくないほど天邪鬼ではない。あなたは、それほどでもないと謙遜してみせた。
「本を読まれるんだな、って意外に思って声をかけてみたんです」
クラスの自己紹介では趣味を読書だと発言した覚えがある。クラスが違うから知らないだけなのか、信じてもらえていなかっただけなのか。あなたは、自身が読むのはもっぱら歴史書であることを告げた。なおさら意外であったようである。
流石にいち教育施設の図書館に古文書が置いてあるとは思えないが、伝承や口伝を辿ることで秘宝の在り処に辿り着くことは、決して珍しいことではない。遥か昔に起きた不思議な出来事を、空想や妄想、誇張であると断言出来ない事例をあなたはよく知っているのだ。
秘宝の存在をあいまにボカしながら力説すると、椎名ひよりはやや引いていた。彼女の趣味とは違っていて、期待はずれだったかもしれない。
あなたは、目の前の少女に、宇宙人の存在を信じるかどうかを訊ねてみた。
「えッ、宇宙人……ですか?すみません、そういうのはちょっと、よく、分かりませんね」
だろうな、と思っていたので、あなたは気にする必要がないことを告げた。あなたは直感的に、椎名ひよりのプリクラが欲しいと思っていたが、そのためには好感度を上げなければならないことを考慮した。彼女にとっては未知のジャンルであったようで、見たところ興味を植え付けることには成功したようである。
それからもしばし、雑談を交わした。彼女が好むジャンルの話はやたら饒舌で怖かったが、あなたの話も真摯に聞いてくれる存在というのは貴重に思えた。
いずれ遺跡を探索するとき、バディとして同行させればきっと役に立つに違いない。文学少女というのは、そういう存在だった。
あなたは椎名ひよりと連絡先を交換して、図書館を後にする。初めての友人だ、と言うとひどく驚いていたが、あれは何だったのだろう。
目的の書物を調べることを忘れていることを思い出したのは、あなたが部屋で自撮りを始めたときのことだった。
*
深夜である。
あなたは公園のベンチに座り、アロマを吹かしていた。決め台詞もあるのだが、一人でいるときに発しても虚しいだけである。
調達屋から当座の武器弾薬を購入したあなたは、彼から得た情報の整理をする。
学内にあるとされる秘宝についてだ。
その鍵となる存在ーー生徒会。
平穏無事に学生生活を送りたければ生徒会には関わるな、というのが、潜入ミッションではお約束となっている。で、あるならば、生徒会が何かしらの謎を握っていても不思議ではないと言うことだ。
幸いというべきか、構成員が不明では無いから、接触そのものは容易であると言える。しかし、その方法や会話の展開については、慎重に行うべきだろう。
吸い殻をケースに放ったあなたは、寮に戻ろうとしてーー気配を感じた。
咄嗟に隠れて様子を伺ってみれば、暗がりを少女が歩いていく姿が見える。見覚えのあるクラスメイトだ。
櫛田桔梗。こんな時間に一体何を?
あなたが警戒していると、彼女は何事か、叫び始めた。随分と普段の様子と違うので、さしものあなたも動揺を隠せない。息を殺して潜んでいたところで、櫛田桔梗の誰何する声が聞こえた。
トレジャーハンターの潜伏が気づかれた?あなたは判断を迫られる。だが、果たして現れたのはあなたでは無い。
綾小路清隆氏である。
馬鹿正直に姿を現すのもいかがなものかと思うが、結果として何やら話して二人は別れたようである。だが、綾小路氏は動かない。
この感覚は、気づかれているのだと確信を持たせるに充分だった。
「やっぱり、お前だったんだな」
あなたは、気づかれた要因がラベンダーの香りにあると目星を付けている。櫛田桔梗が気づかなかったのは、彼女の精神状態に余裕が無かった証左であろう。
「前から気になってたんだが、お前、何者ーー」
綾小路氏がそこまで言ったところで、あなたは彼に銃を突きつけることで答えていた。