少年は目を覚ました。
ふかふかのベッドから出たくないという欲があるが、それでもがんばった。少年は欠伸をするとカーテンを開ける。
窓の先の景色には、空を飛ぶ鳥や宙に浮きながらフライパンを振る料理人がいる。普段と変わらない町の光景だ。フライパンで踊るチャーハンを見て少年のお腹から音が鳴る。
「空腹」
そう言ってお腹を軽く叩くと少年は部屋を出る。そしてダイニングに向かうと、紅茶を嗜む女性がいた。紫のローブで体全体を隠しており、顔には白い仮面をつけている。もはや身をさらしているのは手だけだ。女性は紅茶を口に近づけるが、顔全てを仮面で覆っているために飲めるはずがない。なのになぜか紅茶の量は少しずつ減っていた。
「おはよう、師匠」
少年は女性を師匠と呼び。
「おはよう、弟子くん」
女性は少年を弟子と呼んだ。
少年は師匠の対面の椅子に座る。師匠はそれを見ると、机を指で軽く叩く。すると机に魔法陣が広がり、白く光り輝くとパンがでてくる。メロンパンやクロワッサンといった様々な種類のパンが机から零れ落ちるぐらい溢れた。
少年はパンを一かじり、すると眉をひそめる。
「味がない…また手抜き」
「味まで作るのめんどくさいのよ。でも栄養はあるわよ」
「味のない料理は空気ほどありがたみを感じない」
そう言いながらも少年はパンを食べ続ける。そして師匠はそれを楽しそうに見つめながら、コーヒーを仮面に近づけた。
やがてパンの数が少なくなり、カップが空になると師匠は口を開く。
「弟子くん、君が私のとこにきて何年?」
「…3年」
「そう…。じゃあ、そろそろ自分の杖を作らない?」
「いいの?」
少年は目を見開いて師匠を見る。ふだん表情の変化に乏しい少年が珍しく驚いている。そんなレアな表情を見れてうれしく思いながら師匠は微笑んだ。
「えぇ、いいわよ」
「やった…!」
少年は喜びながら美味しそうにパンを食べる。そんな少年につい、師匠はちょっかいをかけたくなってしまった。
「杖の材料は、この爪楊枝にしたら?」
「絶対いや」
そんなやり取りがしばらく続いた。
〇杖を作るということ
自分の杖を作ることで、一人前の魔法使いとして認められる。必要な素材は木と石と魔力の3つ。選ばれた材料によって、杖は個性を持つ。
木:木であるならば何でも構わない。師匠は冗談で言っていたが、爪楊枝を杖の素材にした魔法使いも存在する。
石:高価な宝石でも地面に転がっている石ころでも杖の素材になる。
魔力:他者の魔力を少し分けてもらう。この世界ではすべての生物が魔力を持つので、子供でも大人でも人外でも素材として問題はない。