ようこそ宝探し屋のいる教室へ   作:奈子野礫

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第6話

あなたは自分の直感が当てにならないことを身をもってよく知っている。しかしながら、当てにならないからと無視できるようなものでないこともまた、よく知っている。

綾小路氏に銃を突きつけたあなたは、目の前の男に時間を与えることが危険であると直感した。だから、相手が一瞬の虚をつかれて言葉を失った瞬間、すかさず問いかけることで注意を逸らす。目的が秘宝であるか否か、である。

本来、銃を突きつけておいて呑気にお喋りなどは愚の骨頂である。銃を構えるときは、撃つときだけだ。それは他の武器にしたって同じことであり、一対一で脅しだなどと生ぬるいことをせず、不確定存在は消すに限る。だが、ここは謎を隠している疑いがあるとは言え学舎である。無闇に人死にを出すわけにも行かないだろう。今更人殺しを躊躇ったなどとチキったわけでは到底ないことは強調しておく。

どちらにせよこのまま引き金を弾いたところで、綾小路氏を仕留めることはできない。あなたの直感はそう告げていた。

 

「秘宝……? いや、俺は……っていうか、それ、モデルガンか?まさか本物ってわけじゃないだろうけどーー」

 

ぱしゅん、と、静寂を切り裂く細い音。サイレンサーを噛ませていても、野外であればそれなりの音が響く。

銃弾は芝生を抉り、小さな爆発を起こしていた。さしもの綾小路氏もこれには驚いたようで、硝煙の匂いを漂わせる銃口で顎先を突き上げられれば両手を上げるしかなかった。

それでもあなたは嫌な予感を捨てきれない。綾小路氏のここまでの一連の身体の運びは、決して屈した者のそれではない。あなたは一般常識に疎い方であるが、この国では本物の銃を見る機会など無いのが普通であることくらいは知っている。実際にあなたが撃って見せても尚、動揺しているように見せているだけだ。見せかけでしかない。隙さえあれば、あるいは理由さえ見つければ、すかさず彼は反撃に出るだろう。

あなたは訓練を受けたトレジャーハンターではあるが、格闘戦は本職のそれに匹敵するものでは無い。一般人に比べれば多少、身体の使い方と人体の壊し方の基礎を熟知しているだけに過ぎない。それでも綾小路氏には及ばないだろう。つまり、綾小路氏力量は一般人ではないという推測なのだが、概ね、大きく外れてはいないだろう。この飄々とした無気力さ加減にはどうにもちぐはぐとした感じが拭えない。

睨み合うことしばし。

あなたは深めのため息をついて銃を下ろして俯くと、バックステップを二歩分ほどして距離を取る。あなたが推測する、対綾小路氏の安全マージンである。

 

「よくわからんが、疑いが晴れたと思っていいのか?」

 

そんなことはない。そんなことはないのだが、勝算のない戦いをするほど無謀でもない。あなたの師匠であればいざ知らず、異能のかけらも感じさせない相手に戦う前から敗北感を味合わされている。屈辱この上ないが、ここでこれ以上敵対することこそ得策ではないはずだ。

この手の輩は味方に引き込むに限る。古の神が復活しても、コイツがバディとして戦ってくれるならばなんとかなりそうな気がするくらいだ。

そうだ。それがいい。あなたはすぐさま路線の変更を決めた。

 

「学校に隠された秘宝を調査するために送り込まれたエージェント……?世界支配を目論む敵対組織の構成員と勘違い……?なんだ、その、そういう設定で遊んでいるのか?」

 

説得に必要なのは真摯、誠実、正直である。優位に立とうとか、口先八丁でだまくらかそうとしても結局はバレてしまって事態を深刻化させては意味がない。しかしあなたが自身の置かれている立場と内情を説明したところで、信じてもらうことは叶わなかったようである。

警戒していたが故に好感度を上げることを怠った報いを感じ取ったあなたは、ここが潮時であると理解した。

情報があれば言い値で買うと、連絡先を渡してその場を後にする。他言無用と付け加えることも忘れない。秘密組織のエージェントムーヴができてちょっと気分のいいあなたである。

 

「誰も信じないだろ……」

 

綾小路氏の呟きが漏れる。

そうだろうな、とあなたは思う。

世界観が違うのは、あなたか、それともーー。

 

 

クラスメイト達は、それぞれグループを作りながら試験に備えて勉強会を繰り広げているようだ。

意欲に欠ける問題児たちを引き受けることにいつのまにかなっていた綾小路氏を見かけたあなたを、彼は手招きしてくる。随分と気安いことをしてくれるものだ。

綾小路氏のそばには、いつもの不機嫌女子こと堀北鈴音の姿もある。

 

「お前は試験勉強しなくていいのか?」

 

あなたはいざとなれば、点数を購入することで赤点を免れるつもりであると告げた。表情を変えない綾小路氏の隣では、堀北女史が随分と大げさに驚いている。

 

「この学校ではポイントでなんでも買える……。そうね、そういう発想も……。でもあなた、そんなポイントをどうやって用意するというの?」

 

自撮りブログによる収入は、いわばあなたの飯の種である。そう簡単に明かせないと告げるあなただが、堀北女史はしつこく食い下がる。この女、守銭奴か?

面倒になったあなたが懐に手を入れようとしたところで、綾小路氏が慌てて堀北女史を止めに入った。あなたは撃つ時には撃つトレジャーハンターだ。

綾小路氏としては、堀北女史が相手ではシャレで済まないと思ったのだろう。この男、事なかれ主義っぼいくせに苦労人気質である。

綾小路氏に免じて引き下がったあなたは、堀北女史がどうしてそこまで問題児たちを引き込もうとするのか疑問に思った。実力主義の学校である。やる気のない者は足を引っ張るばかりだ。放っておいた方が良いのではないだろうか。

 

「私は……Aクラスに上がらなければならないの。そのためには、クラスから退学者を出すわけにはいかないわ」

 

利己的な理由である。むしろ、打算的である分だけ、納得がいくとも言えるだろうか。

あなたはミッションさえ遂行できればドロンする腹積りであるから、これがバレると彼女の目の敵にされること請け合いであることに気づいてしまった。誤魔化さなければならない。説得する為にも、あなたは詭弁でも虚言でも、なんとかして口先八丁でだまくらかさなければならない。

そう言えばこの女、生徒会長と同じ苗字である。決して珍しい苗字ではないが、何か関係があるのだろうか。

 

「兄よ」

 

あなたは、このしち面倒くさそうな女に利用価値があることを知ってしまい、思わず頭を抱えてしまった。

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